運命の番に為る

夢線香

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14. 想い惑う ☆

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 意識が浮上して来て、ゆっくりと目を開ける。

 身体が怠い……

 どうやら、ジェイの寝室に寝ていたみたいだ。

 何か……外国まで旅行に来たのに、寝てばかりだな。

 観光だって、テーマパークにしか行っていない。家族の皆は、どこに行ったのかな? 今日は、何日だろう?

 旅行の日程は、十日間。

 後、何日……ジェイと一緒に居られるのかな……?

 横で眠っているジェイを見る。

 ジェイと、えっちなこと……しちゃったな……

 恥ずかしかったけど……嫌じゃなかった……

 こんなガラクタオメガに興奮してくれて、嬉しくもあった。

 やっぱり、俺は、根っからのオメガだったんだな。アルファに愛されたいという欲が、ちゃんとあったんだ。


 旅行が終われば、ジェイとは会えなくなるのか……


 胸の奥が、キュ~~~っと締め付けられるように痛んだ。


 ジェイが俺のアルファだったら良かったのに……


 ――俺、ジェイが好きだ。多分、愛してる……


 この感情が、オメガの本能から来るものだとしても、感じる愛おしさは嘘じゃない。嘘とは思えない。

 出逢ってから何日も経っていないのに、自分でも驚くぐらい、どっぷりとジェイにはまってる。


 俺が、ジェイの運命の番に成りたかったな……


 ガラクタオメガだけど、今の俺でも子供が産めるのかな?

 ヒートもないガラクタだけど、産めるかな……?

 せめて、ジェイの子供が欲しい。

 その子が居れば、この先の俺の人生も寂しいものじゃなくなるような気がする。

 神田先生に、相談してみようかな。


 それにしても、お腹が減ったな……

 ずっと、まともな食事を食べていない気がする。

 ベッドに手を突いて上半身をのろのろと起こしたけど、頭がグラグラして前のめりに倒れ込み、ジェイのお腹に顔面から突っ込んだ。

 ドスッ……!

「「グぅっ……!?」」

 二人で呻き声を上げる。
 
 ジェイにしてみれば、行き成り鳩尾に攻撃を受けて痛かったのだろう。

「うっ……雪乃……? どうしたんだ……?」


 ジェイが顔を歪めながら、上半身を起こして俺を見下ろしてくる。

「……ごめん……お腹空いた……」

 ジェイのお腹に片頬を付けながら、謝罪と空腹を訴えた。

 ジェイは、ハッとして強張った顔をしたかと思ったら、そこからの彼の行動は速かった。

 慌てたように俺の身体をベッドに戻して、何処かにスマホで連絡を取る。連絡を終えると、俺を羽交い締めにでもするように、脇の下に腕を通して抱き締めて来た。

「今、食べ易いものを頼んだから、もうちょっと我慢しような?」

「……うん?」

 いや……そのくらい待てるけど。

 よく分からなかったけど、取り敢えず頷いておいた。


 暫くすると、コーンスープにパンとフルーツや温野菜が届けられた。

 頭がクラクラしてまともに座っていられない俺をジェイが後ろから抱き締めるように支えてくれて、甲斐甲斐しく食べさせてくれた。

 動けない俺は、それに甘えて素直に食べさせて貰う。

 ジェイはご機嫌だった。アルファの給餌欲求が満たされたのかも知れない。アルファは、番に対してだけは、お世話好きな性だからなあ。

 俺に対して、その欲求が発露したのなら俺も嬉しいよ。


「ジェイ、神田先生に電話したいんだけど、その……一人で……」

 食事を摂った後に、そう切り出した。

 流石に、ジェイの前で子供が作れるかなんて聞けない。

 ジェイは、俺のスマホを持って来てくれて寝室を出て行ってくれた。


 早速、神田先生に電話する。

 神田先生は、直ぐに電話に出てくれた。

『雪乃くん? どうかした? 何処か具合が悪い?』

「頭がちょっと、クラクラするけど平気」

『熱は?』

「まだ、ちょっとあるけど、高い程じゃないです」

 電話の向こうで、ほっとしたような神田先生に苦笑する。

「神田先生に、訊きたいことがあって……」


 俺の質問に対する神田先生の回答は、難しいだろうね、だった。

 俺のオメガ性が眠ってしまって活動を止めてしまっているから、オメガ性が目覚めたとしても、直ぐに正常に活動するか分からないんだって。それと、ヒートが起こらなければ、難しいんじゃないかとも言われた。

 でも、今、出ている熱は、俺のオメガ性が目覚めようとしているからだと教えてくれた。

 どうやら、ジェイとキスしてアルファの体液を取り入れたことで、ジェイのアルファ因子に刺激されて目覚めようとしているんじゃないかって。


 それは……困るな……


 ジェイの子供は欲しいけれど、ヒートが起こるように成るのは困る。ずっと、ジェイと一緒にいられる訳じゃない。

 だけど、オメガ性が目覚めなければ子供も作れない。

『雪乃くん、アースキングさんと番ってもいいと思うよ』

 神田先生の意外な言葉に驚く。

「え……でも、ジェイには運命の番がいるじゃないですか……」

『――そうだね。きっと、何処かにはいるのかも知れないね。だけどね、雪乃くん。君は、大神家の人間だから感覚が麻痺しているのかも知れないけれど、普通は、運命の番と出会えない者達が殆どなんだよ?』

