異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲

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閑話

2「壁内を歩くなら、前だけじゃなくて下も見なさい。」

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「よし、行こう」

 白けた場を無視し、私は歩を進めた。
 会場の出口、詰り名前は未だ知らないこの官庁街の通りの果てに向う。ヴァルキリーの城壁を出ると、驚くべき事実に気付く。更に官庁街を城壁が覆っていたのだ。壁は三重だった。
 通りの果ては、壁の出口でもある。今迄、気付かなかった。何とは無しに、通っていた。
 そしてそこには、頭を垂れる辻士長。捜索隊が向って来たのは分った様だが、誰が来たのかは早早に目線を下にしたであろう彼には分っていない。

「で、その日、どこで何したの。おんなじルートで、廻るよ」

 私が聞くと、辻は瞬間に頭を上げ、目を見開いた。
 そりゃそうだ。捜索隊として目の前に来たのが、小隊長二人に先任曹長、極め付けに中隊長がいるのだ。

「え、や、なん……もう、クビですか?!」

 完全に錯乱させてしまった。



 20分は歩いた。が、然し、壁外駐屯地に一番近いこの街の出入口、東門に辿り着いていない。街を取り囲む壁も、更に大きく見える気配はない。気にした事は無かったが、この街、一体どれ位の広さがあるのだろう。

「新渡戸隊長?ー……まだ着かないんですかぁ? こんなんじゃ、日が暮れて日が昇って、また日が暮れちゃいますよ~」

 先ず、壁外駐屯地近辺を探そう。と、常套な事をしたが、未だそれすら出来ていない。文句を言わずとも、皆、不満に思っている。
 寒色の陽は、遠い宇宙にあるそれからここに届く迄に、私の知っている陽の光と遜色無いものになる。先先月なんか特に感じていたが、太陽と同じ様に照り付ける陽は「じりじり」と感じるし、確りと肌を焼いた。
 今は、それから二、三箇月経ち、地球では十月だ。こちらには「秋」があるのか怪しい。未だ、木の葉が枯れる様子は無い。だが、空気はどことなく日本の秋を思い立たせる。日本と関わりの深いビルブァターニだからこそなのか、異世界に元元ある空気感なのか後から来た私達には分らない。
 ふと、私は身分証を探す事よりも、歩く事よりも、時間を潰す為に関係のない事考えていた事に気付いた。
 ふと気付いたのではない。外力が加わった……何かに打つかったのか?
 辺りを見渡すが特に目の前に電柱がある訳でも人がいる訳でも無かったが、あからさまに頭を傾げた私に声を掛ける者がいた。

「壁内を歩くなら、前だけじゃなくて下も見なさい。今回は許してあげるけど――」

 声の主は何処か、と目を凝らして探すも、頭では声の大きさと方向から至近距離である事を予想していた。然し、まさか下方から聞こえるとは思わず、その固定観念が「ここ! 下を見て!」と教えられる迄、声の主の発見を阻害した。

「パジャシュ? どうしてここに」
「それはこっちの台詞だよ。今日は、戦勝パレードでしょ? それは行かなくて良いの?」

 初めて出会った時、詰り俘虜の奪還を行った時と同様の、水色半透明のまるで原料が宝石なのではないかと思ってしまう鎧を纏ったパジャシュは、同じ装備を身に着けるイリューシャンを連れていた。
 自衛隊、日本が「日ビ相互扶助協力協定締結記念合同観閲・観艦式」と呼称するものは、ビルブァターニからすればイツミカの侵攻を退けた宣伝、凱旋たる戦勝パレードなのだ。日本としては、先の戦闘は敵対武装勢力が駐屯地に対し攻撃を行う可能性が非常に高いと現場最先任たる巻口一佐が判断し、防衛を行っただけであって断じて日本とイツミカ王国との地域紛争、延いては戦争ではないと押切る構えだろう。だから、ビルブァターニと同様、「戦勝パレード」と云う名称を採用するなんてのは論外なのだ。
 私達は、それに参加しなくて良い訳が無いし、今ここに居る理由は恥しくて伝えたくはない。

「勿論、参加するよ。今は、その……」

 駄目だ……良い言い訳が思い付かない。

「お恥しながら、うちの若いのが身分証……命より大事な物を亡くしまして、今はその捜索に出ているのです」

 言い淀む私を余所よそに、宇野曹長がきっぱりと言い切った。辻は、更に縮こまる。

「現地の人の力は、大きいものです。特に、この土地は誰も知りませんからね。それに、パジャシュはんなら、うちらと一緒に戦いました。ある程度は信頼に置けると言えるでしょう」

 宇野曹長は、私だけに聞こえる様に耳打ちした。流石ベテラン。今迄、何個の身分証を見付けてきたのか……。

「命よりも大切な物、ねぇ。そこ迄言う物なら、手伝わない薄情者は、私は元より部下にもいない! 是非、手伝わせて」
「あぁ、有難いけど、パジャシュこそパレードに出るのにここに居るって事は、相当な用があったんじゃないの?」

 パジャシュの提案は嬉しい、と云うか申し訳無さも感じる。
 私がそう聞くと、パジャシュは姿勢を正した。

「パレード前の巡回よ! 部下だけじゃ心許無いでしょうから、毎日一回は必ず、私自ら壁内を巡回するの」

 そう言って、胸を拳で叩いてみせた。

「で? 何処を探すの?」
「取敢えず、壁外駐屯地近辺から潰して行こうと考えていたのだけれど」
「壁外となると、四時間位掛るけど」
「え?!」

 そんなに掛るの? 岩手通り越して仙台市迄の所要時間と略同じ……。

「まあ、そうよね。ビルブァターニ壁内へ初めて来る人達はみんな、あの壁の錯覚で歩いて移動しようとするんだよね。歩きなら丸三日掛るというのに」

 どうやら、壁内旅行あるあるの様だ。まんまと騙されていた。ん? 三日? では、四時間というのは?

「あ、そういえば、私、移動にあれを使ってました」

 警察に連行される容疑者の如く頭を垂れていた?辻が、上空を指差した。その先には、街の上空を自由に飛び交う……球体? かなりの交通量だ。その中の一つがこちらに近付く。
 全景が分ってきた。最初、結構高い位置にあるから、ぼやけて丸く見えていたと思っていたが、実際にそれは丸かった。もっと詳しく言えば楕円形だ。恐竜の卵の様な形。飛交うそれらの色、模様は様様に見えるが、下りて来たものは黒と銀の塗料を二、三回は棒で掻き混ぜた様な、所謂マーブル色だ。エンジン音とか駆動音とか一切しないそれは、私達捜索隊の目の前に着地した。
 状況が飲み込めずにただ立っていると、それの真中辺りが外開きで開く。真先に想像したのは、車のドアだ。
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