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第232話

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 立ち入り禁止場所から戻ったリャンリーは、周囲にミノタウロスが居ないことを伝える。
 リャンリーの仲間たちは万全の状態では無いので、岩壁に持たれていた。
 ジャンロードが二階層の安全を伝えると、三階層にいた冒険者たちは一気に登ってくる。
 そして倒れたミノタウロスや、地面についた血を見ながら、いかに酷い惨劇だったかを想像する。
 リャンリーとジャンロードはミノタウロスの死体を邪魔にならないように端に寄せて魔核を取り出す。

「ほれ。これはお前の分だ」

 ジャンロードがリゼにミノタウロスの魔核を渡す。

「私は倒していません。倒した人が魔核を貰う権利があるはずですので、私でなくリャンリーさんに権利があるはずです」
「たしかにそうだが、リャンリーが技を出せたのは、お前が時間稼ぎしてくれたからだろう」
「そうそう、仲良く三人でってことだ」

 リャンリーも会話に加わる。

「分かりました。ありがとうございます」

 素直にミノタウロスの魔核を受け取る。

「ミノタウロスの素材も一体は、お前たちの物だから。あとで一緒に冒険者ギルドへ報告に行くぞ」
「はい」
「後ろの二人が仲間か?」
「はい、そうです」

 リゼがリャンリーとジャンロードに、レティオールとシャルルを紹介する。
 リャンリーはバビロニアでは有名な冒険者なので、レティオールとシャルルは緊張していた。

「ん? そこの回復魔術師……ちょっと、こっちに来い」

 ジャンロードがシャルルを呼ぶ。
 強面のジャンロードに呼ばれたシャルルは、恐る恐る近付く。

「その腕輪どうした?」

 ミノタウロスの攻撃で破けた服から、友人から貰ったと言っていた腕輪が見えていた。

「学院時代の友人から貰いました」
「学院……てことは、お前はアルカントラ法国出身か?」
「はい」
「それを良く見せてみろ」

 ジャンロードの言葉に逆らうことが出来ずに左腕を掴まれる。

「ジャンロード、これは」
「あぁ、カースドアイテムだ」

 一緒に見ていたリャンリーも気付いたようだった。
 カースドアイテム……呪われたアイテムだ。
 なぜ、そんな物をシャルルが――。

「そんなはずありません。これは友人から友情の証として――」
「これは魔法抑制の呪いがかかっているな。心当たりはないか?」

 シャルルは考えこむが、学院時代に上手くいかなくなったのは、この腕輪を付けてからだと思い出す。

「よほど恨みを買っていたんだろうな。明らかに偶然じゃないからな」
「ジャンロード。口が過ぎるぞ」

 言葉を選ばないジャンロードをリャンリーが注意する。

「俺なら呪いを解除してやれるが、どうする?」

 シャルルは悩んでいた。
 友人だと思っていた人物がカースドアイテムを……

「シャルル。大丈夫?」
「うん。ありがとう」
「ジャンロードさん。その解呪費用は……」

 ショックを受けているシャルルの代わりに、リゼがジャンロードに解呪費用について質問をする。

「解呪したあと、その腕輪をくれればいい。それだけだ」
「ジャンロードは呪術師なのよ。カースドアイテムの解呪は仕事のようなもので、解除したアイテムを収集するのは趣味ね」

 初めて聞く呪術師という職業だったが、呪術師は武闘家なみに強いことだけは確かだった。

「……お願いします」

 シャルルはジャンロードに解呪を依頼する。

「任せておけ。痛みなどは無いから安心しろ」

 両手で腕輪に触れると腕輪から黒い煙がはっきりと浮かび上がる。
 それはまるで生きているかのようだった。
 ジャンロードが聞いたことのない言語を呟いている。
 感覚的なことになるが、黒い煙が苦しんでいるようにも見えた。
 シャルルは恐怖からか目を閉じたままだった。
 徐々に黒い煙が小さくなり目視出来ない状態になったところで、ジャンロードが腕輪を外す。

「終わりだ。気分はどうだ?」
「……もの凄く不思議な気分です」
「いままで押さえつけられていた分の反動があるだろうが、数日もすれば慣れるだろうよ」
「ありがとうございます」

