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本 編
J-ⅩⅦ God's ordeal 【神の試練】
しおりを挟む俺が正気を取り戻した時、意識のない雪乃を正常位で抱いていた。
雪乃のヒートに誘発されてマストを起こし、項に噛み付いて番に為ったところまでは、覚えている。
泣き腫らした顔で、ぐったりとした雪乃の身体には、無数のキスマークと噛み跡が残されていた。
アナルからは、俺のスパームが溢れて太腿を汚している。
シーツも酷い有り様で、汚れてグシャグシャになって……破れている所もあった……
一体……どれだけの時間、雪乃を抱いていたのか……
だが、心も身体もスッキリとして満たされていた。
ベッドの下を見れば、水が入っていたはずのペットボトルが空になって無数に転がっていた。
簡易食料の飲むゼリータイプの空容器も、たくさん……落ちていた……
その他にも、使用済みのティシュだったり、フェイスタオルやバスタオルなんかも、何枚も落ちている。
これは……何時間どころの話じゃないな……
何日か籠もって、セックスしていたに違いない。
雪乃の髪はグシャグシャだし、触ってみた感じ、俺の頭も似たようなものだった……
サイドテーブルの上には、薬の空き殻が散らばっていた。残っていた薬を確認すると、ピルのようだ。
ちゃんと、避妊を気にする理性もあったらしい……覚えていないが……
身体は、達成感に満たされていて、ベッドに横になって寝てしまいたかったが、雪乃の惨状を放置することは出来ない。
取り敢えず、身体を清めなければ……意識のない雪乃を前から抱き上げて、バスルームへと向かう。面倒なので、バスタブに入って湯を溜めながら身体を洗うことにした。雪乃の歯を先に磨いて、俺も磨く。雪乃の開いた口にシャワーの湯を掛けてやると、ぺっ、と吐き出したので良かった。
浴槽に湯が溜まるまでは、髪を洗う。体液が固まってこびり付いていて、洗い難い。雪乃を背中から抱き締めながら、雪乃の胎内のものを掻き出す。
湯の中で、固まった体液をふやかしながら丁寧に洗って、シャワーを浴びてバスルームを出た。
雪乃を抱き抱えたまま、髪を乾かし服を着せ、一旦、ソファに雪乃を寝かせる。ベッドのシーツを変えに行く。
床に散らばっている色んなものを足で端に寄せながら、雑にシーツを剥ぎ取り、丸めてゴミ箱へ捨てる。破れているから、もう使えない。
シーツを変えて、枕と毛布も変える。取り敢えず、部屋の隅に投げて置く。
漸く、ベッドに雪乃を運び込み横になると、どっと疲れが押し寄せて来た。
毛布を掛けて横になった雪乃を背中から抱き締めて、項の噛み跡に顔を埋めて目を閉じると、あっと言う間に眠りに落ちた。
目を覚まし、腕の中に居る雪乃に安堵する。
サイドテーブルから、スマホを取って日時を確認した。俺が、麻酔銃で撃たれて昏倒した日から八日が経っていた。今は、昼の一時を過ぎている。
少なくとも、七日はセックスしていたことになる……
噛んでからの記憶がないなんて……余程、強烈な発情だったようだ。
今迄は、マストを起こしても、二日もすれば治まっていたのに……番と迎える発情期は別物なんだな。
寝室の扉がノックされて、ジーノが顔を出した。
「起きたか? ジェイデン」
ジーノは、扉より中には入って来なかった。
寝室が俺の『巣』だと分かっているからだ。番の居ない『巣』ならいいが、流石のジーノも番の居る『巣』に、のこのこ入って来るほど無神経ではないようだ。
「雪乃を神田先生に診せる。こっちに連れて来てくれ」
俺は大人しく頷いて雪乃を抱き抱え、隣の部屋に移動した。
部屋の扉の前に、神田が立っていた。
雪乃をソファの上に横たえ、俺の膝の上に頭を乗せる。
「雪乃くんを診てもいいかい?」
神田が俺に断りを入れてきたので頷く。
ちょこちょこと神田が雪乃の傍に来て、診察を始めるのを見てからジーノに話し掛ける。
「俺達は……七日間、ずっと巣篭もりしていたのか?」
尋ねると、ジーノが頷く。
「噛んでからの記憶がない……」
「運命との初めての発情期なんて、そんなものだ」
ジーノが苦笑して、肩を竦めた。
「お前も、そうだったのか?」
「ああ」
驚いて尋ねると、ジーノはあっさりと頷いた。
「そうか……頼りになるな、Brother」
ジーノは、苦々しく笑った。
雪乃と番になった今は、ジーノは俺の義兄になるわけだから、否定もできないのだろう。
膝上の、雪乃の髪を梳く。
番ったおかげなのか、凄く気持ちが安定している。
「ん……ジェイ……?」
