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第一章
エクソシストなのに
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「エクソシストなのに?」
「……悪魔祓いの模範的なやり方って聖水や十字架を用いて憑いてる悪魔を呼び出して名前を吐かせるのです。悪魔は名前を知られれば力は弱まるから。でもその儀式をするとき悪魔は憑いている人間の身体を使って会話を成立させるから自分じゃ自分の憑いてる悪魔を祓えません」
「じゃあなおさら俺が正体をみてやるよ」
「絶対無理です、カトリックでもなく洗礼も受けていないまして悪魔の存在を信じていない人間なら悪魔に返り討ちにあうだけ」
「でもあんたの国の偉い人でも祓えなかったんだから、俺がやってみる価値はあるだろう」
「あなた今度こそ死んでしまいますよ」
アンネから死と言う言葉が飛び出して佐伯は複雑な気持ちになる。
悪魔の存在を信じないと言っておきながら、その類の良からぬものがもたらす死を信じている。ただそれがどういう仕組みで、当事者を殺しているのかは見抜くことができない。
令和になったこの時代でも科学的に証明できない事柄は存在し、拝み屋を名乗る佐伯はその解明を望んでいた。
だからといって、悪魔なんておとぎ話に出て来るものがこの世界に存在しているなんて拝み屋の佐伯は簡単に認めることができなかった。
「悪魔は存在します。実際に私は悪魔を一体使役していますから」
念を押すように彼女が言った。
佐伯は髪をかきむしったあとで、
「じゃあ悪魔がこの世界に存在してきみに憑りついているとしよう。なんできみは日本に来た?」
「そんなの祖国から定よく追い出されたに決まってるじゃないですか」
「追い出された? 留学生じゃないのか?」
「名目上はそうでもしないと厄介者を他国に押し付けられないってのが本音でしょうね」
「まったく話が見えないんだが」
「この国のことわざに臭い物には蓋をしろってのがありますね、今回は臭すぎて蓋をしても意味がなかったから捨てたってだけです」
「分かった、ちょっと整理させてくれ……きみがこの国に来た理由は邪悪な悪魔に憑かれたきみを厄介払いしたかった祖国に追い出されたからってこと?」
「そうです。さっきからそう言っていますが」
「いやだったらあんたの言っていることの説明がつかない」
「はっ!? 何がです」
「あんたは助かりたくないのか? そんなクソったれな運命からよ」
相手が異国の人だとか、エクソシストだとかはどうでもいいが、これだけは譲れない。ただ祖国に追い出されただけだったらどうして彼女はこんなにも日本語を話すことが上手いんだ?
「留学生でこの国を選んだのはきっとあんただろ、自分に憑いたものを祓ってほしくてここに来たんじゃないのか?」
「何も知らないくせに……憶測が過ぎますね。私がこの国を選んだのは両親が昔住んでいたときに、とある夫婦に助けてもらったと聞いて、その方々を探すためです。どうせ死ぬのですから死ぬ前にその方々に少しでも恩返しをしたかっただけです。それに私はエクソシストで人々を助けるのが仕事ですから。祖国に捨てられようがその責務を全うする義務があります」
「ちょっと待てあんた死ぬのか」
佐伯は死というフレーズに反応し、前のめりになってアンネに迫る。
「そうですよバカ。私は十八歳の誕生日に死にます」
「なに?」
「正確には十八歳まで生きてられると言った方がいいかもしれませんが」
「……」
「だから私には関わらない方がいいってことです、私は私のことでこの国の人を巻き込みたくない。ほらロザリオを返してください」
アンネは不機嫌な犬みたいにいじけた。
「はやく返して、大切なものなの」
動こうとしない佐伯にしびれをきらし睨みつける。その鬼気迫る瞳に根負けした。
「……わかった今日のところはロザリオを返す。でも俺は拝み屋だ。あんたがエクソシストの責務を全うするようにあんたがなんて言おうが俺は俺の信念のためにあんたを救済するぞ」
「できもしないのにバカ言ってます。あなたの話が長いせいで五分二十秒も予定をオーバーしてしまいました」
佐伯はアンネが吐き捨てた言葉の余韻を感じながら彼女が去って閉められたドアを眺めていた。
