上 下
176 / 275

第176話

しおりを挟む
  王都への帰り道、リゼはジェイド相手に“ドッペルゲンガー”を使い、何度か戦ってもらった。
 ジェイドも対戦相手としては新鮮だったのか、喜んで相手をしてくれた。
 戦いが終わるとアンジュが感想を述べ、ジェイドとアンジュはお互いの意見をぶつけ合う。
 リゼは双方の意見は間違っていないと思いながら聞いていた。
 前衛の戦い方と、後方支援の戦い方。
 魔法を使うことで、前衛でありながらも、後方支援のような位置付けになると主張するアンジュに対して、ジェイドは前衛で魔法を使えばいいということだった。
 リゼに意見を求められたが、自分のことなのによく分からない発言をすると、アンジュに呆れられる。
 そして、会話を終わろうとしたリゼをアンジュは制止して話し始めた。

「そういえば、まだ見せていない魔法があるんじゃないの?」
「あっ!」

 隠していたわけではなかったが、忘れていたわけでも無い。
 アンジュやジェイド相手に使用する魔法ではないと、リゼは思っていたので使う気が無かった。
 それは“ドレイン”の魔法だ。
 武器に魔法付与して相手を攻撃すると、相手から体力を奪える魔法だ。
 体力を奪うという魔法に興味を示したアンジュやジェイドが、リゼに魔法を使うように促す。
 知り合い……仲間に攻撃することが出来ない。
 リゼは頑なに拒否をする。
 そこからは押し問答だった。
 結局、意志を曲げないリゼに根負けした形で、アンジュとジェイドの二人が折れた。
 ただし今度、一緒に魔物討伐する時には、かならず魔法を見せるようにと約束させられた。 
 魔法を習得して間もないので、アンジュは自分とジェイドの意見を参考にしながら、焦らずに戦闘スタイルを決めれば良いと優しい言葉を付け加えた。

「あそこにいるスライムで試したら、どうっスか?」

 早く魔法を見たいと思っていたジェイドが周囲を見渡していた。
 そして、指差す先に数匹のスライムの集団がいた。

「そうね。どんな感じなのか試すには丁度いいわね。どう、リゼ?」
「うん、試してみる」

 リゼはスライムが逃走しないように近付き”ドレイン”を発動させると、小太刀から黒いモヤのようなものが浮かびあがる。
 景色に溶け込むように上下に数字が表示されて、下の数字が絶え間なく数字が減っていく。
 すぐにスライムを討伐すると、上の数字がスライム一匹討伐すると一上昇することが確認出来た。
 アンジュとジェイドに、そのことを報告する。

「魔法の熟練度の問題なにか、討伐対象がスライムだったか、それとの一回の攻撃で魔力を一上昇させる能力なのかは、まだ分からないわね」
「そうっスね。見つけた魔物を片っ端から討伐すれば、分かるんじゃないっスか?」
「そりゃそうだけど、こんな大通りの移動だと弱い魔物しか見つけられないわよ。かといって、わざわざ森などの魔物たちの生息地域に入るのは御免だわ」
「少しくらい、いいんじゃないっスか?」

 戦闘をしたいジェイドと、余計なことはしたくないアンジュのぶつかり合いが続くが、リゼもアンジュの意見に賛成だったので、ジェイドの意見が通ることは無かった。

 
 王都に戻って来たリゼたちは、冒険者ギルドに討伐した証拠として、キラーエイプの魔石を受付嬢に渡して、報酬を受け取る。
 時間は昼過ぎだったので、三人で遅めの昼食を取ることにしたが、話は魔物や他のクランの話など、冒険者らしい会話だった。
 食事を終えるとアンジュとジェイドとは、ここで別れてリゼは一人で宿屋に戻ろうとする。

「じゃあ又、明日」
「あっ、明日と明後日は用事があるので」
「用事?」

 アンジュは首を傾げたが、リゼを無理に誘ったり、用事の内容を聞くことはなかった。

「分かったわ」

 と一言だけ発して、笑顔で別れた。

 宿屋に戻ると受付に「二日ほど、部屋に閉じ篭もるが心配無用」と事前に連絡をしておき、宿泊日数を十日延長した。
 金銭的にも徐々に厳しくなっていると感じていたリゼは、今後の身の振り方なども真剣に考える必要があると思い始める。

「さてと――」

 床に座り、アイテムバッグからマジックポーションを取り出して床に置く。

「とりあえず、五本あれば大丈夫かな?」

 クエストの魔力枯渇を行う準備を始める。
 効率よく魔力を使う方法として、“ドッペルゲンガー”と“シャドウステップ”を交互に発動しながら、その間に“ディサピア”を発動させる。
 魔力が半分を切ると、疲労が一気に増す感じがした。
 体全体が倦怠感に襲われているようだった。


 目を覚ますと、酷い頭痛と吐き気に加えて、眩暈もする。
 意識を失う前とは比べものにならないほど、体調不良だった。
 ステータスを開くと、魔力が十五だった。
 半分以上は回復していたが、この倦怠感などは魔力が枯渇した影響なのだろう。
 とりあえず、マジックポーションを飲み、魔力を二十五まで回復する。
 魔力は回復したが、自然回復ではないので体調不良が良くならない。
 経験してみないと分からないことだ。