「それは……そうだけど、ジェイは希少種のアルファだから、運命の番に会う確率はかなり高いですよね?」

『確かにね……希少種アルファは、運命の番を引き寄せ易いからね。でも、そんな希少種アルファが、雪乃くんを望むなら話は別』

「どういうことですか?」

 意味が分からなくて、首を傾げる。

『アルファにしても、オメガにしても、希少種は執着や本能が普通のアルファやオメガより、ずっと強いんだよ』

「……?」

 益々、分からない。

『そんな執着の塊みたいなアルファが、雪乃くんを望んでいるんだ。寧ろ、逃がしては貰えないよ?』

「それは……」

 そうなんだろうか……?

『ふふっ。こんな言い方は医者として失格だけど、運命の番が現れたのなら、その時はその時だよ。雪乃くんは、どうしたい? 彼とこのまま、サヨナラするの? それとも、どんな結果になったとしても彼を欲しいと思う?』

「俺は――」

 答えは、出て来なかった。

『雪乃くん。よく、考えてみて。どういう結果になっても、彼を欲しいと思える程の想いがあるのかどうかを、さ』


 俺の……想い……


「――分かりました。もっと、考えてみます」

『うん。雪乃くんの幸せを祈っているよ』

「神田先生、ありがとうございます」

 通話を切って、考え込む。

 ジェイは、俺をベータだと思ってる。だから、ガラクタアルファになってもいいって言ってくれた。

 じゃあ、俺がオメガだと知ったら?

 直ぐに、項を噛むのかな……?

 確かに、運命の番は現れるかどうかなんて分からない。

 もし、現れなかったら……ジェイは、この場所から何処にも行けずに、人と触れ合うこともなく一人で生きて行くことになる。

 ジェイは、俺のことを凄く大事にしてくれる。

 俺を離したくないって思ってくれていることも感じる。

 でも、大事にされればされる程、怖くなる。

 それが一変して、別の誰かに執着を向けることに。

 俺の運命の番だった彼が、番っていた彼女を見る眼が、あの時の彼女の姿が……脳裏に焼き付いて離れない。

 あの彼女の姿が、次の俺になるのかと思うと……怖くて踏み出せない……


 人形のように表情を失くした彼女の姿。


 つい、さっき迄、愛し合っていたはずの番が、自分の眼の前で運命を選ぶ……

 運命の番にあっと言う間に心を奪われた番の姿をどんな想いで見ていたんだろう……?

 今は、俺に優しいジェイだけど、運命の番に出逢った途端に、俺を邪険に扱うかも知れない。


 それが……怖い……


 ベッドに、ドサッと倒れ込む。

 まるで、自分の部屋のベッドみたいに馴染んでしまった部屋。

 ここは、ジェイの『巣』なのに。

 何で、こんなに心地良いんだろう?

 こんなに心地良くなければ、もっと、楽に決断出来たのかな?

 もし、今、ジェイと離れたら――忘れられるかな?

 たった何日かの出来事として、夢から覚めるみたいに、いつもの日常に戻れるのかな?

 神田先生はジェイが逃さないと言っていたけれど、大神一族の俺なら、父さん達が護ってくれるはず。

 だけど、俺がジェイから離れたくないこの気持ちは、どうすれば良いんだろう……

 ガラクタオメガになると決めて、旅行中はジェイと恋人になると決めたじゃないか。

 悲劇が確定した茶番劇の舞台に上がると決めたのに、ジェイをどんどん好きになってしまうから、終わりが怖くなっている……

 だって、セックス迄するつもりだったなんて、思わなかった。

 いや……今となっては、俺もしたい。

 ジェイの子供が欲しいから……

 だけど、ジェイのアレ……かなり大きかったけど……入るのかな……

「――雪乃、終わったか?」

 ジェイが扉を開けて顔をのぞかせた。

「うん」

 返事をすると、ジェイが俺の傍に来て横たわり、当たり前のように俺を抱き寄せる。

 そして俺も、ジェイの胸に顔をくっ付けて縋り付いてしまう。
 
 こんなにも、しっくりと来て馴染むのに――それでも、俺のアルファじゃないなんて……

 ジェイの首筋に顔を擦り寄せる。

 石鹸の匂いしかしない。

 ジェイのフェロモンの匂いは、どんな匂いなんだろう。


 ジェイの――匂いを知りたい……



 食事の時に、今日が何日か聞いた。テーマパークに行った日から二日が経っていて、今日はジェイと出逢ってから五日目の昼過ぎ。旅行の最終日は、殆ど帰るための移動だけだから今日を入れて残りは三日半だ。

 後、三日半。子供を作るのは難しい……ヒートすらないのだから……

 でも、ジェイとセックスはしておきたい。もしかしたら、もしかするかも知れないじゃないか。

 だけど、頭がクラクラしてセックスなんて出来そうな気がしない。

 ジェイをその気にさせれば、後は好きに抱いて貰えるかな?
 
