上 下
275 / 276

第275話

しおりを挟む
「……ゼ。……リゼ。」
 
 聞き覚えのある声で目が覚める。
 
「あっ、クウガさん」
「いつまで寝ているんだ?」

 状況が分からず戸惑うが、自分が寝坊したのだと思い、体を起こしてクウガと会話が出来るような体勢をとる。
 
「オーリスでの活動は順調か?」
「はい、それなりに――」
 
 懐かしい感じで会話が進み、近況報告をする。
 
「銀翼はどうだ?」
「まだ、良く分かりませんが、クウガさんたちに負け……」
 
 自分が口にしようとした言葉に違和感を感じた。

「リゼは自分が思っているよりも弱い冒険者じゃない。もっと、自分に自信を持て。お前の背中を追っている冒険者だっているんだからな」
「あ、あの――」
「謙虚なことは悪いことじゃない。だが、お前の態度一つで戦況が大きく変わるし、一緒に戦う奴らの士気も変わってくる。だから、常に自信を持って戦い続けろ! いいな」
「クウガさん。一体、なにを――」

 リゼの戸惑う姿が嬉しいのか、笑顔のクウガが優しく呟く。

「そろそろ、行った方がいいだろう?」
「行く?」
「あぁ、仲間が待っているんだろう」
「仲間……」
 
 クウガの言葉で、アンジュとジェイド……そして。レティオールとシャルルを思い出す。
 その瞬間、これが現実ではないということを知る。
 視線をクウガの方に移すと、すでにクウガの姿はなかった。
 
「……クウガさん」
 
 周囲を見渡すが、白い空間が広がっているだけだった。

「またな」

 クウガの声が聞こえた……今まで気づかなかったことが不思議なくらい、非現実的な空間に自分がいることに気付き、これは現実でなく夢だと意識したことで、自然と目の前の景色が消えていき、視界が閉ざされていった。
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 ・
 目を開けると薄暗い空間の中、淡い光が目に入る。
 顔を左右に振ると、ここが冒険者ギルド会館だと分かった。
 多くの負傷者が寝ている光景を見て、自分も負傷したのだと思い出すと、腹部に痛みが走る。
 
「っ!」
 
 顔を歪めるが思っていたよりも軽傷だと気付く。
 治療してもらったのだと患部に優しく触れる。
 目の前に 『サブクエスト達成』が表示されると、自分が瀕死だったのだと知る。
 一歩間違えば死んでいたかも知れなかった恐怖が体を襲う。

(とりあえず……)

 痛みを堪えながら起き上がる。
 
「大丈夫ですか?」
「はい」
 
 リゼの意識が戻ったことに気付いた冒険者ギルドの職員が駆け寄る。
 何人かの回復魔術師や、治癒師も部屋の片隅で休んでいる。
 そのなかにシャルルの姿を見つけるが、目を瞑っているので疲れて休んでいるのだろう。
 
「痛みはどうですか?」
「はい、ここが少し痛みます」
 
 リゼは患部を指差す。
 
「あと数回、治療をすれば完治すると思います」
「有難う御座います。その……スタンピードはどうなりましたか?」
「はい、皆さんのおかげで終息しました」
 
 ギルド職員の言葉で、一先ず安心する。
 リゼの様子から、このまま話を進めても問題ないと判断して、スタンピードの顛末を話し始めた。
 自分が寝ている間に大変なことが起きていること驚く。
 思っていた以上に死者が出たことにショックを受ける。
 自分も死んでいたかも知れないと、他人事に感じなかった。
 そして、バビロニアの迷宮ダンジョンに入れないという事実を知る。
 これから、どうするかを考え始めていると、目の前に『メインクエスト達成』が表示される。
 続けて 『報酬(万能能力値:八増加)』と表示される。
 達成度により変動する報酬。
 最高報酬よりも少ないということは、なにかしら減点されることがあったのだが、リゼは考えても分からないし、思い当たることもない。
 とりあえず、万能能力値は振り分けせずに後回しにした。
 その理由として、能力値が低い『防御』や『魔法耐性』に振るか、忍術を使うため『魔法力』にするか、攻撃力を上げるため『力』が良いのか、今以上に『敏捷』に振って回避するかで考えていたからだ。
 
「大丈夫ですか?」
「あっ、はい」
 
 一点を見つめて動きを止めたリゼを職員が心配する。
 特にリゼは頭から出血もしていたため、「もしかしたら、後遺症として意識障害が残ってのか?」と、見つめていた。

「私は、どれくらい寝ていましたか?」
「ボムゴーレムが討伐されてから、五日になります」
「五日ですか……今、ボムゴーレムと言われましたか?」
「はい。正式に、ボムゴーレムと発表をしました」

