私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

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第89話

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「そこまでよ!」

 アリスがクウガとローガンの戦いを止める。

「おいおい、止めるの早すぎだろう」

 ローガンが不服そうだった。

「これ以上、戦って怪我でもしたら、見ていた私たちもアルベルトから怒られるんだから、仕方がないでしょう」
「たしかにな」

 アリスの意見に、ミランも同調する。

「それもそうだな……引き分けってことか」
「別に俺の勝ちでもいいんだぞ」
「はぁ、それを言うなら俺の勝ちだろう」
「ローガンこそ、何を言っている」

 クウガとローガンが口喧嘩を始める。
 ため息を漏らすアリスと、口喧嘩を楽しそうに見て笑うミラン。

「あんたたち、いい加減にしなさいよ‼」

 アリスが怒鳴ると、クウガとローガンは口喧嘩を止めた。

「リゼ、どうだった?」

 ミランがリゼに、クウガとローガンの戦いの感想を聞いた。
 変則的な戦いがリゼには良く分からなかったが、自分の知らない戦い方が多数あり、それを見られたことは貴重な経験だと感想を口にした。

「まぁ、リゼの場合は圧倒的に実戦経験が少ないからな。学習院にでも通っていれば、否が応でも実戦練習はするんだけど――」

 ミランはリゼに学習院の話をしたことに気付き、話しを途中で止める。
 しかし、リゼは自分に実戦経験が少ないことを指摘されたことについて考えていた。
 実戦経験と自分が人に対して攻撃できないことは、決して無関係ではない。
 少しずつでも弱点を克服しなくてはと、リゼは今迄以上に焦りを感じている。
 戦い方も、他の冒険者を見て勉強することも出来る。
 しかし、リゼはパーティーを組む気がないので、他の冒険者の戦いを見る機会が少ない。
 自分の意見を曲げれば? とリゼは葛藤していた。

 クウガとローガンが二人揃って、リゼたちの方に歩いて来た。

「スクロールを補充したいから、少し店に寄ってもいいか?」
「そうね……少しなら大丈夫じゃない」
 
 クウガがアリスと会話を始めるが、聞きなれない言葉があるとリゼは首を傾げる。

「すいません。スクロールって何でしょうか?」
「リゼちゃん。スクロールを知らないの? 正式には魔法巻物って言って、一回だけ登録された魔法が使用できるのよ」

 魔法巻物は、リゼも知っていた。
 しかし、それをスクロールと呼ぶことは知らなかった。

「……もしかして、ブックも魔法書って呼んでいる?」
「はい」

 リゼが即答すると、アリスはクウガと顔を見合わせた。

「冒険者はあまり、魔法書とか魔法巻物って言葉は使わないわよ。ブックとかスクロールって言葉を使う方が一般的ね」
「そうなんですか。ありがとうございます」

 魔法書を購入するつもりはないが、使い捨ての魔法巻物は、いずれ購入する機会があると思っていた。
 製造方法は分からないが、魔物から取り出される魔石が使用されていることだけは、本に載っていたので知っている。
 今後は、魔法書を”ブック”、魔法巻物は”スクロール”と呼ぼうと、リゼは思いながら冒険者っぽいとも感じていた。

「リゼ!」

 クウガはリゼに向かって、リゼが先程使っていた木製の短剣を放り投げる。
 リゼは焦りながら、短剣を受け止める。

「ゆっくり動いてやるから、リゼなりに反撃してみろ」

 クウガは目で追える程度の……いや、かなり遅い速さでリゼに攻撃をしてきた。
 リゼは最小限の動作で、クウガの攻撃を避ける。
 クウガが攻撃をした右手を避けると、そのままクウガの右側に回り込み、短剣をクウガの右脇腹に押し当てる。
 クウガと対格差のあるリゼには、この位置への攻撃が一番効果的と思ったからだ。
 リゼが思っているよりも、短剣はクウガの体にめり込んでいた。

「すみません!」

 リゼは咄嗟に謝ると同時に目の前に、『ユニーククエスト達成』が表示された。

(えっ‼)

