上 下
40 / 79
第一章

勘弁してくれ

しおりを挟む

 四時限目が終わるとクラスメイトは各々のグループを作り外に出る者、机をくっつけてお弁当を広げる者、まちまちだった。佐伯は大きく伸びをしてから重い腰を上げそそくさと教室を出ていく。

「いつもどこに行ってるんですか?」

 不意に後ろから聞こえてきた声にビクッと背中を震わせて振り返る。

「どこいくんです?」

 繰り返すように尋ねてきたアンネに佐伯はだらしない笑みをこぼしてから何も言わずに廊下を早歩きで進む。

「まおくん」

「名前で呼ぶな」

 ついてくる彼女を必死に振り払おうと部室までの最短ルートをひた走る。しかし食堂を通り過ぎたくらいでアンネに腕を掴まれて身動きとれなくなった。

「勘弁してよ」

「なんで逃げるんですか?」

「弁当くらい一人で食いたいんだ」

「だったら売店にいかないのはおかしいですよ。昨日の夜私がお弁当作ろうかって聞いたらいらないっていうからてっきり」

 佐伯は困り顔で唇をとんがらした。

「俺の分を作って待っててくれる人がいるんだよ。その人に悪いだろ」

 言いたくなさそうにつぶやくとアンネは鳩が豆鉄砲を食ったように目を丸くする。

「その人誰ですか?」

「誰でもいいだろ」

「誰でもよくないです」

「関係ないじゃん、っていうかアンネは学校じゃこっち側の世界の住人じゃなくて、あっち側の住人なんだからあっちでみんなと楽しくご飯食べとけよ」

 相変わらず騒がしい食堂を指さして促す。アンネは不服そうに佐伯を睨んでいた。

「じゃあ俺は部室行くから」
 佐伯が一歩踏み出そうとしたときアンネがその腕を強く掴んでそれを止める。

「今日は私とご飯を食べましょう」

「いやだからいいって、帰ってから二人で食べてんじゃん」

「ダメです。はやくこっちへ食堂に行きますよ」

 ぐいぐい引っ張るアンネに佐伯は力いっぱいの拒否反応を見せ無理やり部室に足を進めていく。

「一緒にお昼をぉ」

「勘弁してくれ」

 そんなところをクラスのメンバーに目撃されたら間違えなく浮いてしまう。それすなわち波風立てずに平穏な学校生活が終わることを告げていた。

 二人は押し問答を繰り返しながら、少しずつ部室に近づいていく。佐伯はこんなところを同級生に見られたくなくてキョロキョロ周りを見渡しながら急いで部室に向かっていた。

「おーい佐伯ぃ」

 見知った声。部室前に前髪センターわけが手を振って待ち構えていた。ただいつもと違うのはその傍らに中島美知恵がいたことだ。

「あれ? 取り込み中だったかな?」

 素っ頓狂な声を出してこの状況を笑っている前髪センターわけと軽く会釈する中島に気が付いたアンネはハッとしたように佐伯の腕を離した。

「ミッシェルさん、この間はありがとうございました」

「いえ、その後は大丈夫でしょうか?」

 寸分狂いのない笑顔。

 急にスイッチが入ったアンネは愛想振りまきモードで対応する。中島は表情を曇らせて佐伯の顔をチラリと見た。

「そのことでちょっと佐伯に相談があるんだ」

「分かった、じゃあ部室で話を聞くよ」

 佐伯は部室のカギを開け二人を中に入れる。その場で立ち尽くしていたアンネを手招きして、

「アンネも」

 アンネは軽やかにステップを踏んだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エーデルワイス〜戦後記憶を失った少女が自分とは何者か探しに行く物語〜

さかな
キャラ文芸
戦後すぐに記憶を失った少女が目を覚ましたのは小さな島バナフィット。平穏な暮らしをしていたがある一冊の本をきっかけに彼女の謎が明らかになる。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

やる気ない天使ちゃんニュース

白雛
キャラ文芸
私は間違っているが、世間はもっと間違っている——! Vに沼ったビッチ天使ミカ 腐り系推し活女子マギ 夢の国から帰国子女リツ 鬼女化寸前ギリギリの年齢で生きるレイ 弱さ=可愛さだ! 不幸の量が私らを(特定の人種向けにのみ)可愛くするんだ! 『生きづらさでもごもごしてる奴なんか可愛くね……? オレ、そーゆーの、ほっとけないんだよね!』って禁断の扉を開いてしまう人続出! この不憫可愛さを理解させられろ! 受け止めてみせろ、世の男子! ブーメラン上等! 厄介の厄介による厄介のための歯に絹着せぬ、そして自分も傷付く、おちゃらけトークバラエティー! 始まってます。 パロ、時事、政治、下ネタ豊富です。

