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本 編
J‐Ⅻ I don't need fate 【運命は要らない】
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J‐Ⅻ I don't need fate 【運命は要らない】
俺の下で、ぐったりとしている雪乃を見る。
しまった……遣り過ぎた……
興奮し過ぎて、箍が外れていた。
セックスで、こんなにも興奮するなんて初めてだ。
意識のない雪乃を抱き締めて横になる。午前の分も合わせると、六回も射精してしまった。
雪乃の中は気持ちが良くて、どうにかなってしまいそうだった……
身体も心も、こんなに相性が良いのに、それでも雪乃は俺の運命の番じゃない……
俺に平気で触れられる雪乃。雪乃が側に居れば、俺の厄介な無意識の威圧がなくなる。俺のペニスを初めてなのに受け入れてみせた雪乃。
少量の弛緩剤を使ったとはいえ、こんなに易易と俺を受け容れるなんて……まるで、俺の為にあるような身体だった。
ジーノ達の話を信じるのなら、運命の番は雪乃以上に惹かれる存在だということになる。
そんな存在が、本当に居るのか?
雪乃よりも愛おしい存在が?
どうしても、そうは思えなかった。
俺の本能は、雪乃を逃がすなと言っている。
抱き締めた雪乃の身体が熱い……また、熱がぶり返してしまった。
流石にこれは、俺のせいだな……
お互いに汗だくの身体を何とかしなければ。
雪乃の中から、俺のスパームを掻き出さないと拙い。
意識のない雪乃を抱き上げてバスルームへ向かう。意識のない人間は、凄く重い。雪乃は身長もあるし、スリムではあるが、細すぎる程でもない。身体もしっかりとした男の身体だ。
バスルームにあるマッサージ用の寝台に、雪乃を寝かせた。
先ずは、中に出した俺のものを掻き出してしまわないと。
ゴムなしで出来たのは凄く気持ちよかったが、何でゴムを嫌がったんだろうな?
雪乃の足の間に座って、近くに付いているシャワーヘッドを外し、お湯を出す。
雪乃の腹に付着して乾き始めた雪乃自信のスパームを簡単に流して行く。
雪乃のアナルに指を入れて無心で掻き出して、お湯で洗った。
雪乃をバスルームで洗うことに、すっかり慣れたような気がする。
髪や身体を洗い、身体を拭いて服を着せ、ドライヤーで髪とネックガードを乾かす。
一旦、ソファに寝かせ、寝室のシーツを変えてから雪乃を抱き上げてベッドに寝かせる。
その後は、自分の髪を乾かして、雪乃の傍で適当に食事を済ませた。
雪乃の熱を測ってみると、39度近い。解熱剤を口移しで飲ませる。序でに、経口補水液も飲ませた。
雪乃の隣に座り、ノートパソコンで仕事をする。俺の持つ会社は人に任せてあるから、それ程することはないので直ぐに終わる。
会社の乗っ取りにさえ気を付けていればいい。もし、乗っ取られても、最小限の被害で済むように対策は打ってある。
終われば、雪乃を抱き締めて一緒に眠った。
雪乃は、熱を出して二日間寝込んだ。
時々、ぼんやりと目を覚ます雪乃にゼリーを口移しで食べさせて、水分を摂らせる。トイレに行きたがった時は抱き上げて連れて行き、介助した。
汗を掻いた服を着せ替えながら身体も拭いた。
コーガに連絡を取り、神田が様子を診に来て、幾つか薬を置いて行った。
雪乃の容態を尋ねても、疲れのせいだと言って教えてはくれない。
神田は、オメガだ。俺と雪乃がセックスしたことには、匂いで気付いたはずだが……咎められることはなかった。
日中に雪乃と眠っていたせいで、夜に眠れなくなってしまった。
ノートパソコンで、適当に動画やニュースを観ていると雪乃が身動いだ。
ノートパソコンを閉じてサイドテーブルに置く。俺に背中を向けて横になっている雪乃の手が、シーツの上を彷徨っている。
俺を探している仕草だ。
雪乃を背中から抱き締めてやると、ほっとしたように手の動きが止まった。
解熱剤が効いているのか、熱が少し下がっている。
そのまま、雪乃を抱き起こしてゼリーや水分を口移しで飲ませた。
俺に凭れたまま、ぼうっとしている雪乃に尋ねる。
「――雪乃。雪乃は、オメガなのか?」
ずっと、考えていた。オメガのフェロモンが感じられないだけで、雪乃の行動はオメガそのものだ。
雪乃は、小さく頷いた。
やっぱり、オメガだった。
オメガなら話は早い。ガラクタアルファにならなくて済む。
「雪乃からフェロモンの匂いがしないのは、何故だ……?」
雪乃の意識が曖昧な状態で聞くのはずるいかもしれないが、どうしても知りたい。
「……ねむった……」
眠った? どういう意味だ?
