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第277話

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「緊張したか?」
「はい。いち冒険者の私が、国主様と会うなんて夢にも思いませんでしたから」
「だろうな。まぁ、エルガレム王国の国王よりは簡単に会えると思うけどな」

 リャンリーはリゼの緊張を解くかのように、柔らかい口調で話す。

「私は見送りに行くが、リゼはどうする?」
「一度、宿屋に戻ろうと思っています」
「そうか……治療をするなら、冒険者ギルド会館に戻った方がいいぞ」
「そうですね……そうさせてもらいます」

 宿屋に戻ったところで、何かするということではない。
 レティオールやシャルルとは、宿屋でなく冒険者ギルド会館で会うことも可能だ。
 リャンリーと別れたリゼは冒険者ギルド会館へと向かった。
 やはり、行き同様に多くの人たちから感謝をされる。
 その度に言われる“宵姫”と言う言葉に、忍刀“宵姫”にも恥じない冒険者になろうと再度、心に誓う。

「リゼ!」

 ひと際、大きな声でリゼに近付いてきたのは、世話になった武具屋の店主だった。
 感謝の言葉を口にする。
 先祖代々、ここバビロニアで商売を営んできたため、他の土地に移ることは考えていなかった。
 だからこそ、リゼへの感謝が一層強かった。
 なにより自分の店で武器を購入して、防具を任せてくれた冒険者がスタンピードから町を救った有名な冒険者になったことが、とても誇らしかった。
 当然、今後はリゼを前面に押し出して商売をすることになる。
一時的に店の売り上げも落ち込むとはいえ、長い目で見ればリゼの名前を使うことに損はない。
 人混みのせいで、体への接触も増えて傷口の痛みが増す。
 嬉しそうな人たちの顔を見ていると、とても言い出せる雰囲気ではないため我慢を続ける。

 冷や汗をかきながらも、なんとか持ちこたえて冒険者ギルド会館に到着する。
 入ると壁際に移動して、そのまま壁に体を預けるように座り込む。
 楽な体勢になったことで「この痛みの代償が町の人の笑顔なのだ」と、リゼは冒険者としての充実感を感じていた。
 だが、目の前には呻き声を上げる冒険者が、まだ数人残っていた。
 亡くなった冒険者たちは全員運ばれたのか、白い布に包まれた冒険者はいなかった。
 冒険者ギルドの職員が、右肘から先が欠損して冒険者を続けられない冒険者の対応をしているのを目にする。
 その冒険者が「こんなことなら、死んだ方が良かった」と涙目で訴えかけていた。
 生きる術を無くしたことは、生きる価値がないということに等しい。
 商人や生産系の職業に就くとしても、使えるスキルが無ければ意味がない。
 冒険者を選んだということは、冒険者以外の職業が無かったということになるからだ。
 その光景にオーリスで出会った元冒険者で片足のデイモンドを思い出す。
 それが明日の自分かも知れないと思いながら、視線を床へと移した。

「顔色悪いけど、大丈夫?」

 明るく話しかけてきたのは以前に九階層で出会ったパーティーの一人で、回復魔術師のコロンだった。

「はい」
「ちょっと、待っていてね」

 コロンはリゼに回復魔法を施す。

「傷が深いので、一気に回復はしていません。出来なくはありませんが体への負担も大きいので」

 回復魔法の知識に乏しいリゼは、どんな怪我でも治ると思っていただけに勉強になった。

「シャルルを呼んでくるね」

 リゼの顔色が良くなったことを確認すると、休んでいるシャルルを呼びに行く。
 休んでいることを知っていたリゼは呼び止めようとするが、それより早くコロンが去ったため、間に合わなかった。
 シャルルの肩を軽く叩きいて、シャルルを起こすコロン。
 目を擦るながらコロンの言葉に耳を傾けているのか、コロンが自分を指差すと同時にシャルルは立ち上がり駆け寄って来た。

