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第一章

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 前髪センターわけは他の人より霊感がある。霊感があるといっても感じるだけなのでどんな霊や怪異が憑いているかまでは分からないが、それでも佐伯よりも勘が良いのは確かだった。

「やばいかどうかは正直今回わかんない、でもその子俺の親戚の寺にお祓いにきたらしいんだ。なんでも髪を洗っている時に髪の毛の中に知らない人の手が入ってきて手を握られたり、鏡に一瞬だけ見知らぬ女が映り込んだり、それも毎日そんな心霊現象が続いてるって言って困り果ててたそうなんよ」

「愉快霊か? 相当気に入られちまったな、あるあるだけどそれで祓えなかったのか?」

「祓えなかったどころか、憑かれかけたよ。身の危険を感じた親戚は彼女のお祓いを断ったって話だ」

「ふーん、愉快霊にしては凶暴すぎる。でもそんなに強い怨念や、祟りなら俺が気づくけどな」

「あぁだから初日は様子を見てた。だけど佐伯でも気が付かなかった」

「興味深いなじゃあ早速その女子を見に行くか」

 佐伯は弁当箱を前髪センターわけに返して席を立つ。

「いや放課後でいい」

「なんでだ、あんまり遅くなるとバイトの時間に間に合わなくなる」

「大丈夫だ、そんなに時間はかからないよ、たぶん。それより」

 前髪センターわけは佐伯に着席を促すとブレザーの内ポケットから折りたたんだプリントを取り出して机の上に広げた。

「数学のプリント昼休み明けに提出なんだよ。助けてくれぇい」

「あぁ、まぁいいか」

 いつもなら適当にあしらうところだが、昼飯を恵んでもらったわけで、無下にはできない。だからせっせと徳を積むのだ。 


 六限の授業が終わり佐伯はそそくさと隣のクラスの前髪センターわけと廊下で合流し言われるがまま横を歩いた。

「中島さんは図書委員でこの時間は図書館にいる」

「ほぉ。読書好きなら気が合うかもな」

「どうだろうな、可愛い子だけどちらかと言えば腐女子系だから」

 からかうように言った前髪センターわけだったが、田舎者でスマートフォンも持ってない(正確には壊れたまま放置中)佐伯にとって腐女子系と言われても想像する術がない。

「佐伯はこの学校の図書館って行ったことあるか?」

「いやない。たぶん俺が読むような書物や法典はないだろ」

「あるかっ、あってたまるかそんなもん」

 強めに突っ込む前髪センターわけとのなんの生産性も生まない会話は続く。

 佐伯の高校の図書館は校舎とは別館になっており、ちょっとした離れみたくなっている。なんでもこの高校の卒業生が有名な作家先生でその人物の功績を称え増築したとかしないとか。そんな話も相まって文学的な趣がある場所だった。

「こんちは」

 司書室と書いてある扉を前髪センターわけは躊躇なく開けて挨拶をする。

「あら藤原くん、久しぶりやんね」

 司書の長野先生がふわふわした口調でそう言って笑った。

 長い髪を後ろでまとめた髪型に丸い顔の輪郭と丸メガネの雰囲気にあった優しい声。二十代後半くらいの長野先生を一目見て佐伯は素直に可愛らしい人だなと思った。

「夏休み何しよったん?」

 そのほんわかした訛り言葉は、いろいろあった佐伯の心を癒すには充分すぎた。

「ずっと遊んでたよ」

 気を許してにんまりとしていると前髪センターわけのさしてきれいでもない耳障りな声が再生され現実に戻された。
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