上 下
5 / 19
航海の終着点

碧い太陽

しおりを挟む
 幹部候補生の練習航海では、世界一周をしてきたが、俺が聞いたことのない言語だ。ロシア系の言語のようだが、そう言ってしまうとロシア語を知らない日本人が片仮名で書かれたロシア語を読んでいるかのようだ。一音一音をしっかりと発声し、たまに巻き舌を挟む。
 妙な寒気を覚えた。未知との遭遇とは、ここまで人を不安にさせるのか。とは言っても、流石にDoMaFiを渡れた訳ではないだろう。呼吸は出来るし、他の惑星のように重力がおかしいわけでもない。
 ……防衛省はDoMaFiの向こう側を仮称異世界としていた。もしそこが、俺みたいな奴が好んで読む、所謂ライトノベル的な場所だったら?
こんな事を考えたら、もうそろそろ話が逸れるな。
今は目の前の事に集中だ。船を運用する程の者なら英語は絶対に分かる筈だ。分からなくてはいけない。だが、一応近隣諸国の言葉でも警告文を発した方が良い。

「『ちょうかい』に発光信号並びに電文。和文、英文、中文、ハングル、ロシア語での警告を開始せよ」
「通信室からです!ノイズが更に酷くなり、通信が不可能かと思われる、とのことです。」

 まだ電波障害が続いているのか。気を失う前と変わらないということは、やはりまだ仮称異世界には到達していないのではないか?

「ちょうかいより、返信!」

 返信だと?返信がこんなにも早く届くなんて、トラブルが発生したと考えるのが妥当か。やはり、実戦では全てが俺の思い描いたセオリー通りに行く訳がないか……淡い期待を信じすぎたな。

「我、拡声器の故障につき警告出来ず!」
「しょうがない、我々が行うぞ」

 これ以上、警告段階で留まっていてしまっては、相手が何をしでかすか分からない。

「警告始め」

 航海員がマイクを手に取った。

《こちらは、海上自衛隊である。こちらは、海上自衛隊である。国籍不明船に告ぐ。国籍不明船に告ぐ。直ちに、包囲網を解除しなさい。直ちに包囲網を解除しなさい》
《This is Japan Navy.This is Japan Navy.We tell the ship of unknown nationality.We tell the ship of unknown nationality.Unlock the siege immediately.Unlock the siege immediately.》
《(中国語警告が入る筈でしたが、文字コードが対応していなかったため表示できませんでした)》
《(韓国語警告が入る筈でしたが、文字コードが対応していなかったため表示できませんでした)》
《Это японский флот. Это японский флот. мы говорим корабль неизвестной национальности. мы говорим корабль неизвестной национальности. Разблокировать осаду немедленно. Разблокировать осаду немедленно.》

 ロシア語のみは、別の航海員が行った。
 そして、双方が静まり、数分が経とうとしている。

「該船の行動は?」
「波に流され、少し動いているということ以外には、なにもありません」
「ソーナー室は?」
「パッシブを継続中ですが、反応は鯨のような鳴き声のみだそうです」

 相手が潜水艦か何かの攻撃を待っているという訳でもなさそうだ。ただ、そろそろ動いてくれないと、こちらとしても立ち入り検査と称して強行突破を行うしかないだろう。

「司令、如何――」
「左舷の該船が行動を開始!」

 円城寺の考えを聞こうと思ったが、聞くべき事が変わった。

「司令!」
「力久、該船は恐らく、おおすみと接舷しようとしている。おおすみに、協力命令を!」

 元々、円城寺は頭が良い。だから、このように素早く的確に判断をすることが出来る。防衛大学校は首席で入学したという噂だ。

「おおすみに発光信号で伝えろ!」
「発光信号で伝えます!」

 しかし何故、高校卒業後に俺と一緒に初めて受けた防衛大学校入学試験に一緒に落ちたのだろうか……一年後の二度目の試験では受かった上に、円城寺は首席だというのに。

「おおすみ、陣形より脱します」

 おおすみは大きく取舵をとり、帆船の左舷へ回り込んで接舷をした。
 自分の首にぶら下がっている双眼鏡で、おおすみの様子を観察する。
 甲板では、陸自迷彩の人が十数人動いている。もし、乗艦してきたのが敵勢力であった場合の対策か。今、艦橋構造物から夏服を太陽光で碧白く輝かせた男が一人出てきた。妙に論理的で哲学的な佐貝艦長だ。
 ……碧白く、ねぇ。
 目に入ってきた情報の違和感に気付いた。何故か「碧」という情報が追加されている。反射的に艦橋の窓に自分の顔を押し付けて、空を見た。ギラつく太陽が、視界の端に入る。本能が瞼を閉じようとしたが、理性が目を細めることで妥協させた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界災派 ~1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す~