 ロックゴーレムでなく、ボムゴーレムと言われたことで納得する。
 意識を失う寸前に起こった爆発。
 一瞬の気の緩み……冒険者として未熟だと感じていた。

(クウガさん)

 未熟という言葉が頭を過ぎると同時に、クウガからの言葉が頭に浮かんだ。
 不甲斐無い自分に助言をくれるため、夢に現れたのだと考え、クウガに感謝をする。
 今までの弱気な自分を打ち消そう! 瀕死の状態から回復した自分は生まれ変わったのだと、自分に言い聞かせた。
 生きていると信じているクウガたちに、情けない自分の姿を見せるのでなく成長した姿を見せるのだと自らを鼓舞する。


 開けっ放しになっている冒険者ギルド会館の扉から、白い布で包まれた遺体が運び出されていた。
 先程、職員からの説明で十六人の冒険者が命を落としたと聞いた。
 今回のスタンピードの報酬を受け取る資格がある冒険者たちだが、親族や身寄りが不明な者たちが多いため、領主から支払われた報酬は葬儀代へと当てられた。

「目を覚ましたか」

 リャンリーが起き上がっているリゼに気付き、近寄り声をかけてきた。

「はい」
「動けそうか?」
「戦うことは出来そうにありませんが、歩くくらいなら大丈夫です」

 リゼの回答にリャンリーは口角を上げた。
 最初に戦闘を意識した発言をしたことが嬉しく、そして面白かったのだ。
 常に戦うことを念頭においている冒険者でなければ、出てこない言葉だからだ。

「少しだけ付き合ってくれるか?」
「はい」

 リゼは、ゆっくりと立ち上がる。
 腹部の痛みはあるが、我慢出来ないほどではなかった。

 リャンリーは冒険者ギルド会館の外へと出る。

「リゼ。見覚えのある街並みだろう。私たちが守った町だ」

 何一つ変わらない街並み。
 違うのは往来する人の数だけだ。
 リャンリーが自分に対して「誇っていいぞ!」と言っているように聞こえた。

「これ、返しておく」

 アイテムバッグからクナイを取り出して、リゼに返す。

「あっ! 有難う御座います」

 ボムゴーレムに刺さったまま爆発して飛ばされていたクナイを、リャンリーが回収をしてくれていた。

「リャンリーさんは、バビロニアに残るんですか?」
「……そうだな。ここの迷宮ダンジョン攻略は、冒険者としての目標だったから、バビロニアを離れようという気はないな」
「そうですか」
「それにスタンピードが発生した時、迷宮ダンジョンの中にいた仲間たちの消息も不明なままだ。もしものことがあれば、供養するのを私の責任だ」

 悲しそうに迷宮ダンジョンのある方向を見る。
 リャンリーの仲間数人が行方不明になっていた。
 スタンピード発生時に見た冒険者もいないため、迷宮ダンジョン内に取り残されたのだと結論付けされた。
 迷宮ダンジョン内で、何日も過ごせるほどの食料などを持っていない。
 なにより迷宮ダンジョンから階層に関係なく多くの魔物が出現した。
 ということは、迷宮ダンジョン内は想像できないほど酷い状況だと考えていた。
 つまり、生存している確率は低い……生きているのは絶望的だ。

「なにより、今回のスタンピードには不可解な点が多すぎる。きちんと調査をする必要があるだろう。私は残って、その調査に協力するつもりでいる」

 この発言で「リャンリーは一生バビロニアから出ないんだろう」とリゼは感じていた。
 リャンリーなりに、今回の件で命を落とした冒険者たちへの責任を感じているようにも思えた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十四』(一増加)
 『魔力:三十三』(一増加)
 『力:二十八』(一増加)
 『防御:二十』(一増加)
 『魔法力:二十六』(一増加)
 『魔力耐性:十三』(一増加)
 『敏捷:百八』(一増加)
 『回避:五十六』(一増加)
 『魅力:二十四』(一増加)
 『運:五十八』(一増加)
 『万能能力値:十四』(九増加)
 
■メインクエスト
 ・スタンピードからバビロニアを防衛。期限:スタンピード終息まで
 ・報酬:達成度により変動。最高報酬(万能能力値:十増加)

■サブクエスト
 ・殺人(一人)。期限:無
 ・報酬:万能能力値:(十増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

処理中です...