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第91話
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「それ、俺が先に取ったんだろう」
「はぁ、俺が先にとんだろうが!」
「どけって、手が届かないだろうが!」
「うるせぇ! 邪魔すんな」
昼に貼り出されるランクBのクエストボート前で行われるクエスト争奪戦。
リゼもランクBに昇級したので遠くから、その様子を伺っていた。
クエスト用紙を手に取った冒険者たちが、仲間たちと合流する。
手に取ったクエストについての妥当性を話し合っていたのだ。
当然、無理だと判断した場合は、クエスト用紙をクエストボードに戻すか、成功するための武器や防具、人員の確保などの二択になる。
大半は後者になる。
クエストを受注してからの用意となるが、人員確保が出来なかった場合は、無理にでも討伐に行くことも多い。
お互いにクエストを譲らない冒険者同士の場合は、受付嬢が銅貨十枚をコップに入れて、表の枚数を当てることでクエストの優先権を得る規則となっている。
しかし、これはオーリス独自の規則だ。
王都などでは、大きなクランと争いを避けたい中小クランは、大手クランに譲ることが多い。
その見返りとして、人員不足の時に誘って貰えることが多いからだ。
クエストボード前から人が減ってきたのを見計らって、リゼはクエストボードの前に移動する。
「……これかな」
リゼは『ホーンラビットの討伐(五匹以上)』のクエスト用紙を、クエストボードから剥がした。
最初のクエストは、どうしても討伐クエストにしたいと、リゼは思っていたからだ。
この『ホーンラビットの討伐(五匹以上)』は生息地域が広く、攻撃力も低いので比較的に簡単な討伐クエストのため、報酬単価が低い。
だから、冒険者たちからは積極的に受注されるクエストでは無かったのだ。
リゼはアイリを探して、アイリの前で順番待ちをしている冒険者たちの最後尾に並んだ。
この瞬間、リゼは自分も冒険者らしいと実感する。
ひと際、長い列の先を見ると受付にレベッカがいた。
人気受付嬢だと聞いていたが、レベッカの人気ぶりをリゼは実感した。
ほとんどの冒険者が、パーティーを組んでいるのか、数人で話をしながら列に並んでいた。
リゼは、冒険者たちが話す内容も参考になるかもしれないと思い、耳を傾けていた。
その中でリゼが驚く内容があった。
前に並んでいたパーティーと、その前に並んでいるパーティーとの会話だった。
二組とも四人構成だったが、男性のみで構成されたパーティーだった。
話を聞く限り、二組は顔見知りのようだったが二組とも最近、新たに組んだパーティーのようだった。
「やっぱり、女を入れると面倒事が増えるよな」
「そうそう」
「それは、もてない男のひがみだろう」
「うるせぇ!」
女性がパーティーにいると、恋愛感情を抱くことが多くなり、好意を抱いている男性同士、自然と仲が悪くなる傾向が強い。
恋愛に寛大な冒険者も居るが、恋愛を成就して恋人同士になった場合、それはそれで気を使うことが多くなる。
喧嘩で機嫌が悪くなったりと、クエストにも影響が出ることもある。
ましてや、別れると同時にパーティーを離脱する冒険者がいるため、パーティーを解散することもある。
当然、全てのパーティーに当て嵌まるわけでは無いが、上級冒険者になれば、自分の気持ちを押し殺している者もいる。
これはパーティーだけでなく、クランでも同じことが言える。
この話を聞いたリゼは「やっぱり単独のほうが楽だ」と、今まで以上に単独に拘りを持つようになる。
「リゼ!」
前に並んでいたパーティーの男性冒険者がリゼに声を掛けてくれた。
リゼがランクBになったことは、クエストボードからクエスト用紙を剥がしていたのを見ていたし、この時間に並んでいることからも間違いないと思っていた。
「はい⁈」
突然、声を掛けられたリゼは驚き、男性冒険者を見上げる。
「ランクB初めてのクエストか?」
「はい、そうです」
「どんなクエストを受注するつもりだ?」
「これです」
男性冒険者の質問に、リゼはクエスト用紙を見せる。
「おぉ、ホーンラビット討伐か! 懐かしいクエストだ」
「ランクBになった当時は、よく受注したよな」
「魔術師の俺は素早いホーンラビットに、手を焼いた覚えがあるな」
