運命の番に為る

夢線香

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小話まとめ・短編・番外編

番外編  ハロウィン (下)

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 食事も手が止まり始めた頃、セレイアさんが俺を手招いた。

 どうかしたのかと思って側に行くと、俺の耳元に手を添えて内緒話をするように囁く。

「雪乃、あれをやるわよ」

「あれって……?」

 意味が分からなくて、小声でセレイアさんの耳元に顔を寄せて訊き返す。

「もう! ハロウィンと云えば、お菓子を強請るのが定番でしょう?」

「え、それって、子供がするんじゃないの?」

「別に私達がやったっていいでしょう? お遊びなんだから!」

「まあ、そうだね」

 俺とセレイアさんは、ジェイと禅乃兄さんに背を向けながらヒソヒソと話す。

「ゼン達はお菓子を持っていないから、イタズラしてあげるのよ! ふふふっ」

 セレイアさんは含んだ笑みを漏らす。

「イタズラ……何をするつもりなの?」

 セレイアさんがどんなイタズラを仕掛けるのか興味が湧いて尋ねてみた。

「うふふ、内緒……」

 どうやら教えては貰えないみたいだ。

 イタズラかぁ。ジェイにイタズラ……何をしようかな。普通に擽ってみようかな。

 考えてみれば、ジェイが擽ったそうにしているのなんてあんまり見たことがない。脇腹が捩れるほど擽ってみるのもいいかも知れない。

 丸いライオン耳を着けたジェイなら、凄く可愛いかも。

 耳をピコピコさせて笑い転げるジェイを想像して、ニヤけてしまう。

「分かった、やろうか」

「じゃあ、一緒に言うわよ!」

 俺とセレイアさんは頷き合って、ジェイ達の元に行った。

 ジェイと禅乃兄さんも何かを話していたみたいで、俺達が近付くとにこりと笑い返して来る。

 俺とセレイアさんは、目で合図をし合い口を開いた。


「「「「トリック・オア・トリート!」」」」


 四人の声が揃う。


「「え……?」」


 俺とセレイアさんは、ぽかんとして顔を見合わせる。

「ほら、セレイア、雪乃」

 禅乃兄さんが両手に乗るくらいの小さな籠に入ったお菓子を一つずつ俺達にくれた。

「え……?」

「あ、ありがとう。禅乃兄さん……」

 ぽかんとしたままのセレイアさんと、戸惑いながらもお礼を言う俺。

「ほら、俺からはこれだ」

 ジェイが棒の付いたキャディー、ロリポップを小さなブーケにしたものを俺とセレイアさんに渡して来る。

「あ、ありがとう……ジェイデン」

「ありがとう……ジェイ」

 俺とセレイアさんはぎこちなくお礼を言いながら、イタズラする気満々だったから肩透かしをくらった気分だった。

 呆気に取られていたら、ジェイと禅乃兄さんが掌を突き出して来た。

「俺達にはないのか?」

 禅乃兄さんがにやにやしながら催促して来る。

「ほら、早くくれよ」

 ジェイも笑いながら、更に手を突き出される。

 俺とセレイアさんは顔を見合わせた。当然、俺達はお菓子なんて用意していない。

 困って目を泳がせていると手の中のお菓子が目に入り、そこから渡そうと思ったら、ジェイと禅乃兄さんに止められた。

「それは、俺達があげたお菓子だろ?」

「そうだな。まさか、使い回しはしないよな?」

 禅乃兄さんに止められた。ジェイも貰ったものから渡すのは許してくれないみたいだ。

 俺と同じく、貰ったお菓子を渡そうとしていたセレイアさんも困っている。

「まあでも、雪乃はこれで許してやるよ」

 禅乃兄さんはそう言って、ジェイから貰ったロリポップを俺の手から一つだけ抜き取った。

「そうだな。俺もセレイアはこれで許すとしよう」

 ジェイは、セレイアさんの手にある禅乃兄さんがくれた籠の中からキャンディを一つだけ摘み取って行く。

「「トリック・オア・トリート」」

 ジェイは俺に、禅乃兄さんはセレイアさんに意地悪そうに笑いながら催促してくる。

 俺とセレイアさんは、困り果てて見詰め合った。

「ないんだな、セレイア。じゃあ、イタズラするしかないな?」

「雪乃からは貰えなかったから、イタズラしてもいいんだよな?」

 楽しそうに迫って来る二人に、俺とセレイアさんは諦らめの溜め息を吐いて頷いた。

 俺とセレイアさんの、二人にイタズラをしようとしていた目論見は、どうやら見透かされていたようだ。

「じゃあ、俺達は別邸に戻るよ。ハッピー・ハロウィン!」

 禅乃兄さんは、満面の笑みでセレイアさんを姫抱きにして歩き出した。

「二人共、今日は楽しかったわ。ハッピー・ハロウィンっ!」

 セレイアさんは、やけになったように明るく言い放つ。

「ハッピー・ハロウィン!」

「ハッピー・ハロウィン……」

 にこやかに返すジェイと情けなく手を振る俺。
 
 二人が入り口を通ると……

 イヒャヒャヒャヒャヒャ~~ッ!