「……運命と番えなかったから……ねむった……」
「っ!?」
運命? 雪乃の運命の番か……!?
血の気が下がるような、全身を嫉妬と独占欲で焙られるような不安と焦燥が駆け巡る。ドクドクと胸が早鐘を打って、激しく動揺した。
背中から雪乃を抱き締めていた腕に、力が入る。
雪乃は、運命の番に出逢っていたのか……だから、俺が雪乃のアルファじゃないと分かっていた。
「……雪乃は……そいつのことが好きなのか……?」
――俺よりも……?
「好きじゃない……もう、運命じゃなくなった……」
その言葉に、ほっとする。
だが、運命じゃなくなった、とは、どういう意味だ?
「――ジェイが……運命の番なら良かったのに……」
雪乃は、つうっと涙を流して目を閉じた。
「雪乃っ……」
雪乃をぎゅうぅっと抱き締める。
雪乃も、ちゃんと俺を望んでくれている。
そうか、雪乃は運命の番に出逢っていたのか。だから、運命の引力は凄いものだと知っていた。
だけど、雪乃は番っていない。
それは、運命に抗ったってことなんだろう?
雪乃に出来たのなら、俺だって抗ってみせる。
「俺の運命は、雪乃だ」
運命の番なんか要らない。俺が欲しいのは、雪乃だけだ。
雪乃がオメガなら、今までの行動に全て説明が付く。
俺のスパームを欲しがるのは、子供が欲しいから。オメガの本能だといえる。だから、避妊されることを嫌がったのか。俺の子が欲しかったということだ。俺の子が欲しいとも言っていたしな……
俺のスパームが美味いと感じるのは、俺との相性が頗る良いから。俺も雪乃のスパームが旨かった。かなり、相性が良い証拠だ。
実際、身体の相性は最高だった。俺の身体がぴったりと嵌まる雪乃の身体。セックスに慣れれば、俺を全て受け止めてくれるだろう。
思えば、最初からしっくり来ていた。雪乃を抱き締める度にすっぽりと嵌まるようだった。熱を出した時の雪乃の甘えっぷりは、俺の傍が一番心地良かったからだ。
俺の傍に居たいと全身で訴えていた。
雪乃が俺と距離を取ろうと離れても、直ぐに距離が近くなる。雪乃は、無意識に俺に縋るようにくっ付いて来る。
お互いに、こんなにも惹かれ合っているのに、何故、運命の番じゃないんだ。
運命の番になるには、何が足りない?
――――フェロモンか……
フェロモンの……匂いが足りないのか?
本当なら、雪乃の匂いでマストを起こすはず。俺の匂いで、雪乃はヒートを起こすはずなんだ。
他のオメガなら簡単にヒートを起こすはずなのに、雪乃だけはヒートを起こさない。
胎内に俺のスパームを取り込んでも、ヒートを起こさない。
お互いに匂いが分からないのに、こんなにも惹かれ合う。
雪乃の匂いは、どんな匂いなんだろうな――
雪乃のスパームは、凄く良い匂いがした。
あれが、雪乃のフェロモンの匂いなのか……?
俺のスパームは、俺のフェロモンの匂いが濃厚なはずだよな? オメガやアルファなら、雪乃とセックスしたことが直ぐに分かるくらい俺の匂いに染まっている雪乃。
だけど、雪乃には俺の匂いが分からない……
スパームが旨いということは、僅かでも……お互いにフェロモンの匂いを嗅ぎ取れているということだよな? それとも、匂いと味は別なのか……?
でも、俺も雪乃も発情していない。
何故だ……
お互いに、旨いと感じるのに……おかしいだろ。
雪乃のオメガ性が眠っているから……?
雪乃のスパームの匂いは、いい匂いだったけれど、あっと言う間に掻き消えた。かなり、薄い匂いだったってことだよな。
匂いは直ぐに消えても、旨いとは感じる。
雪乃の身体が正常に戻れば、ちゃんと雪乃の匂いを嗅ぎ取れるようになるのか?
