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第189話

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 目を覚ますと見慣れない天井が目に入った。

「おっ、目を覚ましたか」
「マリックさん?」

 頭の整理が出来ないリゼだったが、すぐに状況を把握して起き上がろうとする。

「おいおい、そんなに飛び起きなくても。それより魔力枯渇だろう。これでも飲むといい」

 マリックは笑いながら、マジックポーションをリゼの目の前に置く。

「有難う御座います。マジックポーションは持っていますので大丈夫です」

 アイテムバッグからマジックポーションを取り出して、マリックの前で飲む。

「あの……今は」
「夜だな。コウガは今、会議中でな。目が覚めたことを伝えて来るから、もう少し休んでいてくれ」
「いや、でも……」
「今から帰っても、たいして変わらないだろう?」

 マリックの言葉にリゼは従う。
 迷惑を掛けたことを謝罪する必要があると感じていた。
 一方的に押しかけたうえ、倒されて看病までされる有様。
 銀翼の名誉を、自分がさらに汚していないか……。
 
 数分後にマリックが戻って来た。

「悪いな。コウガは会議で暫く来れない。もう少しだけ待ってくれるか?」
「でも、これ以上は御迷惑になりますし。マリックさんも会議に参加する必要があるのでは?」
「たしかにサブリーダーの俺が出ないのはマズいかも知れないが、出たところで特に意味もないからな。今日はスケジュールの確認などがメインだから、コウガだけでも十分だろう。と言うか、コウガが知らないことが無いための確認作業だ。俺は殆ど理解しているから、後で結果だけ教えてくれれば問題無い」
「そうなんですね」

 クランのことを何も知らないリゼは相槌を打つしかなかった。

「聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「はい。ノアという名に聞き覚えはあるか?」
「ノアですか? いいえ、知り合いに、そのような名前の人はいません」
「そうか……今のことは忘れてくれ」
「はい」

 マリックはコウガともに、ノアの事件の間接的だが関与していた。
 コウガがクウガと、どのような約束をしたかまでは聞いていないが、クウガがリゼに肩入れする理由がノアの血縁者だと睨んでいた。
 が、リゼの表情からノアを知らないことは明白だった。
 同時にノアのことをリゼに話したことが悪手だったと後悔する。
 
「俺に聞きたいことがあれば聞くが、なにかあるか?」

 罪滅ぼしの意味も含めて、会話に困ったマリックが絞りだした言葉だった。
 リゼはクランについてのことを聞く。
 知らない知識を得ようとリゼは、マリックの言葉を真剣に聞く。
 ただ、魔力枯渇の影響で頭痛や倦怠感が残っているので時折、聞き逃がすこともあった。
 銀翼のリーダーはアリスかジェイドになる。
 リーダにならない方が、サブリーダーになることはリゼの中で決まっていた。
 リゼは一般冒険者だが、少しでも二人の力になれるようにと考えていた。

「遅くなった」

 マリックとの会話していると、コウガが部屋に入って来た。
 自然とマリックは、リゼの目の前から移動してコウガに席を譲る。
 コウガは座ると同時にリゼに頭を下げた。

「クウガを弱いといったこと、銀翼を侮辱したことは悪かった。正式に謝罪と訂正させてもらう」

 突然のコウガの言葉にリゼは戸惑っていた。
 聞きたかった言葉だったが……。

「ありがとうございます。このことは絶対に他言しません。約束します」

 金狼のリーダーが銀翼の冒険者に頭を下げたとなれば、噂になることは間違いない。
 金狼の尊厳を損なわないようにとするリゼの好意を、コウガはありがたく受け入れた。

「実際、コウガはクウガのことを弱いとは思っていないしな」
「うるせぇ」

 マリックの横やりに対して、文句を言う。

「飯を用意するから食べてから帰れ」
「いえ、そんな」
「せめてもの詫びだ」

 立ち上がると同時に振り返り、話し始めたコウガ。
 リゼからはコウガの表情が見えないため、コウガの考えが分からずに戸惑う。

「素直に甘えな」

 マリックの言葉もあり、リゼは好意を受け入れることにする。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 部屋に籠っていたジェイドだったが、少しだが冷静に考えられるようになったことと、気分転換も兼ねて、外へ出ることにする。
 こんなに部屋に引きこもって外出しなかったのは、いつ以来だろうを思いながら扉に開く。
 既に辺りは暗く多くの冒険者たちは、今日の疲労を打ち消すかのように酔っぱらっていた。

「あれ? ジェイド、久しぶりだな」
「久しぶりっス」

 銀翼館から出てすぐ、酔っ払った知り合いの冒険者に声を掛けられた。

「その……残念だったな」

 冒険者は銀翼に起きたことを思い出したのか、陽気に話し掛けたことが気まずいと感じたのか分からないが、言葉を選ぶように話した。

「冒険者なら、こういうこともあるっス」
「そうか……たしかに冒険者をしていれば、覚悟はしているからな」
「そうっス……ね」
「それはそうと、銀翼の新メンバーはイカレているな」
「新メンバーって、リゼのことっスか? リゼが、どうかしたっスか?」
「どうかしたって……もしかして、何も知らないのか?」

