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『節制』
仮面ライダー誕生まであと二日
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俺達はジジイの運転で錦江湾の海岸線を走る国道10号を南下している。
右を見れば、ジジイの横顔と山の緑。左を見れば陽の光を弾いてキラキラ輝いている錦江湾。
ミコは真ん中の座席に座っているが、ジジイが言った「イルカが見えるかも」という言葉を真に受けて、皿にした目を窓に押し当てた探している。
おかげて俺のスペースは侵されている。
「イルカ~いるか~?」
「ミコ、ちょっとキツい」
どんだけイルカが見たいんだ。行儀がいいのはシートベルトを閉めている事だけで、上半身で俺を圧し潰すつもりのようだ。
「だって、イルカ見たいもん! あー、にぃに独り占めする気だな」
「運転してる隣で暴れるな事故る」
「だってジジイ、にぃにがケチってるから」
「席代われば良いだろ」
「なるほど! にぃに、チェンジで!」
そんな訳で、俺とミコは背席をチェンジした訳だが……ミコが一層うるさい。
「イルカ!? じゃない……。アレはもしや! 違う……」
コイツはもしかしたらイルカを知らないんじゃないか? その可能性は高いな。
「ミコ、俺も一緒に探してやるよ」
「とかいって、にぃにも見たいんでしょ?」
席を代わって貰って有頂天か。自分のわがままが通って図に乗ってらっしゃるか。ミコ、何とも腹立たしい表情をするじゃないか。
こちらの優しさを全て無に帰すしたり顔、逆にブラボーだ。
俺は正面を向き直した。
「あれれ? にぃに、見て良いんだよ? ミコはけちけちしないからね、にぃに?」
国道というだけあって、片側二車線でスイスイ進む。ストレスフリーで快適だ。
いいな車という物は、文明の利器に感謝。
足は痛くならないし、荷物を背負う必要もない。ボタン一つで過ごしやすい温度にも調整できる優れもの、実にブラボー。
おやおや、道路の横には電車が走っているではないか。
「オイオイ、子供かよ。お兄ちゃん」
ジジイが前を見ながらそんなことを言い出した。俺は今年で十七歳、子供いえば子供だし大人といえば大人などっち付かずの年齢だ。無視する。
「にぃに、ミコ、イルカ見つけられないから手伝ってよ」
「……ッフ、しゃーねーな」
仕方なく俺はミコと一緒に窓に張り付いた。鼻で笑われたような気がしたが、兄貴な俺は流してやった。
二車線が一車線になり、車が増え始めた。三階建て以上の建物がいくつもあり、それが狭い区画に所狭しとギチギチに詰め込まれている。
隣に走っていた線路はいつのまにやら見えなくなって、少々手狭な道路を走って行くと、大きな鳥居が姿を表した。
俺の知ってる神社の鳥居は、こう、なんというか……廃れている。言い方は悪いが、神社の近くに建物群があるみたいな、こんな感じに賑わっている神社を初めて見た。
「とりあえずここに止めとくから」
とハンドル切ったジジイ。何だかさっきまでのジジイとは違い都会人に見える。
境内の隣に位置する有料駐車場。看板には『参拝者用』と書いてある。平日なのにほぼ満車だ。
この神社に一体何が……なるほど、鳥居のときも思ったが、新しいんだな。
鳥居はまだ汚れ知らずえ白っぽく、社の木材も綺麗で、所々にあしらわれている金箔はピカピカだ。
「お! ちょうど出る所だ」
ジジイが嬉しそうに言う。見ると確かに車が一台出る所だった。ジジイは素早くそこに止めた。
ここは、アスファルトじゃなくて砂利なんだなぁ、とかどうでも良いことを思いながら降りた。
自分でもちょっと浮かれているのが分かる。
ミコに至っては、キョロキョロ首を回して、雪崩れ込むの視覚情報に溺れていた。それでも興味が湧いて仕方ないのか、首を回しすぎて髪が傘みたいにファサファサなびいてやまない。
「今日は特に人が多いな~」
「そうなのか? いつもはもっと少ないのか?」
「ああ、でも明日もこのくらい多いと思うぞ」
「何でだ?」
「事故があって天文館が完全閉鎖されたんだと、今工事してて、しばらく店側は営業は無理だが、明日から通行は許可されるらしい」
