暗闇

月詠

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始まりの章

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何故か僕はここに居た、そして彼女は人を殺していた。
あれは雨臭い夜。薄暗い人気の無い路地で…
彼女は馬乗りになり何度も、何度も、鋭く銀に光る凶器を腹部に刺すのが見えた。
殺してる方も、殺されてる方も見覚えのない人で恐怖が増した。
そして血塗れの人は動かなくなり、静かな時間だけが過ぎた。
彼女は手を真っ赤に染めて笑っていた。何が面白いのか僕にはわからない。彼女の笑い声だけが冷たい時を響かした―
事を済ませた彼女が不意に周りを見た。ここに居るのは僕一人だけだ。はっ!とした時彼女と目が合ってしまった。彼女は耽美な顔の持ち主だった。綺麗な長い髪は風に靡き、綺麗な目はずっと僕を見ている。目尻の下にはほくろがあり、彼女の綺麗さをより一層引き立てていた。彼女は立ち上がりこっちに向かって来た。僕は逃げようと思った、でも怖くて体が動かない。彼女との距離が縮まる、彼女の真っ赤な手には血のついた鋭い凶器が握られたままだった、彼女の靴の音がどんどん強くなっていく、それでも僕の体は一向に動いてくれない、距離がさらに縮まり手が届きそうな所まで来た、僕は恐怖のあまり腕で顔を隠し、強く目をつむってしまった。彼女が僕の肩を強く掴んだ瞬間―――
 
 光が見えた。「ちょっと、早く起きないと遅刻するわよ、新学期そうそう遅刻する気?」母が僕の肩を揺すりながら僕を起こした。「あんた、苦しそうにしてたけど大丈夫?変な夢でも見てたの?」母のその一言で夢だと気付いた。夢だと分からないほどリアルで繊細で、恐怖とは何かを知らされるような夢だった。
 これが事の発端だとは知る由もない。
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