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一年。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 派遣を任されたのは、陸上自衛隊のプロフェッショナル集団、陸上総隊の隷下に入る中央即応連隊。彼等は、国際平和協力活動等に尽力する為、先遣部隊等として主力部隊到着迄活動基盤を準備する事等を主任務とし、日々訓練に励んでいる。 其の第一中隊長を任されているのは、暗い過去を持つ新渡戸愛桜。彼女は、この派遣に於て、指揮官としての特殊な苦悩を味い、高みを目指す。 海上自衛隊版、出しました →https://ncode.syosetu.com/n3744fn/ ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈り申し上げます。 「小説家になろう」に於ても投稿させて頂いております。 →https://ncode.syosetu.com/n3570fj/ 「カクヨム」に於ても投稿させて頂いております。 →https://kakuyomu.jp/works/1177354054889229369

帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。 犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。 たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。 何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。

世界異世界転移

多門@21
ファンタジー
東京オリンピックを控えた2020年の春、突如地球上のすべての国家が位置関係を変え異世界の巨大な惑星に転移してしまう。 その惑星には様々な文化文明種族、果てには魔術なるものまで存在する。 その惑星では常に戦争が絶えず弱肉強食様相を呈していた。旧地球上国家も例外なく巻き込まれ、最初に戦争を吹っかけられた相手の文明レベルは中世。殲滅戦、民族浄化を宣言された日本とアメリカはこの暴挙に現代兵器の恩恵を受けた軍事力を行使して戦うことを決意する。 日本が転移するのも面白いけどアメリカやロシアの圧倒的ミリタリーパワーで異世界を戦う姿も見てみたい!そんなシーンをタップリ含んでます。 43話までは一日一話追加していきます!

平和国家異世界へ―日本の受難―

あずき
ファンタジー
平和国家、日本。 東アジアの島国であるこの国は、厳しさを増す安全保障環境に対応するため、 政府は戦闘機搭載型護衛艦、DDV-712「しなの」を開発した。 「しなの」は第八護衛隊群に配属され、領海の警備を行なうことに。 それから数年後の2035年、8月。 日本は異世界に転移した。 帝国主義のはびこるこの世界で、日本は生き残れるのか。 総勢1200億人を抱えた国家サバイバルが今、始まる―― 何番煎じ蚊もわからない日本転移小説です。 質問などは感想に書いていただけると、返信します。 毎日投稿します。

何故、わたくしだけが貴方の事を特別視していると思われるのですか?

ラララキヲ
ファンタジー
王家主催の夜会で婚約者以外の令嬢をエスコートした侯爵令息は、突然自分の婚約者である伯爵令嬢に婚約破棄を宣言した。 それを受けて婚約者の伯爵令嬢は自分の婚約者に聞き返す。 「返事……ですか?わたくしは何を言えばいいのでしょうか?」 侯爵令息の胸に抱かれる子爵令嬢も一緒になって婚約破棄を告げられた令嬢を責め立てる。しかし伯爵令嬢は首を傾げて問返す。 「何故わたくしが嫉妬すると思われるのですか?」 ※この世界の貴族は『完全なピラミッド型』だと思って下さい…… ◇テンプレ婚約破棄モノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

日本は異世界で平和に過ごしたいようです。

Koutan
ファンタジー
2020年、日本各地で震度5強の揺れを観測した。 これにより、日本は海外との一切の通信が取れなくなった。 その後、自衛隊機や、民間機の報告により、地球とは全く異なる世界に日本が転移したことが判明する。 そこで日本は資源の枯渇などを回避するために諸外国との交流を図ろうとするが... この作品では自衛隊が主に活躍します。流血要素を含むため、苦手な方は、ブラウザバックをして他の方々の良い作品を見に行くんだ! ちなみにご意見ご感想等でご指摘いただければ修正させていただく思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。 "小説家になろう"にも掲載中。 "小説家になろう"に掲載している本文をそのまま掲載しております。

異世界で作ろう「最強国家!」

ハク
ファンタジー
黒上 優斗は暴走車に跳ね飛ばされ死亡した。だが目を覚ますと知らないとこにいた。豪華な場所で右側には金髪美女がいる。 魔法が使えない優斗ことユート・オリビアは現代兵器やその他特殊能力で国を建国し様々な困難に立ち向かう! 注意! 第零章ではまだ国家を建国しません……おそらく! 本作品は「小説家になろう」「カクヨム」に投稿しております 2021年5月9日 アルファポリスにも投稿開始!

異世界列島

黒酢
ファンタジー
 【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!! ■【毎日投稿】2019.2.27~3.1 毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。 今後の予定(3日間で計14話投稿予定) 2.27 20時、21時、22時、23時 2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時 3.1  7時、12時、16時、21時 ■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。

処理中です...