52 / 66
小話まとめ・短編・番外編
番外編 ハロウィン (下)
しおりを挟む食事も手が止まり始めた頃、セレイアさんが俺を手招いた。
どうかしたのかと思って側に行くと、俺の耳元に手を添えて内緒話をするように囁く。
「雪乃、あれをやるわよ」
「あれって……?」
意味が分からなくて、小声でセレイアさんの耳元に顔を寄せて訊き返す。
「もう! ハロウィンと云えば、お菓子を強請るのが定番でしょう?」
「え、それって、子供がするんじゃないの?」
「別に私達がやったっていいでしょう? お遊びなんだから!」
「まあ、そうだね」
俺とセレイアさんは、ジェイと禅乃兄さんに背を向けながらヒソヒソと話す。
「ゼン達はお菓子を持っていないから、イタズラしてあげるのよ! ふふふっ」
セレイアさんは含んだ笑みを漏らす。
「イタズラ……何をするつもりなの?」
セレイアさんがどんなイタズラを仕掛けるのか興味が湧いて尋ねてみた。
「うふふ、内緒……」
どうやら教えては貰えないみたいだ。
イタズラかぁ。ジェイにイタズラ……何をしようかな。普通に擽ってみようかな。
考えてみれば、ジェイが擽ったそうにしているのなんてあんまり見たことがない。脇腹が捩れるほど擽ってみるのもいいかも知れない。
丸いライオン耳を着けたジェイなら、凄く可愛いかも。
耳をピコピコさせて笑い転げるジェイを想像して、ニヤけてしまう。
「分かった、やろうか」
「じゃあ、一緒に言うわよ!」
俺とセレイアさんは頷き合って、ジェイ達の元に行った。
ジェイと禅乃兄さんも何かを話していたみたいで、俺達が近付くとにこりと笑い返して来る。
俺とセレイアさんは、目で合図をし合い口を開いた。
「「「「トリック・オア・トリート!」」」」
四人の声が揃う。
「「え……?」」
俺とセレイアさんは、ぽかんとして顔を見合わせる。
「ほら、セレイア、雪乃」
禅乃兄さんが両手に乗るくらいの小さな籠に入ったお菓子を一つずつ俺達にくれた。
「え……?」
「あ、ありがとう。禅乃兄さん……」
ぽかんとしたままのセレイアさんと、戸惑いながらもお礼を言う俺。
「ほら、俺からはこれだ」
ジェイが棒の付いたキャディー、ロリポップを小さなブーケにしたものを俺とセレイアさんに渡して来る。
「あ、ありがとう……ジェイデン」
「ありがとう……ジェイ」
俺とセレイアさんはぎこちなくお礼を言いながら、イタズラする気満々だったから肩透かしをくらった気分だった。
呆気に取られていたら、ジェイと禅乃兄さんが掌を突き出して来た。
「俺達にはないのか?」
禅乃兄さんがにやにやしながら催促して来る。
「ほら、早くくれよ」
ジェイも笑いながら、更に手を突き出される。
俺とセレイアさんは顔を見合わせた。当然、俺達はお菓子なんて用意していない。
困って目を泳がせていると手の中のお菓子が目に入り、そこから渡そうと思ったら、ジェイと禅乃兄さんに止められた。
「それは、俺達があげたお菓子だろ?」
「そうだな。まさか、使い回しはしないよな?」
禅乃兄さんに止められた。ジェイも貰ったものから渡すのは許してくれないみたいだ。
俺と同じく、貰ったお菓子を渡そうとしていたセレイアさんも困っている。
「まあでも、雪乃はこれで許してやるよ」
禅乃兄さんはそう言って、ジェイから貰ったロリポップを俺の手から一つだけ抜き取った。
「そうだな。俺もセレイアはこれで許すとしよう」
ジェイは、セレイアさんの手にある禅乃兄さんがくれた籠の中からキャンディを一つだけ摘み取って行く。
「「トリック・オア・トリート」」
ジェイは俺に、禅乃兄さんはセレイアさんに意地悪そうに笑いながら催促してくる。
俺とセレイアさんは、困り果てて見詰め合った。
「ないんだな、セレイア。じゃあ、イタズラするしかないな?」
「雪乃からは貰えなかったから、イタズラしてもいいんだよな?」
楽しそうに迫って来る二人に、俺とセレイアさんは諦らめの溜め息を吐いて頷いた。
俺とセレイアさんの、二人にイタズラをしようとしていた目論見は、どうやら見透かされていたようだ。
「じゃあ、俺達は別邸に戻るよ。ハッピー・ハロウィン!」
禅乃兄さんは、満面の笑みでセレイアさんを姫抱きにして歩き出した。
「二人共、今日は楽しかったわ。ハッピー・ハロウィンっ!」
セレイアさんは、やけになったように明るく言い放つ。
「ハッピー・ハロウィン!」
「ハッピー・ハロウィン……」
にこやかに返すジェイと情けなく手を振る俺。
二人が入り口を通ると……
イヒャヒャヒャヒャヒャ~~ッ!