「リゼ、大丈夫‼」

 シャルルの勢いに押されるリゼ。

「うん。大丈夫だよ。シャルルも疲れているようみたいだけど、大丈夫?」
「私に出来ることは、これくらいだから」
「そのおかげで、何人もの冒険者が助かっているんだから凄いことだよ」
「ありがとう……リゼに、そう言ってもらえると心強いよ」
「シャルルは凄いんだよ」

 コロンがシャルルの背後から会話に参加する。
 怪我人の治療をするには、冒険者の治癒師と回復魔術師だけでは足りなかった。
 町の医療施設の協力もあったが、スタンピード終息直後の冒険者ギルド会館は何人もの冒険者で埋め尽くされていた。
 シャルルは魔力枯渇になりながらも、冒険者ギルド会館に寝泊まりをして、リゼたちの治療をしていたそうだ。
 軽傷者は数回の魔法で回復していたが、リゼのように内臓まで損傷している冒険者たちは病状が急変する恐れもあるので、目が離せなかったそうだ。
 一緒に治療をしていた回復魔法師や治癒師たちも、シャルルが倒れてしまわないか心配だったという。
 コロンの説明のように一気に回復させることも出来るが、副作用や体への負担を考えて、出来るだけ自己回復するようにしていたという。
 あくまで全回復と言うのは体力が戻ることで、怪我を全て治すことではないのだとコロンは力説する。
 多くいた回復魔術師や治癒師たちも、仲間と共にバビロニアを離れる決意をしたため、徐々に減っていったそうだ。

「リゼは物凄いの重傷だったんだよ」
「そうなんだ……ありがとうね」

 自分の能力値の中でも、防御や魔法耐性は低い。
 それも影響していたのだろうと、話を聞きながら考えていた。

「レティオールは、どうしているの?」
「他の冒険者と協力して、迷宮ダンジョンの監視をしている」
「うん。でも門が破壊されているにも関わらず、魔物は迷宮ダンジョンから出てくる様子もないようだよ。それにアルカントラ法国の使者たちも、結界装置の確認で近くまで行っているようだし。一応、入場禁止になっているけど、門から迷宮ダンジョン内の様子は見えるみたいだよ」

 シャルルから説明を受けると、リャンリーたちの仲間が戻ってこないというのも理解できた。
 命があれば、早々に迷宮ダンジョンから脱出可能だ……だからこそ、リャンリーは仲間たちが生存している確率が低いのだと感じていたのだろう。

「コロンたちは町に残るの?」
「う~ん、まだ決まっていないかな。仲間内でも議論している最中なの。残っても物価の高いここでは、クエストだけで生活していくのは難しいようだし、かといって他の土地で冒険者をするのに抵抗もあるから……」
「四人一緒なのは変わらないんだね」
「そこはね」

 笑顔で応えるコロン。
 仲が良いからこそ、四人が納得できる答えを探しているのだろう。

「リゼは、どうするの?」

 シャルルが不安そうに質問をする。

「私は町を出ようと思っている。迷惑じゃなければ、シャルルとレティオールと一緒にだけど……」

 リゼの言葉にシャルルの表情が明るくなる。
 以前に「リゼと一緒にエルガレム王国へ戻り、銀翼に入りたい」と言ったことをリゼは覚えていた。
 なによりも、この二人であればアンジュとジェイドに紹介できると思っている。
 実力が達していないのであれば、自分と一緒に強くなればいいという考えだ。
 記念碑に名前を刻まれることを知っっているからか、亡くなった冒険者たちが恥ずかしくないような冒険者だと証明する必要がある。
 リゼは考えを変える……そして、それは銀翼のリゼという冒険者の覚悟でもあった。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十四』
 『魔力:三十三』
 『力:二十八』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十六』
 『魔力耐性:十三』
 『敏捷:百八』
 『回避:五十六』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:十四』
 
■メインクエスト


■サブクエスト
 ・殺人(一人)。期限:無
 ・報酬:万能能力値(十増加)
■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加)
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