「テンモンカンって?」
「ほら、あそこ」
ジジイが指を差した方向に目を向けると、商店街風な建物群が目に入った。アレが天文館か。
市内に入ってから最も建物がギチギチしている。見ているだけで気疲れしそうだ。
中には車が通れるような道があり、その上をドーム状の屋根が覆っている。
中に入ることは出来ない。地面から屋根まで高い壁のような鉄扉がそびえ立っているのだ。
「どっから入るんだ?」
「明日か? 参道から続く道をまっすぐ歩いて行けば良い、ここからじゃ三分もかからん」
すると、情報処理に四苦八苦していたミコが目を輝かせてジジイに聞いた。
「明日入れるの?」
「ああ、確かそんなことニュースで言ってたな。何か早すぎる気もするが、入れるってよ」
「にぃに、ミコあそこ行ってみたい!」
俺は快く返事した。スゲーごちゃごちゃしてそうだが、何か迷路っぽくて少し子供心をくすぐられる。
ジジイは天文館にさして興味がないようで、さっさと歩いていった。目的地は確か『宝山ホール』とかいった場所だ。
宝山ホールの中に入っていく人間は、ガリガリのシニアが多かった。そして何かと若々しく整った顔立ちだ。これみんな化粧してんのか。
顔と首から下が合ってなさすぎて、ちょっと不気味。首振り人形に囲まれているみたいだ。
そんな奴らの前に一人の女性が立った。見た目は普通って感じ。少なくとも首振り人形ぽくないし、歯が綺麗。歯にお金をかけているのが分かる程だ。
「えー皆さん。このたびは集まってくださりありがとうございます。先に申し上げますが、皆さんにお渡ししていた例の羽根の化粧品は用意しておりません。ご存知の通り、政府によって輸入規制の対称にされたからです。皆さん、あの羽根を使って何か健康上の問題がございましたか?」
おばあさんおじさんから口々に「そんな物なかった」「横暴だ」「ろくに調べもせずに」等等の意見が飛び交う。
演説する女性はそれを暫く神妙な顔で頷き、また語りかけた。
「ありがとうございます。私の決意はより一層強くなりました! 私は政治家となって、この輸入の問題を内側か変えて見せます。皆さんのお力をどうか私にお貸しください!」
拍手喝采。
俺の目には、なんとも異様な光景に映った。
右を見れば、ジジイの横顔と山の緑。左を見れば陽の光を弾いてキラキラ輝いている錦江湾。
ミコは真ん中の座席に座っているが、ジジイが言った「イルカが見えるかも」という言葉を真に受けて、皿にした目を窓に押し当てた探している。
おかげて俺のスペースは侵されている。
「イルカ~いるか~?」
「ミコ、ちょっとキツい」
どんだけイルカが見たいんだ。行儀がいいのはシートベルトを閉めている事だけで、上半身で俺を圧し潰すつもりのようだ。
「だって、イルカ見たいもん! あー、にぃに独り占めする気だな」
「運転してる隣で暴れるな事故る」
「だってジジイ、にぃにがケチってるから」
「席代われば良いだろ」
「なるほど! にぃに、チェンジで!」
そんな訳で、俺とミコは背席をチェンジした訳だが……ミコが一層うるさい。
「イルカ!? じゃない……。アレはもしや! 違う……」
コイツはもしかしたらイルカを知らないんじゃないか? その可能性は高いな。
「ミコ、俺も一緒に探してやるよ」
「とかいって、にぃにも見たいんでしょ?」
席を代わって貰って有頂天か。自分のわがままが通って図に乗ってらっしゃるか。ミコ、何とも腹立たしい表情をするじゃないか。
こちらの優しさを全て無に帰すしたり顔、逆にブラボーだ。
俺は正面を向き直した。
「あれれ? にぃに、見て良いんだよ? ミコはけちけちしないからね、にぃに?」
国道というだけあって、片側二車線でスイスイ進む。ストレスフリーで快適だ。
いいな車という物は、文明の利器に感謝。
足は痛くならないし、荷物を背負う必要もない。ボタン一つで過ごしやすい温度にも調整できる優れもの、実にブラボー。
おやおや、道路の横には電車が走っているではないか。
「オイオイ、子供かよ。お兄ちゃん」
ジジイが前を見ながらそんなことを言い出した。俺は今年で十七歳、子供いえば子供だし大人といえば大人などっち付かずの年齢だ。無視する。