 シャルルはジャンロードに礼を言う。

「その友人て奴のことを教えてくれるか?」
「はい」

 シャルルは重い口を開く。
 腕輪をくれた友人の名は”エバ”と言い、ジュミン商会の令嬢だった。
 学院ではレティオールとシャルルの間に入学したそうだ。
 シャルルが入るまでは、才女だという名を欲しいままにしていた。
 同年代だったこともあり一緒にいることも多かった。
 友人の証として父親から貰った貴重な腕輪をお互いに装着する。
 簡単に外れる構造では無い。
 シャルルの能力が低下してことで、エバと過ごす時間は徐々に少なくなっていく。
 そして最後は挨拶することもなく学院を卒業をした。

「でも、エバがどうして……」
「間違いなく、嫉妬だろう」

 泣きそうなシャルルに気遣う様子も無く、ジャンロードが理由を口にした。
 レティオールも確かに、エバは才女として優秀な成績で学院を卒業して、父親の援助もありアルカントラ法国で高い地位に就き、かなり裕福な生活を送っていたと話す。

「今ごろ、驚いているだろうな」
「……なにかしたのか?」
「この呪いは一定の間、腕輪を着けていれば、その後に腕輪を外したとしても、対象者に呪いをかけることが出来る代物だ。腕輪は媒体なだけだで、腕輪の場所に痣のようなものが残る。つまり、一生呪いのかかった状態になるってことだ。」

 ジャンロードの言葉に、シャルルの表情が曇る。
 たしかに腕輪の場所に、痣のようなものをあったことを思い出したからだ。
 シャルルの表情を見たジャンロードは、自分の発言が当たっていたと確信する。

「だが、この呪いはその強力さゆえに、解呪された時の反動も大きい」
「どういうことだ?」
「簡単なことだ。解呪されると同時に、術者に呪いが戻る。つまり、いままで掛けていた呪いで自分が呪われるってことだ。しかも二倍ほど強力になってな。そうなると、俺でも解呪するのが面倒だ。まぁ、アルカントラ法国では、解呪できる奴はいないだろうよ」
「アルカントラ法国では、呪いに抵抗できない奴は信仰心が足りないと思っているからな」
「そういうこと。まぁ、こんな呪いを仕込める奴は、俺の知っているかぎり一人しかいない。……ちょっと、そいつに会って来るわ」

 ジャンロードとリャンリーは淡々と会話する。
 シャルルはエバが、自分の呪いを引き取ったことに心を痛めるが、自分を騙していた怒りもあり複雑な気持ちになるが、最後は自業自得だと割り切った。

「あっ!」

 リゼはアイテムボックスから、以前に買取できないと断られたカースドアイテムを取り出す。

「これ、スワロウトードの巣で見つけたんですが、ジャンロードさんにお譲りします。解呪して頂いたお礼です」
「お、おう」

 ジャンロードはリゼの勢いに押されて、思わず渡されたカースドアイテムを受け取る。

「……今、スワロウトードの巣って言ったか?」

 ジャンロードは受け取ったカースドアイテムを見たまま、

「はい、そうです」
「そうか……そりゃ、見つかるわけないわな」

 ジャンロードは一人で大声を出して笑っていた。
 リゼの渡したカースドアイテムは、ジャンロードが長年探していた物で、リャンリーたちも、探索の合間に協力をしていた。
 知り合いの冒険者が迷宮ダンジョン内で消息を絶ったため、何度かバビロニアを訪れて遺品などを探していたそうだ。
 偶然読んだ昔の書物に、カースドアイテムを身につけて能力を抑えた状態で戦い続け、解呪すると爆発的に能力が上がるということが書かれていた。
 常に面白いことを考えていたその冒険者は読んだ書物を信じて、自分でいろいろと試していたそうだ。
 呪術師仲間でもあった、その冒険者の考えが当たっていたかは不明だが、カースドアイテムをそんな理由で自らに装着するその冒険者をジャンロードは嫌いではなかった。

「最後はスワロウトードに食べられるって……本当に馬鹿だな。どれだけ強力なカースドアイテムを装着していたんだよ」

 笑い過ぎで泣いているのか、悲しくて泣いているのか分からないが、ジャンロードの目に涙が見える。

「俺の取り分は全部、お前にやる。これの謝礼だ」

 気分が良いのかジャンロードはリゼを力強く抱き上げると、子供をあやすかのように上にあげて笑う。
 必死で抵抗するリゼだったが、ジャンロードの腕力にはかなうはずもなく、恥ずかしい思いをすることになった。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:四十一』
 『魔力:三十』
 『力:二十五』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:百一』
 『回避:五十三』
 『魅力:二十四』
 『運:五十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・購入した品を二倍の販売価格で売る。
  ただし、販売価格は金貨一枚以上とすること。期限:六十日
 ・報酬:観察眼の進化。慧眼けいがん習得

■サブクエスト
 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
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