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『』

また、

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 朝晩の一日二回、天気予報士が「記録的猛暑」を口にする。深夜には「記録的豪雨」がエリアメールで送られてきた。
 晴れ渡った青空からお日様が白々しく満杯の黄土色の河川を照りつけて。
 世界は今日も平和な顔をしている。

 セミの過剰な歓迎を浴びながら向かう先は墓地の隅っこ。小さな墓だ。
 思えば出会いは最悪だった。親切心で声をかけたら、兄妹揃って私に敵意を向けたのだ。しかも根に持つタイプでしばらく睨み続けられる始末。
 それが墓参りに来る仲になるなんて想像もしてなかった。

 コップを三つ用意する。お供え物だ。コーラをトクトクと注ぎ、堅あげポテトをパーティー開け。生まれも育ちも鹿児島だけど、沖縄スタイルでやらせてもらおう。
 コップがすぐに汗をかく。
 乾杯。二つのコップに軽く当てる。チンッ。

 背徳的な甘味が歯にまとわりつき、チクチクとした攻撃的なのど越し。私の中で絶好調のコーラ。今日も美味い。
 堅揚げポテトを噛み砕けば、反抗的な歯ごたえと九州しょうゆの濃すぎる甘辛フレーバーが脳汁の分泌腺を壊した。

「……あ!」

 フラフラと一匹のアリが宴の席に紛れ込んだ。匂いに釣られて来たのだろう、コチンとコーラの入ったコップに頭をぶつけている。
 アリは熱い体を冷ますようにコップに体をくっつけ、ポテチをロックオンしていた。その姿が愛おしくて悪戯心が芽を出す。

「他にも色々買ってきたんだ」

 わざとアリの視線を遮るようにチョコ菓子やビスケットの箱を置く。即席の迷路みたい。そう思ったとき閃いた。
 私はビニール袋を漁り、別のポテチを開けた。コンソメのいい香りが解き放たれる。
 薫りが私の鼻腔をくすぐるとき、ありんこも動いた。お菓子の箱に頭をぶつけながら一心不乱に迷路を攻略する。
 その様子を私は微笑ましく眺めていると、草葉の陰から。

 ギィーー、チョン。

 大っ嫌いなヤツがいた。
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