異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲

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第三章 自衛隊の在り方(前)

第十九部

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 黒鎺さんを邪魔しない様、地図を囲み、私は予め其処等辺で拾って置きベルトに挿して居た長い木の棒を右手に持った。

「我々の任務は――」
「はい! 私わかる!」

 そう言って、元気良く手を挙げたのは杉田だ。
 何処かで見た様な絵面だが、その純粋な瞳に免じて、発言を促した。

「ずばり! 突撃ですね!」

 此奴の発言で場が白けたと云う事は、言うまでもない。

「バババッと装甲車で進んで、バババッと89を撃ちながら、バババッと84を撃って、バババッと前進するんですよね!」

 擬音を多用するだけで分り辛くなるのに、同じ擬音をくも使われるとゲシュタルト崩壊を引き起こしてしまう。

「我々の任務は、『持ち堪える事』だ」
「新渡戸隊長が無視した!」
「然し、防御に徹する訳では無い。何せ、数で言えば、大まかに見積もって、敵は陸上自衛官総数に匹敵する」

 そう。今、自分で話して気が付いた。敵兵の概算、約十二万は、陸上自衛官総数の約十四万に相当する。
 これから私達は、「国家」に相対するのだ、と諸々の意味と共に認識した。
 杉田の膨れっ面に構っている余裕等、有ってはならないのだ。

「連隊にも満たない我等が相対したとて、破滅しか待受まちうけていないだろう」

 敵の装備が報告通りで、駐屯地を襲撃した者達の攻撃方法をしないのであれば、小銃等を用いた中長距離戦闘を仕掛ければ勝てるかも知れない。だがし、敵がそれでも前進して来たらどうする。射撃しても間に合わない速度で突込つきこんで来られたら……。
 無論、弾が尽きても同じだ。特に派遣されたこの状況では、満足に連射も出来ない。
 ……敵軍十二万、若しかしたら私達は、偶然にイツミカ王国の全力の侵略に巻込まれたのかもしれない。そんなものに、立向たちむかって生きて帰れる可能性は限り無く低いだろう。

「然し、此方には策が有る。技術が在る」

 私は、棒で駐屯地北口を指した。

「此処から南へ前進し、森林を迂回する形で森林の南方、つまり――」

 地図の上端と右端に在る、アルファベットと数字を目で追う。目は最終的に、アルファチャーリーと24の延長線が交叉した所に据わった。

「aC, 24地点に前進する」

 我々が通る予定の場所を概ねなぞりながら、その交点に棒の先端を置いた。

「軽く陣地占領した後、敵部隊が完全に森林に侵入し、一定時間経過した後に我は前進を再開する。敵部隊を追尾する形で」
「と言う事はあれやな。駐屯地を攻撃せんとする敵部隊を、我の準備した作戦正面と我等機動部隊で挟撃する、と解釈してええかな」

 私が説明を開始して直ぐに、宇野曹長は見事に作戦内容を看破してしまった。しかも、準備した作戦正面、詰り防衛線LDefの事は、未だ説明すらして居ない。恐らく、地図符号で判別したのだろう。

「宇野曹長には敵いませんね。その通りです。陸自では珍しい、車両化された我が連隊の力を最大限に発揮します。前衛には地雷原処理ローラ付90式戦車、施設中隊機動支援小隊各車を配置。側衛には一中隊の一部小隊を配置。本隊には一中隊、中隊本部たるMLAP、そして一中隊小隊統合指揮車としてのMLAP、要するにMLAP二輛と本管衛生小隊を乗せるアンビ仕様のWAPCを二輛を配置する。後衛に、ドーザを積載した中型セミトレーラと一中隊の一部小隊を配置する。大体はこんな感じ。車両行軍オンリーで、徒歩は基本無し。以上」

 言い終って直ぐ、皆、メモ帳を仕舞い始めた。

「さ、意見もあらへん様ですし、此処で話しをするのんは勿体あらへん。決行に向けて準備しましょ」

 宇野曹長の言う通りだ。
 作戦を練るだけが、職務じゃあない。



 清々しい程の秋晴れの中、高機動車、通称高機こうきを降りた。
 自然豊かな島と聞いていたが、そんな面影あったもんじゃない。

「あそこの道路分かりますよね。あそこから丁度この辺りまでが範囲ですね」

 上級曹長が、頼みもしていないのに割り当てられた範囲を私に言った。

「小隊! 集まれ! 密集体形!」

 こいつらは、私に反抗的だ。のそのそと、今の装備が戦闘装着セットより重いと主張するかのように、鈍重に歩を進めた。無論、重い筈がない。

「三小隊は、ここを捜索する。各自、適当に瓦礫を撤去。見付けたら、声を上げろ。良いな」
「了解」
「じゃあ、さっさと掛かれ」

 小隊は、私に敬礼をして散開した。一一いちいち答礼を返さなくては成らない。面倒臭い。
 それにしても、この島も災難だったな。各地で土砂崩れが起き、御蔭で住宅は見る影も無く、道路も通れないどころか何処にそれが在るのかすら分らない。

「小隊長! 施設の支援は得られませんか? 不安定で作業出来ません!」

 向こうで、馬鹿が何かを叫んで居る。遣れ、と言った事が出来ないのか。一体、どう言う性分をして居る。

「小隊長。実地を見ずに易易やすやすと決めるのは危険です。せめて確認を――」
「黙って」

 碌な学校を出て居ないであろう上級曹長が、何かと目障りだ。

「つべこべ言わずにやれ!」

 私がそう言うと、あいつは返事をせずに行動を再開した。少し足を取られて居る様に見えるが、陸上自衛隊の厳しい訓練を受けて来たのだから、大丈夫に決まって居る。
 突然、胸部に衝撃が加わった。思わずよろけるが、倒れはしない。何故なら、無礼にも私の胸ぐらを掴んだ者が居るからだ。

「小隊長! 今迄、変ってくれると信じて内に秘めて居たが、もう言わせて貰う! 御前は、命を預かっているんだ! 御前は、御前の都合で、人を殺せるんだぞ?!」

 上級曹長が動物の様に頭に血を上らせて居る。
 まだ、続けて説教があるかと思い、黙って居ると、「あ」と短音が嫌でも耳に入った。そして、木材がぶつかり合う、調子の良い音が聞こえた。

「小隊長! 千代田が!」

 隊員は、私の前では一切見せなかった表情をし、今迄聞いた中で一番大きな声を出した。
 足が、自然と動く。プログラミングされたかの様に、着実に足は進んだ。
 結果を知りたかったのであろう。
 瓦礫を登る時は、二回位、足踏みをして安定して居るのを確かめてから、それに体を預ける。繰返して、ようやく土砂で流されつつ倒壊してしまった家屋の屋根に乗った。赤い瓦は、今にも剥がれそうだ。
 棟瓦むねがわら、屋根の天辺てへんを越えて、結果が分った。これが、私の結果だ。
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