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第11話

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 リゼは目立たないようにして、二階に上がったつもりだった。
 しかし、周りの状況を気にしていたアルベルトには気付かれていた。

「……レベッカさん、あの子は?」

 アルベルトは、レベッカにリゼの事を尋ねる。
 アルベルトは『銀翼』というクランのリーダーで、数少ないランクAの冒険者だ。
 職業は、聖騎士。
 剣士の上級職で、とても珍しい職業の一つだ。
 銀翼は王都でランクAのクエストを受注して、クエスト達成した帰りにオーリスに立ち寄った。
 ランクA以上の冒険者とは滅多に会えないので、ギルド会館内はお祭り騒ぎだった。
 しかも『銀翼』は数あるクランの中でも有名なクランになる。
 そのせいか、冒険者以外の街の人々にも『銀翼』は人気がある。

「リゼちゃんね。一昨日、このギルド会館に来て二階の部屋に泊まっているの」

 レベッカは言葉を濁しながら説明する。

「このギルド会館の二階って……」

 アルベルトはレベッカの顔を見るが、レベッカは笑顔を崩さなかった。

「なるほど……あの子もか」

 アルベルトはリゼの事情を理解した。
 何故なら、アルベルトも孤児部屋出身だからだ。

「どうかしたのか?」
「あぁ、クウガか」

 アルベルトに声を掛けたのは、クウガという『銀翼』のメンバーだ。
 アルベルトは小声でリゼの事を、クウガに話す。
 クウガはリゼと同じ外れスキル持ちだった。
 クウガのスキル【予見よけん】だが、予見という言葉の意味が分からなかった下級貴族の両親から勘当された境遇を持つ。
 クウガが正妻の子供で無かった事も、大きく関係している。
 【予見】は非常に珍しく、知名度は皆無なスキルだった事が原因だ。
 【予見】は、数秒先の行動が分かる為、使い方によっては非常に便利なスキルだ。
 クウガも最初は動きが重なってしか見えなかったが、何度も試すうちに今では数秒先の未来まで見る事が可能になった。
 その後、孤児部屋出身としての反骨精神で『レアスキル』と『ユニークスキル』を習得した事で、冒険者ランクAまで上り詰めた。

「人生の先輩として、俺が話でもしてやるか」

 クウガは孤児部屋送りになったリゼに対して、他人事とは思えない。
 落ち込んでいるだろうと思い、リゼと話をする事にした。

「レベッカ。上の部屋の子と話をしてもいいか?」
「……多分、警戒されると思うから、仲の良いアイリを呼んで来ますね」

 レベッカはアイリを呼び、クウガがリゼに会いたいと言っている事を伝える。
 初対面のクウガだけでは警戒されると思うので、アイリも一緒にリゼに会って欲しいと頼む。

「分かったわ。有名な冒険者クウガさんの頼みであれば、断れないわよね」

 アルベルトとクウガが、孤児部屋出身者なのは有名な話だ。
 孤児部屋出身者で、出世した数少ない冒険者になる。
 アイリはクウガを連れて、二階の孤児部屋へ行く為に、階段を上る。


「リゼちゃん。ちょっといいかな」

 部屋の扉を叩いて、扉越しにリゼに話し掛ける。

「はい。何ですか?」
「銀翼ってクランに所属しているクウガさんが、リゼちゃんと話がしたいらしいんだけど、いいかな?」

 リゼは悩む。
 断る事も出来るが、断れば紹介したアイリの顔を潰す事になる。
 リゼ自身、少し人見知りの気質もあるので躊躇しながらも、会う事を了承した。

 扉が空くと、全身黒色の衣服で身を包んだ細見で、目つきの悪い黒髪の青年がアイリと一緒に居た。
 彼がクウガなのだろうと、リゼは思う。

「初めまして、リゼと申します」

 リゼはクウガに挨拶をする。

「立ち話も何だから、座りましょうか」

 アイリが場を和ます為に、この場を仕切る。
 三人は、何もない床に座った。

「リゼと呼んでもいいか?」
「はい、構いません」
「ありがとうよ。俺はクウガと言って、孤児部屋出身者で、ランクAの冒険者だ」

 クウガの言葉に、リゼは驚きと希望の光を見出す。
 孤児部屋出身者でも、ランクAになる事が可能だと分かったからだ。

 クウガは、リゼの事は一切聞かずに自分の事を話す。
 自分が冒険者駆け出しの頃の失敗談を、面白可笑しくリゼに話す。
 そして外れスキルとはいえ、毎日自分のスキルと向き合っていれば、少しずつスキルの使い方が分かる事。
 いずれは『レアスキル』や『ユニークスキル』を習得出来る可能性だってある事。
 決して腐らずに自分を信じる事を、笑いを交えながら語ってくれた。
 リゼにとっても、クウガの話は聞いていて楽しかったし、なにより心地良かった。
 しかし、クウガやリゼ自身も知らないが皮肉な事に、この世界で一番自分のスキルと向き合っている者の一人がリゼだ。
 向き合っているというよりは、振り回されていると言った方が正解かも知れない。

