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第87話 指名依頼
しおりを挟む怠さが残る目覚めであったが、朝のお勤めである風呂サウナ3ターンで頭に残ったアルコールを搾り抜く。
イーストも上級界になるので、ソロ攻略難易度によっては中級か初級の界に宿泊先を変えた方がいいのかもしれない。
頭から冷水を被ると、ぼんやりとしていた思考が醒めてくる。
界の難易度は、どのモンスターを配置するかなどの主の意向に大きく左右される。超級界からの釣りを行うのであれば、対応可能なそれなりのモンスターが配置されるのだろう。
量でいくのか、質でいくのか。
非アクティブで火矢数発で倒せる敵であれば、自分にとっても都合が良いのだが……。
風呂からあがると、スマホにメッセージが届いていた。田辺さんからだ。
「朝からお呼びたてしてすみません。少々状況が変わりまして」
道庁の一室に設けられた災害対策室には珍しくスーツ姿の人たちが詰めていた。無論、佐藤女史もいる。
「北海道と札幌市からも合同で緊急随契の打診がありました。国の試用予算とは別口で、こちらは明確にススキノ界の攻略が明記されています」
国からの予算は試用……要は攻略の可否は問われず、とりあえずやってみよう予算であったはずだ。
「そして、契約者としては地場企業である冒険者ギルド合同会社が指名されています」
「……え?」
「おめでとうございます。北海道と札幌市からの指名依頼です。受けますか?」
にやりとした田辺さんが随分と軽い口調で言う。ススキノ界の攻略難易度を思い知らされたばかりだというのに気軽に受けるわけにも……。
「成功報酬型ですか?」
「着手に2千万円、攻略完了報告で1千万円で打診されています」
「どちらにせよ、やる事は変わりません、か」
「そういう事です。ようやく地方議会も重い腰を上げてくれました」
何やら裏で色々やっていた雰囲気だ。「電波障害を解決せよ」ではなく「ススキノ界を攻略せよ」なのだ。恣意的なものを感じる。
そもそもとして、超級界の攻略には前例がない。前例がないということは、攻略すれば電波障害が解決するという証左もないのだ。
「細々とした対応はこちらにお任せください」
きりりと隙のない佐藤女史が横で眼鏡をクイッとさせている。
「……わかりました。お受けしましょう」
「では、そのように段取いたします」
「これで攻略に弾みがつきますね。さいとーさん」
弾みがつくのだろうか。金を出すと言われてもまだ使用用途がぱっとは思い浮かばない。
ただ、国だけがスポンサーするわけではなく、地方自治体を巻き込み、金を出させた前例を作りたかったのだろうなと、見渡した人たちの空気感から判断した。
俺の率直な意見は、「面倒臭いなぁ」だったが。
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