「外で食べるホーンラビットは、特別に美味い!」
リゼのクエスト用紙を見ながら、男性冒険者たちは各々に、ホーンラビット討伐の思い出していた。
「ホーンラビットとアルミラージを間違えるなよ」
「はい」
アルミラージと、ホーンラビットは共に額に角が一本出ている兎に似た魔物だ。
ホーンラビットの上位種がアルミラージになり、体格も一回り大きい。
最初の頃、よく間違える魔物として冒険者の間でも有名だ。
しかし、アルミラージとホーンラビットの違いは、もう一つある。
それは角の模様だ。
角には螺旋のような模様がある。
ホーンラビットが右巻きなのに比べて、アルミラージは左巻きになっている。
学習院で教本として配られている魔物図鑑にも記載はあるが、覚えている者が少ないのも事実だ。
だから、このことを知っている冒険者は、意外と少ない。
ホーンラビット討伐を何度も受注する冒険者は少ないし、自分たちの食料として討伐するのであれば、アルミラージだろうがホーンラビットだろうが、大差は無いことも要因の一つだろう。
魔物解体を仕事としている魔物解体業者の職人であれば、当然の知識になる。
「……単独か?」
「はい」
列に並んでいるのが、リゼだけなので確認したのだろう。
「パーティーを組んでくれないのか?」
「いえ、最初から単独討伐で考えていました」
「武器は……それだけか?」
「はい、この小太刀だけです」
男性冒険者たちは、リゼのことを気に掛けてくれたようだった。
「そうか。ホーンラビット討伐は、西の森だろう。森の奥に進めば、予想外の魔物と遭遇する危険があるから、気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
「それと森に入るなら、方位計を買っておいた方が無難だぞ」
「分かりました」
「通貨が無いからって、方位計の中古は買わない方がいいぞ。正常に動かないものや、すぐに故障するものも多いからな」
「はい」
森の中心への距離と、魔物の強さは比例している。
方位計という方位が分かる道具がある。
ランクBの冒険者なら、誰もが持っている道具だ。
森の中で、進んでいる方角が分からなくなり、遭難することもあるので、それを防ぐ道具になる。
リゼも購入を検討していた道具だった。
少しずつ列が進む。
アイリの声が聞こえるくらいに、列が進むとアイリと目が合った。
笑顔を向けてくれるアイリに、リゼは軽く頭を下げた。
「じゃあ、頑張れよ!」
「ありがとうございます」
受付がリゼの前の冒険者たちの順番になったので、リゼを激励してくれた。
次が自分の番だということに、リゼは何故か緊張していた。
今まで何度も、クエスト用紙を受付に持っていったが、なんとなく雰囲気が違っていた。
「お待たせ」
受付がリゼの番になる。
「これをお願いします」
リゼからクエスト用紙を受け取ったアイリは、じっとそのクエスト用紙を見たまま、リゼの顔を見なかった。
「確認だけど方位計は持っている?」
「いえ、まだ持っていませんが、この後に購入するつもりでいます」
「本当?」
「はい」
アイリはリゼに確認する発言をした後、受付の下に潜ると何かを探しているようだった。
「あった‼」
受付の下からアイリの声が聞こえる。
「はい、これ」
アイリは受付に受付下で探していたものを置いた。
「これは?」
「貸し出し用の方位計よ。購入するといった言葉を疑うわけじゃないけど、これを貸し出すから、クエスト達成した時に返却してくれる。もちろん、その時に購入した方位計を見せてね」
「分かりました」
方位計を持たないものは、森の討伐クエストを発注しない。
これはオーリスの受付として決められていることだ。
少しでも生存率を上げるための、冒険者ギルドとしての処置だ。
「クエスト期限は二日。だけど、明日の午前中には戻って来てね」
これはホーンラビットの肉を出来るだけ新鮮な状態で解体する必要があるからだ。
午後に戻って来てから解体場が込んでいると、解体するまでに時間が掛かり、新鮮な肉を提供出来なくなることを配慮している。
「あと、他に討伐した魔物もギルドで買い取るからね」
「はい、分かりました」
アイリはクエスト用紙とは別に用意されていた発注書にリゼの名前を書くと、リゼに確認したことを証明するための署名を求める。
リゼが署名したことで、正式にクエスト発注がされた。
「頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
リゼはランクBの初クエストへと向かった。
「はぁ、俺が先にとんだろうが!」
「どけって、手が届かないだろうが!」
「うるせぇ! 邪魔すんな」
昼に貼り出されるランクBのクエストボート前で行われるクエスト争奪戦。
リゼもランクBに昇級したので遠くから、その様子を伺っていた。
クエスト用紙を手に取った冒険者たちが、仲間たちと合流する。
手に取ったクエストについての妥当性を話し合っていたのだ。
当然、無理だと判断した場合は、クエスト用紙をクエストボードに戻すか、成功するための武器や防具、人員の確保などの二択になる。
大半は後者になる。
クエストを受注してからの用意となるが、人員確保が出来なかった場合は、無理にでも討伐に行くことも多い。
お互いにクエストを譲らない冒険者同士の場合は、受付嬢が銅貨十枚をコップに入れて、表の枚数を当てることでクエストの優先権を得る規則となっている。
しかし、これはオーリス独自の規則だ。
王都などでは、大きなクランと争いを避けたい中小クランは、大手クランに譲ることが多い。
その見返りとして、人員不足の時に誘って貰えることが多いからだ。
クエストボード前から人が減ってきたのを見計らって、リゼはクエストボードの前に移動する。
「……これかな」
リゼは『ホーンラビットの討伐(五匹以上)』のクエスト用紙を、クエストボードから剥がした。
最初のクエストは、どうしても討伐クエストにしたいと、リゼは思っていたからだ。
この『ホーンラビットの討伐(五匹以上)』は生息地域が広く、攻撃力も低いので比較的に簡単な討伐クエストのため、報酬単価が低い。
だから、冒険者たちからは積極的に受注されるクエストでは無かったのだ。
リゼはアイリを探して、アイリの前で順番待ちをしている冒険者たちの最後尾に並んだ。
この瞬間、リゼは自分も冒険者らしいと実感する。
ひと際、長い列の先を見ると受付にレベッカがいた。
人気受付嬢だと聞いていたが、レベッカの人気ぶりをリゼは実感した。
ほとんどの冒険者が、パーティーを組んでいるのか、数人で話をしながら列に並んでいた。
リゼは、冒険者たちが話す内容も参考になるかもしれないと思い、耳を傾けていた。
その中でリゼが驚く内容があった。
前に並んでいたパーティーと、その前に並んでいるパーティーとの会話だった。
二組とも四人構成だったが、男性のみで構成されたパーティーだった。
話を聞く限り、二組は顔見知りのようだったが二組とも最近、新たに組んだパーティーのようだった。
「やっぱり、女を入れると面倒事が増えるよな」
「そうそう」
「それは、もてない男のひがみだろう」
「うるせぇ!」
女性がパーティーにいると、恋愛感情を抱くことが多くなり、好意を抱いている男性同士、自然と仲が悪くなる傾向が強い。
恋愛に寛大な冒険者も居るが、恋愛を成就して恋人同士になった場合、それはそれで気を使うことが多くなる。
喧嘩で機嫌が悪くなったりと、クエストにも影響が出ることもある。
ましてや、別れると同時にパーティーを離脱する冒険者がいるため、パーティーを解散することもある。
当然、全てのパーティーに当て嵌まるわけでは無いが、上級冒険者になれば、自分の気持ちを押し殺している者もいる。
これはパーティーだけでなく、クランでも同じことが言える。
この話を聞いたリゼは「やっぱり単独のほうが楽だ」と、今まで以上に単独に拘りを持つようになる。
「リゼ!」
前に並んでいたパーティーの男性冒険者がリゼに声を掛けてくれた。
リゼがランクBになったことは、クエストボードからクエスト用紙を剥がしていたのを見ていたし、この時間に並んでいることからも間違いないと思っていた。
「はい⁈」
突然、声を掛けられたリゼは驚き、男性冒険者を見上げる。
「ランクB初めてのクエストか?」
「はい、そうです」
「どんなクエストを受注するつもりだ?」
「これです」
男性冒険者の質問に、リゼはクエスト用紙を見せる。
「おぉ、ホーンラビット討伐か! 懐かしいクエストだ」
「ランクBになった当時は、よく受注したよな」
「魔術師の俺は素早いホーンラビットに、手を焼いた覚えがあるな」
「外で食べるホーンラビットは、特別に美味い!」
リゼのクエスト用紙を見ながら、男性冒険者たちは各々に、ホーンラビット討伐の思い出していた。
