拝み屋少年と悪魔憑きの少女

第一章

これはまさか

　夜。アンネの寝息が枕元にも聞こえてきて佐伯は瞼を開けた。

　なんというか、眠れなかった。

「……でもなぁ、それはちょっとダメだよなぁ」

　さっきまで自分の身体に纏っていたアンネの感触とか匂いとかが思春期の真っただ中の男子高校生には刺激が強すぎた。

「でもなぁ」

　今だって心の中での自問自答が言葉に出るほど悩ましいのだ。そのたびに自らの下半身に伸びる右手を左手で抑えながら葛藤している。

「……あぁダメだっダメだ。妄想の中とは言えそんなことはしちゃダメ」

　佐伯は頭を枕にガンガンと叩きつけ正気を保とうと努力する。それから心の中で念仏を唱えて己の邪念を振り払おうと精神を統一していた。

　すでに時計は零時を回っていた。

　佐伯にしては長い時間葛藤していたが、ようやく頭が整理されよこしまな思考は消えていた。

　一度大きな欠伸をした後で、身体の力が抜けベッドが深く沈むような感覚に陥る。

『うん？　身体が重い？』

　佐伯は違和を感じ遠のいた意識を身体に戻す。なにかが毛布の中に入ってくる感覚。

『金縛り？　いや霊的なものじゃない』　

　瞼を開け深呼吸をしながら瞼を開ける。

「アンネ？」

　豆電球にしていた蛍光灯に照らされたのは仰向けになった佐伯の身体の上に座っているアンネの姿だった。

「ちょっと、いきなりどうしたんだ。寝てたんじゃ」

　彼女は何も答えない。佐伯が自分に気が付いたことを確認するとパジャマのボタンをはずしてからそのままの態勢で上体を曲げ顔と両手を近づけて来る。

『こ、これはまさか』

　佐伯にはこのシチュエーションに覚えがあった。