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第53話
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ギルド会館は、不穏な空気に包まれていた。
救助隊もさることながら、ゴブリンに進化種がいる為、対策が必要だからだ。
このオーリスには、ランクAの冒険者は常駐していない。
より良いクエストをする為に、より大きな街へと移ってしまうからだ。
向上心のある冒険者ほど、その傾向は強くなる。
なかにはランクAになり、育った土地に戻って来る者もいるが、それは極少数だ。
今回、もしホブゴブリンがいることが確実であれば、ランクAの冒険者を含めたパーティーが討伐に当たる。
もしくは、ランクBの冒険者での大人数討伐つまり、レイドになる。
レイドになった場合でも、オーリスの冒険者全員でも足りないくらいだ。
事態は思った以上に深刻だった。
リゼは何が出来る訳でも無いが、ギルド会館から出るのを躊躇っていた。
心の中では、「私がランクBだったら!」と何度も思った。
しかし、ランクCのクエストでも手間取っている自分に、ランクBのクエストが出来るとは思えないし、力不足なことも重々承知していた。
リゼはステータスを開き、自分の能力値を確認する。
能力値『体力:二十九』『魔力:十八』『力:十九』『防御:十六』『魔法力:十一』『魔力耐性:十六』『素早さ:五十六』『回避:三十八』『魅力:十四』『運:三十四』と表示される。
一応、全て十以上となっている。
以前に、銀翼のメンバーであるアリスに質問した時に「ランクBの能力値平均は、大体三十くらい。防御や魔法耐性は最低二十」と聞いている。
(防御と魔法耐性が低いな……)
リゼは自分のステータスを見ながら思う。
しかし、『素早さ:五十六』は、ランクBでもトップクラスの値だ。
他の能力値もランクBで、最低の能力値くらいにはなっている。
他の冒険者と比較することが出来ないので、リゼはこれでも低いと思っていた。
アリスが言った能力値はあくまでも、パーティーを組んで戦った時の能力値だ。
ソロで活動するとすれば、それ以上の能力値が必要になると思っていた。
クリスティーナが、ギルド会館に戻って来た。
戻って来た冒険者たちに、軽く挨拶をすると受付の奥へと消えた。
受付嬢たちも奥へと移動していた。
「やっぱり、ホブゴブリン誕生か?」
「そうなったら、お前はどうするんだ?」
「俺は――街を襲われない為、家族を守る為にも参加するぞ」
「そうか……俺の実力では、死ぬ確率の方が高いから悩むな……」
冒険者たちは、ホブゴブリン討伐を前提で話を始めていた。
家族を守るために参加を決意する者。
報酬次第で参加すると言う者。
死ぬのが嫌なので、早々に不参加を口にする者。
皆、様々だった――。
「騎士団も参加するんだろう?」
「当り前だろう。領地の安全を確保する為にいるんだから」
騎士団。王国騎士とは異なり、各領地にいる衛兵たちの武力に特化した者たちのことだ。
門番や、街の治安を守っている衛兵よりも強いので、衛兵たちの憧れの存在でもある。
活躍が認められれば、王国騎士になることも可能だ。
騎士団は領主や家族などが王都や、他の都市に移動する際の護衛もする。
街の規模により騎士団の数も異なる。
オーリスの場合、騎士団の数は三十名で結成されている。
当然、武器も冒険者よりも良い物が支給されている。
だから、騎士団と冒険者の仲が良くない街も存在している。
オーリスは良好な関係を築けている街だ。
騎士や衛兵に冒険者。一般的に良い関係を築けている領地は領主が優秀だというのが、国民の考え方だ。
受付からレベッカが出て来た。
「本日は遅くまで残っていただき有難う御座います。冒険者ギルドからは本日、冒険者の方々にお知らせする事は御座いません。明日以降、進展があればお知らせさせて頂きますので、宜しく御願い致します」
言い終わるとレベッカは頭を下げた。
レベッカの言葉は裏を返せば、何も決まっていないと言っているのと同じだったが、冒険者たちは理解して、ギルド会館を去っていった。
リゼも他の冒険者同様に、ギルド会館を出ていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――翌朝。
目を覚ますと日課となっている『デイリークエスト』を確認する。
クエスト内容は『木を切り倒す』だった。
リゼは切り倒す木の大きさに悩んだ。
細い木でも良いのか、それとも自分のウエストくらい太い木で無いと駄目なのか……。
悩みながらも散歩がてら、街を徘徊する。
(あれで、試してみようかな?)