小バカにしたような、ケタたましい笑い声が響き渡った。
二人が消えた後、ジェイの部屋に戻るのかと思ったらジェイは俺の手を引いて部屋の壁際に置かれたソファに座らせた。
静かに流れていたクラッシックの音楽をジャズバラードに変える。ワインやアイスティーをソファのテーブルに置いて、残っていた軽いオードブルも置く。
俺も手に持っていたお菓子をテーブルに置いた。
ジェイもソファに座って来て、俺を脚の間に座らせた。
いつもなら向かい合わせに抱っこ状態で座るから、今日は珍しい配置だ。
ジェイは、ワインを一口飲んでグラスをテーブルに戻す。
「さて、雪乃にイタズラしないとな」
「別に、無理しなくてもいいんだよ?」
後ろのジェイを振り返りながら言ってみる。
「逃げようとしても駄目だ」
ジェイは背中にぴったりと張り付いて、片腕で俺の腰を抱き、もう片方の手をチャイナドレスのスリットから手を忍ばせて直に太腿を触って来る。
「こんな格好で俺を誘っておいて、今更だな」
「ジェイ……」
ジェイの大きな硬い手が太腿の付け根に近い部分に置かれる。だけど、小刻みに撫でるだけでちゃんと触る気はないみたいだ。
「そう云えば、前にランジェリーショップに行った時は裸の雪乃の方が良いと言ったが、これはこれで凄く唆るな。今度、買いに行くか」
ジェイが不穏なことを言ってくる。
スリットから潜り込んだ手の指先だけがそろそろと内腿を擽ってきてピクリと震えた。
「ジェイっ……」
「さて、どんなイタズラにするかな。雪乃はどんなイタズラがいい?」
ジェイが俺の耳を口に含んで舐めながら尋ねてくる。
耳に響く微かな水音に身体がざわざわと震えた。
どんなイタズラがいいかと訊かれても困る。
太腿に置かれた手が、来て欲しい方じゃない方へと下りて行く。
「このストッキング……やらしいな。でも、雪乃に凄く似合ってる」
「あ……ジェイっ……」
潜らせた手で脚を撫でるように手を滑らせながら片脚を持ち上げられて、チャイナドレスのスリットから花を縁取ったレースを着けた俺の脚が露わになった。
自分の脚じゃないようにいやらしく見えるのはどうしてなんだろう。
ジェイの手が思わせ振りに俺の脚をゆっくりと撫でる。その間も耳を舐められてゾクゾクが止まらない。
「そう云えば、結婚式の時はやたらと雪乃に煽られたよなぁ……」
「っ……あ……あれは……っ」
別に煽った訳じゃない!……ちょっとだけ……煽ったかも……
耳の中に熱い息を吹き込まれながら、ジェイの手が太腿の方へ戻って来た。でも、太腿の付け根から上には来てくれない。
「そうだな、雪乃はよく分かってないもんな? 雪乃に煽られて、俺の脳が灼き切れそうになっていたことなんて……知らないもんな……?」
「ん……っ……ぁッ……」
太腿の付け根近くをジェイの指先になぞられて、ピクリと脚が跳ねた。その手がいつ俺のモノに触れて来るのかと思うと、変に意識して余計に感じてしまう。
「この際だから、どういうことをされると煽られるのか、雪乃に教えてやるよ」
ジェイに耳朶のすぐ下辺りをチュクリ……と吸い上げられて身体が震える。ジェイの手が入り込んでいる方とは逆のスリットから、もう片方の手が入り込んで来た。
ジェイの両腕をそれぞれ抱き締めるように掴む。彼のもう片方の手も反対側の太腿を撫で回して来て足が剥き出しになり、両脚を大きく開いた格好になって恥ずかしい。
暫くの間、ジェイは俺の脚と太腿だけをじっとりと撫でて来て、俺のモノには触れないギリギリの場所を指でソロソロとなぞり続けた。
擽ったいのと格好が恥ずかしいのと、もどかしさと焦れったいのが混ざり合って、気が付けば息が弾んでいた。
ジェイも弾む吐息を吐き掛けながら、俺の耳や首筋を吸ったり舐めたり甘噛みし続ける。
甘い疼きに悶えながら、早く彼がその気になってくれるのを待ち望んだ……
──────────────────────
ありがとうございます。(*˘︶˘*).。*🌸
321
お気に入りに追加
1,482
あなたにおすすめの小説
出来損ないのオメガは貴公子アルファに愛され尽くす エデンの王子様
冬之ゆたんぽ
BL
旧題:エデンの王子様~ぼろぼろアルファを救ったら、貴公子に成長して求愛してくる~
