運命の番に為る

夢線香

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マティーロ × ラムエル

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 悪臭漂う貧民街のゴミが散乱した薄汚い通りを歩き、いつもの店に入る。

 恰幅のいい、黒髭をモジャモジャと生やした五十歳は超えているだろう店主の親父が、読んでいた新聞から死んだ魚みたいなドロンとした暗い目を向けてくる。

 入って来たのが俺だと分かると、その目は新聞に戻された。

 冷蔵庫から二リットルのミルクボトルを掴み取り、レジへと向かう。

 レジのカウンターにミルクを置き、側に置いてあるチョコレートバーを三個掴んでカウンターに転がした。

「よお、ラムエル。また、ミルクとチョコバーかよ。ガキみてぇだな」

 顔馴染みの店主がいつもと同じ言葉で揶揄してくるけど、こっちも慣れたもので鼻で笑って見せる。

「ほっとけよ。こんな薄汚ねぇ店で買ってやってんだから、ケチ付けるんじゃねーよ」

 いつもと同じ返事を返しながらポケットに捩じ込んでいた金を取り出し、バンっとカウンターに叩き付けるように置く。

「キレーなつらして、口の悪さはいつも通りだな」

 店主も鼻で笑って返してくる。

 店主の言葉に、被っていた帽子の鍔を掴んでより深く被り直した。

「――そういやお前、オメガだったよな?」

「……だったら、何だよ?」

 店主を睨みながら、低い声で訊き返す。そんな俺を見て店主は軽く肩を竦めて見せた。

「そう警戒すんなって。ほら、これ知ってるか?」

 店主は鼻で笑いながら、さっきまで見ていた新聞を俺の前にバサリと投げて寄越した。そして、一つの記事を肉厚な指でトントンと指し示す。

 俺は指された場所をじっと見て、眉間に皺が寄る。

「――――どっかのアルファがなんかしたのか?……難しい字が多くて、よく解んねぇーよ」

 俺は簡単なものしか読めない。馴染みのない単語はなんのことだかさっぱりだ。

「アルファの中のアルファだって云われてる、すげぇアルファを知ってるか?」

「あ~、特級とか希少種って云われてる奴らのこと?」

 俺だってオメガだからな。そのくらいのことなら知っている。

「そうだ。そのすげぇアルファが運命の番を探しているんだとよ」

「だから? 俺になんの関係があるんだよ」

「オメガなら会いに来る経費を全部出してやるから、会いに来いとさ」

「何だよ、それ。偉そうに……気に入らねぇな」

 アルファが偉そうなのは当たり前だけど、金を出すから会いに来いって、どんだけ上から目線なんだよ。

 俺が鼻に皺を寄せると店主がまた鼻で笑った。

「まあ、最後まで話しを聞けよ。運命の番ならそのすげぇアルファと番えて贅沢し放題だ。運命の番じゃなくても、会いに出向いて来たオメガ全員に報酬も出るんだとよ。良い話じゃねぇか」

 今度は、俺の眉間に皺が寄る。

「はぁあ? 話しが旨すぎる。金に釣られてノコノコ出向いたら、どっかに売り飛ばされそうだな」

「確かにな。だが、結構なオメガが報酬貰って帰って来ているらしいぜ。タダで旅行出来て、報酬まで貰えたって喜んでるらしいぞ」

「マジかよ」

 俺は眉間に皺を寄せたまま、新聞の記事を睨んだ。

「ここに電話してみろよ。運がよけりゃあ、番になって一生安泰だぜ?」

 店主は、新聞の記事を雑に裂いて俺に差し出して来た。
 
「…………」

 少し迷って、取り敢えず記事を受け取りジーンズのポケットに捩じ込んだ。

 俺は、ミルクとチョコバーが入った紙袋を受け取り店を出てアパートへと帰った。







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