運命の番に為る

夢線香

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J−Ⅸ The person I love  【愛しい人】

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 あれから、どうなったかといえば……

 あの後、俺は……何回も雪乃にイかされて、散々、スパームを搾り取られた……

 そこまでは、別に良い。俺も望むところだ。

 だが……散々、イかされたその後……

 ……………

 ……………

 ……………

 ……………………雪乃に……潮を吹かされた……


 やばいほど気持ち良かったが、何ていうか……

 雪乃に犯された気分だ……

 立て続けにイかされた挙げ句、潮まで吹かされるとは……

 変な性癖が付いたらどうしてくれる? 責任は取って貰うからな?


 それにしても……雪乃は、俺のスパームを一滴残らず飲んでいた。腹を壊したりしないだろうか? 飲み易いものでもないのに、表情一つ変えず飲み干していた。

 熱で朦朧としていたにしても、ちょっと、おかしくないか? それとも、熱のせいで喉が乾いていたのだろうか。

 俺のスパームを大量に飲んだ雪乃は、俺の匂いに完全に染まっている。今は、狼共の匂いは何処にもない。希少種のコーガやジーノの匂いまで消えている。

 そのことに満足する。俺だけのものになったようで、嬉しい。

 ちゃんとしたセックスではないが、性交でこれほど満足したのは初めてだ。

 寧ろ、抜かれ過ぎて身体が軽過ぎるくらいだ。

 隣で眠っている雪乃を見る。汗で髪が濡れて額に張り付いている。

 それを丁寧に払ってやる。額に手を当てて熱を診る。――まだ、熱い。

 体温計で熱を測ると、39.8度もある。

 サイドテーブルからスマホを取って、コーガに連絡を入れた。

 現状を知らせると、医者を連れて来るから雪乃の傍に居ろと指示される。

 医者が来るまでに、雪乃の身体を拭いて着替えさせよう。

 身体を起こし、ベッドから下りようとしたら、背中の服を掴まれた。

 顔だけで振り向くと、雪乃が虚ろな目で俺を見ている。

「……どこに……いくの……?」

 舌っ足らずに喋る雪乃。

「汗で気持ち悪いだろう? 身体を拭いてやる」

「……やだ……シャワーが、いい……」

 まるで、昨夜のようなやり取りに苦笑する。

 髪の毛も汗で濡れているし、シャワーだけなら良いか。

 その前に、水を飲ませよう。雪乃を背中から抱き込むように起こして、冷えた水ではなく、サイドテーブルに出しておいた常温の水を飲ませた。

 余程、喉が渇いていたのか、あっと言う間にペットボトル一本を飲み干した。

 その後は、湿った服を脱がせて全裸にする。また、ペニスを掴まれたら大変なので、俺は脱がなかった。

 雪乃を抱き上げようとすると、当たり前のように俺の首に腕を回す雪乃。尻の下に腕を通して昨夜と同じく、先にトイレに連れて行く。

 便座に下ろしてやると、今回は出て行けと言われたので、トイレに籠もった時用の簡易な机を雪乃の前に置くと、ぐったりと突っ伏した。それを見届けてトイレの外に出た。

 今の内に、ベッドのシーツを新しいものに変える。昨日のシーツと雪乃が着ていた服も纏めて籠に入れて廊下に出しておく。もう一つあるトイレで俺も用を足した。

 雪乃が入っているトイレの前で待っていると、雪乃が俺をか細い声で呼んだ。

 雪乃を抱き上げて、バスルームへと向かう。雪乃を一旦、チェアに座らせて、その場で服を脱ぎ脱衣場へ投げておいた。今回は、背凭れのないチェアを二つ並べて前に雪乃、その後ろに雪乃の身体を跨ぐようにして座った。

 勿論、ペニスを掴まれない為の位置取りだ。

 雪乃は俺に背凭れて、大人しく洗われていく。歯磨き粉を付けた歯ブラシを雪乃の口に入れておくのも、忘れない。

 散々、俺のスパームを飲んだんだ。口の中が気持ち悪いだろう。

 雪乃を洗いながら、自分も手早く洗って、今回はバスルームを無事に出ることが出来た。

 流石に、雪乃も高熱のせいでクタクタのようだ。

 ベッドに寝かせようとしたが、雪乃が離れない。

「雪乃、何か食べられそうか?」

 ベッドに一緒に横になって、雪乃の後頭部をゆっくりと撫でた。雪乃は小さく頭を横に振る。

 食欲はないか……だが、これ程の高熱だ。体力を消耗しているはず。

「何か食べないと良くならないぞ? ゼリーとかプリンはどうだ? ふやかしたコーンフレークなら食べれるか?」

 雪乃は、頭を横に振る。

 医者が来るまでは、様子をみるか。

 そう思っていると雪乃がもそもそと顔を上げて、俺の唇に熱い唇で、ちゅう~と、吸い付いてきた。ペロリと俺の唇を舐めてから離れて行く。

「おいしい……」 

 雪乃は、力なく笑った。


 美味しい? 俺が、美味しい?


