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第一章

第二郷土室の祟り

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「ミッシェルさんは発熱でお休みです」

 ホームルームにて国語教師の興味がなさそうな声にクラス中は落胆する。

 女子は男子が色目を使ったからだとか言ってブーイングし、男子は女子がしつこく話しかけたからだと言って反論している。

 全てを知っている佐伯は寝不足で机に顔を埋めながら鼻で笑っていた。まさかクラスの人気者が影も薄く友達もいない陰キャの下宿先に寝ているなんて知ったら驚くだろうな。

 ――まぁそんなこと言ってマウントをとるほどバカじゃないけど。

 心の中でつぶやいて佐伯は自嘲する。こんなことがクラスにバレたら市中引き回しのうえ打ち首獄門になるだろう。

 佐伯はこのまま空気となり誰もいない隣の席の様子を横目にくだらないホームルームをやりすごしていた。

「じゃあ、一限は五十二ページからだからな。準備しとけよ」

 担任はチャイムが鳴り終わると十分休みを告知してそそくさと教室を出ていく。佐伯は大欠伸をしながら一人クラスを出ようと引き戸をスライドさせる。

「あの」

「……中島さん?」

 佐伯が一瞬誰か分からないほどの陰の気をまとい教室の外の廊下に中島美知恵が立っていたのだ。どうやら誰かを待っていたようだ。

「あぁ誰かによう?」

「ミッシェルさんもしかしてお休みですか?」

「そうだけど」

「やっぱり第二郷土室の祟り……」

「ちょっとごめん、こっちへ」

 佐伯はクラスの連中に勘づかれても嫌なので彼女を人気のない階段先まで誘導する。 

「あのやっぱり……」

「ただの発熱だから大丈夫だって、それよりあんたは大丈夫なのか?」

 彼女の疑念を祓うように言葉を被せた。

「でもミッシェルさんが」

 会話の波長が合わない。中島美知恵はアンネの体調が崩れたことを自分が原因と思っているが本当のことを言えばもっとめんどくさくなるので佐伯は教えるつもりはない。

「明日には学校にくるよ、大丈夫。それからどう? 彼女に祓ってもらってから変わったことはない?」

「実はあれだけ毎日起きていた心霊現象は収まりましたが、そのかわり夜悪夢を見たんです」

「悪夢? どんな?」

「……黒い女の人がずっとこっちを見てもごもご言ってるんです。何を言ってるか聞こえないけど気持ち悪くて……」

 中島美知恵はそう言うと顔を伏せた。佐伯は咄嗟にアンネのつけた加護とやらが効果を発揮していることに関心したが、それでも彼女のことを気に入り構ってほしくてちょっかいをだしていただけの愉快霊がいきなり夢に干渉してくるのはおかしい。

「その黒い女の人に見覚えは?」

「あるわけありません」

「そうか……もしまたその夢を見ても決してそいつと目を合わせちゃだめだ」

「……はい」

「あとこれ」

 佐伯は三津首みつのおびとかなえに渡したものと同じお守りを手のひらに握らせた。

「自分の部屋で一番陽の当たる場所にこれを吊るしてお札かわりにしてみて、それでももしそいつがまた夢で顔を覗き込んで来たら『のうまくさんまんだばざらだんかん』ってなんども唱えるんだ」

 得体の知れないものへの対処法を正直に答えると、中島美知恵は少し考え込むように頷いた。佐伯は念のため内ポケットに忍ばせているメモ帳を引きちぎり先ほどの真言を書き写してあげた。

「大丈夫。中島さんにはミッシェルさんがくれた加護と不動明王様がついてる心配ないよ」

 学校では見せないような柄にもない笑顔を佐伯が見せると中島美知恵は少しだけ安堵したように微笑み自分のクラスへ戻っていく。佐伯は自分の頬をぱちんと叩くと何食わぬ顔でトイレに向かった。
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