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小話まとめ・短編・番外編
番外編 ハロウィン (中)
しおりを挟むセレイアさんが落ち着いてから、二人でジェイと禅乃兄さんが待つ部屋へ向かう。
歩いているだけで、両脇のスリットから外気が入り込んで凄く落ち着かない。
「セレイアさん、やっぱりこの格好……恥ずかしいんだけど……」
下に何も履かないで歩いているみたいで、気になってしょうがない。
「何言ってるのよ。とってもセクシーよ、雪乃」
隣を歩くセレイアさんが笑いながら褒めてくれる。
「ジェイデンはきっと、大興奮よ!」
「ジェイ、こういうの好きかなぁ……」
前にジェイは、裸の俺が一番セクシーだと言っていた。
「雪乃が着るなら、ジェイデンは何でも好きよ」
「そうかな……」
自信満々で答えるセレイアさんに、曖昧に頷く。
飾り付けをした部屋の前には、黒いタキシード姿に裏地の赤い、黒いマントを付けたジェイと禅乃兄さんが待っていた。
ビシリとした格好をするとジェイは凄くかっこいい。禅乃兄さんもかっこいいけど、ジェイよりは輪郭が細い感じで綺麗寄りのかっこよさだ。もちろん、ジェイだって凄く綺麗だけどより男性らしい。
「二人は吸血鬼なの?」
「そんなところ」
俺の問にセレイアさんが頷く。禅乃兄さんの頭には茶色い狼の耳が着いていた。ジェイの頭には金色にも見える丸い耳が乗っている。ライオンの耳だ。その耳がやっぱりピコピコ動いている。
俺の目はジェイの頭に釘付けになった。ジェイはジェイで俺の頭をガン見している。
ピコピコ動く丸い耳にウズウズして、思わずジェイに駆け寄った。ジェイもこっちに足早に近付いて来る。
俺とジェイはお互いに手を伸ばして、お互いの頭を撫で回した。
「ジェイ! 可愛い……可愛いっ!」
「雪乃……なんだこれ? めちゃくちゃ可愛いな!」
正確にはお互いのカチューシャを撫でながら、可愛い、可愛いとお互いに連呼した。
俺はジェイの耳に夢中だ。
俺達の隣では、禅乃兄さんとセレイアさんが同じようなことをしている。
「凄いな……こんな凶悪に可愛いアイテムがあったなんて……」
ジェイは、俺の頭を撫で回しながら感心したように呟いた。
「セレイア、これ何処で買ったんだ?」
ジェイがセレイアさんに尋ねると、今日行った雑貨店の名前を言う。
ジェイは頷いてたから、後で買いに行くのかも知れない。
ジェイは、俺の腰を抱いて部屋の扉を開いた。部屋の本来の明かりは消して、イルミネーションライトのカラフルな光だけが溢れていた。
かぼちゃ頭に三角帽子を被ったジャック・オー・ランタンやシーツを被ったような可愛いゴーストの光の映像が部屋の中をゆっくりと回っている。
「凄い! 雰囲気が出てるね!」
「ああ、なかなか良い出来だな」
隣のジェイを見ると、彼も満足そうに笑っていた。
「ふふ、楽しいパーティーになりそうね!」
「ああ、そうだな」
セレイアさんと禅乃兄さんも笑いながら頷いた。
部屋の中に一歩入った途端。
イヒャヒャヒャヒャヒャ~~ッ!
