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第146話

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 リゼは、ニコラスと冒険者数人とで、オリシスの迷宮ダンジョンに向かっていた。
 クエスト内容は”オリシスの迷宮ダンジョンの調査”だった。
 依頼主はニコラス自身というよりも、冒険者ギルドだ。

 表向きは、何十年も前に忘れられていた管理小屋への調査になる。
 しかし、ニコラスは仲間だったグレックの遺骨を持ち帰ることの方が重要だった。
 場所を知っているリゼを案内役として、他の冒険者を選定するにあたり、リゼと比較的仲の良い冒険者たちを選んだ。
 そのなかに”星天の誓”も入っていた。
 冒険者ギルドからの指名クエスト。
 それは冒険者にとって、名誉なことだ。
 しかも、ギルマスであるニコラス自身もクエストに同行するので、冒険者ギルドで話題になっていた。
 根拠のない噂である”ギルマスからリゼへの忖度”が、さらに広まることにもなっていた。
 その噂を流したのはギルマスであるニコラスへの不満や、リゼの活躍が面白くないと思っている冒険者たちだ。
 ランクBの冒険者が多数いる制度の悪い点だ。
 ランクAへに上がることが無いため、今の生活で十分だ! と無理やり自分を言い聞かせている冒険者の多数は、誰かを攻撃の的にしなければ気が済まなかった。

 オリシスの迷宮ダンジョンに到着して、リゼの案内でグレックの遺体がある場所に到着する。
 リゼしか入ることが出来なかった狭い入り口は、岩を砕いてニコラスたちが入れる大きさにした。
 落とし穴の前に来ると、ニコラスは立ち止まる。
 少しの沈黙の後、自分だけが穴を下りて行くことを伝える。 
 他の冒険者たちは危険があるからだと思いながら、上からニコラスの様子を伺っていた。
 時間にして十分も経っていなかったが、ニコラスは自分のアイテムバッグにグレックの骨を収納する。
 町に戻ってから正式に弔うつもりなのだと、事情を知っているリゼは思っていた。

 次に管理小屋の捜索に入る。
 捜索といっても、既にリゼがほとんど持ち出しているので、簡単に小屋の中を見る程度だった。
 そして管理小屋の奥にあったダンジョントラップ迷宮罠サークル魔法陣
 明らかに正常な状態では無かったことが、ニコラスたちでも一目瞭然だった。
 二次被害を防ぐために、この場でサークル魔法陣を破壊することにする。
 サークル魔法陣の破壊を始めて見るリゼは、その様子を見守るしかなかった。
 なにか規則性のようなものがあり、順序良くサークル魔法陣を破壊していく。
 これは専門知識が無くては出来ない技だった。
 ニコラスは冒険者の中からトラップ解除が出来る職業が盗賊の冒険者を数人選んでいた。
 リゼも、いずれは”ジョブ職業スキル”を習得する可能性もある。
 ジョブ職業スキルは、その職業を選んだ全ての者が習得出来る訳では無い。
 それぞれの職業により習得できるジョブ職業スキルも異なる。
 その数も多いため、正確には分かっていないのだった。

 その後、町に戻りオリシスの迷宮ダンジョンを守っていたザクレーロを丁重に弔う。
 グレックはニコラスが冒険者ギルドを通して、昔のパーティーメンバーに連絡を取っていた。
 墓地に埋葬されるのは、皆が集まってからにするとニコラスは決めていたのだ。
 リゼはニコラスから呼び出されていた。
 用件はグレックのアイテムバッグの中身についてだ。
 高級な物もあるが、ニコラスやクリスティーナにとっても大事な物が入っていた。
 リゼはニコラスやクリスティーナ、それにニコラスの昔の仲間で分配してくれれば良いと伝える。
 前回同様に買取を希望するニコラスとクリスティーナだったが、グレックのアイテムバッグに収納されていたものは、グレックの物で自分の物ではないと主張をする。
 これだけは譲れないと固い意思で会話をしていたことが、ニコラスやクリスティーナにも伝わっていた。
 リゼは故人を敬おうとしていたのだ。
 結局、話し合いは平行線のままだったので、ニコラスはギルマスの権限を使う。
 ニコラスの判断でアイテムの売却などを行い、売却した通貨をリゼに渡すことになった。

「理不尽かも知れないが、社会という仕組みを理解しておいた方がいい」

 ニコラスはリゼを諭すように話した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さてと――」

 リゼは目を覚ますと、日課になっている瞑想を始める。
 しかし、瞑想していても雑念が頭を覆って集中することが出来なかった。
 その理由は、王都へ行くための準備を始めるつもりでいたからだ。
 王都へ行く……つまり、この町から去ることになる。
 お世話になった人たちへの挨拶など、どうしていいのか分からなかった。
 気軽に聞ける人もいない。
 そんなことを考えているため、リゼは瞑想を早々に切り上げた。

 リゼが、まず向かったのはギルド会館だった。
 もっとも、今まで冒険者ギルドで出入りをしていた入口ではなく、別にある商業ギルドに用事があった。 
 王都へ向かう商人がいるかの確認だ。
 護衛が出来る程の強さを持ち合わせていないリゼは、荷馬車に乗せて貰おうと考えていたのだ。

 幸いにも、リゼのことを知っている商人が話を聞いてくれた。
 王都に向かう商人は何人か居た。
 往復分の護衛をする契約をしている商人もいる。
 時折、町中やギルド会館で冒険者風の人に会ったりするので、リゼも知っていた。
 王都に向かう商人の中に、リゼをオリシスの迷宮ダンジョンからオーリスまで、荷馬車に乗せてくれたタイダイの名前もあった。
 タイダイは帰りの護衛は付けずに、他の商人に合流して王都へ戻るようだ。
 リゼは親切に教えてくれた商人に礼を言って、面識のあるタイダイに交渉しようとタイダイの弟が経営する”グッダイ道具店”へと向かう。

 グッダイ道具店に到着したリゼは、店主のグッダイに兄のタイダイに話があることを伝える。

「ちょっと、待ってな」

 リゼの表情から、グッダイはリゼがオーリスを出ていくのではないかと感じていた。

(ミサージュや、ラリンも寂しがるだろうな……)

 妻のミサージュや娘のラリンは、リゼと仲が良かった。
 特にラリンはリゼに懐いていたので、居なくなることを知ったら悲しむだろうと、父親としては複雑な心境だった。

 奥で作業をしていたタイダイが現れると、リゼは「相談があります」と伝える。
 タイダイも冒険者からの相談と言われれば、大体の見当はつくのでリゼと店を出て話をすることにした。

「歩きながら話を聞こうか」
「はい、ありがとうございます」

 タイダイの言葉に従い、リゼは歩きながら乗車賃は支払うので、王都まで荷馬車に乗せて行って欲しいことを伝える。

「……即答は出来ないね」

 タイダイは、リゼを乗車させられない理由を口にする。
 今回王都に戻るのに、タイダイは他の商人たちと合流をして移動する。
 その場合、商人同士での決め事……規約があるため、自分の独断では決められないということだ。
 それに商人はアイテムバッグには貴重品を仕舞う。
 収納できない商品を荷台に積む必要があり、タイダイの荷台にも多くの荷物が詰まれることになる。
 リゼは自分一人を追加するだけでも、いろいろと問題が発生するということを知る。

「とりあえず、一緒に戻る商人たちに話はしてみるけど、期待はしないで欲しい」
「ありがとうございます」

 甘く考えていた自分を恥じていた。
 それとタイダイにも余計なことを、押しつけてしまったことに申し訳ない気持ちで一杯だった――。 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値
 『体力:三十五』
 『魔力:十八』
 『力:二十二』
 『防御:二十』
 『魔法力:十一』
 『魔力耐性:十六』
 『素早さ:七十八』
 『回避:四十三』
 『魅力:十七』
 『運:四十三』
 『万能能力値:三』

■メインクエスト
 ・王都へ移動。期限:一年
 ・報酬:万能能力値(三増加)
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