願わくは

十八十二

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除け者達のファンファーレ

濡れ石は色っぽい

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 大首が俺を見上げてニヤッと口元を歪めた。唇の間からお歯黒が覗いている。

「私の髪、綺麗でしょ?」

 そう言った瞬間、大首の髪が放射線状に伸び、津波のように押し寄せた。

「うわあああ!」

 さっきの激痛を思い出し情けない声を上げて後ずさった。
 毛先が顔に絡み付く寸前で髪が力なく倒れた。
 大首の顔になっていた瓦礫にホスセリが黒縁を突き立てたのだ。
 大首の髪が瓦礫から抜けて、汚水と一緒に流れていく。

「これで終わり……な分けないよね」

 半泣きの俺にホスセリが少し笑って手を伸ばした。俺はその手を素直に取って起き上がる。
 腹の傷が痛んだ。今もシラが巻いてくれた白い包帯にぽつぽつと赤い斑点が滲んできている。
 
 また大首の姿は見えなくなったが、まだ襲ってくることは感覚的に分かる。しかしどこから来るか分からない。俺達三人は背中合わせでそれぞれに警戒することにした。

「ヤツの名前は多分、大首だと思う」

 確証はない感じを装いながら呟いた。

「大首か……聞いたことある気がするが、どんな妖怪なんだい?」

「俺が知ってるのは大首の見た目だけだ。さっきの顔を見てピンと来た」

 話しながら大首の影を探した。しかし、姿は見えない。代わりに数えるのも嫌にくらいの瓦礫がごろごろ転がっている。少し前までドッヂボール感覚で避けて遊んでいた自分を殴ってやりたい。

「大首の能力は透明化系統だと思うかい?」

 ホスセリが背中越しに聞いてきた。

「分からない、けど透明化じゃない気がする」

 ただの直感だ。無理矢理理由を付けるなら、もし透明化の能力だったら今も攻撃されている。

 腹の傷にカサブタが出来始めたようだ。急に動くと痛むが、じっとしていると痒みを覚える。
 そうだ、あれだけの膂力があるのなら、常に攻撃を仕掛けてくるはずだ。

「大首の能力は透明化じゃないと思った方がいいかもしれない」

 口に出すことで直感が確信に変わってくる。

「こっち来た!」

 ホスセリが叫び、銃を構えた。銃口の先には瓦礫。そこには薄気味悪い笑みを浮かべた大首の顔があった。真っ黒な髪をはためかせ一直線に飛来してきた。
 銃が火を噴き、銃弾は見事に命中。大首は笑みを深めた。髪が瓦礫から抜け落ち、元の瓦礫に戻った。髪が湯の中に消えていく。

 今度はシラの方から来た。大首はさっきと同じ表情を浮かベている。シラは冷静に矢を放った。矢は相変わらず馬鹿げた威力で瓦礫を貫通し、また大首の髪が抜け落ちた。

 順番的に次は俺だ。案の定、大首が半笑いで襲いかかる。俺は後ろの二人とは違って、近接武器だから近づかないと攻撃できない。俺は黒縁を上段に構え大首が間合いに入るのを待った。すると、俺の後ろでひと際大きな銃声がなり、あと一歩で切れるという寸前で大首が爆散した。

「うん、やっとこの銃を使えるときが来たみたいだ」

 ホスセリが銃口の広い銃を満足そうに眺めている。
 振り上げた黒縁が行き場を失ってしまった。困ったな。とりあえず振り下ろしておくか。

「危ない!! 何するんだい、ヒルコ!?」

「横取りは罪だ」

 いきなりシラが怖い顔で水面を蹴った。水しぶきが俺達にかかる。怒られたらしい、少々ふざけ過ぎたようだ。
 これも敵の作戦かもしれない、冗談抜きで。緊張感を保っているのがしんどくなるくらいに、一回一回の攻撃の間が長いのだ。こちらから攻撃を加えようにも敵が見えないんじゃどうしようもない。俺達が出来るのは飛んで来た大首を撃退することしかない。

 ホスセリが喜々として銃に弾を込めていた。

「あ。そうだ。ホスセリ、それで落ちてる瓦礫を片っ端から打ってくれない? そしたら、大首の攻撃手段が無くなってくるじゃん」

 大首は瓦礫に憑依して攻撃してくる。
 元々姿が無く、何かに憑依しなければ、俺達に干渉できないのかもしれない。そう考えたら一連の出来事に筋が通らないか?
 つまり、憑依先を壊してしまえばなにも怖くない。

「了解。じゃあ、準備に入るからその間僕を死守してくれ」

  ホスセリがカメラを構えた。なるほど、弾を増やすのか。
  俺とシラがホスセリを挟む形で陣形をとった。
  後ろでホスセリの神力が高まり、『アルディ・アイッシュ、頼むぞ』とカメラに呼び掛けた。名を呼ばれたカメラは目覚めたように神力が生まれ高まった。

  フラッシュと現像の音がリズミカルに繰り返され始めたとき、ちょうど一つの瓦礫が飛び上がった。
 
「来たぞシラ!」

  シラはバシャンと水面を蹴って返事した。
  飛来する大首を一刀両断する。すると顔が消え、髪が抜ける。シラは矢を放ち大首を貫く。
 二人でホスセリを守ること数分。弾丸の写真の束が出来た。

「お待たせ、出来たよ」

  そして銃声が鳴り響く。
  瓦礫が木っ端微塵に吹っ飛んでいく。
  大首の顔から不適な笑みが消え、攻撃の頻度が高くなった。

  飛んでは打たれ飛んでは打たれ、大首が憑依した瓦礫が粉砕されて小さくなり足元に転がる。
  ホスセリの無双状態だった。まるでシューティングゲームを見ているような気分だ。

  とたんにやることがなくなった俺は黙ってホスセリのプレイを見ていた。
  大首は諦めること無く何度もホスセリに向かって来る。いつの間にか俺達の足下には、粉砕した石ころサイズの瓦礫が山を作り、山頂がお湯の水面まで出来ていた。

 瓦礫は跡わずか。残ったのは遠くに落ちているものだけだ。だから攻撃の間隔も長くなってきた。大首が憑依した瓦礫は放物線を描くように飛ばなければこちらに届かなくなってきている。ホスセリは淡々と撃ち落としていた。

 もう少しで終わる、そう思った俺は少しあっけなく感じた。最初のグリグリ攻撃が何だか懐かしい。
 見納めが近い。俺に神生一の痛みを与えた相手を最後まで見届けよう。

 残りの瓦礫をさっと数えてみると22個あった。少し多いかもしれないがカウントダウンでもしよう。
 22、21、20、19。……大首が瓦礫から憑依を解除する時にパターンがある。
 弾が当たる前、大首の顔が左方向に抜けている。その後に髪が抜ける。

「ホスセリ、次は大首の左頬を狙ってくれ」

 ホスセリは疑問を挟まずに頷き、引き金を引いた。銃口から飛び出した弾丸は俺のお願い通り大首の左頬へ。
 大首がぎょっと目をむき、苦虫を噛み潰したような顔になった。そして、毛髪で弾丸を防いだ。毛髪は爆散、運動エネルギーを失った大首はその場に落下した。

 大首は顔を醜く歪め、俺達を睨みつけた。
 どうやら、顔の左側が弱点のようだ。
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