二次性徴が始まり、オメガと判定されたら収容される、全寮制学園型施設『エデン』。そこで全校のオメガたちを虜にした〝王子様〟キャラクターであるレオンは、卒業後のダンスパーティーで至上のアルファに見初められる。「踊ってください、私の王子様」と言って跪くアルファに、レオンは全てを悟る。〝この美丈夫は立派な見た目と違い、王子様を求めるお姫様志望なのだ〟と。それが、初恋の女の子――誤認識であり実際は少年――の成長した姿だと知らずに。
■受けが誤解したまま進んでいきますが、攻めの中身は普通にアルファです。
■表情の薄い黒騎士アルファ(攻め)×ハンサム王子様オメガ(受け)
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
愛しいアルファが擬態をやめたら。
フジミサヤ
BL
「樹を傷物にしたの俺だし。責任とらせて」
「その言い方ヤメロ」
黒川樹の幼馴染みである九條蓮は、『運命の番』に憧れるハイスペック完璧人間のアルファである。蓮の元恋人が原因の事故で、樹は蓮に項を噛まれてしまう。樹は「番になっていないので責任をとる必要はない」と告げるが蓮は納得しない。しかし、樹は蓮に伝えていない秘密を抱えていた。
◇同級生の幼馴染みがお互いの本性曝すまでの話です。小学生→中学生→高校生→大学生までサクサク進みます。ハッピーエンド。
◇オメガバースの設定を一応借りてますが、あまりそれっぽい描写はありません。ムーンライトノベルズにも投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
オメガ社長は秘書に抱かれたい
須宮りんこ
BL
芦原奏は二十九歳の若手社長として活躍しているオメガだ。奏の隣には、元同級生であり現在は有能な秘書である高辻理仁がいる。
高校生の時から高辻に恋をしている奏はヒートのたびに高辻に抱いてもらおうとするが、受け入れてもらえたことはない。
ある時、奏は高辻への不毛な恋を諦めようと母から勧められた相手と見合いをする。知り合った女性とデートを重ねる奏だったが――。
※この作品はエブリスタとムーンライトノベルスにも掲載しています。
【完結】利害が一致したクラスメイトと契約番になりましたが、好きなアルファが忘れられません。
亜沙美多郎
BL
高校に入学して直ぐのバース性検査で『突然変異オメガ』と診断された時田伊央。
密かに想いを寄せている幼馴染の天海叶翔は特殊性アルファで、もう一緒には過ごせないと距離をとる。
そんな折、伊央に声をかけて来たのがクラスメイトの森島海星だった。海星も突然変異でバース性が変わったのだという。
アルファになった海星から「契約番にならないか」と話を持ちかけられ、叶翔とこれからも友達として側にいられるようにと、伊央は海星と番になることを決めた。
しかし避けられていると気付いた叶翔が伊央を図書室へ呼び出した。そこで伊央はヒートを起こしてしまい叶翔に襲われる。
駆けつけた海星に助けられ、その場は収まったが、獣化した叶翔は後遺症と闘う羽目になってしまった。
叶翔と会えない日々を過ごしているうちに、伊央に発情期が訪れる。約束通り、海星と番になった伊央のオメガの香りは叶翔には届かなくなった……はずだったのに……。
あるひ突然、叶翔が「伊央からオメガの匂いがする」を言い出して事態は急変する。
⭐︎オメガバースの独自設定があります。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
侍従でいさせて
灰鷹
BL
王弟騎士α(22才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、オメガ嫌いと噂される第3王弟の侍従になった。
侍従として働き始めて二日目。予定より早く発情期(ヒート)がきてしまい、アルファである王弟殿下と互いに望まぬ形で番(つがい)になってしまう。主の後悔を見て取り、「これからも侍従でいさせてください」と願い出たユリウスであったが、それからまもなくして、第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるらしいという噂を聞く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる