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第17話 デスペナルティ

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―STATUS―
 Name: さいとー
 HP: 0 / 30 <Return 11:58:24>
 MP: 30 / 30
 LC: 10
 EP: 0

 血の気が引いていく。
 酔いなど吹き飛び、吐き気がする。

 やってしまった。

 スキルと持ち物はそのままだが、今日のレベリング分のエーテルが全損している。

 ホテルの部屋を飛び出し、餃子バーへと駆ける。

 途中のトイレで吐きつつ、たどり着いた閉店間際の餃子バーではマスターが暇そうにしていた。

「マスター!申し訳ありません!」
「おぉ? さいとーさんどした?」

「死んで⋯⋯初期値に戻ってしまいました⋯⋯」

「あー⋯⋯。一人で出ちゃった?」

「はい⋯⋯。1日付き合ってもらったのに⋯⋯すみません」

「いや。こっちも初心者さんが久々だったから注意を忘れてた。急にエーテルを溜め込むと一人で出ちゃう事があるんだわ。エーテル酔いって呼ばれてるけど」

「いえ、単純に酒に飲まれてたんだと思います」

「まぁ、LCも上げてないから今日の稼ぎ分だけっしょ? そんなに気にしなくていいから」

「そういう訳にも⋯⋯皆さんにも謝ってきます」

「コラコラ待て待て。飲みの場で、酒が不味くなる事をしに行ったらあかんよ。皆には俺から伝えとくから」

「⋯⋯申し訳ないです」

「大体の人がやらかすから。むしろ1日分のエーテルだけでラッキーと思いな。LC上げているポーターとかタンクなんて初期値で持てる物以外のアイテムまで全損すっから」

 アイテムまで失くすなんて想像するだけで寒気がする。デスペナルティ厳し過ぎないか? ほとんとやり直しじゃねえか⋯⋯。

「主を取られた元の主なんて死んでなくてもデスペナだしな。アイテム退避の時間があるだけマシだが」

 何だその内包する巨大リスク。迂闊に主なんてやれないな⋯⋯。

「それでルイさんも弱体化してたんですね」

「数値が低いうちは必要エーテルが低いからある程度までの復帰は早いけどね。フル装備まではもうちょいかかるだろうなぁ。良い武器も防具も重いからなー」

 マスターと話をして少し落ち着いた。
 よくある事とはいえ、いい大人が飲まれてやらかした失態だ。若者のやらかしとは一緒にはできないだろう。

「この失態は⋯⋯早く強くなってチーム貢献でお返ししたいと思います」

「ははっ。固い固い。ゆるゆる行こうぜ」


 その夜にチームの同報メールで飛んだ文面は『さいとーさんエーテル酔いで全損ww』と草が生えていた。

 全損の扱い軽っ。

 でも、少しだけ気が軽くなった。
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