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本 編
J-ⅩⅤ Kiss of Flowers bloom 【キスの花が咲く】
しおりを挟む気分が悪い……
何度も麻酔銃で撃たれているせいで、悪酔いが治まらない。
唯、雪乃に会いたいだけなのに……何故、ここまで妨害されなければならない?
その理由は分かっているが、納得出来ない。
苛立ちは、一分一秒毎に増して行く。
初めてマティーロに麻酔銃で撃たれた後、いつの間にかやって来たジーノによって部屋に閉じ込められた。俺は、窓から外に出た。ジーノに見付かって、麻酔銃で撃たれた。
下着以外の服を全て取り上げられた。外に繋がる窓の全てに、外から鍵を掛けられた。ジーノの仕業だ。
シーツを身体に巻き付けて、窓を破壊して外に出た。また、ジーノに撃たれた。狩猟用のライフルだった。
ライフルで撃たれるのは、狼のはずだろうがっ……!!
部屋の窓が防弾ガラスと強化ガラスの二重窓に変わり、殴っても椅子をぶつけても壊れなかった。
人の家を勝手に改装しやがってっ……!!
窓を諦めて扉を殴っていたら、口元を布で覆ったジーノが現れて、何かのスプレーを吹き掛けられた。睡眠薬だった。急激な眠気に、その場に崩れ落ちて眠りに落ちた。
このっ……! Devil Wolf がっ……!!
それからは、食事を運んで来る時を狙って襲い掛かったが、ジーノの武術に惨敗して何度も床に沈められた……
気が付けば、手足をガッチリ縛られベッドに放置された。寝室のテレビに、病室のベッドで眠る雪乃が映し出される。
「Idiot Emperor 。雪乃が目覚めるまで、これで我慢しろっ! 大人しくしていないと、雪乃が目覚めても、そのまま日本に連れて帰るぞっ!」
ジーノに怒鳴られる。
――そう言われては、大人しくするしかない。
俺は、イライラしながらも大人しくしていた。俺がずっと苛ついているせいで、マティーロは邸宅の中に居られなくなった。食事はジーノが運んで来るようになり、俺が大人しくなったので拘束を外され、部屋に軟禁された。
苛立ちながらも、画面の中の雪乃に焦がれる。
それで、どうにか気を紛らわせながら仕事を済ませていると、ずっと動かなかった雪乃が身動ぎ、目を覚ました。
雪乃っ……!
緩慢な動作で、手をサイドテーブルに伸ばしている。きっと、水を欲しがっているんだっ……!
「おいっ! ジーノっ! 雪乃が目を覚ましたっ! 水を欲しがっているっ!!」
扉を殴って、ジーノを怒鳴り付けるように呼んだ。奴が入って来て、画面に映る雪乃を確認すると、スマホで病院に連絡し始めた。
開いている扉を見た瞬間、ジーノを力いっぱい突き飛ばし、部屋を飛び出した。
雪乃の傍に行かなければっ……!
俺の頭の中は、それだけでいっぱいだった。
だが、外へ出た途端に麻酔銃で撃たれ、その場で昏倒した。
それが、最後の記憶だ……
何度も麻酔銃で撃たれたせいで、背中が痛む。
だが……いつもみたいな苛つきがない。
……凄く……いい匂いに包まれているから……
暖かくて、柔らかくて、俺を何よりも慈しんでいる匂い……ちょっと甘くて、清涼としていて、俺を何よりも愛おしんでいる匂い……
俺の……愛おしい者の匂い……
初めて嗅ぐ匂いだ……いや、違う……前にも嗅いだ匂いが混じっている。
とても、とても、狂おしい程に惹き付けられる匂い。
……俺の……オメガの匂いだ……
そう感じた瞬間に、目を見開く。一気に目が覚めた。
――俺の腕の中に、会いたくて、会いたくて堪らなかった雪乃が居た……
雪乃っ……雪乃っ……! 雪乃っ……!!
