上 下
272 / 275

第272話

しおりを挟む
 リリア聖国。
 女神リリアを信仰する国で、女神ユキノを崇めるアルカントラ法国を敵視している国。
 ただし、この世界の多数が女神ユキノを信仰しているため、一部の信者たちからは邪教の国とも言われている。
 国は教皇と言われる人物に全ての決定権がある。
 現在の教皇は“アルバート”と言い、前教皇の実子でアルベルトの双子の兄だ。
 双子は災いの象徴とされているので、誕生とともにアルベルトの存在は抹消されたが、アルバートに万が一のことがあっては……と、十歳までは出生を隠して育てられる。
 もちろん、アルベルトは自分が教皇の息子だと知らずに育った。
 十歳になり”信託”……他国でいう”成人の儀”で素晴らしいスキルを、女神リリアから授かったアルバート。
 混乱や、よからぬ噂が立たないようにと、用済みとなったアルベルトを亡き者にしようとした。
 殺害を命じた当時の部下はアルベルトを連れて、そのまま行方不明となる。
 後日、身元不明の子供の死体と一緒に部下の死亡が確認された。
 その子供はアルベルトかと思われたが、数年後に冒険者としてアルベルトの存在が注目されると、すぐにアルベルトの身辺調査に乗り出し、アルベルトがアルバートの実弟だということが判明する。
 このことはリリア聖国でも数人しか知らず、アルベルトの身辺調査をした者も口封じのために、全員殺害された。
 その数年後に、アルバートは前教皇の父親を殺害して、教皇に就任する。

 教皇の下には“虹蛇”と呼ばれる七人の側近が存在する。
 教皇からの指示で、リリア聖国に害を及ぼす者たちを排除していた。
 この日は、その七人が教皇からの招集命令に従い、久しぶりに集まることとなる。

 円卓に八つの椅子。
 一つは他の七つと違い教皇用の椅子だ。

「俺が一番乗りか‼」

 豪快に部屋の扉を開けて誰もいないことに気分を良くする男性。
 彼の名は虹蛇第七色“憤怒”の名を与えられた“ロッソリーニ”だった。

「おいおい、一番じゃないのかよ」
「あんたが寄り道していたからでしょうが」

 部屋に入ると同時に椅子に座っていたロッソリーニを見つけて残念がる男性と、隣であきれる女性。
 虹蛇第五色“強欲”のジャンロードと、虹蛇第四色“嫉妬”のエンヴィーだった。

「仲良く二人でご登場とは羨ましいね」
「これとは、たまたま任務の場所が同じだったのよ」
「おい、これってなんだ‼」

 ジャンロードとエンヴィーを揶揄うロッソリーニに反論する二人。

「あいからわず喧嘩しているの?」

 ロッソリーニの背後から、いきなり姿を現す男性に対して反射的にロッソリーニが攻撃を加えようとするが、その手を止めた。

「おい、オプティミス。てめぇ、いつからいた」
「いつからって、ロッソリーニが来る前からだよ。ロッソリーニが鼻をほじりながら、独り言を言っているのも聞いていたし、鼻くそを食べていたのも見ていたよ」
「てめぇ!」

 見られたくない姿をオプティミスに見られたロッソリーニが激怒するが、手を出そうとはしなかった。

「一番じゃなくて残念だったね」

 追い打ちをかけるようオプティミスに思わず手を出そうと拳を上げると同時に、ジャンロードとエンヴィーが、二人の間に割って入る。

「喧嘩なら外でやりな」

 ジャンロードの殺気にロッソリーニは腕の力を抜く。

「オプティミスも、いい加減にしなさい」
「ゴメン、ゴメン」

 エンヴィーに叱られるが、オプティミスは意に介さないようだった。

「騒がしいが、なにごとだ?」

 虹蛇第六色“暴食”のアランチュートが面倒な場面に遭遇した表情で入室する。

「いつものことよ」

 エンヴィーも釣られるように面倒くさそうに言葉を返す。

 それぞれが自分の定位置に座っていると、閉めてある部屋の扉向こうからの気配に気づき全員が立ち上がり、扉の方に顔を向ける。
 扉があくと中央に教皇アルバートが立っていた。
 一歩下がって左側に妖艶な女性が口角をあげて部屋にいる仲間を見ている。
 彼女が虹蛇第二色“色欲”のプルゥラだった。
 そして、右側には立派な口髭を蓄えた老人、虹蛇第一色“傲慢”のブライトが並ぶ。
 部屋にいた虹蛇の面々は頭を下げて、教皇アルバートが席に座るまでひれ伏す。

「楽にせよ」

 教皇アルバートの言葉で、頭を上げ椅子に座る。

「それぞれ、任務で忙しいところ悪かった」

 まず、虹蛇に労いの言葉をかけて本題へと入っていった。
 国外で任務をしていたのは、ジャンロードとエンヴィー、オプティミスの三人になる。
 最初に報告をしたのはエンヴィーだった。
 エンヴィーの任務はバビロニアの迷宮ダンジョンに施されている結界石についてだった。
 バビロニアの迷宮ダンジョンの入り口にある結界石は豪華に造られた偽物だと報告をし、本当の結界は入り口補強用にと作られた鉄製の扉と、その扉枠に仕込まれていた。
 鉄製の扉にも強固な魔法が施されていたことまで確認出来た。
 この世界最大の迷宮ダンジョンにしか施されていない結界の解明がエンヴィーの任務だった。
 長い時間をかけて慎重に調査を進めていたところに、どこかの馬鹿が冒険者を扉に打ち付ける暴挙にでたことで、以降の調査が思うように出来なかったとジャンロードを睨む。
 だが、ジャンロードは関係ないふりをするので、エンヴィーの怒りが爆発する。

「ジャンロード。あなた、迷宮ダンジョンで、どうでもいい冒険者を殺したでしょう?」
「……あぁ、生意気な奴がリリア様を馬鹿にする発言をしたから、灸を据えただけだ」
「そのせいでバビロニアが大騒ぎになったんじゃない」
「俺たちには関係のないことだろう? それに俺が迷宮ダンジョンの扉に鉄杭を打ち込んだおかげで、扉の構造が分かったんだから、エンヴィーとしては楽に任務が進められたんじゃないのか?」
「まぁ、そうだけど……」

 頭を抱えるエンヴィーを気にしないジャンロード。
 敢えて二人の時、話題にしなかったのは、この場でジャンロードの行いを教皇を含めた虹蛇全員に知らしめるためだった。
 ジャンロードが言う生意気な奴とはハセゼラのことだ。
 直接揉めたとかではないが、ハセゼラの言動に苛立ち文句を言っただけだ。
 去り際にハセゼラが「リリアの邪教徒を殺した」という台詞がジャンロードの琴線に触れたのだ。

「エンヴィー。冷静になって報告の続きをしろ」

 ブライトが冷淡な口調でエンヴィーを諭す。

「はい……昼間は人目もあることから難しいと思われます。扉が閉められた夜間に迷宮ダンジョン内から破壊するのが無難かと。運の良いことに今、バビロニアの迷宮ダンジョンの二階層には新しく発見されたサークル魔法陣があり、そこから下層の強力な魔物を連れてこれば、混乱に生じて扉を破壊することは可能かと思われます」
「たしかにな。まぁ、面白いことになるから少し待っていろ」
「……それって、扉自体に細工をしたってこと?」
「それについては後で説明するが、俺もエンヴィーの意見に賛成だ。それより、アルカントラの奴らより強力な結界は本当に出来るんだろうな?」
「造作もないことだ。リリア様が邪神ユキノに劣るなど有り得ん。フォークオリア法国にも結界の道具を送っておるし、手順も説明済だ。もし、結界が発動せんようなら、それはフォークオリア法国の奴らの責任だ‼ それよりも教皇の前だ。言葉を慎め‼」

 ジャンロードがブライトに視線を向けると鼻で笑い答えるが、礼節をわきまえないジャンロードに対して忠告をする。

「よい。話を進めろ」

 教皇アルバートがブライトをなだめて、会議を進行する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界サバイバルセットでダンジョン無双。精霊樹復活に貢献します。

karashima_s
ファンタジー
 地球にダンジョンが出来て10年。 その当時は、世界中が混乱したけれど、今ではすでに日常となっていたりする。  ダンジョンに巣くう魔物は、ダンジョン外にでる事はなく、浅い階層であれば、魔物を倒すと、魔石を手に入れる事が出来、その魔石は再生可能エネルギーとして利用できる事が解ると、各国は、こぞってダンジョン探索を行うようになった。 ダンジョンでは魔石だけでなく、傷や病気を癒す貴重なアイテム等をドロップしたり、また、稀に宝箱と呼ばれる箱から、後発的に付与できる様々な魔法やスキルを覚える事が出来る魔法書やスキルオーブと呼ばれる物等も手に入ったりする。  当時は、危険だとして制限されていたダンジョン探索も、今では門戸も広がり、適正があると判断された者は、ある程度の教習を受けた後、試験に合格すると認定を与えられ、探索者(シーカー)として認められるようになっていた。  運転免許のように、学校や教習所ができ、人気の職業の一つになっていたりするのだ。  新田 蓮(あらた れん)もその一人である。  高校を出て、別にやりたい事もなく、他人との関わりが嫌いだった事で会社勤めもきつそうだと判断、高校在学中からシーカー免許教習所に通い、卒業と同時にシーカーデビューをする。そして、浅い階層で、低級モンスターを狩って、安全第一で日々の糧を細々得ては、その収入で気楽に生きる生活を送っていた。 そんなある日、ダンジョン内でスキルオーブをゲットする。手に入れたオーブは『XXXサバイバルセット』。 ほんの0.00001パーセントの確実でユニークスキルがドロップする事がある。今回、それだったら、数億の価値だ。それを売り払えば、悠々自適に生きて行けるんじゃねぇー?と大喜びした蓮だったが、なんと難儀な連中に見られて絡まれてしまった。 必死で逃げる算段を考えていた時、爆音と共に、大きな揺れが襲ってきて、足元が崩れて。 落ちた。 落ちる!と思ったとたん、思わず、持っていたオーブを強く握ってしまったのだ。 落ちながら、蓮の頭の中に声が響く。 「XXXサバイバルセットが使用されました…。」 そして落ちた所が…。

ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!

寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】 「ハズワケ!」あらすじ。 ギフト名【運び屋】。 ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。 その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。 しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。 けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。 仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。 ※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。 ※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑) ※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

辺境村人の俺、異能スキル【クエストスキップ】で超レベルアップ! ~レアアイテムも受け取り放題~

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村人・スライは、毎日散々な目に遭わされていた。  レベルも全く上がらない最弱ゆえに、人生が終わっていた。ある日、知り合いのすすめで冒険者ギルドへ向かったスライ。せめてクエストでレベルを上げようと考えたのだ。しかし、受付嬢に話しかけた途端にレベルアップ。突然のことにスライは驚いた。  試しにもう一度話しかけるとクエストがスキップされ、なぜか経験値、レアアイテムを受け取れてしまった。  謎の能力を持っていると知ったスライは、どんどん強くなっていく――!

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

玲眠の真珠姫

紺坂紫乃
ファンタジー
空に神龍族、地上に龍人族、海に龍神族が暮らす『龍』の世界――三龍大戦から約五百年、大戦で最前線に立った海底竜宮の龍王姫・セツカは魂を真珠に封じて眠りについていた。彼女を目覚めさせる為、義弟にして恋人であった若き隻眼の将軍ロン・ツーエンは、セツカの伯父であり、義父でもある龍王の命によって空と地上へと旅立つ――この純愛の先に待ち受けるものとは? ロンの悲願は成就なるか。中華風幻獣冒険大河ファンタジー、開幕!!

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

処理中です...