川原に細い木が生えていたので、小太刀で切ってみる。
すると、目の前に『デイリークエスト達成』『報酬:記憶力強化』だった。
リゼは「またか……」と思う。
能力値のように、値が曖昧なものに対しての報酬に、実感が湧かなかったからだ。
あまりにも簡単に、デイリークエスト達成したので、保留にしていたクエストを閲覧しながら今、出来そうなクエストが無いかを確認する。
(これは……!)
リゼはユニーククエストから『両手の手のひらを合わせる。達成条件:二時間』『期限:四時間』、ノーマルクエストから『両手の指を組む。達成条件:一時間』『期限:二時間』を見つける。
二つ一緒に達成が可能なクエストだ。
しかし、今は受注しても出来ないので、夜にでも宿屋でしようと考える。
他に同時に出来そうなクエストが無いかを調べる。
すると、ノーマルクエスト『左目を瞑る。達成時間:二時間』『期限:三時間』を発見する。
リゼは、今日の夜はこのクエストを三つ受注することに決めた。
「リゼさーん!」
遠くから自分の名を呼ぶ声がする。
声の方を振り向くと、領主の娘ミオナと執事らしき中年男性を発見する。
「おはようございます。ミオナ様」
リゼは膝をつき挨拶をする。
「リゼさん。お止め下さい」
「いいえ、領主様の御息女であるミオナ様に、無礼な振る舞いは出来ません」
リゼは下を向いたまま、ミオナの言葉に正論で返す。
ミオナはどうして良いか分からずに、隣にいた男性を見る。
「リゼ様。御顔をお上げくださいませ」
「はい」
「初めまして。私はオーリス様にお仕えする執事のウォルターと申します。以後、お見知りおきを」
「冒険者のリゼです。こちらこそ、宜しく御願い致します」
「リゼ様の御気持ちは十分に理解しております。ミオナお嬢様の我儘に少しだけお付き合いできませんでしょうか?」
リゼは無言で立ち上がる。
「その、リゼさんも討伐に行かれるのですか?」
「討伐とは、なんでしょうか?」
スライム討伐なら、何度も言っている。
ミオナの言っている討伐がゴブリン討伐だと推測は出来たが、確証は無かった。
「ミオナお嬢様。その件は――」
「あっ、そうでしたね……」
「ミオナ様の仰られた討伐が、ゴブリン討伐であれば、ランクCの私は参加資格が御座いません」
「そうなんですか?」
ミオナは隣のウォルターを見上げた。
「リゼ様の言われる通りです。今回の討伐はランクB以上の冒険者となっております」
「そうでしたか。少し、安心しました」
ミオナは嬉しそうに笑う。
「私は近々、学習院へ行くことになりますので、その前にリゼさんにお会いしたかったのです」
「どうして、私に?」
「その……私には友人と呼べる人が居ないので、宜しければ私の……友人になって……いただけないかと……」
「お気持ちは有り難いのですが、立場が違いすぎます。学習院に行かれるのであれば、ミオナ様であれば何人も友人が出来ると思います」
ミオナは不安そうな表情でウォルターを見つめる。
「リゼ様。御学友とは違い、冒険者であるリゼ様とミオナお嬢様は御友人になりたいのです。立場が違うことは重々承知の上、なって頂く事は出来ませんか?」
ウォルターはリゼと目線を合わせるように屈み、諭すような口調で話した。
「……分かりました。友人と言っても、なにかする訳ではありませんが、宜しいでしょうか?」
リゼはミオナの顔を見る。
「はい。有難う御座います」
「リゼ様。有難う御座います」
リゼは、ミオナとウォルターの二人から礼を言われて、少し照れる。
しかし、ミオナが自分と友人になりたかったのか、リゼは疑問を抱いたままだった。
救助隊もさることながら、ゴブリンに進化種がいる為、対策が必要だからだ。
このオーリスには、ランクAの冒険者は常駐していない。
より良いクエストをする為に、より大きな街へと移ってしまうからだ。
向上心のある冒険者ほど、その傾向は強くなる。
なかにはランクAになり、育った土地に戻って来る者もいるが、それは極少数だ。
