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第一章

如実の目

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「――っ。おい大丈夫か!?」

 アンネが眠る布団を見てぎょっとした。

 アンネは相変わらず布団の上に横になっていた。しかし、横になったまま、まるで壊れた人形みたいに痙攣し、自分で自分の首を絞めていたのだ。

 おぞましいのはそんな大変な状況になっているのに、両目ははっきり開いていて、その碧眼は夜の海を照らす月の光よりも冷酷で、朝凪よりも静観していた。

 信じられないほど精巧につくられたその瞳は彼女が人間ではない別のなにかだということを証明するのに充分な証拠だった。

「何やってんだしっかりしろ」

 佐伯はアンネが自ら首を絞める手を力いっぱい外そうとするがぴくりともしない。それは女の子の華奢な腕の力とは思えないほど強力で明確な殺意が込められていた。

「くそ、どうする救急車を呼ぶか?」

 部屋の隅には時代錯誤のダイヤル式電話が置いてあり、受話器を手に取ろうと腕をのばしたとき、佐伯の脳裏にとある言葉が浮かんだ。

 ――悪魔。
 ――悪魔の仕業か!

 顔面蒼白なままアンネを見つめる佐伯は頭をかきむしったあとに数珠を右手に携えた。

「俺は聖職者でもなければエクソシストでもない。でもこの子を助けたい。大日如来様俺に力を貸してください」

 佐伯はアンネの間に正座して両手を合掌させた。目を閉じ、全神経を集中させ般若心経を唱え終わる。

 再び瞼を開き、生気を失ったアンネの瞳と自らの金色に輝く瞳を合わせながら

「如(実)の目≪にょろのめ≫、如(実)の目≪にょろのめ≫」

 そう叫んだ。
 
 
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