上 下
17 / 281

第17話

しおりを挟む
 翌朝、銀翼が街を去るので、街の人達の多くは沿道に出て、見送りをする為に待っている。
 宿屋からギルド会館に来て、街を去って行く。
 この道順は決まっているので、ギルド会館前でも人だかりが出来ている為、リゼは外出するのを躊躇っていた。

 仕方が無いのでリゼは、クエストボードから『ギルド会館の清掃(二階)』を剥がして、受付に持って行く。

「もう少ししたら、銀翼の人達が来るわよ」

 アイリはリゼが、クウガやアリスに会いたいと思っていたので親切に教える。

「そうなんですね。昨日のお礼を言いたいので来られたら、挨拶をしてもいいですか?」
「えぇ」

 アイリは笑顔で答える。
 クエストを受注したリゼは二階に上がる。
 当然、ノーマルクエストが発生している。『達成条件:階段五十段往復』『期限:二時間』
 リゼは思う。
 ノーマルクエストの内容は、ギルドで受注したクエスト内容と関係している場合もあるが、全く関係無い内容の場合もある。
 これにも法則があるのかと考える。
 ギルド会館の階段は二十段から三十段なので、三往復すれば間違いなくノーマルクエストは達成出来る。
 リゼは急いで階段を上り下りする。

 リゼの異常な行動に、アイリやレベッカ達が驚く。

「リゼちゃん、どうしたの!」

 三往復終わり『ノーマルクエスト達成』が表示されるのと同時に、アイリが声を掛けて来た。
 リゼは階段を上り下りしている最中に、視線を感じていたので答えを用意していた。

「あそこの階段の板が少し沈んだので、他の箇所も無いか確認してました。お騒がせして、すいません」

 リゼは実際に床板が腐っている階段の端を指差した後に、頭を下げて謝罪をした。

「えっ、そうなの?」

 リゼの言葉に驚くアイリは、リゼに言われた所を調べる。

「確かに、床板が少し腐っているわね。壁際だから、あまり歩かない箇所なので気付かなかったのね。ありがとう、リゼちゃん」

 アイリから礼を言われる。
 リゼは偶然発見したのだが、リゼはこれを運の能力値のせいでは無いかと思っていた。

 アイリは「報告してくる」と言って、受付に戻って行った。
 リゼはギルドのクエストを達成する為に、二階に上がり掃除を始める。


 壁を拭きながらリゼは、デイリークエストをどうやって達成するかを悩んでいた。
 デイリークエストは『満腹になるまで食事』だった。
 節約しているリゼにとっては、非情な内容になる。
 水を飲んで満腹になっても良いのか、そもそも水は食事に入るのか。
 格安で量の多い食べ物は何か? 等と考えるが分からない。
 しかし、クエスト失敗による罰則の事を考えれば、通貨など気にしていられない。
 満腹になるまで何かを食べなければならないと、覚悟を決める。

「はぁ」

 リゼは大きく溜息をつきながら、ひたすら掃除を続ける。
 二階には、孤児部屋と小さな部屋が三つある。
 一部屋は鍵が掛けられているので掃除はしなく良い。
 もう一部屋は、ギルマスの部屋になっており、ここも関係者以外は入室出来ないので掃除をしなくても良い。
 しかし、リゼは孤児部屋で生活をしているが一度もギルマスや受付長に会った事が無い。
 二人共、リゼが孤児部屋に預けられた日に、別件でオーリスを数日離れたと孤児部屋に入る時に、アイリから教えて貰っていた。

 廊下と孤児部屋の掃除が終わった。
 孤児部屋は、リゼが毎日いるので、最後の一部屋を掃除する事にする。
 誰も居ないと分かって入るが、リゼは扉を叩いてから部屋に入った。
 部屋の中には無造作に置かれた木箱に武器や防具、何に使うか分からない物が仕舞ってある。
 一般的に物置と呼ばれている部屋になる。

「困ったな……」

 重要な物がなのか、勝手に触って良いのかさえも分らない。
 とりあえず、少し窓を開けて部屋に風を通して、蜘蛛の巣を取り払う。
 物に触るのは気が引けるので、窓や壁を拭いた後に床を拭く。
 他に掃除の出来る場所が無いか確認する為、階段を下りると、見知らぬ男女がレベッカの前に立っていた。
 頭を下げて挨拶をして、通り過ぎようとすると男性から呼び止められる。

「貴女がリゼさんですか?」
「はい」

 男性の名は『ニコラス』と言い、オーリスのギルマスだとレベッカが教えてくれた。

(……こんなに細いのに、ギルマスなんだ!)

