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第一章
拝み屋の仕事
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腹が減った。
財布の中身を眺める。五百円玉が一枚。百円玉が一枚。五十円が一枚。十円が一枚。一円玉が一枚……
全財産六六六円。
高校一年生の財布に入っている金額としては寂しすぎる。
佐伯はうつむきながら廊下を歩き昨日の出来事を思い出していた。
かなえに景気よくマックを奢った後、下宿先のアパートに戻るとドアの前に大家のおばちゃんがいた。
愛想よく挨拶して部屋に入ろうとするやいなや、佐伯の腕をぐっと掴み上げ鬼のような形相で「先々月と先月分の家賃はいつ払うんだい?」と一言。
今まで上手くかわしてきたつもりが、今度という今度は親御さんに連絡すると言われ財布の中にあるすべての諭吉と英世を献上したのだ。
「毎度あり」
おばちゃんは満面の笑みでそう言ってログインボーナスのごとく作り過ぎたカレーをおっそわけしてくれたが、米があとちょっとしかねぇんだわ。
誰もいない部屋に一人カレーなべを持ちながら、マックで二千円も使ってしまったことを悔いた。こんなことなら米を買っておけばよかった。
都で行っている今月の米配給日にはあと十日以上もある。それまでひもじい思いをしながら徳を積むしかない。
「頑張れ佐伯真魚、これは修行だ。これは修行。徳を、徳を積むんだ」
そんなこんなで今に至る。
新学期が始まって二日目の昼休み。いつものように食堂を素通りしいつもの部室に向かう。
みんながわいわいおしゃべりしながら楽しんでいる食堂の中心にアンネの姿も見えた。あぁいいなぁあいつはすぐに友達できて、そんなことを思い噛みしめながらスタコラと廊下を突っ切て行く。
「お疲れ佐伯」
「なんだてめぇか」
部室の前には前髪センターわけが待ち構えており、その手には弁当箱が二つも握られている。
「なんで弁当ふたつも持ってんだよ」
「あぁこれか、これな彼女につくってもらったんだ。で、こっちが母ちゃんにつくってもらった弁当」
へらへらと弁当を見せびらかしてくる前髪センターわけをフル無視して部室に入る。しかし前髪センターわけは許可も問わずに入ってきて佐伯の対面に腰をおろした。
「なんだよ」
「いやぁ~さすがの俺も弁当は二つも食えないからさぁ、でもどっちかの弁当を残すなんてできないじゃん。だから母ちゃんの弁当食ってよ」
前髪センターわけは、バンダナに包まれた弁当箱を開けた。その中身は真っ白いごはんと海苔の上に海老フライや白身魚がのったとても美味しそうなのり弁だった。
「べ、べ、別にいらん」
そう言いながらすでに手は弁当箱を掴んでおり、佐伯は威厳を保ちながら口を開く。
「で、でもお前の母ちゃんが一生懸命作ってくれたものを残すなんてことは俺の信念に反する。お前が食えないならありがたく俺がもらおう。本当にありがとう」
佐伯が目の前の弁当に合掌し頭を下げると前髪センターわけは黙って箸をくれた。
「上手い?」
「上手い」
かきこむように弁当を食べる佐伯を見ながら前髪センターわけは、彼女が作ってくれたという弁当を開く。
「……仕事があるんだが」
「はんて?」
「仕事の依頼がある拝み屋空海」
ごくんと、飲み込んだ白飯が喉につまりあわてて胸を叩く。向かい合う二人の距離は圧迫感がありこの蒸し暑い部屋は余計に暑く感じる。
「なんだよ、知り合いか家族が憑かれたか?」
「いいや違う。俺のクラスに中島美知恵っていう女の子がいるんだが、その子をちょっと見て欲しい」
「まぁ」