 首を傾げるジェイドに呆れるように、冒険者は話し始めた。
 リゼがコウガに銀翼を侮辱した言葉を撤回してもらうため、単身で金狼郭に乗り込んで、コウガに立ち上がれなくなるほど倒されたこと。
 その状態で、昨日も今日も朝一番で金狼郭に向かっていたこと。
 冒険者の間では、ここ最近では一番旬な話だと。

「そう……なんスか」
「あぁ、金狼のリーダーに喧嘩を売るって、完全に狂っているとしか思えないんだが、ジェイドも知らなかったのか?」
「……ちょっと、用事を思い出したっス。ありがとうっス」
「お、おぅ」

 既に帳もおり、酒場が賑わう時間帯だったので人を避けながら、ジェイドは全力で銀翼館へと戻った。
 戻ると同時に、アンジュの部屋の扉を叩く。

「アンジュ、アンジュ」

 アンジュが出てくるまで、何度も扉を叩きながら叫び続けた。

「……なに、ジェイド」

 目を腫らしたアンジュが、ぶっきらぼうに扉を開けた。
 アンジュの表情から、あれからずっと泣いていたのだろうと、ジェイドは察する。

「大変っス、リゼが!」
「リゼが、どうしたのよ」

 ジェイドは先程聞いた話をアンジュに話すと、アンジュの表情が一変する。

「金狼郭に行くわよ」
「もちろんっス」

 着替えるために一度、扉を閉めたアンジュ。

(私は、なにをしているの!)

 アリスが死んだと塞ぎ込み、泣き続けていた。
 コウガに銀翼を侮辱されても、反論さえせず受け入れた自分。
 その間、リゼは一人で銀翼の名誉を回復するために戦っていた。
 自分が情けなかった。
 それは、扉の外で待っているジェイドも同じだった。
 ローガンが今の自分を見たら、思いっきり殴られるだろう。
 なぜ、そのことに気付けなかったのか……。
 情けない自分たちと違ったリゼ。
 誰よりも銀翼を大事に思っていたのはリゼだったという事実に、アンジュとジェイドは自分に憤りを感じていた。

「待たせたわね。行くわよ」

 扉から出てきたアンジュの表情は、先ほどまでと違っていた。
 それは待っていたジェイドも同じだった。
 情けない自分と決別したアンジュとジェイドは、急いで金狼郭へと向かった。

 金狼郭に到着したアンジュとジェイドだったが、金狼郭の門は既に閉まっていた。
 門を叩き、大声で叫ぶが金狼郭の中から人が出て来る気配が無かった。

「リゼの宿に行くわ」

 此処に居ても意味がないと思ったアンジュは、リゼが宿泊している客亭スドールへ向かおうとした時、門が開く。

「また、銀翼かよ。なんなんだよ一体」

 門を開けたのは、リゼをアンバーと一緒に宿まで送り届けていたジムットと数人の冒険者たちだった。

「リゼは――」
「ちょっと待っていろ」

 リゼのことは簡単に言えないと判断したジムットは他の冒険者たちと相談して一旦、門を閉める。
 そして、マリックの判断を仰ぐため、ジムットがマリックのもとへ向かう。
 ジムットから報告を受けたマリックは自分が応対すると言い、門に向かった。
 再び、門が広くとマリックが現れたので、アンジュとジェイドは驚く。

「リゼなら帰ったよ」
「そうですか……その」
「ことの結末については、俺の口からは言えない」

 アンジュが聞きたかったことを、マリックは答えられないことを言葉を遮って伝えた。

「ありがとうございます」

 これ以上は、なにも聞けないと思ったアンジュは礼を言って去ろうとした。

「ちょっと、待ちな」

 マリックが立ち去ろうとするアンジュとジェイドを引き止める。

「戦いの最中にリゼが、私たちが銀翼を終わらせたりしない。必ず私たちが、銀翼は素晴らしいクランだと証明させてみせると言っていたぞ。いい仲間を持ったな」
「はい」

 マリックはリゼが戦いの最中に言っていた言葉を、アンジュとジェイドに伝えた。
 この言葉はマリック自身の心に響いた言葉だったので、よく覚えていた。
 昔、コウガとも同じような言葉を交わしたことがあったからだ。
 アンジュとジェイドは自分たちの不甲斐なさを痛感していた。


――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十六』
 『魔力:三十』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十四』
 『回避:四十三』
 『魅力:二十一』
 『運:四十八』
 『万能能力値:零』

■メインクエスト
 ・敬える冒険者への弟子入り。期限:十四日
 ・報酬:戦術技術の向上、理解力の向上
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