上 下
17 / 19
雷鳴

【別視点】ちょうかいの戦闘1

しおりを挟む
「――民間船舶に危害が及ぶ可能性がある事から、目標の撃沈を行え。目標の戦闘能力が失われたと判断したならば、直ちに海上救難を優先せよ。……以上です」

 4護隊司令から『ちょうかい』艦長である出谷いでたに1佐に宛てられた、通信の内容の読上げが終り、出谷1佐は背もたれに上半身を預け天井を仰ぎ見た。

「砲雷長」

 そしてその儘、口を開いた。

「配置に付けろ」
「はい。配置に付けます。対水上戦闘用意」

 砲雷長は、出谷1佐の「待て」を待つかの如く、句切りを広く取りつつ令した。

「砲による攻撃で、目標の撃沈を企図きとします。艦長」
「了解」

 アラームが鳴っている最中さなかに於いても、彼等は至って冷静であった。非番直員が配置に付く為、CICの水密扉を勢い良く開けようともそちらに気を取られる事は無い。

「各部、対水上戦闘用意良し。艦内非常閉鎖良し」
「了解。エンゲージ、ガン。主砲揚弾始め。BL、64発」

 砲雷長EVALの号令は、各種伝令が各部へ伝達する。CICが、騒がしくなる。
 暫くして、「揚弾良し」が届けられた。コンソールの引金を引けば、127mmの弾丸が放物線を描き飛んで行く。

「胸算。発射弾数無制限。発射速度最大。基本射法、試射、4連射。本射、4連射。以上」
「左対水上戦闘。280度、同航の目標」
「射撃用意良し。目標間違い無し。射程内確認。GFCS、追尾良好」
「撃ち方始め!」
「撃ち方始め!」

 先ずは四発。和太鼓の重奏を思わせる発砲音が、艦内を伝い行く。発砲に伴う船体の振動は、無機質にも弾が吐出されているのを実感出来る。
 カメラ映像からは、帆船の目の前に水柱が立ったのが確認出来る。その他弾観装置も同様の結果を出している。

「初弾よーい! だんー、ちゃく!」
「近50!」
「主砲、撃ち方控え。高め0.5。」
「高め0.5。調定良し」

 "敵"が見えないからこそ出来る、この冷静さ。コンソールに映る三角形の様なシンボルは、訓練時に映る物と何ら変りは無い。
 人の目では分る筈のない、微妙な修正が瞬時に熟される。次撃てば、当る。海曹士あがりのB幹である砲術長は確信した。だが、撃たない。矢張、怖気付いてしまっている。それは、控えの号令が物語っているし砲術長自身もそれを分っている。
 誰も止めてくれなかった。砲術長は、号令を出すだけだ。怖気付いだとは言え、声迄出せなくなる程ではない。

「以前の目標! 主砲、撃ち方始め」

 再び、等間隔で断続的に船体が震え、遠くの雷鳴かの様な音が骨を震わせる。
 一弾目こそ外れたが、それ以降は帆船に吸い込まれるが如く命中して行く。木片や火花が飛散ったり外れて水柱が上ったりと驚く程、標的艦攻撃と同じ光景で、出谷1佐は変に入った肩の力が抜けた。それもその筈、変る事と言えば人が乗ってるかいないか位だ。海上自衛隊だって陸上自衛隊と同じく、射撃訓練は定期的に行っている。小銃もそうだが、主砲や誘導弾もやっている。砲弾が放たれる間隔、修正を素早く入れる瞬発、発砲電鍵の引き金の重さ。これら全て、射撃管制員や射撃士官にとって割と身近な物だ。
 だからこそ、出谷1佐は恐れていた。自分が、海曹士が、人を殺しても平気でいられるようになってしまうのではないか、と。

