異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲

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第三章 自衛隊の在り方(前)

第二十三部

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 振返ると、顔から倒れた桐班員の姿があった。意識を持っていたら絶対に出来ない。
 桐は、彼を仰向けにした後、熱心に呼び起そうとしている。救命措置法を守り最初は肩を叩いていたのが、もう体を揺する様になってしまった。
 誰もが理解出来た。彼はもう死んだのだと。
 目が、各各明後日の方向を向いている。その目は、茶色の虹彩が内側から塗り潰され、瞳孔の黒色が占めている。口は、だらしなく開き切っている。

「……桐」

 呼ぶと、桐は私に縋りついた。

「中隊長! 早くアンビを! 医療設備が整っている所に!……いや、魔法なら。魔法なら蘇生も出来るでしょ?!」

 私もすっかり混乱して何も答えられずにいると、錯乱した桐の足元が小さく爆散した。小銃弾が弾着したのだ。
 何処から弾が飛んできたのかを音で大凡掌握出来たのだろう。桐は、後ろに向いた。その方には、昨晩は暗くて全容掌握が難しかったイツミカ王国魔導部隊「ムグラ」と思しき人影があった。

「中隊長、ここは危険です。投降していた敵兵も一転、攻撃を再開しました。1小隊だけでも、既に複数の傷者が発生しています」

 鈴宮が右手を右太腿の拳銃に添えながら、勧告した。その時、警察のサイレンが私の耳に入った。それは段々大きくなって、私達に姿を見せた。オープンカー形式で人々の大半が「軍用車両」、「ジープ」と聞いて思い浮かべる半トントラックだ。警務隊の物で、フロントガラスフレームの上中央に赤色回転灯が付けられている。
 真っ直ぐ向かって来た半トントラックは、一度左に切った後、右に急回頭して後部座席のドアを見事私の目の前に停めた。

「新渡戸1尉! 連隊長が後退を命令しました! 既に各隊に通達済みです!」

 運転していた警務隊の隊員が、大声で言った。
 その時には既に、桐は立ち上がっていた。

「殺してやる」
「桐! 駄目!」

 桐を止めようと手を伸ばすが、それは届かなかった。

「愛桜隊長! 行きますよ」

 鈴宮は強引に私の手を引き手繰り、半トントラックの後部座席に乗せた。
 加速する半トントラックからは、彼女の後ろ姿しか見る事は出来なかった。 
 恐怖、衝撃、不可解、責任、逃避。目の前で起こった事を、自分の中で如何に落ち着かせるか。如何に都合良く解釈するか。私は、もうその事しか頭に無かった。

「これがお前の結果だ」

 違う。今回は、私は頑張った。3科長が作った、最高の戦術を採用し、部下には気を配り、必要以上な無理はさせなかった。
 鈴宮はそれを分っていてくれている筈。

「ね、鈴宮は――」

 鈴宮……?

「新渡戸愛桜三等陸尉、お前の結果だ」

 私は腿に肘を付き、頭を抱えて叫んだ。理性的な意思ではない。自分でも分る。本能でそうしているのだ。
 手が湿ってきた。目の奥がきりきりと痛み、喉は枯れ、大きな絶望が生まれ、残った。
 息が浅くなり、手は自然と拳銃と弾倉に向った。弾倉を拳銃に入れる。金色こんじきの弾は、きちんと入っていた。スライドを引き切り、弾が込められた事を排莢部から確認する。そのまま、手を放した。

「私が死ねば」

 私がいるから、こうやって人が死ぬんだ。例えそうでなかったとしても、もうこれ以上、私の監督下で人が死ぬのを見たくない。
 引金に添えるのは親指で、握把の背に四指を這わす。しかし拳銃は、力の入っていない指から簡単に離れていった。
 束の間、腕が両側から私の背中に回り込んだ。それは、ゆっくりと、ためらいつつ頭に乗る。

「愛桜さん、貴方が死んでも、悲しむ人が増えるだけです」
「でも――」
「御願いだから! 御願いですから、これ以上僕を苦しませるのは止めて下さい……」

 鈴宮は、私が言おうとした事が分ったのか、聞こうともしなかった。
 鈴宮ともあろう人間が、そこまでして言った文の意味は、私には分らなかった。一寸して気付いたが、それが分らなかったと云う事は、私は部下を思う振りをした身勝手をしていたと云う事だ。それが結果、部下想いになっただけであって、私の身勝手であったのだ。
 私はそれに気が付かされた。その自己満足が、今回の結果だったのだ。
 鈴宮も部下の苦しむ姿を見て来た。もしかしたら、怪我だけで済んでいないかもしれない。なのに、今の今迄、私の心配をしてなだめる事さえした。
 自分より若い人間が自分より優れているのを見ると、自分がより劣った存在に思えて来る。

「軍人が死ぬのは当り前です」

 一転、鈴宮は私から離れ、何時いつも会話する時と同じ距離位になった。

「私達の役目は、ここで手を汚し、戦争が終ったら首を斬られる事だと私は思っています。直接、自分の国の為に戦っている訳ではないこの戦いでは、裁かれる事はまあ無いでしょうが」

 鈴宮は、言いながら正しい着座位置に着いた。私も、危ないのでそうする。
 明らかに敵の勢力圏内は脱したであろうが、速度は緩む気配は無い。何故なのか聞こうとしたと同時に、運転手が前を向きながら話してくれた。

「連隊長は、火砲陣地に敵を誘い込み、比較的近距離で火砲を浴びせる戦術を急遽立案しました。間もなく、火砲陣地に到着します」

 運転手は、こちら迄伝わって来なかった新しい作戦の概略を話してくれた。大体、これから何をするか、抽象的に勘案する事が出来るが、鈴宮は顎に手を置いていた。動揺で半トントラックが揺れても、それが解かれる事は無い。

「しかし妙ですね。だとすれば、もう砲弾は降ってきてもおかしくない筈です」

 疑問は遂に晴れる事は無く、5門の榴弾砲が並ぶ火砲陣地に到着した。
 普通科の私にとってこの光景は珍しいもので、つい凝視してしまう。平原に置かれた榴弾砲と云う光景は、日本では先ず見られない。ここが平原で良く風が流れるからか、火薬の匂いはしなかった。これも、日本ではあまり無い事だ。
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