「雪乃……お……」

 俺の言葉を遮るように、もう一度、雪乃が吸い付いてくる。今度は開いた口の中に、熱い舌が入って来て舌を絡めて来た。元気がないせいで、のろのろと舌をぎこちなく動かし口内を舐める。

「おいしい……」

 口を離した雪乃が、また呟いた。

 そして、そのまま目を閉じて眠ってしまった。

 俺が、美味しい……? だから、俺のスパームをあんなに何度も飲んでいたのか?

 決して、旨いはずがない。――いや、雪乃はあの味が好きなのか? 逆に、あの独特の味が癖になるやつもいるからな。

 まあ、俺も雪乃のスパームなら、喜んで飲み干すけどな。

 雪乃の熱い身体に冷やすものが必要だと思い、スマホでマティーロに連絡を取り氷のうを頼んだ。



 雪乃の額に氷のうを当てていると、マティーロがコーガと華奢な背の低い子供みたいな男を連れて来た。匂いで、オメガだと直ぐに分かった。

 部屋に入るなり、コーガと小柄な男は顔を顰めた。

「――おい、皇帝。これは、どういうことだ。熱がある雪乃に手を出したのか?」

 俺だけに、刺すような強烈な威圧が向けられる。


 ――本気で怒っているな……流石に圧迫感がキツイ……


「っ!……違う。――威圧するのをやめろ。雪乃に搾り取られただけだ」

 顔を顰めて、コーガを睨む。

「……搾り取られた?」

 コーガは、訝しげに俺を見てくる。

「昨夜、寝ていたら、雪乃にスパームを何度も搾り取られて――飲まれた……っ!」

 コーガの威圧が更に重くなった。俺は、益々、顔を顰めた。

「お前、そんな嘘が通じるとでも思っているのか?」

「事実だ」

 暫し、二人で睨み合う。

「――昂雅こうがさん。まあ、落ち着いて下さい」

 小柄な男がコーガを宥めた。

「初めまして。僕は、雪乃くんの主治医、実弦みつる・神田です。よろしくね」

「ああ。ジェイデン・アースキングだ」

 お互いに握手はしないで、目だけで挨拶を済ませる。

「じゃあ、アースキングさん。搾り取られた回数は?」

「――必要なことか?」

 恥じらいもなく、ダイレクトに聞いてくる神田に戸惑う。思わず、聞き返してしまった。

「そうだね。関係があるかは分からないけれど、聞いておく必要があるね」

 厭らしさや含んだものがない神田の表情に、医者ならそんなものかと溜め息を吐いた。

「ちゃんと覚えてはいないが――四、五回は抜かれた……」

 流石に、潮を吹いたとは言えなかった。

「へぇ~、スパームは飲んでいた?」

「――ああ、一滴も残さずに飲んでいた」

 神田は、持っていた黒いアタッシュケースを開き、注射器を取り出しながら相槌を打つ。

「そっか。取り敢えず、雪乃くんの容態を診させてもらうね――ベッドに乗っても良いかい?」

 普段なら断るが、医者なら仕方がない。俺が頷くと神田はベッドに乗って来て雪乃の側に座った。俺は雪乃を挟んで、神田とは反対側に移動する。

 神田は、血圧計を出して測定を始めた。

『――神田……先生……?』

 雪乃が、ぼんやりと目を覚まして日本語で神田を呼んだ。

『おはよう、雪乃くん。どんな具合かな? 痛い所はない?』

『……平気。頭が、ぼうっとするくらい……』

 雪乃と神田は、日本語で会話をする。偶に聴き取れないところはあるが、何となく話している内容は理解できた。

『喉の痛みや、咳が出るとかはない?』

 神田の質問に、雪乃は首を横に振る。

『ちょっと、採血させてね?』

 神田は、慣れた様子で雪乃の袖を捲りあげ、ゴム紐で上腕を締めて注射器で採血していく。

『雪乃くん、昨日アルファの体液を飲んだかい?』

 神田が医者じゃなかったら凄い質問だが、世間話のように尋ねている。

『……体液……?』

『唾液とか、精子とか』

『……ジェイと、いっぱいキスした……』

 雪乃は、ぼうっとしながら舌っ足らずに答える。

『そう。キスする前は、熱はなかった?』

『……うん……たぶん、ない……』

『昨夜は? 何か飲んだ?』

 雪乃は、暫く考え込んだ。

『……水……あと……すごく、美味しいの、飲んだ……』

 昨夜の雪乃は、水以外は俺のスパームしか飲んでいない。


 ――――そうか。凄く……美味しかったのか。


『――美味しかったの?』

 雪乃は、コクリと頷いた。

『そっか。食欲はどうかな? 何か、食べたいものはある?』

 雪乃が俺を見た。

『ジェイが食べたい……』

「っ!?」

 色んな感情で、吹き出しそうになった。

 これは……どう、受け取るべきなんだ。俺が食べたい? え、また、可愛くペニスをしゃぶられるのか? それとも、俺を抱きたいと言われているのか?……まさか、それはないよな……?