「51番、撃ち終り。砲中弾無し」
「撃ち方控え。主砲撃ち終り。砲中弾無し」

 64発全てを打ち切ってしまった。
 射撃の後は、一定の観察を置き必要であれば再度攻撃を実施する。

「A、速力低下。更に傾き始めた。現在、ダウントリム13度、ロール5度」

 艦橋から来たのは、嬉しい報告だった。

「本射撃は、有効と判断。攻撃止めます。艦長」
「おう」
「撃ち方止め。攻撃止め」

 こうした区切では、各部から人員武器の以上の有無が知らされる。人員は勿論、武器も不調無かったようで出谷1佐は静かに肩を撫でおろした。

「用具収めて、1配備に落します。艦長」
「いや、それは待て」

 自分は慎重派であると、出谷1佐は重重承知している。今回も、何か彼に引っ掛かった。何の根拠がない勘ではあるが、彼はそれに従う。

「A、甲板上、乗員が大勢出て来た。人数不明。また、『かが』が攻撃を受けた際に見えたローブを纏った人も視認」

 「かが」が受けた攻撃は、よく分らない。目標が砲を撃った訳でも、魚雷を発射した訳でもない。突如、艦橋構造物が爆発したのだ。そしてその時、上甲板にいた他の乗員とは一風変った格好の一人。
 今、その一人と特徴が合致する者がいる。

「艦橋! 面舵一杯! 反転し、離隔しつつ射撃を行う」

 近距離に目標がいる状態での射撃、反転、離隔という動きは訓練で幾度か行っている。CICに居るもので、艦長の言っている意味が分らない者は居ない。

「主砲揚弾始め」
「3戦速、面舵一杯で反転、120度となりましたら最大戦速とします」

 出谷1佐は、自分で叫んでおきながらもう間に合わない事を悟った。幾ら新鋭艦だとしても、人や機械の反応速度は一瞬とはいかない。回頭にも時間が掛る。

「哨戒長! チャフ!」
「っ! 左、チャフ発射!」

 はっとして呼応した哨戒長だったが、出谷1佐の見立て通り間に合わなかった。いや、効かなかったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

異世界列島

黒酢
ファンタジー
 【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!! ■【毎日投稿】2019.2.27~3.1 毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。 今後の予定(3日間で計14話投稿予定) 2.27 20時、21時、22時、23時 2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時 3.1  7時、12時、16時、21時 ■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。

世界異世界転移

多門@21
ファンタジー
東京オリンピックを控えた2020年の春、突如地球上のすべての国家が位置関係を変え異世界の巨大な惑星に転移してしまう。 その惑星には様々な文化文明種族、果てには魔術なるものまで存在する。 その惑星では常に戦争が絶えず弱肉強食様相を呈していた。旧地球上国家も例外なく巻き込まれ、最初に戦争を吹っかけられた相手の文明レベルは中世。殲滅戦、民族浄化を宣言された日本とアメリカはこの暴挙に現代兵器の恩恵を受けた軍事力を行使して戦うことを決意する。 日本が転移するのも面白いけどアメリカやロシアの圧倒的ミリタリーパワーで異世界を戦う姿も見てみたい!そんなシーンをタップリ含んでます。 43話までは一日一話追加していきます!

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

日本は異世界で平和に過ごしたいようです。

Koutan
ファンタジー
2020年、日本各地で震度5強の揺れを観測した。 これにより、日本は海外との一切の通信が取れなくなった。 その後、自衛隊機や、民間機の報告により、地球とは全く異なる世界に日本が転移したことが判明する。 そこで日本は資源の枯渇などを回避するために諸外国との交流を図ろうとするが... この作品では自衛隊が主に活躍します。流血要素を含むため、苦手な方は、ブラウザバックをして他の方々の良い作品を見に行くんだ! ちなみにご意見ご感想等でご指摘いただければ修正させていただく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 "小説家になろう"にも掲載中。 "小説家になろう"に掲載している本文をそのまま掲載しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

東京PMC’s

青空鰹
ファンタジー
唯一向いの家族である父親が失踪してしまった 大園 紫音 は天涯孤独の身になってしまい途方に明け暮れていた。 そんな彼の元に、父親の友人がやって来て 天野 と言う人の家を紹介してもらったのだが “PMCとして一緒に活動しなければ住まわせない”と言うので、彼は“僕にはもう行く宛がない” 天野と言う人の条件を了承して訓練所に行き、PMCライセンス を取得した一人の少年の物語。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...