私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

文字の大きさ
上 下
218 / 293

第218話

しおりを挟む
 町を歩くリゼ。
 その姿は明らかに浮いていた。
 スクィッドニュートの墨が付着した薄着とズボンで町を歩いていたからだ。
 一見、スクィッドニュートの墨に気付かなければ、バビロニアでの生活に困窮して武器と防具を売り払ったと思う者や、バビロニアに到着する前に襲われて身ぐるみ剝がされたと思う者。
 様々なことを想像しながら、リゼを見ていた。
 武器も防具もなければ迷宮ダンジョンに入ることは出来ない。
 思わず訪れた休日を有効に過ごそうと考える。
 フルオロからの招待状もアイテムバッグから取り出したので、バビロニアにいるリャンリーを探すことにした。

 まず、迷宮ダンジョンから持ち帰った冒険者プレートとアイテムバッグを冒険者ギルドに渡すついでに、リャンリーについて尋ねてみるつもりだった。
 当然の反応だが、冒険者ギルド会館に入ったリゼに視線が集まる。
 だが、そんなことに動じないリゼはクエスト発注の受付へと迷わずに進み、受付嬢に冒険者プレートとアイテムバッグを渡して事情を説明をする。
 アイテムバッグの契約解除は時間がかかるため、明日に出直すことになった。
 迷宮ダンジョンで行方不明になった冒険者の遺品を持ち帰ったため、受付嬢から感謝される。
 だが、このバビロニアで生まれ育った冒険者は皆無に等しい。
 そのため持ち帰った冒険者の身内は、このバビロニアにはいないことのほうがいない。
 だからか迷宮ダンジョン内で冒険者を殺す輩が存在する。
 合法で売れない物は非合法に売りさばくことが出来るのもバビロニアだからだ。
 受付嬢もリゼの格好が気になって仕方なかった。
 同じ女性でしかも、自分よりも幼い冒険者が……。

「お聞きしたいのですが、リャンリーさんという冒険者を探しているのですが、どの辺りによくみえますか?」
「リャンリーさんなら、ほとんど迷宮ダンジョンにいますよ。地上に戻ってきても、すぐに迷宮ダンジョンへ行くので会うのは、その数日を狙うしかないですね。宿は――少しお待ちいただいてもよろしいですか?」
「はい」

 受付嬢は他の受付嬢に話を聞いていた。

「お待たせしました。ここから少し遠いですが微笑みの宿というところだそうです」
「そ、そうですか。ありがとうございます」

 まさか自分の宿泊している宿のいるとは夢にも思わなかった。
 ほとんど迷宮ダンジョン内にいるのであれば、安い宿でも問題ないのだろうと勝手な推測をする。

「魔物の買い取りは、ここで出来ますか?」

 アイテムバッグは手元にないが、スワロウトードの素材が入っている。

「この町の冒険者ギルドでは素材や魔核の買取は行っておりません。買取は商業ギルドになります」

 バビロニアは迷宮ダンジョンの登録料や入場料で運営が成り立っている。
 逆に言えば、迷宮ダンジョンの業務だけで手一杯なのだ。
 それ以外の業務にもクエストの発注なども行っているが、片手間の業務だと冒険者ギルドも本腰をいれていない。
 町の清掃は冒険者でなく、商業ギルドが雇っている清掃の専門職が何人も毎日、清掃を行っている。
 冒険者には出来るだけ迷宮ダンジョンから素材などを持ち帰ってもらうほうが、町としては潤う。
 商業ギルドとしても手数料が多く入ってくるため、冒険者ギルドがより多くの冒険者を迷宮ダンジョンに入場されるため、それ以外の業務を出来るだけ請け負っていた。
 バビロニアは特殊な町だと言われている所以の一つだ。
 商業ギルド会館の場所を聞いて、最後の質問をする。

「あと、魔物図鑑は借りることが出来ますか?」
「魔物図鑑……ですか?」

 受付嬢は首を傾げながら再び、他の受付嬢に聞いていた。
 魔物図鑑の存在は知っている。
  だが、自分が受付を初めて「魔物図鑑を借りたい」という言葉を聞いたのは初めてだった。
 冒険者ギルドで管理しているはずだが、実物を見たことがないため、不安になり同僚や先輩の受付嬢に助けを求めた。
 戻って来た受付嬢は意外な言葉で、リゼの問いかけに答える。

「バビロニアの迷宮ダンジョンに生息する魔物図鑑であれば、銀貨五枚で販売しています」

 受付嬢の言葉に他の冒険者たちも驚いていた。
 長年、ここバビロニアにいる冒険者でさえ知らなかったのだ。
 まず、魔物図鑑で予習をして迷宮ダンジョンに入る冒険者など皆無に等しい。
 バビロニアにおいては学習院もないので、迷宮ダンジョンの情報も多くは習わない。
 学習院で教わった魔物の情報にしても、ほんの上辺でしかなかった。
 何度も魔物と遭遇して戦い得た経験こそが財産で、それを仲間に伝承していくことが当たり前だった。

「ただし、十年以上も改訂されていませんので、情報はかなり古いですがどうされますか?」
「購入します」

 リゼは即答する。
 すると、どのような内容が書かれているか気になった冒険者たちも面白がり、購入を希望し始めた。

「すみません。なにぶん在庫の数が少ないので御了承願います」

 まさかの魔物図鑑の購入者殺到に戸惑いながら対応する受付嬢。
 リゼは一番最初に購入を申し出たので、優先的に購入することは出来たが、他の購入者たちは抽選になる。
 魔物図鑑の表紙には“魔物図鑑(バビロニアの迷宮ダンジョン版)”と大きく書かれていたが、オーリスで見た魔物図鑑と比べて、とても薄く頁数も少ない。
 埃を被っており、紙の色も変色していたことから、かなり長い間放置されていたことを物語っていた。
 リゼの他に購入した冒険者は早速、読み始めて笑っていた。

