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第90話 紐の先はどこに
しおりを挟むその後も、モモカへの丁寧な説明などを行ってみたが、とりあえず回答留保となった。ホクダイ界に競り勝つという部分への反応は悪くなかったのでなるようになるだろう。
「斉藤社長、時間が惜しいので今は詠唱短縮の続きをお願いします」
「……そうですね。先に田辺さんにも討伐イベントの件、一報を入れておきます」
マイペースな佐藤女史に急かされるようにメッセージを送信し、カメラがセッティングされた屋根裏へと上がって風幕詠唱の続きを行っていく。
「フゥーっと来てピュー。ゴーっと鳴ってシェー。流々羅々カーテン、みんなを守ってシルフィード。風幕」
どうやら、モモカやカオルさんも魔法使いを目指すらしく熱心に詠唱文を観察していた。俺も慣れた。
モモカは上級界の主となり、HPなどの各ステータスが1000を超えているらしい。チートや!と思ったがある意味ボスキャラなのでそんなものなのかも知れない。
それだけのMPがあれば、詠唱破棄を得るのも時間の問題な気がしてきた。隠していられるのも今のうちだけか。MPモリモリのボスが、詠唱破棄で魔法乱射とか、敵対したら悪夢でしかない。
今の詠唱で佐藤女史の残りMPは12。少しMP回復休憩しよう。
「そういえば、斉藤社長のステータスも見せてもらえませんか?」
佐藤女史のステータスを眺めていると、意図しないリクエストが飛んできた。
こちらはステータスを見てしまっているので断りにくい。しかし、詠唱破棄の公開は時間の問題とはいえ、まだ踏ん切りがつかないのだ。
ちょうど、と言うべきか。
取り出したスマホが、ぶるぶると震えていた。
「……あっと、すみません。田辺さんから電話きていました」
電話をしてくるとは珍しい。急ぎの件だろうか。
「どうぞ。クライアント優先で」
「ちょっと失礼します」
電話の向こうの田辺さんは硬い口調で「至急、会えませんか」とだけ伝えてきた。こちらも「今すぐ向かいます」と伝え、これ幸いとその場から逃走することに成功した。
「お一人ですね。良かった」
対策室で待っていた田辺さんは、少しだけ緊張感が抜けた表情を浮かべた。
「何かあったんですか?」
「……それがですね。うちの親方の情報部から、佐藤さん……隣国と通じている可能性ありで注意されたしとの通達が……」
「……はぁ?」
声を潜めて何を言うかと思えば……スパイごっこか?
「派閥が隣国スクールだとかなんとか」
「注意するも何もどうしろと……」
「まぁ、詠唱短縮も既に公開情報ですしね。ギルドの運用ノウハウは……」
「ある意味、その佐藤女史が主導してます」
「ですよね……」
「精々が詠唱短縮のノウハウくらいでしょうか……」
そう言われてみると、佐藤女史は距離が近い。まるでスマホ画面を後ろから覗くかのような距離感だ。もしかして詠唱破棄も既に疑われている?最悪はバレている?
「田辺さん、そういえば一つ報告してないことがあります」
「な、なんですか?」
「詠唱破棄、ゲットしてます」
「……はぁぁぁ?!」
もうバラしてしまえ。
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