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除け者達のファンファーレ
アルコール分解能力は遺伝子で決まっているので強くなることはない
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妖怪は口内の物をプロレスの毒霧みたいに噴霧した。
強烈な酒精と青臭さが鼻腔を突き刺した。俺は堪らずその霧の範囲から対比した。
ヒルコの脳内が自動検索し、猩猩の情報がでてきた。さっきのお酒攻撃が要因かもしれない。
「半猿半犬、酒好きの妖怪……以上かよ」
ただできた情報はそれだけだった。
猩猩はいつも間にか俺から距離を取って、あの変な木の枝の上。
半猿半犬という特徴は脳内文献と一致している。酒好きかどうかは先の攻撃でそうかもなと思える。
「何か急にでてきたけど、信じても大丈夫そう……?」
ただでてきた情報が少ないし、正直見れな分かる物だからまだ完全に信じられない。ていうかそもそも猩猩に出会ったのが今日が初めてなのに何だろう。
「もしかてこれが、チート能力というやつではなかろうか。もしかしてレベルとかスキルとか手に入るんじゃ!?」
己の義手に目を落とした。もしかしたらもしかするのでは?という考えが確信に変わってきた。
俄然やる気が出てきた。
クッと視線を上げるとなおも猩猩が見下ろしている。
「うむ、やはりそうだ。だってもうアイツが経験値に見えるもん」
しかし我の武器は刀のみ。これでは彼奴には届くまい。
妙なテンションになっていると冷静な自分が声を上げる。
猩猩から目を離さないように首を回した。意識を切り替えるときにやる俺の癖だ。
「先ずは猩猩を木から下ろしたいな」
どうしようかと思案する。こういうときに近接武器は苦労する。本当はいろんな武器を使いたいが、俺には生身の手足がないから、弓や銃などを扱うのが苦手だ。それに俺の神力事態が近距離なので意味がないし……。
「ん? 俺の神力で木ごと切り倒せばいいじゃん」
妙案を即時実行に移した。黒縁が豆腐でも切るように軽く木を斬った。斜めに入った線に従ってズレて倒れる。葉が綿埃のように舞い上がった。
猩猩が見当たらない。俺はあたりにくまなく視線を巡らそうとしたが、葉が邪魔をして見つからない。
「ガァ!!」
「うっ痛!?」
猩猩が俺の背後から襲いかかり、肩に鋭い犬歯を突き立てた。
肩から血が滴る。
さらに犬歯を奥に食い込ませようとしているのか、咀嚼する。一噛みごとに肩の肉がグジュグジュにかき混ぜられ血が噴き出した。
「イィアアアーーーー!?」
声にならない叫び。振りほどこうと必死にもがくが猿の腕力が俺の体を離さない。さして体に異変が起こった。
猩猩の唸り声が遠くに聞こえる。肩の痛みが薄くなる。視界がぼやけて回りだす。胃の内容物が迫り上がり吐瀉。
「オエエェ————」
ヤバい。でも猩猩の能力は分かったかも。
胃の中が空になり同時に力も入らなくなった。吐いたときに前傾になった態勢を残った力で立て直し、背中から猩猩を地面に打ち付ける気持ちで倒れることにした。
猩猩はそんな俺の考えを読んで背中から離脱。俺は受け身もままならず地に伏した。脳が揺れる。気持ち悪い。安全確認されていない殺人ジェットコースターに乗っているような感覚だ。
だるい、ねむい、きもちわるい、はきたい、ねたい、くるしい。でも死にたくない。起きなくちゃ。
「ああ! くそ!」
起き上がれない。力が入らない。思うように義体が動かない。
地面についた耳かな足音が聞こえる。近づいてくる。しかもかなりのスピードだ。
どこから来る? 足音は……分からない。
酒で感覚が遠くなってるのに加えて、音の入ってくる方向は地面に付けた耳からじゃ判断できない。
でも来る場所を俺が猩猩に決めさせることはできる。
猩猩の能力は咀嚼した物にアルコールを付与する能力。最初の青臭い酒精は木の葉を噛んで造った酒だ。酒好きとはよく言ったものだ。そんで俺の肩に噛み付いて咀嚼したのは歯を喰いこませるためじゃなくて、血肉で酒を造って血管に直接アルコールを流し込むためだった。しかし一噛みでは十分なアルコール濃度にできない。だから比較的妨害されることがない背後から組み付いたと考えられる。
俺はまだましに動かせる首と胴を使って移動を試みた。蛭のように。
こうすることでうつ伏せの俺に背中と後方ができる。
「ガアア!」
猩猩が予想通り俺の死角、義足側から飛び出した。
俺は死ぬ気で上体を起こた。猩猩は大口を開けて俺に覆い被さるように飛び上がった。タイミングばっちりだった。
左義手を猩猩の口に突っ込んだ。猩猩は驚きはしたものの、その顔は醜悪に歪んだ。勝ちを確信しているのだろう。確かに、二度もアルコールを血管に入れられたら、確実に急性アルコール中毒になって最低でも意識を失うだろう。しかしそれは普通の腕だったらの話だ。
バリッ。
猩猩の口の中でそんな音がした。猩猩もようやく気づいた様子だ。目が大きく見開かれている。
だが、遅かった。
黒縁が猩猩の喉を貫いた。空気と鮮血が溢れる。泡立った血が猩猩の元々赤い体毛をさらに赤く染める。
「ハァ……ハァ……良かったぁ」
戦闘の終了でホッとししてしまい、瞼が落ちる。
あ、このまま寝たら猩猩の遺骸と添い寝じゃん。
そんな呟きが口にでる前に、深い眠りに落ちた。