「おいおい、これ二十階層までしかないぞ」
「二十階層まであれば十分だろう?」
「問題は中身だ。どんな情報だ?」
「嘘だろう。今と出現する階層が全然違うじゃないか!」

 好き好きに面白おかしく話していた。
 最終的には話題になる面白い本という感じだった。
 一時、バビロニアの領主が新しい収入源になると思い、冒険者ギルド協力のもとで魔物図鑑(バビロニアの迷宮ダンジョン版)が製作された。
 しかし購入するほどの価値はなく、時代とともに情報自体も古くなり、予想していたほど売れなかったため、改訂版なども出ず最初に制作された本のみ在庫品として残っていた。
 今回の販売で、全ての魔物図鑑が売れてしまったため、これから魔物図鑑(バビロニアの迷宮ダンジョン版)を購入することは出来ない。
 貴重な一冊をリゼは手に入れたことになる。
 リゼも少し離れた場所で魔物図鑑を読みながら、魔物図鑑を購入した別の冒険者たちの会話を聞いていた。
 二十階層までしかないということは、この図鑑が発行された十年以上前は、冒険者たちが行けたもっとも深い階層だったのか……それとも、安全に行けた階層だったのかが分からない。
 もし当時、確認された階層でもっとも深いのであれば、フルオロから聞いた話と重ね合わせると今は三十五階層だったはずなので、十年ほどで十五階層は深くなっている。
 ただし、安全に行ける階層ということであれば、今とさほど変わりない。
 リゼにとっては、どちらでもよいことだった。
 どちらかといえば、図鑑の魔物情報と異なっている発言のほうが気になっていた。
 昔、聞いた話では魔物が階層を移動することは滅多にないので、なにか移動しなければならないような状況があったと考えるべきだ。
 リゼは魔物図鑑の出現階層については信じないと決めて、魔物図鑑を閉じる。

 冒険者ギルド会館を出たリゼは微笑みの宿に戻ることにした。
 リャンリーに会えるかもしれないという、微かな望みに期待して――。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十六』
 『魔力:三十』
 『力:二十三』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十六』
 『回避:四十三』
 『魅力:二十四』
 『運:四十八』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト
 ・迷宮ダンジョンで未討伐の魔物討伐(討伐種類:三十)。期限:三十日
 ・報酬:転職ステータス値向上

■サブクエスト
 ・防具の変更。期限:二年
 ・報酬:ドヴォルグ国での武器製作率向上

 ・瀕死の重傷を負う。期限:三年
 ・報酬:全ての能力値(一増加)

■シークレットクエスト
 ・ヴェルべ村で村民誰かの願いを一つ叶える。期限:五年
 ・報酬:万能能力値(五増加) 
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~

ヒロノF
ファンタジー
死後に転生した魔界にて突然無敵の身体を与えられた地野改(ちの かい)。 その身体は物理的な攻撃に対して金属音がするほど硬く、マグマや高電圧、零度以下の寒さ、猛毒や強酸、腐食ガスにも耐え得る超高スペックの肉体。   その上で与えられたのはイメージ次第で命以外は何でも作り出せるという『創成魔法』という特異な能力。しかし、『イメージ次第で作り出せる』というのが落とし穴! それはイメージ出来なければ作れないのと同義! 生前職人や技師というわけでもなかった彼女には機械など生活を豊かにするものは作ることができない! 中々に持て余す能力だったが、周囲の協力を得つつその力を上手く使って魔界を住み心地良くしようと画策する。    近隣の村を拠点と定め、光の無かった世界に疑似太陽を作り、川を作り、生活基盤を整え、家を建て、魔道具による害獣対策や収穫方法を考案。 更には他国の手を借りて、水道を整備し、銀行・通貨制度を作り、発電施設を作り、村は町へと徐々に発展、ついには大国に国として認められることに!?   何でもできるけど何度も失敗する。 成り行きで居ついてしまったケルベロス、レッドドラゴン、クラーケン、歩く大根もどき、元・書物の自動人形らと共に送る失敗と試行錯誤だらけの魔界ライフ。 様々な物を創り出しては実験実験また実験。果たして住み心地は改善できるのか?   誤字脱字衍字の指摘、矛盾の指摘大歓迎です! 見つけたらご報告ください!   2024/05/02改題しました。旧タイトル 『魔界の天使 (?)アルトラの国造り奮闘譚』 2023/07/22改題しました。旧々タイトル 『天使転生?~でも転生場所は魔界だったから、授けられた強靭な肉体と便利スキル『創成魔法』でシメて住み心地よくしてやります!~』 この作品は以下の投稿サイトにも掲載しています。  『小説家になろう(https://ncode.syosetu.com/n4480hc/)』  『ノベルバ(https://novelba.com/indies/works/929419)』  『アルファポリス(https://www.alphapolis.co.jp/novel/64078938/329538044)』  『カクヨム(https://kakuyomu.jp/works/16818093076594693131)』

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

次は幸せな結婚が出来るかな?

キルア犬
ファンタジー
バレンド王国の第2王女に転生していた相川絵美は5歳の時に毒を盛られ、死にかけたことで前世を思い出した。 だが、、今度は良い男をついでに魔法の世界だから魔法もと考えたのだが、、、解放の日に鑑定した結果は使い勝手が良くない威力だった。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...