「はぁ~」

 無意識に深いため息をつく。
 エールの飲みすぎで頭が痛いとか、気持ち悪いと言っている人たちの気持ちが少しだけ分かった気がした。
 同時に、こんなに辛い思いをするのにエールを飲み続ける人たちがいるということは、それほどエールが魅力的な飲み物だと証明していることにもなる。
 意を決して、“ドッペルゲンガー”と“シャドウステップ”を交互に発動する。
 一度目の時と同じように魔力が一桁に近づくと、一層体調が悪くなる。
 嘔吐しそうになるのを必死でこらえて、リキャストタイムを考えながら“シャドウステップ”を発動させる。
すると、立つのもやっとの状態になり、その場に片膝をつく。
 そして再度、“ドッペルゲンガー”を発動すると同時に、気を失った――。


 激しい吐き気を感じて目を覚ます。
 先程とは比にならないほど、気分が悪い。
 這いつくばりながら、ベッドへと移動して横になる。
 マジックポーションを飲んでも、気分が戻ることなかった。
 三日のクエスト期間があるということは、辛いので、一日一回程度が限界だったのかも知れない。
 アンジュに話したら、馬鹿だと言われて体の心配をしてくれる姿が想像できた。
 魔術師たちは、この苦しみに耐えているのだと思うと尊敬してしまう。
 街で出会う魔術師たちを見る目が変わった瞬間だった。
 さすがに今日は苦しいので、体調が戻ってから、魔力枯渇のクエストは再開しようと決めて、再び目を閉じた――。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 再び、目を覚ますと体調は少しだけ良くなった気がするが、胃に何かを入れようとする気分ではなかった。
 何とも言えない体調に、リゼは起き上がらずに天井を見ていた。
 時間の感覚が分からないので、自分が寝ていたのが一日だけだったのか、それ以上だったのか分からない。
 起き上がる気力が満ちるまで、天井を見続けている気だったが、一向に気力が沸き上がらないので、強制的に起き上がることにする。
 起き上がる時の反動で、胃液が逆流して喉が焼ける感じになる。

「うぅ……」

 微かに平衡感覚も失っているのか、頭痛と相まって今度は、壁の一点を見ていた。
 しかし、体を起こしていると辛いため、もう一度寝転び体を休めることにする。
 そして、思考能力も停止している状態に近いことから、気付かない間に夢の中へといざなわれた――。 
 

――――――――――――――――――――

■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:二十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:二十一』
 『魔力耐性:十六』
 『敏捷:八十四』
 『回避:四十三』
 『魅力:十九』
 『運:四十五』
 『万能能力値:零』

■メインクエスト
 ・魔力の枯渇(三回)期限:十日
 ・報酬:体力(一増加)、魔力(二増加)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズれギフトの追放冒険者、ワケありハーレムと荷物を運んで国を取る! #ハズワケ!

寝る犬
ファンタジー
【第3回HJ小説大賞後期「ノベルアップ+」部門 最終選考作品】 「ハズワケ!」あらすじ。 ギフト名【運び屋】。 ハズレギフトの烙印を押された主人公は、最高位のパーティをクビになった。 その上悪い噂を流されて、ギルド全員から村八分にされてしまう。 しかし彼のギフトには、使い方次第で無限の可能性があった。 けが人を運んだり、モンスターをリュックに詰めたり、一夜で城を建てたりとやりたい放題。 仲間になったロリっ子、ねこみみ何でもありの可愛い女の子たちと一緒に、ギフトを活かして、デリバリーからモンスター討伐、はては他国との戦争、世界を救う冒険まで、様々な荷物を運ぶ旅が今始まる。 ※ハーレムの女の子が合流するまで、マジメで自己肯定感の低い主人公の一人称はちょい暗めです。 ※明るい女の子たちが重い空気を吹き飛ばしてゆく様をお楽しみください(笑) ※タイトルの画像は「東雲いづる」先生に描いていただきました。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

辺境村人の俺、異能スキル【クエストスキップ】で超レベルアップ! ~レアアイテムも受け取り放題~

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村人・スライは、毎日散々な目に遭わされていた。  レベルも全く上がらない最弱ゆえに、人生が終わっていた。ある日、知り合いのすすめで冒険者ギルドへ向かったスライ。せめてクエストでレベルを上げようと考えたのだ。しかし、受付嬢に話しかけた途端にレベルアップ。突然のことにスライは驚いた。  試しにもう一度話しかけるとクエストがスキップされ、なぜか経験値、レアアイテムを受け取れてしまった。  謎の能力を持っていると知ったスライは、どんどん強くなっていく――!

7個のチート能力は貰いますが、6個は別に必要ありません

ひむよ
ファンタジー
「お詫びとしてどんな力でも与えてやろう」 目が覚めると目の前のおっさんにいきなりそんな言葉をかけられた藤城 皐月。 この言葉の意味を説明され、結果皐月は7個の能力を手に入れた。 だが、皐月にとってはこの内6個はおまけに過ぎない。皐月にとって最も必要なのは自分で考えたスキルだけだ。 だが、皐月は貰えるものはもらうという精神一応7個貰った。 そんな皐月が異世界を安全に楽しむ物語。 人気ランキング2位に載っていました。 hotランキング1位に載っていました。 ありがとうございます。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でチート能力貰えるそうなので、のんびり牧場生活(+α)でも楽しみます

ユーリ
ファンタジー
仕事帰り。毎日のように続く多忙ぶりにフラフラしていたら突然訪れる衝撃。 何が起こったのか分からないうちに意識を失くし、聞き覚えのない声に起こされた。 生命を司るという女神に、自分が死んだことを聞かされ、別の世界での過ごし方を聞かれ、それに答える そして気がつけば、広大な牧場を経営していた ※不定期更新。1話ずつ完成したら更新して行きます。 7/5誤字脱字確認中。気づいた箇所あればお知らせください。 5/11 お気に入り登録100人!ありがとうございます! 8/1 お気に入り登録200人!ありがとうございます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...