 リゼは驚く。そして、

「これくらいで謝るな!」

 クウガは笑っていたが、リゼの表情が暗かったことに、「やはり、人への攻撃に躊躇いがあるのか……」と感じていた。

 しかし、リゼの表情が暗かった理由は『ランクA冒険者に傷を負わす。期限:十日』というクエストが、このような結果で達成したことに納得出来ていなかったからだ。

(こんなのは……違う)

 実力でクエストを達成したわけでない。
 たまたま、クウガが指導してくれたから、自分が勢いよくクウガに短剣を刺してしまったから……。
 偶然が重なって、クエストを達成できたに過ぎない。
 しかし、リゼが納得しようとしまいと関係なく、クエストを達成したという事実が覆ることは無いのだ。

「リゼ、大丈夫か?」
「あっ、はい……」

 浮かない表情のリゼ。
 クウガは誤解したまま、これ以上は無理だと判断する。
 こうして、リゼとの模擬戦が終了した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 待ち合わせ場所は馬を預けていた家だった。
 新たに馬も購入したようで、次の場所まで移動するようだ。
 馬小屋には既に、アルベルトたちが待っていた。
 クウガたちに気付いたアルベルトだったが、クウガとローガン、ミラン三人の怪我を見て、視線の先をアリスに変える。

「無茶なことはしていないわよ」

 アリスは面倒臭そうに答えた。

「本当に?」

 アルベルトは、クウガとローガン、ミランの顔を見る。

「もちろんだ。なぁ、ローガン」
「おぅ、俺たちだって手加減てものを知っているからな」
「そうそう」

 クウガたちは何事もなかったという顔だった。

「まぁ、誰も怪我していなければ、別にどうこういうつもりはないけど」

 アルベルトは呆れていた。
 何度も同じようなことがあったのだろう。

「それで、そっちの方はどうだったの?」

 アリスはササジールに顔を向ける。

「それなりに助言はしておいたぞ」

 ササジールの返答に、アリスたちは疑いの目を向ける。

「なんじゃ、その目は‼」
「だって、ササ爺だからね」
「あぁ、ササ爺だからな」
「その通りだ‼」

 ミランやクウガ、ローガンが口を揃えて、アリスに同調する。

「私やアルベルトも一緒にいましたから、大丈夫でしたよ」
「ラスティアが、そういうのであれば問題無いわね」

 ラスティアの言葉に、アリスたちは納得する姿を見て、ササジールは少し不機嫌になる。

「もしかして、弟子にでもしたのか?」
「する訳ないじゃろう。儂の弟子になりたければ、もっと強く無ければの」

 ササジールは、クウガの質問に答えた。

「……皆さん、弟子がいるのですか?」

 リゼは疑問に感じたので、会話に入る。
 以前に、クウガから「弟子になれ!」と言われたことを思い出したからだ。

「私とローガンには、それっぽいのがいるわよ」

 アリスがリゼの質問に答えた。

「その方たちも、銀翼のメンバーなのですか?」
「一応ね」
「まぁ、あいつらは見習い扱いだけどな」

 アリスとローガンは嬉しそうにリゼの質問に答えた。
 少数精鋭の銀翼だからこそ、見習いとはいえメンバーに名を連ねるということは、それなりの実力者なのだろうと、話を聞いたリゼは思う。

「リゼちゃんも王都に来ることがあれば、紹介するからね」
「はい、ありがとうございます」

 今の時点で、王都の行く予定がないリゼだったが、無下に断ることも出来ずに社交辞令の返答をする。

「そろそろ、出立しないと間に合わないのでは?」
「そうだね」

 ラスティアが時間を気にして、アルベルトに忠告する。

「リゼ。また会ってくれるね」
「……はい」

 アルベルトの言葉に、否定する言葉を返すことがリゼには出来なかった。
 その後、リゼはオーリスの正門まで歩く。
 正門で、銀翼の銀翼のメンバーと別れの挨拶などをして、銀翼のメンバーたちと別れた。
 リゼは馬に乗って走り去っていった銀翼のメンバーたちの姿が見えなくなるまで、じっと見ていた――。
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