6 / 108
第6話 粘つく舞台裏
しおりを挟む狭い店の割に大きなグリドル上で火柱を上げる餃子。なるほどバーニングだ。餃子にブランデーで香りを付ける意味があるのかは分からないが確かにバーニングだ。
手元の足高のグラスに注がれたビールは北海道限定のサッポロクラシック。さり気なく札幌はミュンヘン、ミルウォーキーと並ぶ世界三大ビール都市だったりする。その札幌の名を冠するビールが不味いわけがないのである。
⋯⋯というかサウナ明けのビールが美味すぎる。餃子が出来上がる前に、喉ごし良く身体中の細胞に吸い込まれてしまった。
「すいません。お代わりと、マスターも良ければ一杯」
「ありがとう。頂こう」
程なくして出来上がる餃子とビール。
餃子にはビールだ。ライスはいらなかったかもしれない。やけに辛いニンニクが入った付けだれがまたビールに合う。
「このheaven hillのハイボールも合うと思うよ」
マスターはハイボールを飲むようだ。でもここはやはりビールだろう。
カチリと乾杯を交わす。
「ここはAnotherDimensionの協力店だと聞いたんですが」
「おお、プレイヤーかい? この辺りも主を取られて荒れているけど。バフ出すかい?」
「あれ? 特定のメニューを頼んだらと聞いていたんですが」
「あー、ウチは割と適当に出してるんだわ」
割と適当なんだな。
「イースト所属なら毎日パスコードを同報で出してるしねぇ。まぁこのエリアでしか使えないんだけど」
「そういうもんなんですか」
「有効時間内に他に行くのは問題ないけどね。使えるのはこのエリア限定なのさ」
イーストは札幌イーストの略称だろうか。もう少し様子を見よう。
「そういえば、ルイさんという女性にチームに誘われました。札幌イーストなんですよね?」
「ルイに誘われたか。じゃ、魔法使い?」
「⋯⋯魔法使いをおススメされました」
「勇者だな。ようこそ我らが札幌イーストへ」
やはり魔法使いはそういう扱いか。
「いえ、まだ決めた訳では⋯⋯」
「そうかい。まぁ、悪くはない選択肢だとは思うけどね」
「魔法使いはやっぱり少ないんですか?」
「まず、まともに魔法を扱えるMPまで鍛えるのが難しい。詠唱中は動けないからソロじゃ無理ってのもあるかな。金がかかるのが目に見えているのもあるだろうけど」
「お金か⋯⋯」
「ルイが主だったら良かったんだけどねぇ⋯⋯」
「界の主で良し悪しがあるんですか?」
「NPC商人が売っている商品は、主の利益も乗せた金額なのさ。即時回復ポーションと魔道書はリアルマネー決済だから、主にリアルマネーが入ってくる。ルイが主なら魔道書も原価に近くしてくれたと思うよ。最近は適正価格みたいな風潮があるけどね」
「えっと⋯⋯界の主って儲かるんですか?」
「⋯⋯やり方によってはね。やり過ぎたススキノの主に、巻き込まれた隣接界のルイって訳さ。チームリーダーのルイが、界を失ったペナルティで弱体化してるし、収入減で出勤を増やしててイーストには悪循環だったから、魔法使いが入ってくれるとありがたいね」
想像以上にどろっとした背景がありそうだ。とりあえず、もう一杯ビール下さい。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる