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第一章
転校生。それは退屈な学園生活に突然現れる同い年の異文化。
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「ドイツからきました、アンネ・ミッシェルです。よろしくお願いいたします」
九月一日のホームルーム。
金髪ロングで碧眼の女子が満面の笑みで黒板の前に立ち完璧な日本語で自己紹介したとき、佐伯はなんの冗談だと思って吹き出し、その動きがあまりにオーバーリアクションでせき込んだので彼女と視線があった。同じ戸惑いを浮かべているだろうアンネの笑顔は一瞬引きつったものの、すぐに気を取り直してクラスメイトに微笑む。
転校生。それは退屈な学園生活に突然現れる同い年の異文化。
熟練の職人が作ったお人形さんのように寸分狂いのない笑顔と見た目とのギャップに萌える流ちょうな日本語にクラスの男子はおろか女子までもざわざわと色めき立ち、感情の渦が教室内に発生すると、担任が手を叩いて静粛を促した。
「はいはい、みんな聞け~ミッシェルさんは交換留学生として勉強に来ているわけだから、余計なことは間違っても教えないように、あとわからないことと多いと思うから優しくしてあげなさい」
気だるそうな担任が言うと男子たちの分かりやすい歓声が上がった。
「はいはーい、アンネちゃんはなんの部活に入りますか?」
お調子者の男子が勢い良く手を上げて質問する。
「部活はまだわかりませんが、私はエクソシストなので皆さんに憑いた良くないものを祓うことができます」
再びの歓声。
彼らを奮い立たせるものはエクソシストという最高に中二くさいワードとそれを言ったのがアニメの世界から出てきたような女の子が言ったのだ。数か月前まで中坊だった佐伯たちにとって心を奮い立たせるには充分すぎた。
彼女は当然のように空席になっていた佐伯の隣の席を促され、「よろしくお願いします」一言。
佐伯は軽く会釈する。
一部の男子から羨望と嫉妬の眼差しを向けられているが、こうなったのはお前らが仲良しグループで固まって俺をぼっちに追いやったからだろうが自業自得だボケと心の中で叫んでやった。
一限が始まってもそのざわめきは収まらない。
「お名前は?」
「……佐伯真魚です」
「佐伯さん、教科書を見せてはいただけないでしょうか」
そう言われて、机をくっつかせ一つの教科書を共有しながら横目で眺める。彼女は黒板に記された文字をノートに書き写していた。
とはいえ、彼女の立ち振る舞いに佐伯は動揺を隠すことで精いっぱいだった。
朝に出会った彼女とはまるで雰囲気が違う。なんというか、攻撃的な態度が消え表情も柔らかくなった気もする。しかし佐伯が選んだ行動はあえて動かずに様子を窺うということだ。
だって、この数十分の間に憂鬱な新学期を明るい話題で持ちきりにしたのだ。クラスのカースト最下層の佐伯が彼女に声をかけようものなら戦争が起こる。彼女に対して聞きたいことは山ほどあるが、
だからこそここはスルー。クラスの空気を誤るとそれ以降学校では過ごしにくくなることは明白だった。
だというのに、
アンネはクラスの視線を潜り抜け佐伯に手紙を渡してきた。
なにこれ?