俺は、深く溜め息を吐いた。
医者じゃないんだから、解るはずもない。
俺は、ぐるぐると答えの出ない思考を巡らせることになった。
雪乃がぼんやりと目覚めるたびに、食事をさせたり、水分を摂らせたり、トイレにも抱き抱えて連れて行った。
着替えや身体を拭くのは、雪乃が眠っている間に済ませる。
雪乃がぼんやりと起きるたびに、囁いた。
「雪乃。好きだ……愛してる。……俺と、番になろう?」
そう囁くたびに、雪乃は辛そうに顔を歪めて涙を零した。
意識のはっきりしていない、朦朧とした状態でも雪乃が頷くことはなかった……
「何故、頷いてくれない? 何が駄目なんだ……?」
何度も問い掛けるが、答えは返ってこない。
だが、解熱剤が効いて熱が下がっていた時に、漸く、訊き出すことが出来た。
「……運命の番には……番がいた……」
ぼそりと呟いた雪乃を横たわったまま抱き締め優しく髪を撫でる。
雪乃の運命の番には、既に番が居た。
だから、番えなかったのか……
一人しか愛せない大神一族の雪乃には、アルファを共有することなんて、許せなかったのだろう。
「……彼は……番の彼女の目の前で……俺を選ぼうとした……彼女を……切り捨てようと……したんだ……」
既に番っていた者を捨てて、運命の番は雪乃を選ぼうとしたのか。
「雪乃……」
「――あの時の……彼女の顔が……姿が……目に焼き付いて離れないんだ……」
番っていたということは、項を噛んだということ。
オメガにしてみたら、噛まれて捨てられることは死活問題だ。人生の終わりにも等しい。
「ジェイと番ったら……今度は俺が……彼女になる……」
――――そうか。
雪乃が恐れているのは、それか……
もし、俺が運命の番に出逢ったら、雪乃は自分が捨てられると思っているのか。
「雪乃……俺の運命は雪乃だ。必ず、雪乃を選ぶ」
腕の中の雪乃をぎゅうぅっと、抱き締める。
「…………彼女は……とても、強い……彼の執着のフェロモンを纏っていた……それでも……捨てられそうになった……」
アルファのマーキング。運命の番と出逢う直前迄は、その番を執着心を隠すこともなく愛していたのか。
それ程……運命の引力が強力だということ。
「でも、雪乃は運命に抗ったんだろう? なら、俺も必ず抗ってみせる……」
「…………」
それでも雪乃は、信じてくれない。
「雪乃……フェロモンの匂いなんかなくても、雪乃を愛しているんだ。――雪乃に強く惹かれている……運命よりも、雪乃が欲しい」
どんなに言葉を重ねても、雪乃は頷かない。
何故、俺を信じてくれないんだと、もどかしくなる。
「雪乃。雪乃は、俺なんて要らないのか……? 俺には、そんなに簡単に諦めてしまえる程の価値しかないのか?」
腕の中の雪乃が、ピクリと震えた。
「……そんな訳……ないっ……!」
否定してくれた雪乃に、ほっとする。
雪乃の涙で濡れた頬を片手で撫でるようにしながら、顔を上げさせる。
雪乃の唇に、やんわりとキスをした。
何度も繰り返して、キスを深める。
雪乃は、されるがままに受け入れてくれる。
雪乃の熱で熱い舌を擽りながら、舐めあげる。雪乃は、ノロノロと俺の舌に舌を絡ませて、応えようとしてくる。
俺のことを美味しいと言うだけあって、求めるようにキスを返してくる雪乃が――可愛い。
「ン……ん……」
雪乃は、甘い声を零しなから、とろん、とした顔になった。
「運命なんて要らない。雪乃だけでいい」
雪乃の唇を喰む。
「もし、俺の運命の番が現れた時は……俺が運命の番を選ぼうとしたら、その時は……」
雪乃の額に額を押し付ける。
「二人で……Junkになろう……」
「……ジェイ……」
「俺を、ズダズダのボロボロにしてくれ……雪乃……」
「ジェイっ……」
雪乃になら出来るはずだ。
大神一族の雪乃になら。
「――狼共を引き連れて、俺を運命から奪ってくれ……」
そう告げると、雪乃に唇を奪われた。
必死に動かない舌を動かして、俺を貪る雪乃を掻き抱いてキスに応える。
雪乃は、泣きながら……何度も俺にキスをした。
その内に、雪乃の瞼が重くなって来て、俺の下唇を咥えたまま……寝落ちた。
こんなに俺を求めているくせに、俺から離れられると本気で思っているのか? 雪乃。
俺は、絶対に、逃さない。
俺の下で、ぐったりとしている雪乃を見る。
しまった……遣り過ぎた……
興奮し過ぎて、箍が外れていた。
セックスで、こんなにも興奮するなんて初めてだ。
意識のない雪乃を抱き締めて横になる。午前の分も合わせると、六回も射精してしまった。
雪乃の中は気持ちが良くて、どうにかなってしまいそうだった……
身体も心も、こんなに相性が良いのに、それでも雪乃は俺の運命の番じゃない……
俺に平気で触れられる雪乃。雪乃が側に居れば、俺の厄介な無意識の威圧がなくなる。俺のペニスを初めてなのに受け入れてみせた雪乃。
少量の弛緩剤を使ったとはいえ、こんなに易易と俺を受け容れるなんて……まるで、俺の為にあるような身体だった。
ジーノ達の話を信じるのなら、運命の番は雪乃以上に惹かれる存在だということになる。
そんな存在が、本当に居るのか?
