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マティーロ × ラムエル
7. 癒やされる心
しおりを挟むマティーロと番になったんだ……
出会って直ぐに番になるなんて、普通なら考えられねぇな。なんにも知らない相手と即、番なんてヤバすぎる。
俺を抱き込んでいる肉厚な胸に擦り寄る。
全然、後悔なんかない。マティーロと番になれない方が考えられねぇな。
むにむにと弾力のある胸に吸い付く。凄く、安心する。
「ハハ、俺の番は甘えん坊だな……」
頭を撫でられて額にキスされた。
なんだか……テレる。
「マティーロは、皇帝なんだろう? そんなすげぇアルファが俺の運命だなんて、信じらんねぇ……」
「あ? 俺は皇帝じゃねぇぞ」
「え…………あんた、……イタリアンマフィア……?」
てっきり皇帝なのかと思っていた俺は、イタリアンマフィアにしか見えない目の前のマティーロをまじまじと見た。
マフィアのボス? 幹部?
ドレッドヘアがやたらと似合う褐色肌のマティーロは、確かに俺より十以上も年下には見えない。っていうか俺より年上に見える。
俺が見たことがあるどのアルファよりも存在感があって、威圧してくるような迫力がある。まあ、俺が見たアルファなんて数えるほどしかいねぇけど……
そう云えば、来る時に感じたあの恐ろしく怖い気配は感じないな……
「誰がイタリアンマフィアだ……マティーロだって言ったろ? 皇帝の下で仕事してる。歳は三十六。ラミーの番」
柔らかいダークブラウンの目が俺を覗き込んでくる。
「八つも年上か……なんだ、そうなのか。まあ、俺の番だしな。俺の番が皇帝なわけねぇな」
苦笑して、目の前にある胸に額を付けた。
「おい、皇帝みたいな別格アルファと比べるなよ。こう見えても俺は上位アルファだぞ。会社だって何個か持ってるからな」
マティーロがどこか面白くなさそうに言いながら、俺の頭をワシワシと撫でた。
「上位アルファ……すげぇな。でも、あんたなら下位アルファでも文句はねぇよ」
だって俺は、マティーロがいい。ランクなんて関係ねぇ。あんたが何者だっていいんだ。
「ハハハ、可愛いこと言うじゃねぇか」
マティーロは、ご機嫌になって俺を抱き締めてくる。
「――――ところで、レイプされたってどういうことだ? しかも、何回もって言ったな?」
マティーロの纏う空気がガラリと変わった。
怒気を感じて、身体が硬くなる。
ヤバい……番になったことを後悔してるんじゃないよな……?
「……項を噛んでおいて、俺を捨てるのかよ」
やっぱり俺は、運命にまで裏切られるのか……
血の気が引いて身を縮める。
「バカ、捨てる理由ないだろ」
マティーロに軽く後頭部の髪を引っ張られ、上を向かされて触れるだけのキスをされた。
「で、警察には行ったのか? 犯人はどうした? いつの話だ?」
鋭い目で射竦められて逆らえないほどの威圧を掛けられ、全てを話すまで許して貰えなかった。
あの街じゃ、レイプなんて珍しくもないほどしょっちゅう起こっている。警察の対応もいい加減で、証拠不十分で犯人は捕まらない。探しているのかも怪しい。最終的には、お前が誘ったんだろうと疑われた。
俺がオメガだからかと思っていたけど、ベータの被害者にも同じことを言っていたのを見たことがある。
結局、犯人は全員捕まらなかった。
話しながら、悔しくて、恥ずかしくて、情けなくて、涙が勝手に流れ出る。
マティーロは、厳しい顔で話を聞きながら俺の涙や鼻水をティッシュで拭いてくれる。
全部話し終わると、マティーロは俺の身体を抱き起こして向かい合わせに俺を脚の間に座らせ、ペットボトルの水を飲ませてくれた。
泣き過ぎて頭が痛い。
グスグスと啜るはなもかんで、マティーロに寄り掛かる。
マティーロが俺の話を真剣に聴いてくれるから、俺は壊れた蛇口みたいに、これまであったことや外に吐き出せなかった感情の全部をダラダラと喋り続けた。
マティーロは、何を言っているのか分からないような目茶苦茶な俺の言葉を黙って聴いてくれる。合間合間に水を飲ませてくれながら、俺の鼻をティッシュで拭いてくれる。いつの間にかバスルームに運ばれて身体や髪を洗ってくれている間も、俺はつっかえてしゃっくりをあげながら、エグエグと脈絡のない言葉を喋り続けた。
俺の中に、こんなにも言葉が溜まっていたのかと驚くぐらい次々と溢れてくる。同じことを何回も喋っていたかもしれない。
マティーロが太い筋肉質な腕で俺を抱き込んでくれるから……頭や背中をでかい手で撫でてくれるから……俺に優しくするから……止まらなかった。
バスルームから出た後も喋り続ける俺に、マティーロはゼリー飲料を飲ませてくれて、温かいラム酒入りのエッグノッグも飲ませてくれた。
いつの間にかベッドに戻って向かい合わせに抱っこされたまま、マティーロの肩に頭を乗せて掠れて裏返る声で喋る。
