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小話まとめ・短編・番外編
番外編 ハロウィン (上)
しおりを挟む今、俺とジェイの邸宅には禅乃兄さんとセレイアさんが遊びに来ている。
楽しいことが大好きなセレイアさんは、
「折角だし、ダブルデートしましょう!」
キラキラの笑顔で提案されて、俺とジェイも頷いた。
そんな訳で、禅乃兄さんとセレイアさんが滞在中はなるべく一緒に行動することになった。
大神家の皆が旅行がてら遊びに来るものだから、ジェイは敷地内に皆が泊まれる建物を建ててくれた。
「ありがとう、ジェイ」
俺がお礼を言うとジェイは苦笑した。
「気にするな。コーガやジーノも金を出して自分達の好きなようにしていたからな。俺だけで建てた訳じゃない。殆ど、あいつらの別荘みたいなものだ」
「え、そうなの?」
まさか父さん達が手を出していたとは思わず、驚いた。頻繁に遊びに来る気満々って感じだ。
まぁ、ジェイと二人も悪くないけど偶には皆と賑やかに過ごすのも悪くない。俺の場合はずっと家族の皆と一緒だったから、寧ろ嬉しい。
父さん達は父さん達で、
「この国で、ここほど安全な場所はないからな」
なんて言って、満足そうに笑っていた。
ジェイのテリトリーであるこの敷地内が一番安全なんだって。
俺には分からないけれど他の人にしてみれば、ジェイはやっぱり希少種アルファの『皇帝』で畏れられる存在らしい。
俺に取ってジェイは、かっこよくて、だけどすごく可愛い存在だからピンと来ない。
皆にそう言ったら微妙な顔をされた。
「そんなことを言うのは雪乃だけだ」
皆に口を揃えて返された。
ジェイは、お酒に酔うと擦り寄ってきて甘えたになって、とっても可愛くなるんだから。そうでない時でも拗ねたりして可愛いのに。
そんな訳で、禅乃兄さんとセレイアさんと四人で街に行った。
今は、ちょうど収穫祭の時期で街の中はかぼちゃで溢れていた。
店を覗いて見たり、ハロウィン限定の食べ物を食べ歩いたりしながら街なかを歩き回った。
セレイアさんはいつも通りハイテンションで、その明るさに釣られるように俺達も楽しんだ。
「収穫祭だからハロウィンパーティーをしましょう!」
セレイアさんの思い付きでハロウィンパーティーをすることになった。
かぼちゃのランタンや飾り付け用のイルミネーションライトや、お馴染みのジャック・オー・ランタンやシーツを被ったような可愛いゴーストの光の映像が簡単に動くプロジェクターライトを買った。
他にもパンプキンパイやパンプキンプリンとかも買った。料理はジェイが用意してくれることになった。
セレイアさんはノリノリで色んなものを買い漁った。
皆でジェイの邸宅の一室を借りて飾り付けをする。こういうことが初めてだったジェイも楽しそうに飾り付けをしていた。
夜になれば、カラフルなイルミネーションで華やかになりそうだ。
パーティーが始まる前にセレイアさんが一人一人に紙袋を渡して来て着替えろと言われ、ジェイは禅乃兄さんに、俺はセレイアさんに連行されて別々の部屋に向かう。
シャワーを浴びてからセレイアさんは、さっさとスレンダーな真っ赤なセクシードレスに着替えていた。脚の横に深く切り込んだスリットがセレイアさんの薄い褐色の肌によく似合っていて、とてもセクシーだ。
「雪乃とお揃いにしたかったけど、いいのがなくて残念だわ……」
ガッカリするセレイアさんの前で紙袋の中身を出すと、女性用の白蓮の花が刺繍された深い蒼色のチャイナドレスが出て来た。
「セレイアさん……これ、女性物のドレスじゃないの?」
派手なチャイナドレスをセレイアさんの前に掲げて見せながら抗議する。
「イヤね、違うわよ。ちゃんと男性物よ」
「チャイナドレスは、収穫祭と何も関係ないでしょ」
「大丈夫、大丈夫! ほら、早く着替えて!」
セレイアさんに勢いで押し切られ、男性物だというからズボンも紙袋に入っていると思って渋々着替える。
「雪乃、ラインが崩れるから、ちゃんと下着も履き替えるのよ」
衝立で仕切られた向こうでセレイアさんに釘を刺された。
紙袋の中をひっくり返すと、布地の少ない白い物がぽとりと落ちて来た。手に取って広げて見ると女性が履くようなTバックの下着だった。
「こ、こんな、恥ずかしい下着履けないよ!」
衝立から飛び出して、下着を振り回しながらセレイアさんに文句を言うとセレイアさんの目が吊り上がった。
「何言ってるの、雪乃! 下着のラインを出さない為にはTバックの下着が一番なのよ!? 私も履いてるし!」
「そりゃあ、セレイアさんは女性なんだから別に履いてもいいでしょっ!」
「そう云う問題じゃないわ、雪乃!」
「そう云う問題だよねっ!?」
「ファッションセンスの問題よ! さり気ないお洒落の話よ! 下着のラインが見えていたら折角のドレスが台無しじゃない! そう云う話よ!」
セレイアさんにキッと睨み付けられて、怯む。
ファッションの話だと言い張られれば、返す言葉が見付からない。
「雪乃、駄々を捏ねるなら無理矢理脱がせて履かせるわよ……?」
これって、駄々を捏ねている訳じゃないよね!?
心の中で叫びながらも、セレイアさんなら絶対に実行すると思って諦めた。
下着を履き替えて、袖口が広がったチャイナ服を着てズボンを履こうとしたらなかった。
「セレイアさん、ズボンが入ってないよ?」
「ズボン? そんなもの無いわよ」
「え、だって、男性物だって言ったじゃないか」
「そうよ、男性オメガ用のドレスよ?」
俺は、開いた口が塞がらなかった。
「雪乃、ちゃんとストッキングも履きなさいよ。それじゃあ、肌色が多過ぎるでしょう?」
セレイアさんに睨まれて、すごすごと衝立の奥に戻る。
残されていた布は、目の荒い花がらの生成り色をした太腿までのストッキングだった。
履かないとセレイアさんに許して貰えそうにないから、仕方がなく履いた。
自分で言うのもなんだけど、なんか凄くエロい。
脚の両脇に深く入ったスリットに太腿までの網目の粗いストッキング。おまけに下着はTバック。
――――エロい……
ヒールの低いお洒落な黒いサンダルを履けば終わりだ。サンダルは細い革紐で足首にぐるぐると巻いて留め金で押さえるやつ。キラキラと光るビーズみたいなものがたくさん付いていた。
恥ずかしい……
一人でもじもじしているとセレイアさんが顔を出した。
「うん! 素敵ね、雪乃! これならジェイデンも一発で悩殺だわっ!」
セレイアさんは満足そうに頷いた。
「悩殺って……」
「ふふ、私はどう? ゼンを悩殺出来るかしら?」
セレイアさんはアップにした白金髪の後頭部に片手を添えて、もう片方の手を自身の細いくびれに這わせてセクシーポーズを取った。
セレイアさんはめちゃくちゃ美人だし、大きい胸もバランスを崩すほど大き過ぎることもない。
首でチョーカーの用に留めた赤いレースから前掛けのように胸元へ続くレース。肩も剥き出しで背中も大きく空いている。滑らかな薄い褐色の肌がとてもセクシーだ。
禅乃兄さんじゃなくても悩殺されそうだ。最も、
「禅乃兄さんなら、もうとっくに悩殺されてるよね……」
既にセレイアさんにベタ惚れなのに、何を今更。
「あら、まだまだ足りないわ。ゼンは私に悩殺され続ける運命なんだから!」
ふふふっと妖艶に笑うセレイアさんに苦笑する。
「そっか……間違いなく禅乃兄さんを悩殺出来るくらい綺麗だよ、セレイアさん」
「ふふ、ありがとう、雪乃!」
俺が褒めるとセレイアさんは、妖艶さを引っ込めて無邪気な笑顔を浮かべた。
「あ、そうだったわ。忘れるところだった。はい、仕上げにこれを付けて完成よ」
セレイアさんは慌てて何かを取りに行き、直ぐに戻って来た。その手には黒い犬の耳が付いたカチューシャ。なんか、耳の部分がピコピコ動いている。
「雪乃は黒狼だから、こっちね」
セレイアさんは黒い犬……狼の耳が付いたカチューシャを俺の頭に着けた。そして、白い狼の耳が付いた方を自分に着ける。
セレイアさんの頭の上で白いふさふさの獣耳がピコピコと動いているのを見て、俺は堪らず叫んでいた。
「セ、セレイアさんっ……! か、可愛いっっ!」
思わずセレイアさんを抱き締めて、頭を撫で回した。
「や、やだっ……! 雪乃ったらっ……!」
セレイアさんは真っ赤になって、慌てている。
はっ、として慌てて彼女から離れる。
「あ、ごめん、セレイアさん……あまりの可愛さに抑え切れなかった……」
「もうっ……ビックリするじゃないっ……」
いつもの大胆不敵なセレイアさんとは思えないほど顔を赤くしてもじもじとテレている彼女は、とても可愛かった。頭でピコピコ動いている白い耳が可愛さに拍車を掛けている。
「――セレイアさん……可愛い……」
動く耳を撫で回したくてウズウズする。
「……雪乃も、可愛いわ……」
セレイアさんは俯いて、小さく呟いた。
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