運命の番に為る

夢線香

文字の大きさ
上 下
58 / 66
小話まとめ・短編・番外編

✿ さようなら、愛しの……

しおりを挟む



 眠る為にジェイと二人ベッドに入るなり、ジェイのキス攻撃が始まる。

 俺も慣れてきて、ジェイの首に腕を回してくるくるの髪の中に指を忍ばせた。

「ん……ぅ……」

 深くなるジェイの口付けに応えながら、彼の髪の中に埋めた指を撫でるようにゆっくりと梳いて行く。

「イタタタッ……!」

 くるくるの髪に指が絡まって、髪を引っ張られたジェイの頭が後ろに引っ張られ、彼は顔を歪めながら痛みを訴えた。

「あ、ごめん……」

 ジェイの頭を抱いて、よしよしと髪の根元を揉むように撫でる。

「ジェイの髪、随分伸びたよね」

 出会った頃は肩より下くらいの長さだったけど、今では胸よりちょっと上くらいまで伸びていた。くるくるしてるから、引っ張って伸ばせばもっと長い。

 ジェイは、髪の手入れが雑だ。

 いつも俺と一緒にお風呂に入るから俺を優先するせいで、ジェイは俺の髪は丁寧に乾かしたり手入れをするのに自分の髪は適当だ。

 本当は俺が手入れをしたいんだけど、ジェイは早くベッドに行きたいらしくて、なかなか触らせて貰えない。その……終わった後は、俺が疲れて寝てしまうからジェイが勝手にお風呂に入れてしまっていて、髪の手入れどころではない。

 結果として、ただでさえ絡まりやすいくるくるの髪はブラシが通らないほどに毛先が絡まっている。

 ジェイの頭を抱いたまま、毛先の絡まりを解こうと四苦八苦していると、ジェイが顔を上げた。

「雪乃、後でなんとかするから今はいい」

 ジェイは俺の手首を掴んで髪から遠ざけて、再びキスをして来る。

「でも……」

「そんなのは、後でいい。こっちが先だ……」

「ぅんっ……ふ……」

 唇を塞がれて官能を引き出されていく。

 結局流されて、いつもの朝を迎えることになった。


 いつもと変わらずにある、ぬくい身体に抱き着きながら目を覚ます。

 俺が身動ぐと、大きな手で頭を撫でられるのも変わらない。

 ジェイの身体に暫く頭を擦り付けながら、完全に頭が起きるのを待つのもいつも通り。

「ん、起きたのか、雪乃……」

 寝ぼけたジェイに声を掛けられて、のろのろと顔を上げて……固まった。

 一気に目が覚めた。

 がばりと起き上がってジェイの上に覆い被さり、彼の顔の横に両手を突いてまじまじと覗き込む。

「……なんだ、どうした?」

 ジェイが驚いた顔で俺を見上げて来る。

 どうした? じゃないっ……! 

 俺は愕然として尋ねた。

「…………くるくるは…………?」

「くるくる?……ああ、髪のことか。絡まりが酷いから切った」

「……切った……」

 ジェイの髪は、見事にバッサリと短くなっていた。

 ショックを受けて目を見開いたまま固まっている俺を抱きながら、ジェイは身体を起こす。

 俺を覗き込んで来るジェイの頭に手を伸ばし、短くなってしまった髪を撫で回した。

 後ろの髪は、刈り上げとまではいかないけどかなり短い。全面も、適当にザクザクと切ったのか長さもまちまちだ。全然、揃っていない。

「俺の……くるくるが……」

「そんなに、ショックなのか……」

 ジェイは呆れて溜め息を吐きながら、サイドテーブルからビニール袋を取って俺に差し出して来る。

「ほら、雪乃は俺の巻き毛が大好きだから一応取っておいた。いるか?」

 ジッパー付きのビニール袋を受け取る。袋の中には黄金色をしたジェイのくるくる髪が乱雑に入っていた。

「俺の……くるくる……」

 哀しい気持ちで袋を撫でながら、じっと見詰めてしまう。

 暫くそうしていたら、ジェイが苛立ったように俺の顔を両手で挟み込んだ。

「雪乃。俺と巻き毛、どっちが好きなんだ?」

 強引に顔を引き寄せられて、ちょっと怒ったエメラルドが俺を見据えて来る。

「え、どっちって……勿論、ジェイが好きだし、ジェイのくるくるだから巻き毛も好き。巻き毛だからって、誰のでもいい理由じゃないよ」

 俺を勝手に巻き毛コレクターにしないで欲しい。

「ジェイのお父さんだからって、ジェラルドさんの巻き毛は要らないよ?」

 ジェイのエメラルドを覗き込みながら言うと、彼は大きく溜め息を吐いた。

「雪乃があんまり髪ばかり気にするから、俺じゃなくて巻き毛が好きなのかと思ったじゃないか」

 ん? 自分の髪に嫉妬したってこと?