レイプした奴らに、叩き付けたかった言葉も喋った。
「あ、アイツっ……ぺッ、ニス、しゃぶれってっ……好きだろうってっ……んなわけあるかっ……!」
「ああ、ラミーが好きなのは俺のだけだよな。そんな不味そうなモノは、へし折ってしまえ」
「お、折ろうとしたらっ……殴られたっ……」
「ぁ゙あ゙!? 俺のエンジェルに何しやがるっ!……痛かったな……」
マティーロは怒りながらも俺の顔を大きな手で撫でてくる。俺は、頬を撫でるあったかい掌に甘えるように擦り寄った。
「……すげぇ……い、痛かった……」
「よしよし、可哀想にな……もう誰にもそんなことさせないからな」
マティーロのでかい口が俺の額にキスを落とす。
「オメガなんだからっ……黙ってケツ振ってればいいんだよって……!……好きなくせにって……! ふ、ふざけんなっ……て、言ったらっ……ケツを思いっきり、た、叩きやがったっ……!」
「何だとっ!? 俺のエンジェルの可愛いケツを叩いたのかっ!?……もう殺すしかねぇなっ!」
マティーロのでかい手が俺の尻を優しく揉むように撫でる。
「な、何回もっ……叩かれて……い、痛かった……」
「よしよし、もう絶対にそんなことさせねぇから安心しろ」
マティーロは、俺の尻を優しく揉みながら頬にキスしてくれた。
「ラミーがケツ振っていいのは、俺にだけだ」
「……ケツ……ふ、振らせるのか……?」
「ああ。嫌か? ラミーが可愛く俺にケツ振ってくれたら、俺は夢中で腰を振るぜ!」
「フハッ!……な、なんだよ……それ……」
マティーロの返しに、思わず吹き出してしまった。
「他には? 何を言われた?」
耳元で囁かれて、腹が立った言葉を全部話した。
マティーロは全部の言葉に怒ってくれて、その全ての言葉に、俺ならこうする、ああする、と返してくれる。
そして俺は、話すことがなくなってしまった。
凄く心がスッキリして、軽くなった。って云うか空っぽになってしまった。同時に目の前のマティーロが凄く好きだと感じた。
目の前にいる男への愛おしさが空になった心にじわじわと湧き上がって、満ちてくる……
だから俺に――――
「…………愛してるって…………」
言ってくれ。
「ぁあ? そんなこと言う奴もいたのか。ラミーは可愛いからしょうがねぇな……それは、俺だけが言っていい言葉だ。――ラミー、愛してる」
マティーロは、言いながら俺の唇を柔らかく吸った。
「…………いっぱい…………愛してるって…………」
言ってくれよ。
あんたに言って欲しいんだ……マティーロ。
「いっぱい? 執着されてるじゃねぇか。気に入らねぇな……」
マティーロは、不機嫌そうに顔を歪めた。
「愛してるなら、この先俺がいっぱい言ってやる。愛してる、ラミー」
マティーロがまた、俺の唇を吸って囁いてくれる。
「愛してる。……愛してる。ラミー、愛してる……好きだ。……愛してる。……心の底から、ラムエルを愛してるよ……」
マティーロが愛してると、一つ言う度に俺にキスをしてくれる。何度も、何度も……
俺は嬉しくて、幸せで、胸に温かいものが押し寄せて……また泣いた。
「――――なあ……これ、本当に言われたのか?」
マティーロに顔を覗き込まれて、ふいっと顔を背けた。
俺が言って欲しいからだなんて、恥ずかしくて言えねぇよ。
「ハハハハハッ! 俺のエンジェルは最高に可愛いなっ!」
俺の嘘に気が付いたマティーロは、自分の額に手を当てて大声で笑った。
マティーロは、俺をとても愛おしいものを包み込むように抱き締めて、顔を背けた俺の顔を掌で包むように引き寄せた。
そして、深く口付けてくる。
ゆっくりじっくり舌を絡めてきて、力強く優しく舌を舐め上げられる。ねっとりと吸い付くように食べられるキスに脳が蕩ける。
呼吸が苦しくなって、漸く唇が離されて熱く甘く息を荒げた。
「――俺……あんたが好き……一生、愛してる……俺の番……俺の……マティーロ」
心の底から湧いた言葉だった。
哀しくも、悔しくもない。唯、唯、温かくて満ち足りた愛おしいと想う感情が熱い涙になって流れ落ちる。
マティーロのダークブラウンの目がこれ以上ないほどに慈愛に満ちた目で俺を見詰めてくる。
「ハハッ!……最高にグッとくる口説き文句だな……!」
マティーロは、俺の頭を彼の胸に大事そうに抱き込んで俺の耳元で悶えるように囁いた。
「……運命を待ったかいがあったな……俺のラムエル。俺の愛を全部お前にやるよ。俺の腕の中で安心して愛されろよ、ラムエル……」
マティーロの筋肉でむっちりとした身体に抱き着いて、ヒート後と喋り過ぎと泣き過ぎで疲れ果てた俺は直ぐに眠りに落ちた。
人生で一番、最高に満たされた眠りだった。
──────────────────────
ありがとうございました。(*˘︶˘*).。*🌸
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