上 下
5 / 79
第一章

エクソシストなのに

しおりを挟む
「エクソシストなのに?」

「……悪魔祓いの模範的なやり方って聖水や十字架を用いて憑いてる悪魔を呼び出して名前を吐かせるのです。悪魔は名前を知られれば力は弱まるから。でもその儀式をするとき悪魔は憑いている人間の身体を使って会話を成立させるから自分じゃ自分の憑いてる悪魔を祓えません」

「じゃあなおさら俺が正体をみてやるよ」

「絶対無理です、カトリックでもなく洗礼も受けていないまして悪魔の存在を信じていない人間なら悪魔に返り討ちにあうだけ」

「でもあんたの国の偉い人でも祓えなかったんだから、俺がやってみる価値はあるだろう」 

「あなた今度こそ死んでしまいますよ」

 アンネから死と言う言葉が飛び出して佐伯は複雑な気持ちになる。

 悪魔の存在を信じないと言っておきながら、その類の良からぬものがもたらす死を信じている。ただそれがどういう仕組みで、当事者を殺しているのかは見抜くことができない。

 令和になったこの時代でも科学的に証明できない事柄は存在し、拝み屋を名乗る佐伯はその解明を望んでいた。

 だからといって、悪魔なんておとぎ話に出て来るものがこの世界に存在しているなんて拝み屋の佐伯は簡単に認めることができなかった。

「悪魔は存在します。実際に私は悪魔を一体使役していますから」

 念を押すように彼女が言った。

 佐伯は髪をかきむしったあとで、

「じゃあ悪魔がこの世界に存在してきみに憑りついているとしよう。なんできみは日本に来た?」

「そんなの祖国から定よく追い出されたに決まってるじゃないですか」

「追い出された? 留学生じゃないのか?」

「名目上はそうでもしないと厄介者を他国に押し付けられないってのが本音でしょうね」

「まったく話が見えないんだが」

「この国のことわざに臭い物には蓋をしろってのがありますね、今回は臭すぎて蓋をしても意味がなかったから捨てたってだけです」

「分かった、ちょっと整理させてくれ……きみがこの国に来た理由は邪悪な悪魔に憑かれたきみを厄介払いしたかった祖国に追い出されたからってこと?」

「そうです。さっきからそう言っていますが」

「いやだったらあんたの言っていることの説明がつかない」

「はっ!? 何がです」

「あんたは助かりたくないのか? そんなクソったれな運命からよ」

 相手が異国の人だとか、エクソシストだとかはどうでもいいが、これだけは譲れない。ただ祖国に追い出されただけだったらどうして彼女はこんなにも日本語を話すことが上手いんだ?

「留学生でこの国を選んだのはきっとあんただろ、自分に憑いたものを祓ってほしくてここに来たんじゃないのか?」

「何も知らないくせに……憶測が過ぎますね。私がこの国を選んだのは両親が昔住んでいたときに、とある夫婦に助けてもらったと聞いて、その方々を探すためです。どうせ死ぬのですから死ぬ前にその方々に少しでも恩返しをしたかっただけです。それに私はエクソシストで人々を助けるのが仕事ですから。祖国に捨てられようがその責務を全うする義務があります」

「ちょっと待てあんた死ぬのか」

 佐伯は死というフレーズに反応し、前のめりになってアンネに迫る。

「そうですよバカ。私は十八歳の誕生日に死にます」

「なに?」

「正確には十八歳まで生きてられると言った方がいいかもしれませんが」

「……」

「だから私には関わらない方がいいってことです、私は私のことでこの国の人を巻き込みたくない。ほらロザリオを返してください」

 アンネは不機嫌な犬みたいにいじけた。

「はやく返して、大切なものなの」

 動こうとしない佐伯にしびれをきらし睨みつける。その鬼気迫る瞳に根負けした。

「……わかった今日のところはロザリオを返す。でも俺は拝み屋だ。あんたがエクソシストの責務を全うするようにあんたがなんて言おうが俺は俺の信念のためにあんたを救済するぞ」

「できもしないのにバカ言ってます。あなたの話が長いせいで五分二十秒も予定をオーバーしてしまいました」

 佐伯はアンネが吐き捨てた言葉の余韻を感じながら彼女が去って閉められたドアを眺めていた。

 何と言うか、素直じゃないというか。あの態度を見る限りアンネの言葉が本心とは思えなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

「きたる!!」 

Schutt
キャラ文芸
古都の街に起こる怪異に、青年僧が立ち向かう。 伝奇アクションなんちゃってキャラ文芸 過去作セルフリメイク

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

「学校でトイレは1日2回まで」という校則がある女子校の話

赤髪命
大衆娯楽
とある地方の私立女子校、御清水学園には、ある変わった校則があった。 「校内のトイレを使うには、毎朝各個人に2枚ずつ配られるコインを使用しなければならない」 そんな校則の中で生活する少女たちの、おしがまと助け合いの物語

処理中です...