 ジェイ……可愛い……

 自分の髪にヤキモチ妬いているジェイが堪らなく可愛くなって、唇にちゅっとキスをする。

「だって、ジェイにとっても似合ってて大好きだったんだ」

「短くなっても、今だってくるくるしてるだろう? それに、また直ぐに伸びる」

 ジェイに言われて、じっと彼の頭を見詰める。

 雑に結っていた時の結い残したくるくるの髪が凄くセクシーで好きだったんだけど、長さが目茶苦茶な今の短い髪は前よりも男らしく感じる。

 これはこれで――――――イイ。

「ジェイ…………イイ男…………」

 思わず、ぽっと赤面して恥ずかしくて視線を逸らす。

「っ……雪乃っ……!」

 ジェイは、俺の膝の上にあった袋をベッドの外にポイっと放り投げた。

「あっ……! 俺のくるくるっ……」

 慌てて手を伸ばした俺をジェイが抱き締めて来て、拾いに行けない。

「雪乃、古いくるくるは捨てろ。お前のくるくるはいつだって目の前にあるだろう?」

 いつもと見た目が違うジェイに深くキスされて、ドキドキする。

「ん…… やだ。あのくるくるにはジェイの匂いがたっぷり染み込んでるから捨てない」

「雪乃……欲張りだな」

 ジェイは熱い吐息を零しながら、ニヤリと笑って俺の口を唇で塞いでくる。

 いつもより野性的に見えるジェイに、ドキドキが止まらない。

「ジェイ……なんか、いつもと違うから……ドキドキする……」

 唇が離れた瞬間に、熱で浮かされたように熱い息と一緒に気持ちを吐露する。

「はぁ……俺も雪乃に煽られまくってもう駄目だ」

 エメラルドの強い雄の視線で射抜かれて、そのままベッドに押し倒された。

 朝だというのに、まだまだベッドからは出られそうにない……



 その後、頻繁にビニール袋を開けてジェイのくるくるの髪を撫でている俺をジェイは面白くなさそうに見ていた。

 一週間が経った頃、俺は袋を開けなくなっていた。

「雪乃、あの髪はもういいのか?」

 ジェイに尋ねられて頷いた。

「だって、もうジェイの匂いがしないんだ」

 俺の返事にジェイは、そうかと満足そうに頷いた。

 二人で落ち葉と一緒にジェイの髪を燃やした。

 俺の愛したくるくるは、あっと言う間に燃えてなくなってしまった。











 ──────────────────────
 ありがとうございました。(⁠*⁠˘⁠︶⁠˘⁠*⁠)⁠.⁠。⁠*⁠🌸
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

白銀オメガに草原で愛を

phyr
BL
草原の国ヨラガンのユクガは、攻め落とした城の隠し部屋で美しいオメガの子どもを見つけた。 己の年も、名前も、昼と夜の区別も知らずに生きてきたらしい彼を置いていけず、連れ帰ってともに暮らすことになる。 「私は、ユクガ様のお嫁さんになりたいです」 「ヒートが来るようになったとき、まだお前にその気があったらな」 キアラと名づけた少年と暮らすうちにユクガにも情が芽生えるが、キアラには自分も知らない大きな秘密があって……。 無意識溺愛系アルファ×一途で健気なオメガ ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

【完結】運命の番に逃げられたアルファと、身代わりベータの結婚

貴宮 あすか
BL
ベータの新は、オメガである兄、律の身代わりとなって結婚した。 相手は優れた経営手腕で新たちの両親に見込まれた、アルファの木南直樹だった。 しかし、直樹は自分の運命の番である律が、他のアルファと駆け落ちするのを手助けした新を、律の身代わりにすると言って組み敷き、何もかも初めての新を律の名前を呼びながら抱いた。それでも新は幸せだった。新にとって木南直樹は少年の頃に初めての恋をした相手だったから。 アルファ×ベータの身代わり結婚ものです。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

処理中です...