突然ケタたましい、甲高い笑い声が響いた。
「ヒゃっ……! ゥアんッ……!?」
俺は、驚いて隣に居るジェイに飛び付いた。
ジェイは、俺を正面から抱き止めてくれる。くれたのはいいんだけど、ジェイの手がスリットの中に入ってしまって直接お尻を掴まれて変な声が出てしまった。
「――雪乃……なんで下着を着けていないんだ……」
ジェイが俺の耳元に口を寄せて小声で囁いて来る。
「……ちゃんと……着けてるよ……」
ジェイの手が俺のお尻を揉みながら探るように動く。ゆっくりと下着の僅かな布をなぞるように指で辿られて、ふるりと身体を震わせた。
「ジェイ……だ、め……」
「随分、やらしい下着を履いてるな……この服も」
徐々に布地を辿られて彼の指が下へと下りていく。擽ったいのと恥ずかしいのとで堪らず腰を捩る。
「だっ、だって……セレイアさんが……」
ジェイに抱き着きながら顔を彼の肩辺りに付けて隠した。
「そうか、セレイアはセンスが良いな」
ジェイは、俺の耳から口を離してセレイアさんを褒める。
「そうでしょう。気に入った?」
「ああ、最高だな」
得意気なセレイアさんに、ジェイは称賛を贈っていた。
「ほら、取り敢えず中に入ろうぜ」
禅乃兄さんが苦笑しながら促した。
皆が部屋の入り口を通るたびに、ケタたましい笑い声が上がる。
どうやら、センサーに反応して鳴る仕組みみたいだ。
いつまでも俺のお尻を揉んでいるジェイの腕をタシタシと叩いて、漸く離して貰えた。
ジェイは、俺を熱の籠もった目で見詰めてくる。
なんか、俺の頭を見ている。
クラッシックな音楽を低く掛けながら、テーブルを囲んで座り皆でテーブルの上で手を繋いだ。
収穫祭だから、自然の恵みに感謝の言葉を捧げるためだ。俺や禅乃兄さんにはあまり馴染みはないけれど、ジェイやセレイアさんに取っては大事なことだ。
ジェイがこの邸の主だからジェイが言葉を紡ぐ。
「自然の恵みに感謝する」
簡潔なジェイの言葉に、セレイアさんがきょとんとしてジェイを見た。
「――それだけ……?」
「そうだが?」
驚いているセレイアさんに、今度はジェイがきょとんとする。
「こう……もうちょっと、ぐっと来る言葉はないの? 家族の健康を祈るとか……」
「そうなのか? いつも一人だったからな……そう云うものなのか?」
「「「…………」」」
ジェイの言葉に皆が押し黙る。
俺は堪らずに立ち上がって、ジェイの頭を抱き締めた。
「これからは、ずっと俺と一緒に収穫祭を祝おうね。ジェイ……」
ジェイは、俺を横抱きにして膝の上に乗せた。俺はジェイの首に腕を回して、彼の頬にキスを落とす。
「ああ、勿論だ。――そうだな……」
ジェイは、俺の顔を覗き込みながら考え込む。
そして、改めて感謝の言葉を口にした。
「自然の恵みに感謝して、その恵みを糧に最愛のものに永遠に続く愛を捧げよう。――我らに糧を与えてくれた主に感謝を。アーメン」
「「「アーメン」」」
ジェイの言葉に続いて皆で感謝を捧げた。俺を抱きながら微笑みかけてくるジェイの額にキスを落とす。
ジェイの意思で動いている訳じゃないけど、丸い耳がピコピコ動いているのが喜んでいるように見えて、あまりの可愛さに悶えてしまう。
「ふふ、素敵な言葉だったわ」
「ああ、なかなか良いことを言うじゃないか」
セレイアさんがジェイに称賛を贈り、禅乃兄さんも褒めながらセレイアさんを自分の膝の上に横抱きに乗せて、愛おし気に彼女を見詰めた。
「ジェイ、ターキーを切り分けないと」
ターキーを切り分けるのは主人の役目らしいから、ジェイの顔を覗き込んで促す。
ジェイは、渋々俺を膝から下ろしてターキーを切り始めた。
「ゼーノ、お前達の分はお前が切り分けろよ」
「ああ、そうする」
禅乃兄さんは、あっさり頷いてジェイの反対側からターキーを切り分け始めた。
まぁ、アルファだしね。番の給餌は自分でしたいんだろうね。
ジェイは俺に食べさせたかったみたいだけど、流石に今は断った。ジェイは不満そうな顔をする。頭の上でピコピコ動く耳のせいで、何度かは抗い切れずに食べさせられた。
「この耳……ヤバいね……」
ピコピコ動く耳に、勝手に落ち込んでいる感情を想像してしまってつい甘やかしてしまう。
「同感だな……雪乃が耳をピルピル動かすから嫌だと言いつつ、本当はして欲しいんだと思えるな……」
「あ~、わかる~。して欲しいのに強がっているように見えるよな。そのくせこっちを気にして、なんでしないのよ~って言われているみたいだ」
ジェイの発言に禅乃兄さんが頷く。
「え~、だって断るとゼンの耳がピロピロ動いて、とってもしょんぼりしているように見えるから……なんだか罪悪感が湧くのよね……」
「あ、分かる、分かる」
セレイアさんの言葉に俺も心から同意した。
皆でそんな雑談をしながら食事をする。皆は赤ワインを飲みながら、俺だけはレモネードや紅茶を飲んで和やかな時間を過ごした。
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