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番外編・2
生まれて来てくれて… (下)
しおりを挟むそれから、順調に三ヶ月の時が経った。
ノルフェントの腹は更に大きくなり、針を刺したら弾けてしまうんじゃないかと思うほどパンパンだ。
王宮侍医が謂うには、いつ産まれてもおかしく無いらしい。
ランドラーク殿下も同じ状況で、嫁二人の希望もあり、同じ部屋で安静に過ごしている。同じ境遇の者が居るだけで、安心する様だ。
そうなれば、俺とシュザークも同じ部屋で過ごす事になる。
暇潰しに、四人でカードゲームをしながらのんびりとする。カードゲームとは、トランプと同じだ。ポーカーの遊び方も同じだった。
四人で雑談しながらゲームをしていると、ノルフェントの手からカードがバラバラと落ちた。
「うっ……!」
「ノルフェ……!?」
腹を押さえて前屈みになったノルフェントの身体を支える。
シュザークが直ぐに魔法で王宮侍医を呼び寄せた。転移魔法で現れた侍医は、二人。一人は、ノートと映像を録る事が出来るB5サイズの硝子の様な透明な板を持っている。記録係りかな。
「陣痛が始まるかもしれませんね」
侍医は、素早く魔法でノルフェントを鑑定して言った。
「う、産まれるのかっ…!?」
俺が動揺して尋ねると、侍医は苦笑した。
「ハハハ、そんなに直ぐには産まれませんよ」
侍医は、これから起こるであろう出産までの流れを丁寧に説明してくれた。
陣痛が本格的に始まって、陣痛の感覚が短くなり破水して子宮口を押し拡げ始めたら転移魔法で子を取り上げるそうだ。妊婦に優しい魔法の世界だ……。
「陣痛で痛い思いをする前に、取り上げられないのか?」
疑問に思って口にすると、痛みのない状態で腹の子を取り出すのは身体の機能が狂ってしまうから駄目なのだと答えた。子が既に腹に居ないのに、陣痛が何時までも続いたりするそうだ。それに、母体の母親が子を産んだと謂う認識が薄くなり、子に対する愛情が希薄になり易いのだと謂う。
その後は、侍医達も部屋に常駐した。陣痛が始まったらしいノルフェントの腰や背中を擦りながら、侍医達が指示するままに行動していた。
陣痛が来る度にノルフェントの顔は苦痛に歪み、額にじっとりと汗を浮かべながら痛みに耐えている。
「ノルフェ……」
ノルフェントは俺の腕に爪を立て、凄い力でしがみ付きながら小さく呻いている……。
既に頑張っているのだから頑張ってくれとも言えず、情けない声でノルフェントの名を呼ぶしか出来ない俺……。
そうしている内に、今度はランドラーク殿下の陣痛が始まった。
シュザークが情けない顔で動揺している姿を見て、俺もあんな感じになっているのかと沁み沁みと実感した。
シュザークと目が合って、眉を下げた情けない顔で互いに苦笑した。
「ううゔゔゔっっ……!!」
そして何時間も経った頃、ノルフェントが激しく唸って身動ぐ。
「ノルフェっ……!!」
ノルフェントの額の汗を拭き取りながら、何も出来なくて落ち着かない俺。
「そろそろですかね……」
俺とは違い、出産に慣れている侍医が冷静な声で呟いた。
その時、ノルフェントの腹が光った。次の瞬間には、ノルフェントの腹の上に赤ん坊が居た。
「ァ…ァアアアア゙ア゙ア゙ァァァッッッ……!!!!」
「……ㇷぎゃぁっ…フギャアアァぁぁっ……!」
ノルフェントが苦しそうに絶叫するのと同時に、赤ん坊が泣き出す。
「っ!? ノルフェっ……!? どうした!? 大丈夫かっ……!?!? これはっ…!? どうしたんだっ!? 何が起こっているっ…!?!?」
ノルフェ、赤ん坊、侍医の順に視線を彷徨わせて慌て捲る俺。
「落ち着いてください。擬似子宮が急激に収縮している痛みです。治まるまで耐えるしかありません」
侍医は冷静に話しながら泣いている赤ん坊を抱き上げて、浄化魔法を掛けた。
「んん゙ん゙ん゙~~~~っっ……!!!!」
痛みに悶えているノルフェントの腹にそっと手を置き、軽く俺の魔力を流す。
「ノルフェ……!」
「んッ……!……ハ……ハー…シャっ……!」
少し痛みが和らいだのか……ノルフェントが涙を零しながら俺を見た。
「……辛いな……ノルフェ……」
涙や、額に浮かぶ珠の様な汗を拭き取り頭を優しく撫でた。
「どうやら、疑似子宮に転移魔法が組み込まれていたようですね。……凄いです」
侍医が呑気に感心している。
「────さぁ、お二人のお子さんですよ。元気な男の子です」