 ジェイの頭を挟んで肘を突き、彼の顔を覗き込んだ。

 エメラルドの眼が俺を見る。

「――ジェイは、凄く綺麗だね……」

 ジェイのシャープな男らしい頬を撫でながら囁いた。

「雪乃……?」

 ジェイが困惑して俺を見る。その目元を指でなぞる。黄金色の睫毛に縁取られた、透明感のあるエメラルドの眼。

「凄く綺麗なエメラルドグリーン。俺、ジェイの眼が好き……」

 額に触れて、クルクルと指先で撫でる。

「おでこも形が良い。丸過ぎない、綺麗なおでこも好き……」

「雪乃……」

 今度は、鼻の上を指でなぞった。

「この高い鼻も……凄く線が綺麗……カッコ良くて好き……」

「どうしたんだ……? 急に……」

 ジェイが苦笑しながら俺に問い掛ける。

 それを無視して、ジェイの黄金色のくるくるの巻き毛に指を絡める。

「この、くるくるの巻き毛も好き……雑に結っているのに、ジェイに凄く似合ってる。結残しがいっぱいあるのに、それすら似合ってて……凄く好き……」

 指に絡めた髪にキスを落とす。

「雪乃」

 ジェイの眼に熱が籠もり始める。

 髪を離して、ジェイの唇を指先でなぞる。厚過ぎない、柔らかな形の良い唇。

「ここも好き……柔らかくて……美味しい……好き……」

 顔を近付けて、触れるだけのキスを繰り返す。

 俺を誘うように、ジェイの唇が僅かに開く。

 でも……その誘いには、まだ乗らない。

 ジェイの唇を喰んでは離し、唇だけをついばむ。焦れて迎えに来たジェイの舌先をちゅっと吸って離す。

 俺を抱き締めていた腕がもどかし気に俺の身体を撫ぜた。

 それを合図に、ジェイの舌に舌を絡めてキスを深めていく。

 本当に……何でこんなに美味しいんだろう……

 ジェイの味に夢中になって、キスをする。

 何日か前に初めて知ったキスなのに、ずっと、キスをしていたような気さえして来る。

 ジェイは、抵抗することもなく俺を受け入れてくれる。

 一頻ひとしきり貪り合って、唇を離した。弾む息のまま、ジェイのエメラルドを見詰めた。


「……ジェイが……好き……」


 思わず、零れた言葉に自分で驚く。


「雪乃っ……!」


 ジェイに、荒々しく口付けられた。俺を抱く腕に力が籠もり、俺の後頭部を押さえ込まれ、身体を反転されて体勢が逆転した。

 ジェイの首に腕を回して、俺も彼の後頭部を逃げないように押さえ付けた。

 太腿にジェイのたかぶりを感じた。脚を動かして、その昂りを更に刺激する。ジェイの身体がピクリと跳ねた。

「ッ……!」

 ジェイの目がすがめられ、獲物を見る目に変わった。

 スウェットの上着の中にジェイの大きな手が入って来て、俺の両脇を掴むように撫で上げられ、くすぐったさに身体が跳ねる。

「ふ……ぅ……」

 深く口付けを交わしながら、上半身を可愛がるように撫で回されて身体を捩った。

 俺も負けずに、ジェイの昂りをぐりぐりと刺激して煽る。

「ハッ……!」

 ジェイが息を詰める。お返しとばかりに、両乳首をジェイの指がぐりぐりと刺激してきた。

「ンンッ……!」

 何か、擽ったいような……変な感じ……

 唇が離され、お互いが息を荒げる。

 ジェイの唇が俺の耳に移動して、荒い息が掛かってゾクリとしていると、耳を喰まれた。

「……雪乃……悪い子だな……」

 ジェイが耳元で甘く囁いて、耳朶を口に入れて舐められる。

「アァっ……!」

 耳を舐められている間も乳首を刺激される。耳の中を舐められて、ゾクゾクが止まらない。

 俺が震えて脚を動かす度に、無意識にジェイの昂ぶりを刺激した。

「フッ……!」

 ジェイが息を詰めて身体を起こしたから、彼の首に回していた手が外れた。

 両方の乳首を摘まれて、クリクリと捏ねられる。

「うぁ……ッ……!」

 ヒクヒクと身体が震えた。

「雪乃……俺を煽って、誘っているんだよな?」

 ジェイのギラつくような熱の籠もった眼が、俺を見据えてくる。

 その間も、乳首を弄るのをやめない。

「アっ……!……うんッ……そうっ……だよ……ン、ァ……!」

 乳首の刺激に震えながら、脚でジェイの昂ぶりをぐりりっと刺激した。

「ゆっ……きの……!」

 ジェイの顔が歪む。


「ジェイのコレが……欲しい……」


 ジェイのエメラルドの眼が、俺を射抜くように見た――――













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