誰にも奪われないように、両腕の中にしっかりと抱き締めて、閉じ込める。
ちゃんと、抱きしめた感触があるっ……!
雪乃の重みを感じるっ……!
雪乃の体温も伝わって来るっ……!
雪乃の脇の下に手を差し込んで身体を引き上げ、邪魔なネックガードのない首筋に顔を埋めた。
これがっ……! 雪乃の匂いっ……!!
何だ……雪乃が俺のっ……!! 運命じゃないかっ……!!!!
「ぅ、ぅん……?」
雪乃の首筋に、ぐりぐりと鼻を擦り付けていると雪乃が目を覚ました。
「雪乃っ……!! 逢いたかったっ……!! 雪乃っ……!!!!」
喜びで爆発しそうな感情に堪えながら、逃がし切れない感情を、雪乃を強く抱き締めることで凌ぐ。
一人で悶えていると、雪乃に頭を抱き締められた。
「ん、傍に居られなくて……ごめんね、ジェイ」
愛おしそうに、俺の頭を撫でてくる雪乃。
「もう……寂しい想いはさせないよ……ジェイ」
「雪乃っっっ……!!!!」
雪乃の言葉に、泣きそうになった。
雪乃は、俺の感情の爆発が治まるまで俺の頭を撫で続けた。
俺が落ち着いてくると、雪乃は俺の顔中にキスを落としてくる。
その、一つ一つが……俺を愛おしんでいるのが伝わって来るくらいの優しいキスで……ドキドキする。
「ジェイ、ご飯を一緒に食べよう?」
俺の鼻の頭に、雪乃がキスを落とす。
「……ああ」
「ご飯を食べたら……一緒に、お風呂に入ろう」
今度は、俺の瞼にキスをする。
「……ああ」
「その後は……ジェイと……繋がりたい……」
雪乃は、俺の唇に触れるだけのキスを落とす。
「っ……ああ!」
望むところだっ……!
俺が喜び勇んで答えると、雪乃に深く口付けられた。
随分と久しぶりに感じるキスに、夢中になって雪乃の舌を追い掛ける。
前よりも、ずっと旨くなった雪乃のキスに、貪るように喰い付く。
雪乃の堪らない匂いに、頭が甘く蕩けて幸福感に満たされる。それは、雪乃も同じようだった。
「はぁ……ジェイ……益々、美味しくなってる……」
雪乃は、蕩けた目で俺を見詰めて、艶めかしい吐息を吐き出しながら熱い視線を向けて来る。
雪乃の艶顔に胸を鷲掴みにされて、今度は俺から雪乃に、深く深く、キスをした。
逃げることなく絡み付いて来る雪乃の舌に、舌を絡めて撫で擦る。他の所を舐めたくても、雪乃の舌が許してくれない。雪乃の舌を可愛がり、俺の舌を可愛がられる……
俺の頭の中は、雪乃で埋め尽くされた。
お互いの唾液を呑み下して、唇を名残り惜しみながら離すと、互いが漏らした熱い吐息が混ざり合う……
我慢が出来なくなって、雪乃の腰から上着の中に手を潜り込ませようとしたら、雪乃の手に止められた。
「まだ、だめ……ご飯とお風呂が先。……ね?」
可愛く窘められて、唇をチュっと吸われた。
「~~~ッ!」
悶え死にしそうだった……
こうなれば、そのスケジュールをさっさと熟すしかない。
雪乃を抱いたまま身体を起こし、ベッドから出る。
寝室を出ると、テーブルに食事が用意されていた。取り上げられていた、俺のスマホも置かれている。
雪乃を抱いたままソファに座り、ホテルのテイクアウトらしい料理の包みを開けていく。
雪乃を抱いたままだから遣り難いが、関係ない。雪乃を離す方が嫌だ。
俺が準備をしている間、雪乃は俺の首筋や胸を愛おし気に指でなぞって、にこにことしている。
…………可愛い…………