どくどくと猩猩に噛み砕かれた左義手から膿が流れ出る。
ヒルコの側で横たえる猩猩の遺骸。その口内にはあったはずの歯が消えていた。
強烈な酒精と青臭さが鼻腔を突き刺した。俺は堪らずその霧の範囲から対比した。
ヒルコの脳内が自動検索し、猩猩の情報がでてきた。さっきのお酒攻撃が要因かもしれない。
「半猿半犬、酒好きの妖怪……以上かよ」
ただできた情報はそれだけだった。
猩猩はいつも間にか俺から距離を取って、あの変な木の枝の上。
半猿半犬という特徴は脳内文献と一致している。酒好きかどうかは先の攻撃でそうかもなと思える。
「何か急にでてきたけど、信じても大丈夫そう……?」
ただでてきた情報が少ないし、正直見れな分かる物だからまだ完全に信じられない。ていうかそもそも猩猩に出会ったのが今日が初めてなのに何だろう。
「もしかてこれが、チート能力というやつではなかろうか。もしかしてレベルとかスキルとか手に入るんじゃ!?」
己の義手に目を落とした。もしかしたらもしかするのでは?という考えが確信に変わってきた。
俄然やる気が出てきた。
クッと視線を上げるとなおも猩猩が見下ろしている。
「うむ、やはりそうだ。だってもうアイツが経験値に見えるもん」
しかし我の武器は刀のみ。これでは彼奴には届くまい。
妙なテンションになっていると冷静な自分が声を上げる。
猩猩から目を離さないように首を回した。意識を切り替えるときにやる俺の癖だ。
「先ずは猩猩を木から下ろしたいな」
どうしようかと思案する。こういうときに近接武器は苦労する。本当はいろんな武器を使いたいが、俺には生身の手足がないから、弓や銃などを扱うのが苦手だ。それに俺の神力事態が近距離なので意味がないし……。
「ん? 俺の神力で木ごと切り倒せばいいじゃん」
妙案を即時実行に移した。黒縁が豆腐でも切るように軽く木を斬った。斜めに入った線に従ってズレて倒れる。葉が綿埃のように舞い上がった。
猩猩が見当たらない。俺はあたりにくまなく視線を巡らそうとしたが、葉が邪魔をして見つからない。
「ガァ!!」
「うっ痛!?」
猩猩が俺の背後から襲いかかり、肩に鋭い犬歯を突き立てた。
肩から血が滴る。
さらに犬歯を奥に食い込ませようとしているのか、咀嚼する。一噛みごとに肩の肉がグジュグジュにかき混ぜられ血が噴き出した。
「イィアアアーーーー!?」
声にならない叫び。振りほどこうと必死にもがくが猿の腕力が俺の体を離さない。さして体に異変が起こった。
猩猩の唸り声が遠くに聞こえる。肩の痛みが薄くなる。視界がぼやけて回りだす。胃の内容物が迫り上がり吐瀉。
「オエエェ————」
ヤバい。でも猩猩の能力は分かったかも。
胃の中が空になり同時に力も入らなくなった。吐いたときに前傾になった態勢を残った力で立て直し、背中から猩猩を地面に打ち付ける気持ちで倒れることにした。
猩猩はそんな俺の考えを読んで背中から離脱。俺は受け身もままならず地に伏した。脳が揺れる。気持ち悪い。安全確認されていない殺人ジェットコースターに乗っているような感覚だ。
だるい、ねむい、きもちわるい、はきたい、ねたい、くるしい。でも死にたくない。起きなくちゃ。
「ああ! くそ!」
起き上がれない。力が入らない。思うように義体が動かない。
地面についた耳かな足音が聞こえる。近づいてくる。しかもかなりのスピードだ。
どこから来る? 足音は……分からない。
酒で感覚が遠くなってるのに加えて、音の入ってくる方向は地面に付けた耳からじゃ判断できない。
でも来る場所を俺が猩猩に決めさせることはできる。
猩猩の能力は咀嚼した物にアルコールを付与する能力。最初の青臭い酒精は木の葉を噛んで造った酒だ。酒好きとはよく言ったものだ。そんで俺の肩に噛み付いて咀嚼したのは歯を喰いこませるためじゃなくて、血肉で酒を造って血管に直接アルコールを流し込むためだった。しかし一噛みでは十分なアルコール濃度にできない。だから比較的妨害されることがない背後から組み付いたと考えられる。
俺はまだましに動かせる首と胴を使って移動を試みた。蛭のように。
こうすることでうつ伏せの俺に背中と後方ができる。
「ガアア!」
猩猩が予想通り俺の死角、義足側から飛び出した。
俺は死ぬ気で上体を起こた。猩猩は大口を開けて俺に覆い被さるように飛び上がった。タイミングばっちりだった。
左義手を猩猩の口に突っ込んだ。猩猩は驚きはしたものの、その顔は醜悪に歪んだ。勝ちを確信しているのだろう。確かに、二度もアルコールを血管に入れられたら、確実に急性アルコール中毒になって最低でも意識を失うだろう。しかしそれは普通の腕だったらの話だ。
バリッ。
猩猩の口の中でそんな音がした。猩猩もようやく気づいた様子だ。目が大きく見開かれている。
だが、遅かった。
黒縁が猩猩の喉を貫いた。空気と鮮血が溢れる。泡立った血が猩猩の元々赤い体毛をさらに赤く染める。
「ハァ……ハァ……良かったぁ」
戦闘の終了でホッとししてしまい、瞼が落ちる。
あ、このまま寝たら猩猩の遺骸と添い寝じゃん。
そんな呟きが口にでる前に、深い眠りに落ちた。
どくどくと猩猩に噛み砕かれた左義手から膿が流れ出る。
ヒルコの側で横たえる猩猩の遺骸。その口内にはあったはずの歯が消えていた。
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