 小バカにしたような、ケタたましい笑い声が響き渡った。


 二人が消えた後、ジェイの部屋に戻るのかと思ったらジェイは俺の手を引いて部屋の壁際に置かれたソファに座らせた。

 静かに流れていたクラッシックの音楽をジャズバラードに変える。ワインやアイスティーをソファのテーブルに置いて、残っていた軽いオードブルも置く。

 俺も手に持っていたお菓子をテーブルに置いた。

 ジェイもソファに座って来て、俺を脚の間に座らせた。

 いつもなら向かい合わせに抱っこ状態で座るから、今日は珍しい配置だ。

 ジェイは、ワインを一口飲んでグラスをテーブルに戻す。

「さて、雪乃にイタズラしないとな」

「別に、無理しなくてもいいんだよ?」

 後ろのジェイを振り返りながら言ってみる。

「逃げようとしても駄目だ」

 ジェイは背中にぴったりと張り付いて、片腕で俺の腰を抱き、もう片方の手をチャイナドレスのスリットから手を忍ばせて直に太腿を触って来る。

「こんな格好で俺を誘っておいて、今更だな」

「ジェイ……」

 ジェイの大きな硬い手が太腿の付け根に近い部分に置かれる。だけど、小刻みに撫でるだけでちゃんと触る気はないみたいだ。

「そう云えば、前にランジェリーショップに行った時は裸の雪乃の方が良いと言ったが、これはこれで凄く唆るな。今度、買いに行くか」

 ジェイが不穏なことを言ってくる。

 スリットから潜り込んだ手の指先だけがそろそろと内腿を擽ってきてピクリと震えた。

「ジェイっ……」

「さて、どんなイタズラにするかな。雪乃はどんなイタズラがいい?」

 ジェイが俺の耳を口に含んで舐めながら尋ねてくる。

 耳に響く微かな水音に身体がざわざわと震えた。

 どんなイタズラがいいかと訊かれても困る。

 太腿に置かれた手が、来て欲しい方じゃない方へと下りて行く。

「このストッキング……やらしいな。でも、雪乃に凄く似合ってる」

「あ……ジェイっ……」

 潜らせた手で脚を撫でるように手を滑らせながら片脚を持ち上げられて、チャイナドレスのスリットから花を縁取ったレースを着けた俺の脚が露わになった。

 自分の脚じゃないようにいやらしく見えるのはどうしてなんだろう。

 ジェイの手が思わせ振りに俺の脚をゆっくりと撫でる。その間も耳を舐められてゾクゾクが止まらない。

「そう云えば、結婚式の時はやたらと雪乃に煽られたよなぁ……」

「っ……あ……あれは……っ」

 別に煽った訳じゃない!……ちょっとだけ……煽ったかも……

 耳の中に熱い息を吹き込まれながら、ジェイの手が太腿の方へ戻って来た。でも、太腿の付け根から上には来てくれない。

「そうだな、雪乃はよく分かってないもんな? 雪乃に煽られて、俺の脳が灼き切れそうになっていたことなんて……知らないもんな……?」

「ん……っ……ぁッ……」

 太腿の付け根近くをジェイの指先になぞられて、ピクリと脚が跳ねた。その手がいつ俺のモノに触れて来るのかと思うと、変に意識して余計に感じてしまう。

「この際だから、どういうことをされると煽られるのか、雪乃に教えてやるよ」

 ジェイに耳朶のすぐ下辺りをチュクリ……と吸い上げられて身体が震える。ジェイの手が入り込んでいる方とは逆のスリットから、もう片方の手が入り込んで来た。

 ジェイの両腕をそれぞれ抱き締めるように掴む。彼のもう片方の手も反対側の太腿を撫で回して来て足が剥き出しになり、両脚を大きく開いた格好になって恥ずかしい。

 暫くの間、ジェイは俺の脚と太腿だけをじっとりと撫でて来て、俺のモノには触れないギリギリの場所を指でソロソロとなぞり続けた。

 擽ったいのと格好が恥ずかしいのと、もどかしさと焦れったいのが混ざり合って、気が付けば息が弾んでいた。

 ジェイも弾む吐息を吐き掛けながら、俺の耳や首筋を吸ったり舐めたり甘噛みし続ける。

 甘い疼きに悶えながら、早く彼がその気になってくれるのを待ち望んだ……











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