ずっと眠り続けていた雪乃に合わせたのか、チキンヌードルスープと柔らかいパン。果実を細かく摩り下ろしたピーチゼリーだった。
「食べられそうか?」
スープにパンを千切って入れて、スプーンで掬って雪乃の口元に持って行くと、パクリと食べた。
どうやら、大丈夫みたいだ。
雪乃が食べた量は少なかったが、食べられただけ良かった。
残りは、俺が全部たいらげた。雪乃が俺に食べさせたがったからだ。食欲はなかったはずだが、雪乃に見守られながら食べる食事は、美味しく感じた。
雪乃は、ずっと上機嫌で俺の首筋を頻りに撫でていた。
食事が終わった後は、食休めの為にまったりとする。
雪乃は俺の首に抱き着いて、俺の髪を指に絡めて遊んでいる。お互いの首筋に顔を埋めながら穏やかな時間を過ごす。
「ジェイ、麻酔銃で撃たれた所は……大丈夫……?」
雪乃が心配そうな声で聞いてくる。
「少し痛むが……平気だ。精々、痣が残ったくらいだ」
雪乃の背中を撫でながら答える。
「本当に……? 良かった……」
雪乃は、安堵したように息を吐いた。
暫く、互いの体温を感じながら、ポツポツと言葉を交わした。
「雪乃……そろそろ、バスルームに行くか?」
尋ねると、雪乃は少し考え込んだ。
「行くけど……洗うのは……一人でしたい」
「何故?」
「…………恥ずかしいから…………やだ……」
何度も一緒にシャワーを浴びているのに、何を今更。
「何度も一緒に入っているだろう? 一緒に入ろうって、雪乃が言ったんじゃないか」
「ん、一緒には入るけど……後ろは……一人で準備したい……」
俺の首に顔を埋めながら答えた雪乃に、納得する。
ああ、前回……後ろを洗ったとき、泣くほど恥ずかしがっていたもんな。
「俺は、気にしないぞ?」
「俺は気にする」
俺の言葉に即答で返事をしてくる。
「雪乃と、少しも離れたくない」
「ぅぅ~……」
雪乃が唸っているが、これは譲れない。
また、雪乃と離れるのは嫌だ。
「なあ、雪乃。これから先、何度もすることになるんだから、慣れてくれ。――雪乃と離れるのは……本当に……嫌なんだ……」
雪乃に縋り付くように強く抱き締めると、暫く唸っていた雪乃は諦めたように頷いた。
雪乃の気が変わらないうちに、バスルームへ向かう。
脱衣所で雪乃の服を脱がせて、一旦、椅子に座らせる。唯一、身に着けていた下着一枚を脱ぎ去り、雪乃を抱き上げようと近付いたら、雪乃に腰を抱かれた。
「雪乃?」
雪乃は、俺の下生えが生えている直ぐ上辺りに、チュっ、チュっとキスをする。……擽ったい。
その顔は微笑んでいて、凄く嬉しそうだ。
俺が首を傾げていると、俺の下腹にくっ付いたままの雪乃が上目遣いに見上げて来る。
「ジェイは、俺のもの」
雪乃は、クスクスと笑いながら俺を見て目を細めた。
ふと、雪乃の後ろの壁にある大きな鏡に目が行く。
そこに映る俺の姿に、目を奪われる。
自分に見惚れた訳じゃない。
鏡に映った俺の上半身には、歪な五枚の花びらから成る、紅い花が咲いていた……
歪な花のある場所は、食事をしていた時に雪乃がにこにこしながら撫でていた場所だ。
首筋と、鎖骨の下の胸の辺りと鳩尾の側。
いつの間に付けたのか……雪乃は、俺の身体にキスマークで花を描いていた。
「雪乃……俺の身体に……花が咲いてるんだが……?」
雪乃は、悪戯っ子のように笑って俺の下腹にキスを落とした。
もしかして……そこにも付けたのか……?
