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第一章

悟開

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 厄災に追いかけ回されたらどうするか、答えは逃げる。その選択し一択である。

 昨日と同じようにメインストリートから外れて路地裏に入り、おそらくネズミとかゴキブリとかいるであろうポリバケツを盛大に蹴飛ばして走り続けた。

 マジでなんなん。そう大声で叫びたい。だって俺自身なにも悪いことしていないのだから、当然である。ただ佐伯は安心もしていた昨日の彼らはなんらかお咎めを受けたらしいが邪悪なものは憑いていなかった。がしかし、それを差し引いても……だ。

「大日如来様、俺はどうしてこんなに可哀そうなのでしょう、中坊に絡まれたばっかりに」

「コラ、中坊って言うな。ガキ扱いすんなや」

 路地裏をかき回すようにぐるぐる回った後、佐伯は意を決してビルの中に入り最上階まで登った。運よく屋上への扉が開かれていてドアノブを回す暇もなく豪快に蹴っ飛ばすと空は夕焼けになっていた。

「ここまでくれば大丈夫だろう」

 佐伯は息を切らしながら腰をつき、へとへとになっていた。

「ちょっといつまで手を握ってんのよ」

「あぁごめん」

 そう言って佐伯は三津首の手を離した。

「あぁ汗かいちゃったじゃんか、あんたジュースのひとつくらい奢んなさいよ」

「いいぜ、ポカリ好きなだけ買ってやるよ」

 破れかぶれに言って佐伯は大の字に横になった。昨日の今日で完全にスタミナ切れだった。

「あんたさぁ、あれからまだ力が戻ってないでしょ」

 かなえは寝転がって空を眺めている佐伯に尋ねる。

「さぁな、まぁ俺は毎日徳を積んでるからそのうちに戻るだろう」

「そうじゃなくって」

「はぁ、じゃあ何だってんだよ」

 少しだけ苛立った口調で返事をした佐伯に三津首はぎりぎりと奥歯を噛みしめてから、

「だ~か~らぁ私の力をあんたに譲渡するって言ってんの」

「何度も言ってんじゃん、いらねぇよ」

 佐伯は立ち上がり鼻息荒く彼女と相対した。

「もし悪霊を祓う機会に出くわして、少しでもへまをしたら死ぬわよ」

「死なないし、へまなんてしない。じゃあなお前も早く帰れ」

「ふざけんな!」

 そう言って手首を振りあっちいけのジェスチャーをすると、勢いよく胸倉をつかまれた。

「死角からのペットボトルも避けれないで何ができるのよ」

「うるせぇな、いい加減に黙れ。悟開《ごかい》すんぞ」

 なっ……、とかなえの威勢は止まった。

 佐伯はポケットから数珠を取り出して両手で合掌するともう一度同じことを言った。たった二文字の単語にかなえは胸倉を握る手を離しその場から後退する。

 無理もない。悟開とは相手に強制的に悟りをひらかせ、自らが悟った世界、または領域に引きずり込ませるというものだ。

 
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