今回、もしホブゴブリンがいることが確実であれば、ランクAの冒険者を含めたパーティーが討伐に当たる。
もしくは、ランクBの冒険者での大人数討伐つまり、レイドになる。
レイドになった場合でも、オーリスの冒険者全員でも足りないくらいだ。
事態は思った以上に深刻だった。
リゼは何が出来る訳でも無いが、ギルド会館から出るのを躊躇っていた。
心の中では、「私がランクBだったら!」と何度も思った。
しかし、ランクCのクエストでも手間取っている自分に、ランクBのクエストが出来るとは思えないし、力不足なことも重々承知していた。
リゼはステータスを開き、自分の能力値を確認する。
能力値『体力:二十九』『魔力:十八』『力:十九』『防御:十六』『魔法力:十一』『魔力耐性:十六』『素早さ:五十六』『回避:三十八』『魅力:十四』『運:三十四』と表示される。
一応、全て十以上となっている。
以前に、銀翼のメンバーであるアリスに質問した時に「ランクBの能力値平均は、大体三十くらい。防御や魔法耐性は最低二十」と聞いている。
(防御と魔法耐性が低いな……)
リゼは自分のステータスを見ながら思う。
しかし、『素早さ:五十六』は、ランクBでもトップクラスの値だ。
他の能力値もランクBで、最低の能力値くらいにはなっている。
他の冒険者と比較することが出来ないので、リゼはこれでも低いと思っていた。
アリスが言った能力値はあくまでも、パーティーを組んで戦った時の能力値だ。
ソロで活動するとすれば、それ以上の能力値が必要になると思っていた。
クリスティーナが、ギルド会館に戻って来た。
戻って来た冒険者たちに、軽く挨拶をすると受付の奥へと消えた。
受付嬢たちも奥へと移動していた。
「やっぱり、ホブゴブリン誕生か?」
「そうなったら、お前はどうするんだ?」
「俺は――街を襲われない為、家族を守る為にも参加するぞ」
「そうか……俺の実力では、死ぬ確率の方が高いから悩むな……」
冒険者たちは、ホブゴブリン討伐を前提で話を始めていた。
家族を守るために参加を決意する者。
報酬次第で参加すると言う者。
死ぬのが嫌なので、早々に不参加を口にする者。
皆、様々だった――。
「騎士団も参加するんだろう?」
「当り前だろう。領地の安全を確保する為にいるんだから」
騎士団。王国騎士とは異なり、各領地にいる衛兵たちの武力に特化した者たちのことだ。
門番や、街の治安を守っている衛兵よりも強いので、衛兵たちの憧れの存在でもある。
活躍が認められれば、王国騎士になることも可能だ。
騎士団は領主や家族などが王都や、他の都市に移動する際の護衛もする。
街の規模により騎士団の数も異なる。
オーリスの場合、騎士団の数は三十名で結成されている。
当然、武器も冒険者よりも良い物が支給されている。
だから、騎士団と冒険者の仲が良くない街も存在している。
オーリスは良好な関係を築けている街だ。
騎士や衛兵に冒険者。一般的に良い関係を築けている領地は領主が優秀だというのが、国民の考え方だ。
受付からレベッカが出て来た。
「本日は遅くまで残っていただき有難う御座います。冒険者ギルドからは本日、冒険者の方々にお知らせする事は御座いません。明日以降、進展があればお知らせさせて頂きますので、宜しく御願い致します」
言い終わるとレベッカは頭を下げた。
レベッカの言葉は裏を返せば、何も決まっていないと言っているのと同じだったが、冒険者たちは理解して、ギルド会館を去っていった。
リゼも他の冒険者同様に、ギルド会館を出ていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――翌朝。
目を覚ますと日課となっている『デイリークエスト』を確認する。
クエスト内容は『木を切り倒す』だった。
リゼは切り倒す木の大きさに悩んだ。
細い木でも良いのか、それとも自分のウエストくらい太い木で無いと駄目なのか……。
悩みながらも散歩がてら、街を徘徊する。
(あれで、試してみようかな?)
