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第一章
アンネの悪魔
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佐伯がシャワーを浴びている時に聞こえてきたアンネの祈りは淡々としていた。彼女の母国の言葉であるため何を言っているのかは皆目見当がつかないが佐伯がシャワーを浴び終わる頃には、アンネは畳にしかれた布団に寝息を立てて眠っていた。
「なんだよ、あんだけ人を警戒しておきながら先に寝てるし」
ベッドに胡坐をかき、テレビの音量をおとし、スポーツニュースを流し視聴する。すると今日のプロ野球コーナーが始まって今夜の試合の結果がダイジェストで放送された。
「うわっ、またスワローズ負けたのかよ。あちゃ~ジャイアンツにホームラン三本も打たれてるし」
昨年優勝したヤクルトスワローズは、今シーズン、メンバーはさほど変わってないのに連敗街道を突っ走っていた。
「スワローズはどこが問題なんでしょうか?」
アナウンサーの質問にコメンテーターの元プロ野球選手は、首を傾げな慎重に言葉を選びながら答えている。
まぁそもそも万年Bクラスが定位置のお世辞にも強いと言えないチームが昨年優勝したことが珍しいと言ってしまえば簡単だが、昨今でそんなことを言えばこのコメンテーターの明日の仕事はない。
「頑張れスワローズ。ネットでいくら叩かれようが俺は応援してるぞ。頑張れ頑張れ」
佐伯は幼いころ母から買ってもらったスワローズマスコット『つば九郎』のぬいぐるみを膝におきエールをおくる。
「にしても……」
プロ野球ニュースが終わりつば九郎を簡易タンスの上に置きなおし、
「まぁこのくらいはいいよな」
ぶつくさつぶやいてアンネの寝顔を覗いた。
気持ちの良い寝息とは裏腹に顔は安らかとは言いがたく、眉に皺ができるほど強く瞼を閉じている。
「こいつも苦労したんだろうな」
蒸し暑い室内で寝返りをうって身体にかけてあったタオルケットがはだけた。
佐伯は押し入れに片付けた扇風機を引っ張り出して、アンネに風をおくった。
「こいつの親は何してんだよ。まぁ俺の親父もだけど」
呆れながらつぶやいて、大欠伸する。
時刻はすでに十二時を回っていてさすがの佐伯も眠たくなってきた。
「まぁいろいろやることあるけどおやすみ」
そう言って佐伯は電気を消してベッドに横たわる。女の子がすぐ近くで寝息を立てているから眠れないかなと思っていたが以外にもすぐに意識が遠のいていった。
「……」
「……ぁぁ……」
「………………」
「…………ぅぅ……」
「………ぅぅぅぅう……」
――なんだ?
次に佐伯が目を覚ましたのは深夜二時を過ぎた頃だった。
正確には午前二時四十四分。
真っ暗な部屋の中、外では雨が地面を叩く音が響き、それ以外の雑音はかき消されていたはずだった。
「アンネ?」
佐伯は突然自分の背中に悪寒が走り、立ち上がって部屋の明かりをつけた。
「なんだよ、あんだけ人を警戒しておきながら先に寝てるし」
ベッドに胡坐をかき、テレビの音量をおとし、スポーツニュースを流し視聴する。すると今日のプロ野球コーナーが始まって今夜の試合の結果がダイジェストで放送された。
「うわっ、またスワローズ負けたのかよ。あちゃ~ジャイアンツにホームラン三本も打たれてるし」
昨年優勝したヤクルトスワローズは、今シーズン、メンバーはさほど変わってないのに連敗街道を突っ走っていた。
「スワローズはどこが問題なんでしょうか?」
アナウンサーの質問にコメンテーターの元プロ野球選手は、首を傾げな慎重に言葉を選びながら答えている。
まぁそもそも万年Bクラスが定位置のお世辞にも強いと言えないチームが昨年優勝したことが珍しいと言ってしまえば簡単だが、昨今でそんなことを言えばこのコメンテーターの明日の仕事はない。
「頑張れスワローズ。ネットでいくら叩かれようが俺は応援してるぞ。頑張れ頑張れ」
佐伯は幼いころ母から買ってもらったスワローズマスコット『つば九郎』のぬいぐるみを膝におきエールをおくる。
「にしても……」
プロ野球ニュースが終わりつば九郎を簡易タンスの上に置きなおし、
「まぁこのくらいはいいよな」
ぶつくさつぶやいてアンネの寝顔を覗いた。
気持ちの良い寝息とは裏腹に顔は安らかとは言いがたく、眉に皺ができるほど強く瞼を閉じている。
「こいつも苦労したんだろうな」
蒸し暑い室内で寝返りをうって身体にかけてあったタオルケットがはだけた。
佐伯は押し入れに片付けた扇風機を引っ張り出して、アンネに風をおくった。
「こいつの親は何してんだよ。まぁ俺の親父もだけど」
呆れながらつぶやいて、大欠伸する。
時刻はすでに十二時を回っていてさすがの佐伯も眠たくなってきた。
「まぁいろいろやることあるけどおやすみ」
そう言って佐伯は電気を消してベッドに横たわる。女の子がすぐ近くで寝息を立てているから眠れないかなと思っていたが以外にもすぐに意識が遠のいていった。
「……」
「……ぁぁ……」
「………………」
「…………ぅぅ……」
「………ぅぅぅぅう……」
――なんだ?
次に佐伯が目を覚ましたのは深夜二時を過ぎた頃だった。
正確には午前二時四十四分。
真っ暗な部屋の中、外では雨が地面を叩く音が響き、それ以外の雑音はかき消されていたはずだった。
「アンネ?」
佐伯は突然自分の背中に悪寒が走り、立ち上がって部屋の明かりをつけた。
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