そう思ってアンネに視線を向けると、佐伯に向かって笑いかけてきた。
くりっとした碧い瞳をわざとらしくぱちぱちしてこちらがつい脱力してしまうほどの愛嬌を鱗粉のように振舞ってみせる。
「……」
ひらけってか。
手紙は小さい紙を二つ折りにした、クラスのカースト上位の女子がよくやるやりとりしているような変哲のないものだった。
開こうとしてちょっと緊張する。
いったいどんな内容が書いてあるのか。佐伯は不安を取り除こうともう一度だけアンネを見る。大丈夫だから開けてみてって顔して笑ってた。
佐伯は息を止めながらゆっくりと紙を開いてみた。
『ロザリオ返せ! クソ野郎』
佐伯は少しだけ心を躍らせたことを後悔しつつもゆっくりと紙を折りたたんだ。
九月一日のホームルーム。
金髪ロングで碧眼の女子が満面の笑みで黒板の前に立ち完璧な日本語で自己紹介したとき、佐伯はなんの冗談だと思って吹き出し、その動きがあまりにオーバーリアクションでせき込んだので彼女と視線があった。同じ戸惑いを浮かべているだろうアンネの笑顔は一瞬引きつったものの、すぐに気を取り直してクラスメイトに微笑む。
転校生。それは退屈な学園生活に突然現れる同い年の異文化。
熟練の職人が作ったお人形さんのように寸分狂いのない笑顔と見た目とのギャップに萌える流ちょうな日本語にクラスの男子はおろか女子までもざわざわと色めき立ち、感情の渦が教室内に発生すると、担任が手を叩いて静粛を促した。
「はいはい、みんな聞け~ミッシェルさんは交換留学生として勉強に来ているわけだから、余計なことは間違っても教えないように、あとわからないことと多いと思うから優しくしてあげなさい」
気だるそうな担任が言うと男子たちの分かりやすい歓声が上がった。
「はいはーい、アンネちゃんはなんの部活に入りますか?」
お調子者の男子が勢い良く手を上げて質問する。
「部活はまだわかりませんが、私はエクソシストなので皆さんに憑いた良くないものを祓うことができます」
再びの歓声。
彼らを奮い立たせるものはエクソシストという最高に中二くさいワードとそれを言ったのがアニメの世界から出てきたような女の子が言ったのだ。数か月前まで中坊だった佐伯たちにとって心を奮い立たせるには充分すぎた。
彼女は当然のように空席になっていた佐伯の隣の席を促され、「よろしくお願いします」一言。
佐伯は軽く会釈する。
一部の男子から羨望と嫉妬の眼差しを向けられているが、こうなったのはお前らが仲良しグループで固まって俺をぼっちに追いやったからだろうが自業自得だボケと心の中で叫んでやった。
一限が始まってもそのざわめきは収まらない。
「お名前は?」
「……佐伯真魚です」
「佐伯さん、教科書を見せてはいただけないでしょうか」
そう言われて、机をくっつかせ一つの教科書を共有しながら横目で眺める。彼女は黒板に記された文字をノートに書き写していた。
とはいえ、彼女の立ち振る舞いに佐伯は動揺を隠すことで精いっぱいだった。
朝に出会った彼女とはまるで雰囲気が違う。なんというか、攻撃的な態度が消え表情も柔らかくなった気もする。しかし佐伯が選んだ行動はあえて動かずに様子を窺うということだ。
だって、この数十分の間に憂鬱な新学期を明るい話題で持ちきりにしたのだ。クラスのカースト最下層の佐伯が彼女に声をかけようものなら戦争が起こる。彼女に対して聞きたいことは山ほどあるが、
だからこそここはスルー。クラスの空気を誤るとそれ以降学校では過ごしにくくなることは明白だった。
だというのに、
アンネはクラスの視線を潜り抜け佐伯に手紙を渡してきた。
なにこれ?
そう思ってアンネに視線を向けると、佐伯に向かって笑いかけてきた。
くりっとした碧い瞳をわざとらしくぱちぱちしてこちらがつい脱力してしまうほどの愛嬌を鱗粉のように振舞ってみせる。
「……」
ひらけってか。
手紙は小さい紙を二つ折りにした、クラスのカースト上位の女子がよくやるやりとりしているような変哲のないものだった。
開こうとしてちょっと緊張する。
いったいどんな内容が書いてあるのか。佐伯は不安を取り除こうともう一度だけアンネを見る。大丈夫だから開けてみてって顔して笑ってた。
佐伯は息を止めながらゆっくりと紙を開いてみた。
『ロザリオ返せ! クソ野郎』
佐伯は少しだけ心を躍らせたことを後悔しつつもゆっくりと紙を折りたたんだ。
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