雪乃よりも愛おしい存在が?
どうしても、そうは思えなかった。
俺の本能は、雪乃を逃がすなと言っている。
抱き締めた雪乃の身体が熱い……また、熱がぶり返してしまった。
流石にこれは、俺のせいだな……
お互いに汗だくの身体を何とかしなければ。
雪乃の中から、俺のスパームを掻き出さないと拙い。
意識のない雪乃を抱き上げてバスルームへ向かう。意識のない人間は、凄く重い。雪乃は身長もあるし、スリムではあるが、細すぎる程でもない。身体もしっかりとした男の身体だ。
バスルームにあるマッサージ用の寝台に、雪乃を寝かせた。
先ずは、中に出した俺のものを掻き出してしまわないと。
ゴムなしで出来たのは凄く気持ちよかったが、何でゴムを嫌がったんだろうな?
雪乃の足の間に座って、近くに付いているシャワーヘッドを外し、お湯を出す。
雪乃の腹に付着して乾き始めた雪乃自信のスパームを簡単に流して行く。
雪乃のアナルに指を入れて無心で掻き出して、お湯で洗った。
雪乃をバスルームで洗うことに、すっかり慣れたような気がする。
髪や身体を洗い、身体を拭いて服を着せ、ドライヤーで髪とネックガードを乾かす。
一旦、ソファに寝かせ、寝室のシーツを変えてから雪乃を抱き上げてベッドに寝かせる。
その後は、自分の髪を乾かして、雪乃の傍で適当に食事を済ませた。
雪乃の熱を測ってみると、39度近い。解熱剤を口移しで飲ませる。序でに、経口補水液も飲ませた。
雪乃の隣に座り、ノートパソコンで仕事をする。俺の持つ会社は人に任せてあるから、それ程することはないので直ぐに終わる。
会社の乗っ取りにさえ気を付けていればいい。もし、乗っ取られても、最小限の被害で済むように対策は打ってある。
終われば、雪乃を抱き締めて一緒に眠った。
雪乃は、熱を出して二日間寝込んだ。
時々、ぼんやりと目を覚ます雪乃にゼリーを口移しで食べさせて、水分を摂らせる。トイレに行きたがった時は抱き上げて連れて行き、介助した。
汗を掻いた服を着せ替えながら身体も拭いた。
コーガに連絡を取り、神田が様子を診に来て、幾つか薬を置いて行った。
雪乃の容態を尋ねても、疲れのせいだと言って教えてはくれない。
神田は、オメガだ。俺と雪乃がセックスしたことには、匂いで気付いたはずだが……咎められることはなかった。
日中に雪乃と眠っていたせいで、夜に眠れなくなってしまった。
ノートパソコンで、適当に動画やニュースを観ていると雪乃が身動いだ。
ノートパソコンを閉じてサイドテーブルに置く。俺に背中を向けて横になっている雪乃の手が、シーツの上を彷徨っている。
俺を探している仕草だ。
雪乃を背中から抱き締めてやると、ほっとしたように手の動きが止まった。
解熱剤が効いているのか、熱が少し下がっている。
そのまま、雪乃を抱き起こしてゼリーや水分を口移しで飲ませた。
俺に凭れたまま、ぼうっとしている雪乃に尋ねる。
「――雪乃。雪乃は、オメガなのか?」
ずっと、考えていた。オメガのフェロモンが感じられないだけで、雪乃の行動はオメガそのものだ。
雪乃は、小さく頷いた。
やっぱり、オメガだった。
オメガなら話は早い。ガラクタアルファにならなくて済む。
「雪乃からフェロモンの匂いがしないのは、何故だ……?」
雪乃の意識が曖昧な状態で聞くのはずるいかもしれないが、どうしても知りたい。
「……ねむった……」
眠った? どういう意味だ?
