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小話まとめ・短編・番外編
✿ さようなら、愛しの……
しおりを挟む眠る為にジェイと二人ベッドに入るなり、ジェイのキス攻撃が始まる。
俺も慣れてきて、ジェイの首に腕を回してくるくるの髪の中に指を忍ばせた。
「ん……ぅ……」
深くなるジェイの口付けに応えながら、彼の髪の中に埋めた指を撫でるようにゆっくりと梳いて行く。
「イタタタッ……!」
くるくるの髪に指が絡まって、髪を引っ張られたジェイの頭が後ろに引っ張られ、彼は顔を歪めながら痛みを訴えた。
「あ、ごめん……」
ジェイの頭を抱いて、よしよしと髪の根元を揉むように撫でる。
「ジェイの髪、随分伸びたよね」
出会った頃は肩より下くらいの長さだったけど、今では胸よりちょっと上くらいまで伸びていた。くるくるしてるから、引っ張って伸ばせばもっと長い。
ジェイは、髪の手入れが雑だ。
いつも俺と一緒にお風呂に入るから俺を優先するせいで、ジェイは俺の髪は丁寧に乾かしたり手入れをするのに自分の髪は適当だ。
本当は俺が手入れをしたいんだけど、ジェイは早くベッドに行きたいらしくて、なかなか触らせて貰えない。その……終わった後は、俺が疲れて寝てしまうからジェイが勝手にお風呂に入れてしまっていて、髪の手入れどころではない。
結果として、ただでさえ絡まりやすいくるくるの髪はブラシが通らないほどに毛先が絡まっている。
ジェイの頭を抱いたまま、毛先の絡まりを解こうと四苦八苦していると、ジェイが顔を上げた。
「雪乃、後でなんとかするから今はいい」
ジェイは俺の手首を掴んで髪から遠ざけて、再びキスをして来る。
「でも……」
「そんなのは、後でいい。こっちが先だ……」
「ぅんっ……ふ……」
唇を塞がれて官能を引き出されていく。
結局流されて、いつもの朝を迎えることになった。
いつもと変わらずにある、ぬくい身体に抱き着きながら目を覚ます。
俺が身動ぐと、大きな手で頭を撫でられるのも変わらない。
ジェイの身体に暫く頭を擦り付けながら、完全に頭が起きるのを待つのもいつも通り。
「ん、起きたのか、雪乃……」
寝ぼけたジェイに声を掛けられて、のろのろと顔を上げて……固まった。
一気に目が覚めた。
がばりと起き上がってジェイの上に覆い被さり、彼の顔の横に両手を突いてまじまじと覗き込む。
「……なんだ、どうした?」
ジェイが驚いた顔で俺を見上げて来る。
どうした? じゃないっ……!
俺は愕然として尋ねた。
「…………くるくるは…………?」
「くるくる?……ああ、髪のことか。絡まりが酷いから切った」
「……切った……」
ジェイの髪は、見事にバッサリと短くなっていた。
ショックを受けて目を見開いたまま固まっている俺を抱きながら、ジェイは身体を起こす。
俺を覗き込んで来るジェイの頭に手を伸ばし、短くなってしまった髪を撫で回した。
後ろの髪は、刈り上げとまではいかないけどかなり短い。全面も、適当にザクザクと切ったのか長さもまちまちだ。全然、揃っていない。
「俺の……くるくるが……」
「そんなに、ショックなのか……」
ジェイは呆れて溜め息を吐きながら、サイドテーブルからビニール袋を取って俺に差し出して来る。
「ほら、雪乃は俺の巻き毛が大好きだから一応取っておいた。いるか?」
ジッパー付きのビニール袋を受け取る。袋の中には黄金色をしたジェイのくるくる髪が乱雑に入っていた。
「俺の……くるくる……」
哀しい気持ちで袋を撫でながら、じっと見詰めてしまう。
暫くそうしていたら、ジェイが苛立ったように俺の顔を両手で挟み込んだ。
「雪乃。俺と巻き毛、どっちが好きなんだ?」
強引に顔を引き寄せられて、ちょっと怒ったエメラルドが俺を見据えて来る。
「え、どっちって……勿論、ジェイが好きだし、ジェイのくるくるだから巻き毛も好き。巻き毛だからって、誰のでもいい理由じゃないよ」
俺を勝手に巻き毛コレクターにしないで欲しい。
「ジェイのお父さんだからって、ジェラルドさんの巻き毛は要らないよ?」
ジェイのエメラルドを覗き込みながら言うと、彼は大きく溜め息を吐いた。
「雪乃があんまり髪ばかり気にするから、俺じゃなくて巻き毛が好きなのかと思ったじゃないか」
ん? 自分の髪に嫉妬したってこと?
ジェイ……可愛い……
自分の髪にヤキモチ妬いているジェイが堪らなく可愛くなって、唇にちゅっとキスをする。
「だって、ジェイにとっても似合ってて大好きだったんだ」
「短くなっても、今だってくるくるしてるだろう? それに、また直ぐに伸びる」
ジェイに言われて、じっと彼の頭を見詰める。
雑に結っていた時の結い残したくるくるの髪が凄くセクシーで好きだったんだけど、長さが目茶苦茶な今の短い髪は前よりも男らしく感じる。
これはこれで――――――イイ。
「ジェイ…………イイ男…………」
思わず、ぽっと赤面して恥ずかしくて視線を逸らす。
「っ……雪乃っ……!」
ジェイは、俺の膝の上にあった袋をベッドの外にポイっと放り投げた。
「あっ……! 俺のくるくるっ……」
慌てて手を伸ばした俺をジェイが抱き締めて来て、拾いに行けない。
「雪乃、古いくるくるは捨てろ。お前のくるくるはいつだって目の前にあるだろう?」
いつもと見た目が違うジェイに深くキスされて、ドキドキする。
「ん…… やだ。あのくるくるにはジェイの匂いがたっぷり染み込んでるから捨てない」
「雪乃……欲張りだな」
ジェイは熱い吐息を零しながら、ニヤリと笑って俺の口を唇で塞いでくる。
いつもより野性的に見えるジェイに、ドキドキが止まらない。
「ジェイ……なんか、いつもと違うから……ドキドキする……」
唇が離れた瞬間に、熱で浮かされたように熱い息と一緒に気持ちを吐露する。
「はぁ……俺も雪乃に煽られまくってもう駄目だ」
エメラルドの強い雄の視線で射抜かれて、そのままベッドに押し倒された。
朝だというのに、まだまだベッドからは出られそうにない……
その後、頻繁にビニール袋を開けてジェイのくるくるの髪を撫でている俺をジェイは面白くなさそうに見ていた。
一週間が経った頃、俺は袋を開けなくなっていた。
「雪乃、あの髪はもういいのか?」
ジェイに尋ねられて頷いた。
「だって、もうジェイの匂いがしないんだ」
俺の返事にジェイは、そうかと満足そうに頷いた。
二人で落ち葉と一緒にジェイの髪を燃やした。
俺の愛したくるくるは、あっと言う間に燃えてなくなってしまった。
──────────────────────
ありがとうございました。(*˘︶˘*).。*🌸
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