何と言うか、素直じゃないというか。あの態度を見る限りアンネの言葉が本心とは思えなかった。
「……悪魔祓いの模範的なやり方って聖水や十字架を用いて憑いてる悪魔を呼び出して名前を吐かせるのです。悪魔は名前を知られれば力は弱まるから。でもその儀式をするとき悪魔は憑いている人間の身体を使って会話を成立させるから自分じゃ自分の憑いてる悪魔を祓えません」
「じゃあなおさら俺が正体をみてやるよ」
「絶対無理です、カトリックでもなく洗礼も受けていないまして悪魔の存在を信じていない人間なら悪魔に返り討ちにあうだけ」
「でもあんたの国の偉い人でも祓えなかったんだから、俺がやってみる価値はあるだろう」
「あなた今度こそ死んでしまいますよ」
アンネから死と言う言葉が飛び出して佐伯は複雑な気持ちになる。
悪魔の存在を信じないと言っておきながら、その類の良からぬものがもたらす死を信じている。ただそれがどういう仕組みで、当事者を殺しているのかは見抜くことができない。
令和になったこの時代でも科学的に証明できない事柄は存在し、拝み屋を名乗る佐伯はその解明を望んでいた。
だからといって、悪魔なんておとぎ話に出て来るものがこの世界に存在しているなんて拝み屋の佐伯は簡単に認めることができなかった。
「悪魔は存在します。実際に私は悪魔を一体使役していますから」
念を押すように彼女が言った。
佐伯は髪をかきむしったあとで、
「じゃあ悪魔がこの世界に存在してきみに憑りついているとしよう。なんできみは日本に来た?」
「そんなの祖国から定よく追い出されたに決まってるじゃないですか」
「追い出された? 留学生じゃないのか?」
「名目上はそうでもしないと厄介者を他国に押し付けられないってのが本音でしょうね」
「まったく話が見えないんだが」
「この国のことわざに臭い物には蓋をしろってのがありますね、今回は臭すぎて蓋をしても意味がなかったから捨てたってだけです」
「分かった、ちょっと整理させてくれ……きみがこの国に来た理由は邪悪な悪魔に憑かれたきみを厄介払いしたかった祖国に追い出されたからってこと?」
「そうです。さっきからそう言っていますが」
「いやだったらあんたの言っていることの説明がつかない」
「はっ!? 何がです」
「あんたは助かりたくないのか? そんなクソったれな運命からよ」
相手が異国の人だとか、エクソシストだとかはどうでもいいが、これだけは譲れない。ただ祖国に追い出されただけだったらどうして彼女はこんなにも日本語を話すことが上手いんだ?
「留学生でこの国を選んだのはきっとあんただろ、自分に憑いたものを祓ってほしくてここに来たんじゃないのか?」
「何も知らないくせに……憶測が過ぎますね。私がこの国を選んだのは両親が昔住んでいたときに、とある夫婦に助けてもらったと聞いて、その方々を探すためです。どうせ死ぬのですから死ぬ前にその方々に少しでも恩返しをしたかっただけです。それに私はエクソシストで人々を助けるのが仕事ですから。祖国に捨てられようがその責務を全うする義務があります」
「ちょっと待てあんた死ぬのか」
佐伯は死というフレーズに反応し、前のめりになってアンネに迫る。
「そうですよバカ。私は十八歳の誕生日に死にます」
「なに?」
「正確には十八歳まで生きてられると言った方がいいかもしれませんが」
「……」
「だから私には関わらない方がいいってことです、私は私のことでこの国の人を巻き込みたくない。ほらロザリオを返してください」
アンネは不機嫌な犬みたいにいじけた。
「はやく返して、大切なものなの」
動こうとしない佐伯にしびれをきらし睨みつける。その鬼気迫る瞳に根負けした。
「……わかった今日のところはロザリオを返す。でも俺は拝み屋だ。あんたがエクソシストの責務を全うするようにあんたがなんて言おうが俺は俺の信念のためにあんたを救済するぞ」
「できもしないのにバカ言ってます。あなたの話が長いせいで五分二十秒も予定をオーバーしてしまいました」
佐伯はアンネが吐き捨てた言葉の余韻を感じながら彼女が去って閉められたドアを眺めていた。
何と言うか、素直じゃないというか。あの態度を見る限りアンネの言葉が本心とは思えなかった。
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