いつの間にか、白いお包みに包まれた皺々の赤ん坊を差し出される。
ふぎゃ、ふぎゃと泣く赤ん坊を震える両手で受け取った。
俺の……子……。
俺とノルフェントの子供……。
ああ……。
……漸く……抱けた……。
俺の処に……無事に生まれて来てくれて……
…………ありがとうな…………。
「ノルフェ……。俺達の子供だ……。産んでくれて……ありがとう……ノルフェ……」
ノルフェントに赤ん坊を見せながら、彼の額に口付ける。俺の目から、涙が止めどなく流れ落ちた……。
アシャレントが泣いている……。
歓喜して、感動に打ち震えている。
そこに、少しの感傷の想い……。
「ノルフェと…この子を……愛しているよ……」
ノルフェントは、苦痛に顔を歪めながらも微笑んでくれた……。
あれから、あっと言う間に五年の月日が流れた。
俺は、長男、次男、長女の、三児の父親になった。ノルフェントの疑似子宮は、長男が生まれてから一年間は休息が必要だった。一年が過ぎると直ぐに次男を妊娠して、上の子と二つ歳が離れて生まれた。その後、また一年休息し娘を授かった。去年生まれた娘は、一歳になる。
因みに、シュザークも三児の父親になり、家の子達と偶然にも同じ日に生まれている。シュザークの処は、長男、長女、次男だ。
そして、キディリガン家の皆もポンポン子供を産んだものだから……我が家は託児所みたいになってしまい、大変、賑やかな事になっている。
五歳になる長男は、今はちょっと反抗期。…反抗期と謂うよりは、どうしても手の掛かる弟や妹に嫉妬している感じかな……。
今日も、ノルフェントが一歳の娘を抱いて俺が三歳の次男を抱き上げていると、それを見た長男が拗ねた。間の悪い事にシュザークが第一王子を置いて王宮に戻ったので、第一王子と一緒にお茶をしていた。
「父様と母様はっ…! 僕のことなんてどうでもいいんでしょっ……!?」
「何でだよ?」
お決まりの様な台詞を叫ぶ長男に首を傾げる。
「だってっ……! 僕だけ仲間外れにするじゃないかっ……!」
「してないだろう?」
「してるもんっ……!!」
長男は、その場で地団駄を踏んだ。
可愛いやつ。本当にノルフェントにそっくり。
長男は、黒い髪に朱紅の眼。ノルフェントの小さい頃の姿を想像させる。……とても可愛い。
そんな事を考えてニヤニヤしていたら、長男の怒りに火を点けてしまったようだ。
「うぅ~~っ…! 父様のばかぁっ…!! こんな家、出て行ってやる~~~~っ!!」
長男は、朱紅の眼に涙を溜めてうるうるさせながら叫ぶと、俺達とは反対の方へ走り出した。
「おいっ……!」
俺が長男を呼び止めると、呼び止められる事を待っていた様に足を止めて振り返る。
「転ばない様に、気を付けろよっ!」
注意すると、長男はプルプルと身体を震わせた。
「~~父様のっ……バカああぁぁぁ~~~~!! うわあああぁぁぁ~~~~~~んっ……!!!!」
長男は、盛大に泣き叫びながら走って行った。
「────ちょっと! ハーシャ!」
ノルフェントが咎めるように俺をじとりと睨む。
第一王子が、しょんぼりと肩を落とした。
「……すまない……。私のせいかな……」
「はは、そんな事はないよ」
子供の頃のシュザークにそっくりな第一王子の頭を撫でる。王族だけど、甥っ子だからね。
「もう……。早く追わないと……」
「ノルフェ、大丈夫だって」
娘を抱いたまま立ち上がろうとしたノルフェントを止める。
「──どうして大丈夫だって分かるの?」
ノルフェントは、訝し気に俺を見た。
「黙っていても、直ぐに戻って来るよ」
「本当に! 大丈夫なんだよね?」
念押ししてくるノルフェントに、笑いながらお茶を飲んで頷く。
「ああ。────そろそろかな。ちょっと、王子と一緒に居てな?」
片腕に抱き上げていた俺にそっくりな次男を王子の隣に座らせて立ち上がり、テーブルから少し離れた場所に立った。
俺の二メートル位先の空間が一瞬光って、長男がエグエグと泣きながら走って来たのを抱き留める。
「はい、おかえり」
「……エグッ…うえぇっ…ん…!?…うぇッ…?」
家の敷地内から出たはずなのに、急に俺に抱き留められた長男が混乱して頻りに首を傾げた。
ノルフェントがほっと息を吐きながら尋ねてくる。
「ハーシャ……転移魔法で連れ戻したの?」
「敷地内を許可なく出たら、強制的に親の元に転移させる魔法を張り巡らせてあるからな」
「────いつの間に……」
ノルフェントが呆れた顔をした。