『――彼が美味しいの?』

 雪乃がコクリと頷く。

『そこに居る、彼はどうかな? 美味しそうかい?』

 神田が後ろに居るマティーロを見た。

 雪乃は、マティーロを見て首を横に振る。

 マティーロは、引き攣った顔で笑っていた。

『じゃあ、昂雅さんはどう? 美味しそうかい?』

『………父さんは………父さんだから、だめ』

『もし、昂雅さんがお父さんじゃなかったらどう? 美味しそうに見えるかい?』

 雪乃は、暫く考えてからコクリと頷いた。

 昂雅が、当然だといわんばかりに頷いている。

『――でも、ジェイの方が……美味しそう』

 雪乃の言葉に喜んでいいものなのか悩むが、俺の方が良いと言われれば悪い気はしない。

『そっか。でも、ちゃんとした食べ物も食べなくちゃね。食べ易いもので良いから、頑張って食べてみようか。あと、精密検査が必要だから、一日だけ検査入院しよう』

『……やだ……』

 雪乃が駄々を捏ねている。――可愛いな。

『どうして?』

『ジェイと、一緒にいる……』

 雪乃が俺の方へ手を伸ばして来たので、その手を握る。

 そうか。俺と一緒に居たいと思ってくれているのか。

『……う~ん。じゃあ、彼が一緒なら検査入院してくれるかい?』

 神田が困ったように尋ねると、雪乃は黙って頷いて俺に擦り寄ってくる。


 ……凄く、可愛いんだが……


 胡座をかいた俺の脚に、熱い頭を乗せて来た。雪乃の頭を優しく撫でると眼を細める。

「アースキングさん、雪乃くんの付き添いを頼めるかな?」

「ああ。勿論だ」

 神田に確認されて、頷く。

 俺だって、雪乃の傍に居たい。

「食事を摂っていないのなら丁度いい。このまま、病院に行って検査をしよう。昂雅さん、それで良いですか?」

 神田は、拡げた器材をアタッシュケースに収めながらコーガに確認している。

「ああ、それで良い。ジェイデン、お前もそれで良いな?」

 断ることを許さない眼で一瞥される。勿論、断る訳がない。俺は、黙って頷いた。



 コーガは、俺に雪乃を任せて番の元へ戻って行った。雪乃を縦抱っこして病院に来ると、予め手配していたのか、スムーズに検査は進んだ。

 検査の間は雪乃から離れず、手を握ったり雪乃の足を掴んだりして片時も離れなかった。

 雪乃と触れ合っていないと、俺の存在に周囲の者が体調を崩すだろうし、雪乃は雪乃で俺と離れることを嫌がった。それはもう、俺にひしりとしがみ付いて泣いて駄々を捏ねるように嫌がった。

 ……めちゃくちゃ、可愛かった。

 用意された個室に入って、ベッドに一緒に横になる。後は、時間毎に検査に来るようだ。

「アースキングさん、これを雪乃くんに飲ませてくれるかな。その後で解熱剤も飲ませて欲しい」

 神田に渡されたのは、栄養を摂る為のゼリー飲料だった。

「構わないが、飲むのか?」

 つい、さっき、プリンを食べさせようとしたが、雪乃は食べなかった。

「大丈夫。君が口移しで飲ませると良いよ」

 神田は、にこにこ笑いながら言うと、部屋を出て行った。

 口移しで?

 よく分からないが、ゼリー飲料のキャップを外し、雪乃の口元に当てると顔を逸らされた。

 ゼリー飲料を口に含み雪乃に口付けると、素直に受け入れて少しずつ飲んでいく。


 何だそれ……可愛過ぎるだろっ……!

 俺の口移しなら飲むのかっ……!? か、可愛いっ……!!


 ぼんやりしながら雛鳥みたいに餌付けされる雪乃に悶えながら、どうにか全部飲ませることが出来た。

 ゼリーがなくなっても、雪乃は俺とキスをしたがった。

 勿論、拒絶する理由などないので、雪乃が満足するまで応えた。

 俺の腕の中で甘え捲る雪乃は、最高に可愛くて、俺のアルファとしての本能を満たしてくれる。

 愛おしさが胸の奥から次々と溢れて来て、止まらない……

 もう、この腕の中から離してやることなど出来ない。


 絶対に手に入れる。ずっと、傍におく。


 こんなにも愛おしい存在を手放すなんて、考えられない。

 雪乃だって、本心ではそれを望んでいる。俺の自惚れや勘違いなんかじゃないはずだ。

 俺に、縋り付くように甘えてくる雪乃。

 まるで、全身で伝えて来るようだ。



 愛して……と。



 絶対に、俺の自惚れや勘違いじゃない。

 





 




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