雪乃の唇が離れると、そこには……
俺は、片手で目を覆って打ち震えた。
ヤバいっ……雪乃が可愛過ぎるっ……!! ヤバいっ……!! ヤバいっ……!!
抱き潰してしまいたいほどっ……可愛過ぎるっ……!!!!
俺の下生えの直ぐ上……そこには……
YU KI NO
と、キスマークで付けた小さめの……よくよく見ないと分からないような、歪なローマ字が並んでいた。
YUKINO……雪乃……
雪乃は俺の身体に、自分の名前を刻印していた……
しかも、下生えの直ぐ上に。
まるで、俺のペニスは自分のものだと主張するようにだっ……!
可愛過ぎるだろっ……!?!?
今迄の人生で、これ程までに悶えたことはない。
「雪乃っ……ちょっと、スマホを取ってくる」
こんな、可愛いアートを記録せずにはいられない!
絶対に記録する!!
でも雪乃と離れるのは嫌だったから、雪乃を抱き上げて部屋に戻る。
雪乃に撮影を頼んで、撮って貰った。
勃起してしまった俺のペニスを横にずらしながら、ポーズをキメる。
ソファに横になって、片足を立てろと雪乃が言うから言われた通りにしたら、太腿の内側にも歪な花が咲いていた……
もう、俺の顔は緩みっ放しだ。
「これで全部か? 雪乃」
「うん。口が痛くなったから……」
くっ……! 口が痛くなるほど、俺の身体にキスマークを付けてくれたのかっ……!!
この愛おしい存在に、神に感謝する。
雪乃を掻き抱いて、ぎゅうぎゅうと抱き締めた。
早く、シャワーを済ませなければっ……!
その場で抱き潰したいのを我慢して、バスルームへと戻った。
先に、雪乃が嫌がっている洗浄を済ませる。
バスルームの中には、一見、扉だとわからない壁があり、その中にオメガの洗浄用の部屋がある。早い話がトイレだが、オメガが洗浄をし易いように工夫されたものだ。必要なものが揃っている場所だ。
前の時は、雪乃が熱を出してフラフラだったから使わなかった。
雪乃にタオルで目隠しをされて、鼻を摘んでいるように言われ、その通りにする。
ゴソゴソとしていた雪乃の指が両耳に挿し込まれ、ゴショゴショ、ゴショゴショと動かされて、音が聞こえないようにされた。
考えたな……雪乃……
暫くすると、雪乃に手を引かれシャワーのある方へと連れて行かれた。
目隠しを外されると、顔を真っ赤にした雪乃が恥ずかしそうに抱き着いて来る。
可愛いな……全然、気にしないのに。
雪乃を正面から抱いたまま、椅子に腰掛けて身体を洗い始める。
そして……勃起したペニスを当然のように雪乃に握り締められた。
「――――雪乃は、俺のペニスを握るのが好きなのか?」
正気の雪乃に尋ねてみる。
「んー……ちょうど良い場所にあるから? 握り心地も良いし……なんか……可愛いし……」
雪乃は首を傾げながら、ペニスをにぎにぎとする。
「っ……そ、そうか……」
――俺だって、嫌な訳じゃない。嫌な訳じゃないが……ある意味、拷問に近い……
雪乃の髪や身体を丁寧に洗いながら、雪乃に髪を洗われ、何とかやることを済ませる。二人で歯も磨いた。
正気の雪乃は、ずっと俺のペニスをやわやわと撫で擦るから…………質が悪い…………
浴槽には浸からずにシャワーだけで済ませ、バスルームを後にした。
髪を乾かしている間も、雪乃の攻撃は止まらない。
頭に血が上りそうになるのを堪えながら、一通り熟して、漸くベッドに雪乃を連れ込んだ。
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