「こんな可愛い子が一人で外に出たら、直ぐに拐われちゃうだろ?」
抱っこした長男の頭をグリグリと撫で回す。
なにしろ、ノルフェントにそっくりなんだから。
長男は俺にしがみ付きながら、もそもそと文句を言った。
「……ヒック……お、追い掛けて……来なかったくせにっ……!!」
「はは。何だ、まだ拗ねてるのか? 戻って来るのが分かっているんだから、追い掛けないだろ」
「うぅ~……父様……きらい……」
長男は、唸りながらボソリと呟いた。
嫌いとか言いつつ、俺から離れない息子に笑みが溢れる。
「父様は、お前のことすっっっごい好きだぞ。お前が何処に行ったって、直ぐに迎えに行くからな」
俺の神チートがあれば、容易いことだ。
長男の背中を撫でていると、腕の中で長男がもじもじし始める。
「……ぅそ……僕も……父様…大好き……」
「そうか。嬉しいな」
長男の気持ちが落ち着いた頃、キディリガン家の子供達がわらわらと駆け寄って来た。
「ほら、皆と遊んで来い」
長男と王子が次男と手を繋いで、子供達の輪に混ざって行く。
今日の保育士さんは、いつの間にか住み着いてしまったダリダラント前公爵老夫妻だ。母上の兄、俺の叔父上の婿入り先のご両親でキディリガン家の借金を肩代わりしてくれた。勿論、彼らに利息付きで返済し終わっている。
“孫が大量に出来たみたいだ”と言って、大喜びだ。
ダリダラント前公爵老夫妻は、家のダンジョン食材の料理を食べている所為か、えらい元気なんだよな…。でも、子供達の面倒を見てくれるのでとても助かっている。
ノルフェントの隣に腰掛け、彼の腰を抱く。
三人目の娘を産んだ時、娘は疑似子宮ごと転移して来たので秘薬の効果は終了した。
スレンダーな身体に戻ったノルフェントを引き寄せる。一歳の娘は、彼の腕の中ですやすやと眠っている。顔はノルフェント似で、目と髪は俺と同じ。
「ノルフェ……最高に幸せだよ……」
ノルフェントの唇に、そっとキスを落とす。
三人も子供を産んだノルフェントは、この位のキスでは動じなくなった。
「私も……最高に幸せだよ、ハーシャ」
妖艶に美しく笑う、傾国級の嫁。
母親となったノルフェントは、強かで妖しい艶を放ち……俺を手玉に取る色香を纏う様になった。
まあ……それでも、閨で鳴かせるのは俺だけどね。
きゃあ、きゃあ、と子供特有の甲高い声を上げて無邪気に遊ぶ子供達を眺める。
隣には……まだ歩けない俺の娘を抱いた愛しい嫁。
家族や兄弟、気心の知れた仲間達。
これ以上の幸せはない。
きっと、子供達の成長と共に色々なトラブルが起こるんだろう。
そのトラブルでさえも、最後には楽しいものになるんだろうな。
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読んで下さって、ありがとうございました。( ꈍᴗꈍ)
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番外編のリクエストに答えて頂き感謝 感激です(ノ˶>ᗜ<˵)ノ
ノルフェントとランドラークのコソコソ話の閨相談が 可愛くて⋆* (⸝⸝⸝´▽`⸝⸝⸝)⋆* ついニマニマしてしまった( ◜𖥦◝ )
無事にアシャレントも 自分の子供を 抱く事が出来て感激です。゚(っ৹ т )゚。 子供達と幸せに暮らしている姿が目に浮かび上がっとても 幸せな気持ちになれました。本当にありがとうございました(*˘︶˘*).。.:*♡
ミンママさん! 読んで頂いて、ありがとうございます!
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皆で幸せ!! ですっ!! ( ´∀`)bグッ!
感想、ありがとうございました。( ꈍᴗꈍ)
何時まででも待ってます(*^^*) 無理せず 執筆活動 頑張って下さい\(*⌒0⌒)♪
ミンママさん!
了解しました。今、初めから読み直して、世界観やキャラの性格を思い出していますので…。^^;
励ましのお言葉、ありがとうございます。( ꈍᴗꈍ)
凄く面白い作品でした(*^^*)終始この世界観に引き込まれて 何も手に付かなくなるほどでした。異世界 ダンジョン チート好きの私にはピッタリの作品でした。 欲を言えば 子供達が生まれた所を読みたいです。 良かったら書いて欲しいですm(*_ _)m お願いします🙏
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