燃ゆる想いを 箏のしらべに ~あやかし狐の恋の手ほどき~

橘 弥久莉
キャラ文芸
 不慮の事故で姉を亡くして以来、前向きに 自分の人生を生きられなかった古都里。三回 忌の法要を終えた帰り道、ふと懐かしさに導 かれ足を運んだ箏曲の定期演奏会で、会の主 催者であり、大師範の村雨右京と出会う。魅 惑的な雰囲気の漂う彼に、箏のお稽古を見学 しに来るよう諭された古都里は、悩みながら も彼の家へ。そこでほんのひと時、大好きな 箏の音に触れ心が揺らぐも入会を決めること が出来ず、曖昧な返事をして帰ってしまう。 しかし、忘れ物に気付き取りに戻った先で、 思いがけず彼の正体が「あやかし狐」だと 知ってしまった古都里は、そのまま住み込み で働きながら箏曲を習うこととなり……。  ありのままの自分を受け入れながら、異類 との出会いに大切な想いを見つけてゆく純愛 あやかしファンタジー。 ※毎日更新。二〇二二年十二月完結予定。 カメ更新となりますが、お付き合いいただ けると嬉しいです。 ・この物語はフィクションです。 ・表紙画像、及び作中の画像はフリー画像 サイト、pixabayからお借りしています。 ・箏曲の譜面の歌詞を一部載せていますが、 著作権は消滅しています。 ・文中に「弦」と「絃」の表記の違いが ありますが、旧字と新字の違いでどちらも 誤りではありません。 <参考文献> ・日本の妖怪 謎と不思議 ヴィジュアル版 謎シリーズ GAKKN ・知識ゼロからの妖怪入門  小松和彦(著)柴田ゆう(画)幻冬舎 ・もののけの正体  怪談はこうして生まれた  原田 実(著) 新潮社 ・日本異類図典 朝里 樹(監修)GB ・宮城道夫小曲集 筝曲楽譜 大日本家庭音楽会 ・命には続きがある 矢作 直樹(著)PHP文庫

人生負け組のスローライフ

雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした! 俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!! ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。 じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。  ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。 ―――――――――――――――――――――― 第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました! 皆様の応援ありがとうございます! ――――――――――――――――――――――

秘伝賜ります

紫南
キャラ文芸
『陰陽道』と『武道』を極めた先祖を持つ大学生の高耶《タカヤ》は その先祖の教えを受け『陰陽武道』を継承している。 失いつつある武道のそれぞれの奥義、秘伝を預かり 継承者が見つかるまで一族で受け継ぎ守っていくのが使命だ。 その過程で、陰陽道も極めてしまった先祖のせいで妖絡みの問題も解決しているのだが…… ◆◇◆◇◆ 《おヌシ! まさか、オレが負けたと思っておるのか!? 陰陽武道は最強! 勝ったに決まっとるだろ!》 (ならどうしたよ。あ、まさかまたぼっちが嫌でとかじゃねぇよな? わざわざ霊界の門まで開けてやったのに、そんな理由で帰って来ねえよな?) 《ぐぅっ》……これが日常? ◆◇◆ 現代では恐らく最強! けれど地味で平凡な生活がしたい青年の非日常をご覧あれ! 【毎週水曜日0時頃投稿予定】

涙袋 ~現代居酒屋千夜一夜物語~

与四季団地
エッセイ・ノンフィクション
居酒屋店主の出くわす日常。 マスターであったり、ポスティングバイトしたり、フォークリフト運転手であったり、時系列飛び飛び!! 幼女・美少女を愛し、人妻に魅かれ、美人アスリートに憧れる毎日^^ 映画、マンガ、とにかく、物語(エピソード・ネタ)にしか反応しない男。 ・・・おもしろきこともなき世をおもしろく^^ ・・・天を敬い、人を愛する^^

神とゲームと青春を!~高校生プロゲーマー四人が神様に誘拐されて謎解きする~

初心なグミ@最強カップル連載中
キャラ文芸
高校生プロゲーマー四人は、幼馴染でありながら両想いの男女二組である。そんな四人は神様に誘拐され、謎解きをさせられることになった。 一つ、干支の謎。二つ、殺人事件の謎。四人は無事、謎解きをクリアすることが出来るのだろうか。 ※コメントと評価はモチベーションになりますので、どうかお願いします。気軽にコメントをくださると、作者はとても喜んで死にます。 〇コミックノヴァ編集部様、コミコ熱帯部様より注目作品に認定されました!! ーーー 変わらない日々を送っていた俺達は、皆でフルダイブ型VRの謎解きゲーをしようとした。しかし、普通にオープニングを進んでいたゲームは突如バグりだし、暗転する。暗転の末で強い光に目をやられた俺達の目の前には、可愛らしい容貌の神様が居た。その神様の目的は、四人を自分の暇つぶしに付き合わせること。最初こそ警戒していた四人だったが、同じ時を過ごす内に友情も芽生え、かけがえの無い存在になっていく。

処理中です...