 レベッカに、ニコラスを紹介して貰ったリゼは驚いていた。
 ギルマスと言えば、屈強な肉体の男性をイメージしていたからだ。
 続けて、レベッカは隣の女性が受付長の『クリスティーナ』を紹介される。

「リゼです。御挨拶が遅れて申し訳御座いません」

 リゼは二人に頭を下げて挨拶が遅れた事を謝罪する。

「いえいえ、こちらこそ挨拶出来ずに申し訳ありませんでした」

 リゼの謝罪に対して、ニコラスも謝罪で返す。
 リゼが訪れた日は、他の領地へ向かう準備と来客等で手一杯だった。
 受付長であるクリスティーナも同様だった。
 その為、リゼを連れて来た教会関係者の対応や領主の依頼等も、受付嬢に任せていた。

「置かれた状況に悲観せずに、これからの人生を楽しんで下さい」

 クリスティーナは表情を変えずに、リゼに優しい言葉を掛ける。

「ありがとうございます」

 リゼはニコラスとクリスティーナに頭を下げて礼を言う。

「あの、二階の清掃をしていたのですが、孤児部屋の隣は何処まで清掃すれば良いでしょうか?」

 リゼは二人にクエストの清掃範囲を尋ねる。

「あぁ、それでしたら二階で説明します」

 クリスティーナ自ら、リゼに教えると言う。

「受付長。例の件も頼むよ」
「はい、分かってます」
「それよりも、リゼさん。腰の小太刀はどうしたのですか?」

 ニコラスの「どうした」というのは、購入したのかどうかを言っている事は分かった。
 無一文で孤児部屋にやって来た上、ランクDのリゼでは小太刀を購入出来る程、通貨を持っていないからだ。

「……ある人から譲って頂きました」
「ある人とは?」

 ニコラスはギルマスとして、冒険者であるリゼが盗み等をしていないか確認をする。
 偏見かもしれないが、孤児等が窃盗事件等を起こす事は珍しい事でもない。

 リゼはクウガの事を話すか悩んだ。
 アリスが「ランクAの冒険者が使っていた武器は、それだけで価値がある」と言う言葉を思い出したからだ。
 ランクAの冒険者であるクウガが、冒険者になったばかりのリゼに自分の武器を譲ったと説明しても信じては貰えないだろう。
 黙っているリゼは、誰が見ても怪しい者だった。

「待って下さい」

 離れて話を聞いていたレベッカが、駆け寄って来た。

「ギルマス。大きな声で話せませんので……」

 レベッカはニコラスに耳打ちする。
 昨日、クウガはリゼに窃盗の容疑が掛かる可能性があると思い、自分の小太刀をリゼに売った事をレベッカに伝えていた。
 レベッカもニコラスとリゼが話している姿を見て、ニコラスがその事でリゼに質問する事が分かっていたので、聞き耳を立てていた。

「そういう事でしたか。確かに、リゼさんが話しにくいのも仕方ありませんね。疑って申し訳ありませんでした」
「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした」

 リゼは上手く説明出来なかった事を後悔する。
 昨日、クウガが受付で話をしていたのも、クウガが自分を守る為の行動だという事も分かり、クウガに感謝をした。

「では、行きましょうか」

 話が終わったと判断したクリスティーナは、リゼと二階へと上がる。
 階段を上がる途中、リゼの掃除ぶりを確認するかのように、目線をを左右に動かしながら歩いていた。

(隅々まで、綺麗に拭かれているわね)

 クリスティーナは感心していた。
 孤児部屋で生活していた者の殆どが、自暴自棄になりクエストも受注しなかったり、清掃等のクエストを受注しても手を抜いたりして、報酬分の働きをしない。
 そのような者を見てきたクリスティーナにとって、リゼは出来過ぎる孤児だった。
 それは、生活している孤児部屋を見れば分かる。
 清掃をした物置部屋を見ても、クリスティーナの想像以上に綺麗に掃除されていた。

「部屋の物は勝手に触れてはいません。蜘蛛の巣を取ったり、拭き掃除しかしていません」

 物置部屋でリゼは何をしたかの報告をする。

「これで十分です。有難う御座いました」

 クリスティーナは礼を言う。

「それとランクCに昇格した際は、この中から好きな物を持って行って結構です」

 この物置部屋にある武器や防具は、ニコラスの提案で売っても二束三文にしかならない武器や防具を、冒険者達から寄付して貰っている。
 中には、死体から剥ぎ取った物等もあるらしい。

「いいんですか?」
「はい。気に入った物等があれば、ランクCの昇格前に選んでも結構です」
「ありがとうございます」

 リゼは深々と頭を下げた。
 このように孤児を救済するギルドは少ない。
 ギルドとして孤児を救済するメリットが少ない為だ。
 多くのギルドは孤児部屋に居るだけでも邪険に扱われる。
 オーリスで『外れスキル』にされ孤児になったリゼは、孤児としては恵まれた環境にあった。

「鍵は孤児部屋と同じ時間に施錠致しますので、閉じ込められないように注意だけはして下さい」
「はい、分かりました」

 クリスティーナの話しぶりでは、以前に閉じ込められた孤児が居るのだと理解した。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

加護とスキルでチートな異世界生活

どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!? 目を覚ますと真っ白い世界にいた! そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する! そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる 初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです ノベルバ様にも公開しております。 ※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

処理中です...