「にぃに、ミコ、イルカ見つけられないから手伝ってよ」
「……ッフ、しゃーねーな」
仕方なく俺はミコと一緒に窓に張り付いた。鼻で笑われたような気がしたが、兄貴な俺は流してやった。
二車線が一車線になり、車が増え始めた。三階建て以上の建物がいくつもあり、それが狭い区画に所狭しとギチギチに詰め込まれている。
隣に走っていた線路はいつのまにやら見えなくなって、少々手狭な道路を走って行くと、大きな鳥居が姿を表した。
俺の知ってる神社の鳥居は、こう、なんというか……廃れている。言い方は悪いが、神社の近くに建物群があるみたいな、こんな感じに賑わっている神社を初めて見た。
「とりあえずここに止めとくから」
とハンドル切ったジジイ。何だかさっきまでのジジイとは違い都会人に見える。
境内の隣に位置する有料駐車場。看板には『参拝者用』と書いてある。平日なのにほぼ満車だ。
この神社に一体何が……なるほど、鳥居のときも思ったが、新しいんだな。
鳥居はまだ汚れ知らずえ白っぽく、社の木材も綺麗で、所々にあしらわれている金箔はピカピカだ。
「お! ちょうど出る所だ」
ジジイが嬉しそうに言う。見ると確かに車が一台出る所だった。ジジイは素早くそこに止めた。
ここは、アスファルトじゃなくて砂利なんだなぁ、とかどうでも良いことを思いながら降りた。
自分でもちょっと浮かれているのが分かる。
ミコに至っては、キョロキョロ首を回して、雪崩れ込むの視覚情報に溺れていた。それでも興味が湧いて仕方ないのか、首を回しすぎて髪が傘みたいにファサファサなびいてやまない。
「今日は特に人が多いな~」
「そうなのか? いつもはもっと少ないのか?」
「ああ、でも明日もこのくらい多いと思うぞ」
「何でだ?」
「事故があって天文館が完全閉鎖されたんだと、今工事してて、しばらく店側は営業は無理だが、明日から通行は許可されるらしい」
「テンモンカンって?」
「ほら、あそこ」
ジジイが指を差した方向に目を向けると、商店街風な建物群が目に入った。アレが天文館か。
市内に入ってから最も建物がギチギチしている。見ているだけで気疲れしそうだ。
中には車が通れるような道があり、その上をドーム状の屋根が覆っている。
中に入ることは出来ない。地面から屋根まで高い壁のような鉄扉がそびえ立っているのだ。
「どっから入るんだ?」
「明日か? 参道から続く道をまっすぐ歩いて行けば良い、ここからじゃ三分もかからん」
すると、情報処理に四苦八苦していたミコが目を輝かせてジジイに聞いた。
「明日入れるの?」
「ああ、確かそんなことニュースで言ってたな。何か早すぎる気もするが、入れるってよ」
「にぃに、ミコあそこ行ってみたい!」
俺は快く返事した。スゲーごちゃごちゃしてそうだが、何か迷路っぽくて少し子供心をくすぐられる。
ジジイは天文館にさして興味がないようで、さっさと歩いていった。目的地は確か『宝山ホール』とかいった場所だ。
宝山ホールの中に入っていく人間は、ガリガリのシニアが多かった。そして何かと若々しく整った顔立ちだ。これみんな化粧してんのか。
顔と首から下が合ってなさすぎて、ちょっと不気味。首振り人形に囲まれているみたいだ。
そんな奴らの前に一人の女性が立った。見た目は普通って感じ。少なくとも首振り人形ぽくないし、歯が綺麗。歯にお金をかけているのが分かる程だ。
「えー皆さん。このたびは集まってくださりありがとうございます。先に申し上げますが、皆さんにお渡ししていた例の羽根の化粧品は用意しておりません。ご存知の通り、政府によって輸入規制の対称にされたからです。皆さん、あの羽根を使って何か健康上の問題がございましたか?」
おばあさんおじさんから口々に「そんな物なかった」「横暴だ」「ろくに調べもせずに」等等の意見が飛び交う。
演説する女性はそれを暫く神妙な顔で頷き、また語りかけた。
「ありがとうございます。私の決意はより一層強くなりました! 私は政治家となって、この輸入の問題を内側か変えて見せます。皆さんのお力をどうか私にお貸しください!」
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