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第一章
ゴン!
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一つの小さな光だった物質が肥大し、形つくり、意識の覚醒が始まり佐伯真魚の身体を生成させる。
クリアになった意識の先は真っ暗だったが、電気を落とした深夜の部屋の暗さや残暑の蒸し暑さとは明らかに違う、一寸の光の侵入も許さないほどの闇の世界の色だった。
「上手く入ったか?」
言語化できる。そうやらアンネの中にある深層心理または魂の世界に入り込むことができたらしい。
「如(実)の耳《にょろのみ》、如(実)の耳《にょろのみ》」
輝く瞳のまま唱える。佐伯はその場でしゃがみ込み両手を耳元に添えた。
――どこにいる?
つぶやく。耳が痛くなるほどの無音。
――なんでもいい、何かしゃべってくれ。
願う。切実に。刹那、いや六徳《りっとく》ほどしかない望みにかけて彼女声を拾うために身体全体を聴覚器官とする。
「……タスケテ」
――聞こえた!
佐伯は目を開き、立ち上がった。
「助けを求める者のところまで我を導け!」
限界まで背中をそって叫んだ。
「来たれゴン!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
はるか遠くから聞こえてくる犬の遠吠え。その遠吠えは光のごとくスピードで近づいてきて、佐伯の股をすり抜けるかと思いきや減速し背中に乗せそのまま進み始めた。
「空海様」
佐伯のことをそう呼ぶのは大きな白い犬だった。
「ゴン、わざわざ高野山からすまないな」
「いえ」
「声の主は何処か?」
「えぇすぐそこです」
ゴンは疾風のように駆けていた足を止め、威嚇するように吠える。
佐伯はゴンの背中から降り、吠えた先に走っていく。
僅かな光が見える。蠢く黒い何かに覆いかぶさられ今にも消えそうな光の色。
「お……い」
佐伯は如(実)の目の力でその光の正体がアンネの魂であると理解できた。理解できた瞬間に脳内に突き付けられた光景に吐き気を催す。
アンネは見知らぬ影に犯されていた。苦しみ抵抗する彼女の身体を蝕むように男は彼女の首を絞め、なめくじのように這いずり回り凌辱を繰り返している。
「おぇ」
あまりにおぞましい光景に嗚咽してしまったが、すぐにマグマのような怒りがわき上がり、全身に赤い血がたぎった。気が付いたときにはその得体の知れない男を飛び掛かっていた。
「滅す! 滅す! クソ野郎が!」
アンネを蝕む元凶を全霊で殴打し引き
剝がす。
「それ以上こっちに来てみろ! 俺のすべての力を使ってお前を地獄に送ってやる!」
佐伯の鬼気迫る言霊に男は何も反応を示さず、闇に消えた。
佐伯は男の存在が完全に消えたことを確認すると、アンネの魂に駆け寄り弱々しくなった光る彼女を抱き上げた。
「くそ、くそっ」
――何が俺がお前を助けてやる。だ。こんな近くにいたのになにもできない。
アンネは何も言わない。
「戻ってこい!」
混乱した佐伯は一心不乱に叫んでいた。
「空海様!」
ゴンの声が聞こえる。
ゴンは先ほどの位置からいっさい動じずに犬歯をむき出しにしながらこちらを睨んでいる。
「間に合ってくれ」
佐伯は冷静さを取り戻しアンネの閉じたままの瞼をむりやり両手で開いた。
「悟開!」
叫ぶ。
クリアになった意識の先は真っ暗だったが、電気を落とした深夜の部屋の暗さや残暑の蒸し暑さとは明らかに違う、一寸の光の侵入も許さないほどの闇の世界の色だった。
「上手く入ったか?」
言語化できる。そうやらアンネの中にある深層心理または魂の世界に入り込むことができたらしい。
「如(実)の耳《にょろのみ》、如(実)の耳《にょろのみ》」
輝く瞳のまま唱える。佐伯はその場でしゃがみ込み両手を耳元に添えた。
――どこにいる?
つぶやく。耳が痛くなるほどの無音。
――なんでもいい、何かしゃべってくれ。
願う。切実に。刹那、いや六徳《りっとく》ほどしかない望みにかけて彼女声を拾うために身体全体を聴覚器官とする。
「……タスケテ」
――聞こえた!
佐伯は目を開き、立ち上がった。
「助けを求める者のところまで我を導け!」
限界まで背中をそって叫んだ。
「来たれゴン!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。
はるか遠くから聞こえてくる犬の遠吠え。その遠吠えは光のごとくスピードで近づいてきて、佐伯の股をすり抜けるかと思いきや減速し背中に乗せそのまま進み始めた。
「空海様」
佐伯のことをそう呼ぶのは大きな白い犬だった。
「ゴン、わざわざ高野山からすまないな」
「いえ」
「声の主は何処か?」
「えぇすぐそこです」
ゴンは疾風のように駆けていた足を止め、威嚇するように吠える。
佐伯はゴンの背中から降り、吠えた先に走っていく。
僅かな光が見える。蠢く黒い何かに覆いかぶさられ今にも消えそうな光の色。
「お……い」
佐伯は如(実)の目の力でその光の正体がアンネの魂であると理解できた。理解できた瞬間に脳内に突き付けられた光景に吐き気を催す。
アンネは見知らぬ影に犯されていた。苦しみ抵抗する彼女の身体を蝕むように男は彼女の首を絞め、なめくじのように這いずり回り凌辱を繰り返している。
「おぇ」
あまりにおぞましい光景に嗚咽してしまったが、すぐにマグマのような怒りがわき上がり、全身に赤い血がたぎった。気が付いたときにはその得体の知れない男を飛び掛かっていた。
「滅す! 滅す! クソ野郎が!」
アンネを蝕む元凶を全霊で殴打し引き
剝がす。
「それ以上こっちに来てみろ! 俺のすべての力を使ってお前を地獄に送ってやる!」
佐伯の鬼気迫る言霊に男は何も反応を示さず、闇に消えた。
佐伯は男の存在が完全に消えたことを確認すると、アンネの魂に駆け寄り弱々しくなった光る彼女を抱き上げた。
「くそ、くそっ」
――何が俺がお前を助けてやる。だ。こんな近くにいたのになにもできない。
アンネは何も言わない。
「戻ってこい!」
混乱した佐伯は一心不乱に叫んでいた。
「空海様!」
ゴンの声が聞こえる。
ゴンは先ほどの位置からいっさい動じずに犬歯をむき出しにしながらこちらを睨んでいる。
「間に合ってくれ」
佐伯は冷静さを取り戻しアンネの閉じたままの瞼をむりやり両手で開いた。
「悟開!」
叫ぶ。
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