川原に細い木が生えていたので、小太刀で切ってみる。
すると、目の前に『デイリークエスト達成』『報酬:記憶力強化』だった。
リゼは「またか……」と思う。
能力値のように、値が曖昧なものに対しての報酬に、実感が湧かなかったからだ。
あまりにも簡単に、デイリークエスト達成したので、保留にしていたクエストを閲覧しながら今、出来そうなクエストが無いかを確認する。
(これは……!)
リゼはユニーククエストから『両手の手のひらを合わせる。達成条件:二時間』『期限:四時間』、ノーマルクエストから『両手の指を組む。達成条件:一時間』『期限:二時間』を見つける。
二つ一緒に達成が可能なクエストだ。
しかし、今は受注しても出来ないので、夜にでも宿屋でしようと考える。
他に同時に出来そうなクエストが無いかを調べる。
すると、ノーマルクエスト『左目を瞑る。達成時間:二時間』『期限:三時間』を発見する。
リゼは、今日の夜はこのクエストを三つ受注することに決めた。
「リゼさーん!」
遠くから自分の名を呼ぶ声がする。
声の方を振り向くと、領主の娘ミオナと執事らしき中年男性を発見する。
「おはようございます。ミオナ様」
リゼは膝をつき挨拶をする。
「リゼさん。お止め下さい」
「いいえ、領主様の御息女であるミオナ様に、無礼な振る舞いは出来ません」
リゼは下を向いたまま、ミオナの言葉に正論で返す。
ミオナはどうして良いか分からずに、隣にいた男性を見る。
「リゼ様。御顔をお上げくださいませ」
「はい」
「初めまして。私はオーリス様にお仕えする執事のウォルターと申します。以後、お見知りおきを」
「冒険者のリゼです。こちらこそ、宜しく御願い致します」
「リゼ様の御気持ちは十分に理解しております。ミオナお嬢様の我儘に少しだけお付き合いできませんでしょうか?」
リゼは無言で立ち上がる。
「その、リゼさんも討伐に行かれるのですか?」
「討伐とは、なんでしょうか?」
スライム討伐なら、何度も言っている。
ミオナの言っている討伐がゴブリン討伐だと推測は出来たが、確証は無かった。
「ミオナお嬢様。その件は――」
「あっ、そうでしたね……」
「ミオナ様の仰られた討伐が、ゴブリン討伐であれば、ランクCの私は参加資格が御座いません」
「そうなんですか?」
ミオナは隣のウォルターを見上げた。
「リゼ様の言われる通りです。今回の討伐はランクB以上の冒険者となっております」
「そうでしたか。少し、安心しました」
ミオナは嬉しそうに笑う。
「私は近々、学習院へ行くことになりますので、その前にリゼさんにお会いしたかったのです」
「どうして、私に?」
「その……私には友人と呼べる人が居ないので、宜しければ私の……友人になって……いただけないかと……」
「お気持ちは有り難いのですが、立場が違いすぎます。学習院に行かれるのであれば、ミオナ様であれば何人も友人が出来ると思います」
ミオナは不安そうな表情でウォルターを見つめる。
「リゼ様。御学友とは違い、冒険者であるリゼ様とミオナお嬢様は御友人になりたいのです。立場が違うことは重々承知の上、なって頂く事は出来ませんか?」
ウォルターはリゼと目線を合わせるように屈み、諭すような口調で話した。
「……分かりました。友人と言っても、なにかする訳ではありませんが、宜しいでしょうか?」
リゼはミオナの顔を見る。
「はい。有難う御座います」
「リゼ様。有難う御座います」
リゼは、ミオナとウォルターの二人から礼を言われて、少し照れる。
しかし、ミオナが自分と友人になりたかったのか、リゼは疑問を抱いたままだった。
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