佐伯は弁当をたいらげて手を合わせてご馳走様をしたあと、改めて聞いた。
「見るのはいいけど、やばいのか?」
財布の中身を眺める。五百円玉が一枚。百円玉が一枚。五十円が一枚。十円が一枚。一円玉が一枚……
全財産六六六円。
高校一年生の財布に入っている金額としては寂しすぎる。
佐伯はうつむきながら廊下を歩き昨日の出来事を思い出していた。
かなえに景気よくマックを奢った後、下宿先のアパートに戻るとドアの前に大家のおばちゃんがいた。
愛想よく挨拶して部屋に入ろうとするやいなや、佐伯の腕をぐっと掴み上げ鬼のような形相で「先々月と先月分の家賃はいつ払うんだい?」と一言。
今まで上手くかわしてきたつもりが、今度という今度は親御さんに連絡すると言われ財布の中にあるすべての諭吉と英世を献上したのだ。
「毎度あり」
おばちゃんは満面の笑みでそう言ってログインボーナスのごとく作り過ぎたカレーをおっそわけしてくれたが、米があとちょっとしかねぇんだわ。
誰もいない部屋に一人カレーなべを持ちながら、マックで二千円も使ってしまったことを悔いた。こんなことなら米を買っておけばよかった。
都で行っている今月の米配給日にはあと十日以上もある。それまでひもじい思いをしながら徳を積むしかない。
「頑張れ佐伯真魚、これは修行だ。これは修行。徳を、徳を積むんだ」
そんなこんなで今に至る。
新学期が始まって二日目の昼休み。いつものように食堂を素通りしいつもの部室に向かう。
みんながわいわいおしゃべりしながら楽しんでいる食堂の中心にアンネの姿も見えた。あぁいいなぁあいつはすぐに友達できて、そんなことを思い噛みしめながらスタコラと廊下を突っ切て行く。
「お疲れ佐伯」
「なんだてめぇか」
部室の前には前髪センターわけが待ち構えており、その手には弁当箱が二つも握られている。
「なんで弁当ふたつも持ってんだよ」
「あぁこれか、これな彼女につくってもらったんだ。で、こっちが母ちゃんにつくってもらった弁当」
へらへらと弁当を見せびらかしてくる前髪センターわけをフル無視して部室に入る。しかし前髪センターわけは許可も問わずに入ってきて佐伯の対面に腰をおろした。
「なんだよ」
「いやぁ~さすがの俺も弁当は二つも食えないからさぁ、でもどっちかの弁当を残すなんてできないじゃん。だから母ちゃんの弁当食ってよ」
前髪センターわけは、バンダナに包まれた弁当箱を開けた。その中身は真っ白いごはんと海苔の上に海老フライや白身魚がのったとても美味しそうなのり弁だった。
「べ、べ、別にいらん」
そう言いながらすでに手は弁当箱を掴んでおり、佐伯は威厳を保ちながら口を開く。
「で、でもお前の母ちゃんが一生懸命作ってくれたものを残すなんてことは俺の信念に反する。お前が食えないならありがたく俺がもらおう。本当にありがとう」
佐伯が目の前の弁当に合掌し頭を下げると前髪センターわけは黙って箸をくれた。
「上手い?」
「上手い」
かきこむように弁当を食べる佐伯を見ながら前髪センターわけは、彼女が作ってくれたという弁当を開く。
「……仕事があるんだが」
「はんて?」
「仕事の依頼がある拝み屋空海」
ごくんと、飲み込んだ白飯が喉につまりあわてて胸を叩く。向かい合う二人の距離は圧迫感がありこの蒸し暑い部屋は余計に暑く感じる。
「なんだよ、知り合いか家族が憑かれたか?」
「いいや違う。俺のクラスに中島美知恵っていう女の子がいるんだが、その子をちょっと見て欲しい」
「まぁ」
佐伯は弁当をたいらげて手を合わせてご馳走様をしたあと、改めて聞いた。
「見るのはいいけど、やばいのか?」
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