 クウガから職業の事に聞かれたのでリゼは今日、職業案内所で職業を決める事を二人に告げる。

「迷惑でなければ、クウガさんの職業は何ですか?」

 同じ孤児部屋出身者であれば、リゼと同じように初期職業で悩んだとリゼは思い、質問をする。

「今は暗殺者だ。初期職業は盗賊だな」

 リゼは思っていた答えと違う言葉が返って来た事と、職業名に驚きを隠せなかった。

「あぁ、盗賊と言っても盗み等はしないし、暗殺者と言っても誰かを殺したりするわけでは無いから、安心してくれ」
「そうよ、リゼちゃん」

 クウガはリゼの戸惑いを察知したのか、職業名と実際の活動が異なる事を話す。
 それに続くかのように、アイリが詳しい説明をする。
 職業名は昔の名がそのまま引き継がれている為、知らない者にとっては誤解が生じやすい。
 クウガの盗賊という職業も、盗みや罠を仕掛けたり外したりするのが得意な職業で、昔は悪名高い職業であったが今は、職業名のような事はしない。
 もし盗み等をすれば、すぐに捕まってしまうと笑いながら話す。
 暗殺者も同様で、昔は依頼を受けて目立たないように人を殺す事を生業にしていたが、時代と共に廃れていったが職業名のみ残っているそうだ。
 明るいうちに活動している暗殺者って変でしょうと、アイリは笑う。

「まぁ、そういう訳だ。リゼは、拳闘士になろうと考えていたんだろう」
「……どうして分かるんですか?」
「俺も最初は装備が安上がりな拳闘士を考えていたから、リゼの考えも分かるんだよ」
「……」

 リゼは自分の考えを当てられてしまい、何も言えなかった。

「拳闘士が悪いという事では無いが、リゼのスキルにもよるが、自分のスキルと体型を考えて選んだ方が良いな」
「クウガさんやアイリさんは、私のスキルは別として、冒険者の職業では何が向いていると思いますか?」

 リゼは二人の意見を聞く。

「私は、後方支援の弓使いかな」
「アイリ。弓使いは弓の消費が多い為、裕福な冒険者でなくては難しいだろう。リゼには金銭的に厳しいな」
「あぁ、確かにそうですね。魔術師よりは良いと思ったのですが……それで、クウガさんは?」
「俺は盗賊を勧めるな」

 クウガは盗賊を勧めた理由を説明する。
 まず、盗賊になれば、素早さや回避に運の能力値が高くなる。
 これがあれば、強敵から逃げる事も可能で、命を落とす危険も少ない。
 装備を揃えるにしても、防具も動きやすい軽量装備で、武器も小太刀や短剣、ナイフ等が主武器となる為、剣や斧等と違い比較的安価で入手出来る。

「まぁ、スキル次第ってのも大きいから、あくまでも参考だな」
「有難う御座います。大変、勉強になりました。」

 リゼは立ち上がり、クウガとアイリに頭を下げる。
 クウガは礼儀正しい子だと感じる。

「リゼ。もし、王都に来る事があれば俺達のクランに寄るといい」
「クウガさん。スカウトですか?」
「違う違う。此処で会ったのも何かの縁だし、王都で飯でも食わしてやろうと思っただけだ」

 クウガなりの優しさだ。

「まぁ、俺が王都に居るかは分からないが、クランの奴等には話を通しておくから安心してくれ」

 確かに、有名クランとなれば、日数が掛かるクエストを受注して、不在の場合も多い。
 仮に王都に居たとしても、受注したクエストの準備等で、毎日暇を持て余している訳でも無い。

「それじゃあ、そろそろ戻らないとな。アルベルトから文句言われそうだからな」

 クウガとアイリは立ち上がり、リゼに挨拶をして孤児部屋を出る。
 このクウガとの出会いにより、リゼの冒険者としての人生が大きく変わる。
 そしてクウガは後に、リゼが『心の師匠』と尊敬する冒険者になる事を、この時のリゼは知らない。

 リゼはクウガの言葉を思い出しながら、自分なりにもう一度、職業について考えていた。
 ここ数日で会った冒険者や、下に居た冒険者達。
 出来る限り思い出しながら、クウガの言葉と照らし合わしていく。
 確かに、盗賊は軽装備をしている冒険者が殆どだ。
 しかも、盗賊を職業にしている冒険者自体が、剣士や拳闘士等と比べると圧倒的に少ない。
 人気が無い職業の一つなんだと、リゼは理解する。

 考えていると目の前に『ユニーククエスト発生』と表示される。
 まだ、この時間なら大丈夫と思い、ユニーククエストを受注する。
 『男性に頭を撫でられる(一回)』と、残り時間が表示され驚く。

(残り、十分!)

 リゼの頭の中で、クエスト失敗による罰則が過ぎる。
 すぐに、扉を開けて一階に足早に下りる。
 丁度、階段を降りたところにクウガが、まだ居た。
 勢いよく階段を下りてきたリゼに、クウガは驚きながらも冷静に声を掛ける。

「なにか、聞き忘れた事でもあったか?」

 リゼは、クウガに頭を撫でてくれと、恥ずかしくて言えないでいた。
 クウガもリゼが何かを訴えようとしているのが分かったのか、リゼが話すのを待ってくれていた。

「……その。クウガさん、私の頭を撫でて貰えませんか」

 意を決してクウガに頼むと、リゼは耳まで真っ赤になる。
 クウガは不意を突かれたのか、一瞬戸惑う。
 しかし、すぐに笑顔でリゼの頭を撫でてくれた。
 その光景を見ていた、近くの冒険者達は揶揄う。

「ありがとうございました」

 リゼはクウガに御礼を言うと、真っ赤な顔で一目散に、二階の孤児部屋に走って戻った。

 『ユニーククエスト達成』『報酬(万能能力値:二増加)』。
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