雪乃がぼんやりと目を覚ました。
「おはよう、雪乃」
「おはよ……?」
もう昼過ぎだが、朝の挨拶をする。雪乃は、ぼんやりとしたまま、何度か目を瞬いて俺を見上げ、愛おし気に目を細めた。
「おはよう、雪乃くん。身体は大丈夫かい?」
診察を終えた神田が雪乃に声を掛けた。
「……神田先生? おはようございます。……身体は……動けないです……」
雪乃は、身体を起こそうとしたが身動いだだけで起きれなかった。
雪乃の身体を抱き上げ、俺の前に座らせて、背中から抱き締めて支える。雪乃は、力を抜いて俺に凭れて来た。
「無事に、番になれたみたいだね。おめでとう、雪乃くん」
「神田先生……ありがとうございます……」
雪乃は、照れくさそうにしながら俺の手を掴んで、ニギニギと弄ぶ。
「良かったな、雪乃」
「仁乃兄さん……うん……ありがとう」
ジーノが側に来て、雪乃の頭を撫でた。
雪乃は、緩んだ顔で微笑んでジーノを見上げる。
「神田先生の言った通りだったね……俺の運命が変わってた……ジェイの運命は、最初から俺だったんですか……?」
雪乃が首を傾げた。
確かにな。もし、最初から雪乃が俺の運命だとしたら、雪乃が最初の運命の番に出会ったのはおかしい。もし、そこで雪乃がそいつと番っていたら、俺は、永遠に運命を手に入れられなかったことになる。
神田は、苦笑しながら首を横に振った。
「違うと思うよ。雪乃くんの一年前の血液のデータと、アースキングさんの血液を調べて照らし合わせたんだけど……一年前は間違いなく、アースキングさんは雪乃くんの運命の番ではなかったよ」
「「え?」」
神田の言葉に、俺と雪乃の声が揃った。
「先ずは、分かっていることを話すね。雪乃くんがこの国に来てから最初に高熱を出して、病院で一日検査したことがあったろう?」
テーマパークに行った、次の日だ。
雪乃は、あの時のことは高熱であまり覚えていない。
「あの時、アースキングさんにお願いして、彼の血液とスパームを採取させて貰ったんだよ」
そういえば、そんなこともあったな。
「君達のアルファ因子とオメガ因子は、とても、相性が良かったんだ。もし、運命の番が見つからなければ、一番ってくらいにね」
笑う神田を見る。
「じゃあ、その時点では、雪乃と俺は運命じゃなかったってことなのか?」
神田は、大きく頷いた。
「そう、あの時点ではね。僕は、ある実験をしてみたんだよ。雪乃くんの卵子と、数値的にアースキングさんと相性の良さそうなオメガの卵子を複数用意して、円を作るように一定間隔で並べたんだよ。そして、その真ん中にアースキングさんのアルファ因子……スパームを置いてみたんだよね」
神田は、手振りで円を描くように何かを並べる素振りをした。そうして、興奮したように声が高くなる。
「そうしたらっ! アースキングさんのスパームは、脇目も振らず一斉に雪乃くんの卵子に襲い掛かった訳だっ! ビックリしたよ!」
「え……」
……何だか、俺が雪乃をレイプしたみたいな言われ方だが、スパームに自我がある訳じゃないよな……?
「あ、雪乃くんの卵子は未熟で、受精することはないから安心して」
まあ、そうだな。そうじゃないと、いつの間にか体外受精で子供が出来ていたかもしれないしな。
「それでね、大神家の皆さんと他の運命じゃない番の人達に頼んで、同じ実験をしてみたんだよ。そうしたらっ! 運命の番同士のスパームも、脇目を振らず真っ直ぐに番の卵子に襲い掛かったんだよ! 運命の番じゃないスパームは、二、三割ほど、番以外の卵子に浮気するんだ! なのに! 運命の番のスパームは、まっしぐら何だよっ!? 凄いよねっ……!?」
目を輝かせながら、興奮して話す神田を……やや、引き気味に全員が見ていた。
無数のおたまじゃくしが雪乃の卵子を目指して、まっしぐらに襲い掛かるイメージが浮かんで、何とも言えない気分になる……
「……コホン……えっとね、何が言いたいかというと……アースキングさんと雪乃くんは、この時点ではまだ運命じゃなかったのに、彼のスパームは雪乃くんの卵子にまっしぐらだった、ってことが重要なんだよ」
「どういう意味ですか……?」
雪乃が首を傾げて神田を見る。
「ここからは、僕の推測だけど……アースキングさんのスパームは運命の番になる前に、雪乃くんを運命の番に選んだんだと思うんだよね。――恐らくは、彼の希少種アルファの力じゃないかと、僕は思っているんだよ」
「ジェイが……俺を選んだ……?」
雪乃が俺を振り返って見上げて来たので、その唇にチュっとキスを落とす。雪乃は、照れて頰を染めた。
……可愛いな……
「そう! そして、恐らく、雪乃くんも彼を運命の番に選んだんだよ!」
興奮した神田が自身の胸の前で拳を握った。
「俺が……選んだ……?」
雪乃が聞き返すと神田は、大きく頷いた。
「そうだよ! 雪乃くんがアースキングさんの唾液やスパームを欲しがるのも、彼と引き離されるのを泣いて嫌がるのも、雪乃くんが彼の因子を欲しがったからだよっ!」
神田の言葉に、頷く。
「ああ……だから雪乃は、俺のペニッ、ングッ……!」
俺のペニスを握って離さなかったり、しゃぶったり、スパームを飲んだりしたのか、と、言おうとしたら雪乃に手で口を塞がれた。
その顔は、真っ赤だった。……可愛い……
「きっと、アースキングさんを『運命の番』に書き換えるために必要だったんだよ。雪乃くんの希少種オメガの力だと思うよ」
神田は、こちらを気にすることなく話すと満足気に頷いた。
「……成る程。どちらも希少種だから出来たっていうことか。そして、どちらも『運命の番』を決める力があったってことだな?」
ずっと、黙っていたジーノが納得したように頷いた。
「そうだね。でも、まあ……推測でしかないけどね」
神田は、肩を竦めて苦笑した。
「理由がはっきりと分からなくてもいいです。ジェイと番えたから……それで充分です」
雪乃は俺の首筋に擦り寄って、微笑んだ。
「そうだな。過程なんかどうでもいい。雪乃が俺の運命の番だ。その事実だけで、充分だ」
雪乃を抱き締める腕に力を入れると、雪乃は俺の腕をギュッと握り締めた。
「ああ、そうだな。これで漸く、史人の元に帰れる」
ジーノが、深い深い溜め息を吐いた。
「仁乃兄さん……ごめんね……後で、史人さんに何か贈るよ」
雪乃の眉が下がった。
「気にするな。俺は帰るぞ? もう、大丈夫だな? 雪乃」
ジーノが兄の目で、雪乃を優しく覗き込んだ。
「うん。ありがとう、仁乃兄さん」
雪乃も柔らかく微笑んで、頷いている。
「色々、悪かったな、Brother。――助かった」
散々、ジーノに麻酔銃で撃たれたり、床に沈められたりしたが、礼を言うべきだろう。
俺が大量殺人を起こさずに済んだのは、忌々しいが、ジーノのお陰だ。
「これからは、俺も守ってくれよ? Brother」
ジーノは、顔を顰めて溜め息を吐いた。
「じゃあな、雪乃。また、後で来る」
「うん。仁乃兄さんも神田先生も、ありがとうございました」
雪乃が二人に礼を言ったので、俺も軽く頭を下げた。
ジーノは、雪乃の頭をひと撫ですると神田を伴って部屋の出口へと向かう。
部屋を出る間際、ジーノは俺を振り返った。
「良い子にしてたら、護ってやるよ。じゃあな、Brother」
ジーノは、ニヤリとふてぶてしく笑って部屋を出て行った。神田は、笑いながらひらひらと手を振ると、その後に続いた。
まともに飯も食べていなかったから、腹が減ったな。
スマホでマティーロに連絡を取り、食事を頼んでいると雪乃が俺の首に抱き着いて来た。
スマホとは逆の首に顔を埋めて、懐いて来る。
俺の匂いに染まった雪乃。
食事を頼み終わり、スマホを置いて雪乃を抱き締める。
「雪乃は凄いな……」
ふと、思う。
「何が?」
雪乃は、不思議そうに俺を見て首を傾げた。
「こんな、強力な運命の引力に逆らうなんて……本当に……凄いよ……」
雪乃の頬を撫でると、掌に擦り寄って来る。
「……そうかもね……でも、もし相手がジェイだったら……抗えなかったと思う……」
そうか……そういうことか……
もし、俺の運命が雪乃じゃない誰かだったら、俺も抗えたのかも知れないな……
「だったら、雪乃の最初の運命は、fakeだな」
「フェイク?」
雪乃がキョトンとして、俺を覗き込む。
「フェイクの運命に引っ掛かっていたら、本物の運命とは番えなかっただろ? 神の試練ってやつだな」
俺が真剣に言うと、雪乃はクスクスと笑い出した。
「……だとしたら、随分と俺達に厳しい神様だね? ジェイをこの場所に縛り付けて、動けなくして試すなんて……酷過ぎない?」
そうだな。俺達に随分と厳しいな。だけど……
「手に入れるものの価値が大きいんだから、仕方がないな。一等上等なものは、手に入れるのも難しいものだろう?」
俺がニヤリと笑って見せると、雪乃は……ポカンとしたまま、数度、瞬きをした。
その後、くしゃりと泣きそうな顔をして、俺の額に額を押し付ける。
「――――うん…………そうだね…………その通りだよ、……ジェイ……」
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