「ホーンラビットとアルミラージを間違えるなよ」
「はい」
アルミラージと、ホーンラビットは共に額に角が一本出ている兎に似た魔物だ。
ホーンラビットの上位種がアルミラージになり、体格も一回り大きい。
最初の頃、よく間違える魔物として冒険者の間でも有名だ。
しかし、アルミラージとホーンラビットの違いは、もう一つある。
それは角の模様だ。
角には螺旋のような模様がある。
ホーンラビットが右巻きなのに比べて、アルミラージは左巻きになっている。
学習院で教本として配られている魔物図鑑にも記載はあるが、覚えている者が少ないのも事実だ。
だから、このことを知っている冒険者は、意外と少ない。
ホーンラビット討伐を何度も受注する冒険者は少ないし、自分たちの食料として討伐するのであれば、アルミラージだろうがホーンラビットだろうが、大差は無いことも要因の一つだろう。
魔物解体を仕事としている魔物解体業者の職人であれば、当然の知識になる。
「……単独か?」
「はい」
列に並んでいるのが、リゼだけなので確認したのだろう。
「パーティーを組んでくれないのか?」
「いえ、最初から単独討伐で考えていました」
「武器は……それだけか?」
「はい、この小太刀だけです」
男性冒険者たちは、リゼのことを気に掛けてくれたようだった。
「そうか。ホーンラビット討伐は、西の森だろう。森の奥に進めば、予想外の魔物と遭遇する危険があるから、気を付けろよ」
「はい、ありがとうございます」
「それと森に入るなら、方位計を買っておいた方が無難だぞ」
「分かりました」
「通貨が無いからって、方位計の中古は買わない方がいいぞ。正常に動かないものや、すぐに故障するものも多いからな」
「はい」
森の中心への距離と、魔物の強さは比例している。
方位計という方位が分かる道具がある。
ランクBの冒険者なら、誰もが持っている道具だ。
森の中で、進んでいる方角が分からなくなり、遭難することもあるので、それを防ぐ道具になる。
リゼも購入を検討していた道具だった。
少しずつ列が進む。
アイリの声が聞こえるくらいに、列が進むとアイリと目が合った。
笑顔を向けてくれるアイリに、リゼは軽く頭を下げた。
「じゃあ、頑張れよ!」
「ありがとうございます」
受付がリゼの前の冒険者たちの順番になったので、リゼを激励してくれた。
次が自分の番だということに、リゼは何故か緊張していた。
今まで何度も、クエスト用紙を受付に持っていったが、なんとなく雰囲気が違っていた。
「お待たせ」
受付がリゼの番になる。
「これをお願いします」
リゼからクエスト用紙を受け取ったアイリは、じっとそのクエスト用紙を見たまま、リゼの顔を見なかった。
「確認だけど方位計は持っている?」
「いえ、まだ持っていませんが、この後に購入するつもりでいます」
「本当?」
「はい」
アイリはリゼに確認する発言をした後、受付の下に潜ると何かを探しているようだった。
「あった‼」
受付の下からアイリの声が聞こえる。
「はい、これ」
アイリは受付に受付下で探していたものを置いた。
「これは?」
「貸し出し用の方位計よ。購入するといった言葉を疑うわけじゃないけど、これを貸し出すから、クエスト達成した時に返却してくれる。もちろん、その時に購入した方位計を見せてね」
「分かりました」
方位計を持たないものは、森の討伐クエストを発注しない。
これはオーリスの受付として決められていることだ。
少しでも生存率を上げるための、冒険者ギルドとしての処置だ。
「クエスト期限は二日。だけど、明日の午前中には戻って来てね」
これはホーンラビットの肉を出来るだけ新鮮な状態で解体する必要があるからだ。
午後に戻って来てから解体場が込んでいると、解体するまでに時間が掛かり、新鮮な肉を提供出来なくなることを配慮している。
「あと、他に討伐した魔物もギルドで買い取るからね」
「はい、分かりました」
アイリはクエスト用紙とは別に用意されていた発注書にリゼの名前を書くと、リゼに確認したことを証明するための署名を求める。
リゼが署名したことで、正式にクエスト発注がされた。
「頑張ってね」
「はい、ありがとうございます」
リゼはランクBの初クエストへと向かった。
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