「……運命と番えなかったから……ねむった……」
「っ!?」
運命? 雪乃の運命の番か……!?
血の気が下がるような、全身を嫉妬と独占欲で焙られるような不安と焦燥が駆け巡る。ドクドクと胸が早鐘を打って、激しく動揺した。
背中から雪乃を抱き締めていた腕に、力が入る。
雪乃は、運命の番に出逢っていたのか……だから、俺が雪乃のアルファじゃないと分かっていた。
「……雪乃は……そいつのことが好きなのか……?」
――俺よりも……?
「好きじゃない……もう、運命じゃなくなった……」
その言葉に、ほっとする。
だが、運命じゃなくなった、とは、どういう意味だ?
「――ジェイが……運命の番なら良かったのに……」
雪乃は、つうっと涙を流して目を閉じた。
「雪乃っ……」
雪乃をぎゅうぅっと抱き締める。
雪乃も、ちゃんと俺を望んでくれている。
そうか、雪乃は運命の番に出逢っていたのか。だから、運命の引力は凄いものだと知っていた。
だけど、雪乃は番っていない。
それは、運命に抗ったってことなんだろう?
雪乃に出来たのなら、俺だって抗ってみせる。
「俺の運命は、雪乃だ」
運命の番なんか要らない。俺が欲しいのは、雪乃だけだ。
雪乃がオメガなら、今までの行動に全て説明が付く。
俺のスパームを欲しがるのは、子供が欲しいから。オメガの本能だといえる。だから、避妊されることを嫌がったのか。俺の子が欲しかったということだ。俺の子が欲しいとも言っていたしな……
俺のスパームが美味いと感じるのは、俺との相性が頗る良いから。俺も雪乃のスパームが旨かった。かなり、相性が良い証拠だ。
実際、身体の相性は最高だった。俺の身体がぴったりと嵌まる雪乃の身体。セックスに慣れれば、俺を全て受け止めてくれるだろう。
思えば、最初からしっくり来ていた。雪乃を抱き締める度にすっぽりと嵌まるようだった。熱を出した時の雪乃の甘えっぷりは、俺の傍が一番心地良かったからだ。
俺の傍に居たいと全身で訴えていた。
雪乃が俺と距離を取ろうと離れても、直ぐに距離が近くなる。雪乃は、無意識に俺に縋るようにくっ付いて来る。
お互いに、こんなにも惹かれ合っているのに、何故、運命の番じゃないんだ。
運命の番になるには、何が足りない?
――――フェロモンか……
フェロモンの……匂いが足りないのか?
本当なら、雪乃の匂いでマストを起こすはず。俺の匂いで、雪乃はヒートを起こすはずなんだ。
他のオメガなら簡単にヒートを起こすはずなのに、雪乃だけはヒートを起こさない。
胎内に俺のスパームを取り込んでも、ヒートを起こさない。
お互いに匂いが分からないのに、こんなにも惹かれ合う。
雪乃の匂いは、どんな匂いなんだろうな――
雪乃のスパームは、凄く良い匂いがした。
あれが、雪乃のフェロモンの匂いなのか……?
俺のスパームは、俺のフェロモンの匂いが濃厚なはずだよな? オメガやアルファなら、雪乃とセックスしたことが直ぐに分かるくらい俺の匂いに染まっている雪乃。
だけど、雪乃には俺の匂いが分からない……
スパームが旨いということは、僅かでも……お互いにフェロモンの匂いを嗅ぎ取れているということだよな? それとも、匂いと味は別なのか……?
でも、俺も雪乃も発情していない。
何故だ……
お互いに、旨いと感じるのに……おかしいだろ。
雪乃のオメガ性が眠っているから……?
雪乃のスパームの匂いは、いい匂いだったけれど、あっと言う間に掻き消えた。かなり、薄い匂いだったってことだよな。
匂いは直ぐに消えても、旨いとは感じる。
雪乃の身体が正常に戻れば、ちゃんと雪乃の匂いを嗅ぎ取れるようになるのか?
俺は、深く溜め息を吐いた。
医者じゃないんだから、解るはずもない。
俺は、ぐるぐると答えの出ない思考を巡らせることになった。
雪乃がぼんやりと目覚めるたびに、食事をさせたり、水分を摂らせたり、トイレにも抱き抱えて連れて行った。
着替えや身体を拭くのは、雪乃が眠っている間に済ませる。
雪乃がぼんやりと起きるたびに、囁いた。
「雪乃。好きだ……愛してる。……俺と、番になろう?」
そう囁くたびに、雪乃は辛そうに顔を歪めて涙を零した。
意識のはっきりしていない、朦朧とした状態でも雪乃が頷くことはなかった……
「何故、頷いてくれない? 何が駄目なんだ……?」
何度も問い掛けるが、答えは返ってこない。
だが、解熱剤が効いて熱が下がっていた時に、漸く、訊き出すことが出来た。
「……運命の番には……番がいた……」
ぼそりと呟いた雪乃を横たわったまま抱き締め優しく髪を撫でる。
雪乃の運命の番には、既に番が居た。
だから、番えなかったのか……
一人しか愛せない大神一族の雪乃には、アルファを共有することなんて、許せなかったのだろう。
「……彼は……番の彼女の目の前で……俺を選ぼうとした……彼女を……切り捨てようと……したんだ……」
既に番っていた者を捨てて、運命の番は雪乃を選ぼうとしたのか。
「雪乃……」
「――あの時の……彼女の顔が……姿が……目に焼き付いて離れないんだ……」
番っていたということは、項を噛んだということ。
オメガにしてみたら、噛まれて捨てられることは死活問題だ。人生の終わりにも等しい。
「ジェイと番ったら……今度は俺が……彼女になる……」
――――そうか。
雪乃が恐れているのは、それか……
もし、俺が運命の番に出逢ったら、雪乃は自分が捨てられると思っているのか。
「雪乃……俺の運命は雪乃だ。必ず、雪乃を選ぶ」
腕の中の雪乃をぎゅうぅっと、抱き締める。
「…………彼女は……とても、強い……彼の執着のフェロモンを纏っていた……それでも……捨てられそうになった……」
アルファのマーキング。運命の番と出逢う直前迄は、その番を執着心を隠すこともなく愛していたのか。
それ程……運命の引力が強力だということ。
「でも、雪乃は運命に抗ったんだろう? なら、俺も必ず抗ってみせる……」
「…………」
それでも雪乃は、信じてくれない。
「雪乃……フェロモンの匂いなんかなくても、雪乃を愛しているんだ。――雪乃に強く惹かれている……運命よりも、雪乃が欲しい」
どんなに言葉を重ねても、雪乃は頷かない。
何故、俺を信じてくれないんだと、もどかしくなる。
「雪乃。雪乃は、俺なんて要らないのか……? 俺には、そんなに簡単に諦めてしまえる程の価値しかないのか?」
腕の中の雪乃が、ピクリと震えた。
「……そんな訳……ないっ……!」
否定してくれた雪乃に、ほっとする。
雪乃の涙で濡れた頬を片手で撫でるようにしながら、顔を上げさせる。
雪乃の唇に、やんわりとキスをした。
何度も繰り返して、キスを深める。
雪乃は、されるがままに受け入れてくれる。
雪乃の熱で熱い舌を擽りながら、舐めあげる。雪乃は、ノロノロと俺の舌に舌を絡ませて、応えようとしてくる。
俺のことを美味しいと言うだけあって、求めるようにキスを返してくる雪乃が――可愛い。
「ン……ん……」
雪乃は、甘い声を零しなから、とろん、とした顔になった。
「運命なんて要らない。雪乃だけでいい」
雪乃の唇を喰む。
「もし、俺の運命の番が現れた時は……俺が運命の番を選ぼうとしたら、その時は……」
雪乃の額に額を押し付ける。
「二人で……Junkになろう……」
「……ジェイ……」
「俺を、ズダズダのボロボロにしてくれ……雪乃……」
「ジェイっ……」
雪乃になら出来るはずだ。
大神一族の雪乃になら。
「――狼共を引き連れて、俺を運命から奪ってくれ……」
そう告げると、雪乃に唇を奪われた。
必死に動かない舌を動かして、俺を貪る雪乃を掻き抱いてキスに応える。
雪乃は、泣きながら……何度も俺にキスをした。
その内に、雪乃の瞼が重くなって来て、俺の下唇を咥えたまま……寝落ちた。
こんなに俺を求めているくせに、俺から離れられると本気で思っているのか? 雪乃。
俺は、絶対に、逃さない。
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